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第四十二話 ほてり


小鳥の囀りが。


静かな部屋へ響いていた。


……


少女はゆっくりと目を開ける。


重たい瞼。


ぼんやりと天井を見つめる。


……


身体を起こそうとする。


頭が重い。


喉も痛い。


小さく顔をしかめた。


……


「あ……。」


掠れた声が漏れる。


ほとんど音にならなかった。


……


少女は自分の腕を見る。


左腕。


細い包帯。


その下から。


鈍い痛みがじくりと広がる。


昨日。


自分で傷つけた場所だった。


……


視線を巡らせる。


見慣れた部屋。


窓辺。


鏡台。


机。


……


「お母様のお部屋……。」


小さく呟く。


昨日の記憶が。


少しずつ浮かんでくる。


棺。


お花。


本。


押し花。


……


そこまで思い出して。


少女は静かに目を閉じた。


……


やがて。


小さく息を吐く。


昨日みたいに。


涙は零れなかった。


……


こんこん。


扉を叩く音が響く。


少女は顔を上げた。


返事をしようとする。


「……。」


声が出ない。


喉がひりつく。


……


扉がゆっくりと開く。


双子が部屋へ入ってきた。


二人は礼をする。


「おはようございます。」


「姫様。」


少女は少しだけ困ったように笑った。


「……昨日は。」


掠れた声。


息が漏れる。


「ごめんなさい。」


……


少女は寝台から降りようとする。


足へ力を込めた。


その瞬間。


ふらり。


身体が傾く。


……


妹が慌てて身体を支えた。


「姫様。」


少女は小さく笑う。


「ごめ……。」


言い終わる前に。


妹の表情が変わる。


……


少女の身体は熱かった。


頬も。


耳も。


真っ赤に染まっている。


……


妹は少女の額へ手を添える。


姉を見る。


二人は静かに目を合わせた。


……


「風邪ですね。」


穏やかな声だった。


……


妹は少しだけ眉を下げる。


「私達が。」


「もっと早くお部屋へお連れしていれば……。」


小さく唇を噛む。


……


姉は首を横へ振った。


それから。


少女を見る。


優しく微笑んだ。


「だから。」


「お身体を温めてくださいって。」


「申し上げたじゃないですか。」


少女は目を丸くする。


そして。


ふっと笑った。


掠れた笑い声だった。


「……ほんとうだねぇ。」


「ごめんね。」


……


姉は優しく首を横へ振る。


「はい。」


「これでそのお話は終わりです。」


「今は。」


「姫様がお身体を治してください。」


……


少女は少しだけ照れたように笑う。


「……うん。」


「ありがとう。」


静かに頷いた。


双子は寝台の傍らへ腰を下ろす。


少女は布団へ身体を沈めた。


……


妹が布団を整える。


「今日は。」


「ゆっくりお休みください。」


少女は頷く。


……


双子が立ち上がる。


その時。


きゅっ。


少女の指先が。


姉の袖を小さく掴んだ。


……


姉は振り返る。


「姫様?」


少女の唇が小さく動く。


「……こっちにきて。」


二人は顔を見合わせる。


ゆっくりと。


少女の傍へ腰を下ろした。


……


少女は。


二人の手へ。


そっと自分の手を重ねる。


小さく握った。


……


少女は少しだけ目を逸らす。


恥ずかしそうに笑った。


「……あのね。」


小さく息を吸う。


「二人には。」


「いつも。」


「ありがとうって思ってる。」


……


「昨日の夜も。」


「……いっぱい。」


……


「お姉ちゃんがいたら。」


「こんな感じなのかなって。」


……


双子は目を見開く。


言葉が出ない。


少女は少しだけ指へ力を込める。


「だから。」


「これからも。」


「そばにいてね。」


……


双子は何も言えなかった。


静かに目を伏せる。


……


やがて。


姉が優しく微笑む。


「はい。」


妹も小さく頷いた。


「もちろんでございます。」


二人は少女の手を優しく握り返す。


「「いつまでも。」


「姫様のおそばに。」」


……


少女は。


嬉しそうに微笑んだ。


「……えへへ。」


小さな笑い声が零れる。


そのまま。


ゆっくりと瞼を閉じた。


……


双子は顔を見合わせる。


安心したように。


小さく笑った。

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