表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/60

第四十一話 さようなら。


……。


棺は王城の奥へ運ばれていく。


少女は白い花を抱えたまま。


その後を歩いていた。


……


司祭様のお話では。


亡くなった人は。


空へ還り。


星になって。


私達を見守ってくれるらしい。


だから。


王家の人は。


お城で一番空に近い場所。


星霊廟で。


空へ還るお祈りをする。


その後。


星還の間という場所で。


静かに眠るのだという。


……


司祭の祈りだけが響く。


少女は白い花を胸へ抱いたまま。


静かに耳を傾けていた。


……


やがて。


祈りは終わる。


騎士達が棺を運ぶ。


星還の間。


そこが。


お母様の眠る場所になるらしい。


……


王は棺へ一礼する。


宰相。


大臣達。


騎士達も続いた。


一人。


また一人と。


その場を後にしていく。


……


少女と双子だけが残る。


腕の中の白い花を見る。


ゆっくりと歩く。


棺の前で足を止めた。


そっと。


白い花を棺の前へ置く。


……


少女は棺を見つめる。


しばらく。


動かなかった。


……


お母様はここにはいないのかも。


今は。


少しだけ遠くへ行っているだけ。


きっと。


お空が晴れたら。


いつもみたいに。


馬車に乗って帰ってくる。


……


お母様が。


私を置いていくわけないもん。


みんなも。


驚かせようとしてるだけ。


あとで。


お父様に聞いてみよう。


きっと。


笑って教えてくれる。


……


少女は棺を見つめたまま。


ぽつりと呟く。


「お母様。」


「そこにいるの?」


……


返事はない。


……


「すごいいっぱいの人だったね。」

 

部屋には少女の声だけが響いた。


「みんな。」


「お母様に会いに来てた。」


少しだけ笑う。


「お母様って。」


「みんなの太陽みたい。」


しばらく。


棺を見つめる。


「でも。」


「太陽がなくなったら。」


「……だめだよ。」


……


「あ。」


小さく瞬く。


「星の聖女って。」


「お母様のことだったんだね。」


……


「私ね。」


「授業で聞いた時から。」


「星の聖女様になりたかったの。」


「この人みたいに。」


「世界の人を笑顔にしたいって。」


「思ってた。」


「本当にすごい。」


……


「お父様。」


「すごく疲れた顔してたよ?」


少しだけ困ったように笑う。


「お母様しか。」


「元気にしてあげられないんだから。」


「お城のみんなも。」


「みんな無理してる。」


……


「私はまだみんなの太陽にはなれないから。」


「早く帰ってきて。」


「そしたらまた一緒にお花みようね。」


……


少女は棺を見つめたまま。


小さく息を吸う。


ゆっくりと踵を返す。


「私。」


「お母様の帰りを待たないといけないから。」


「そろそろいくね。」


一歩。


踏み出しかける。


その時。


「あ。」


少女は足を止めた。


棺の前へ置いた。


白い花を見る。


「そのお花は。」


「ここに置いていくね。」


少しだけ笑う。


「お母様が帰ってきたら。」


「びっくりしちゃうから。」


……


少女は部屋を後にする。


こつ。


こつ。


こつ。


足音だけが廊下に響いていた。


一度も振り返らなかった。


「ごめんなさい。」


「遅くなっちゃった。」


「二人とも。」


「寒いよね。」


双子は小さく首を横へ振る。


「……私達は大丈夫です。」


少女は頷く。


「雨に濡れちゃったもん。」


「私っていつもわがままだ。」


「本当にごめんなさい。」


双子は口を開く。


「姫――」


その言葉は最後まで続かなかった。


少女はそのまま話し続ける。


「あのね。」


「あとで。」


「あったかいスープ飲もうね。」


「きっと心もあたたかくなるから。」


「それから––」


……


少女は。


返事を待っていなかった。


双子は何も言えなかった。


……


少女は話し続けた。


途切れることなく。


廊下には。


少女の声だけが響いていた。


双子は互いに顔を見合わせる。


何度も口を開こうとして。


何度も閉じた。


やがて。


王城の廊下へ辿り着く。


その時。


双子の姉が小さく口を開いた。


「姫様。」


「お召し物をお着替えになりませんか。」


「お身体が冷えてしまいます。」


少女は小さく頷く。


「うん。」


返事だけだった。


歩みは止まらない。


「あたたかい湯のご用意も──」


少女は静かに首を横へ振る。


「あとにするね。」


それだけだった。


……


数歩。


歩いた時だった。


少女はふと足を緩める。


何かを思いついたように。


少しだけ目を輝かせた。


「あ。」


「そうだ。」


小さく笑う。


「実はもう。」


「帰ってきてるのかも。」


双子は息を呑む。


少女は嬉しそうに話し続ける。


「みんな。」


「私を驚かせようとしてるんだ。」


「夕食になったら。」


「サプライズーって。」


「笑って出てくるかもしれない。」


その笑顔を思い浮かべるように。


少女は頬を緩めた。


「だから。」


「私が先に見つけちゃお。」


「かくれんぼは得意だもん。」


少女小さく笑う。


その足取りだけが。


ほんの少しだけ軽くなっていた。


双子は足を止めた。


遠ざかっていく背中を見つめる。


……


互いに顔を見る。


小さく頷いた。


双子の妹が。


何度も伸ばしかけては止めていた手を。


震えながら。


少女の腕へ伸ばした。


きゅっと。


腕を掴む。


少女は足を止める。


少しだけ目を丸くした。


侍女に腕を掴まれたことなんて。


今まで一度もなかった。


「……どうしたの?」


妹は俯いたまま。


唇を噛む。


姉も。


何度も口を開きかける。


やがて。


妹の震える声が漏れた。


「……心配です。」


「せめて。」


「お身体だけでも温めてください。」


少女は少しだけ困ったように笑う。


「私は大丈夫だから。」


「離して?」


妹は首を横へ振る。


涙を堪えながら。


「……だめ。」


「大丈夫じゃない。」


少女は息を呑む。


腕を見つめる。


そして。


小さく首を横へ振った。


「お願い。」


「離して。」


妹は。


震えながら。


少女の腕を握る力を少しだけ強くした。


「……もう。」


「……無理しないで。」


少女は目を伏せた。


唇が小さく震える。


「……違う。」


かすれるような声だった。


「無理なんか。」


「してない。」


少女は腕を引く。


離れない。


もう一度。


それでも。


離れなかった。


「してるよ……!」


少女の視線が揺れる。


「……大丈夫って言ったら!」


「大丈夫なの!!」


……


静まり返る。


少女は自分の声に。


驚いていた。


「……あ。」


掴まれていた腕を見る。


妹を見る。


涙を流している。


隣では。


姉も唇を噛み締めていた。


少女の顔から血の気が引いた。


伸ばしかけた手が。


止まる。


「……っ」


「ごめん。」


「ごめんなさい。」


妹は慌てて首を横へ振る。


姉も。


涙を流しながら首を横へ振る。


「違う……!」


「謝らないで……!」


「私達は――」


その言葉は最後まで届かなかった。


少女は踵を返す。


そのまま。


逃げるように駆け出した。


「姫様!」


二人の声だけが。


静かな廊下へ響いていた。


走る。


走る。


足が止まる。


……


呼吸は整わない。


目の前の扉へ手を掛ける。


開ききる前の扉へ。


身体を滑り込ませた。


扉が閉まる。


扉へ背中が触れる。


そのまま力が抜ける。


……


ゆっくりと。


その場へ座り込む。


膝を抱える。


何度も息を吸う。


うまく吸えない。


もう一度。


息を吸う。


胸の奥が締め付けられる。


それでも。


呼吸は整わなかった。


膝へ額を預けた。


服をぎゅっと握る。


肩が小さく震える。


……


「……嫌になる。」


声は。


自分にしか届かないほど小さかった。


膝を抱く腕へ。


少しだけ力が入る。


「本当に。」


「……何をしているんだろうね。」


掴まれた手の感触。


震えていた声。


零れ落ちた涙。


少女はぎゅっと目を閉じた。


「……違う。」


小さく首を横へ振る。


「違うの。」


「そんなこと。」


「言いたかったんじゃない。」


……


「謝らなきゃ。」


呟く。


床へ手をつく。


身体を起こそうとする。


……


動けない。


もう一度。


力を込める。


……


少女は目を閉じた。


そのまま。


動かなかった。


……


乱れていた呼吸が。


少しずつではなく、途切れながら静まっていく。


長く息を吐く。


……


重たい瞼を開く。


暗闇が広がっていた。


何も見えない。


……


瞬きを繰り返す。


輪郭が浮かぶ。


……


少女は視線を止めた。


……


「……ここ。」


小さく声が零れる。


少女は立ち上がった。


見慣れた部屋だった。


寝台へ歩く。


腰を下ろす。


そのまま。


身体を預けた。


目を閉じる。


……


胸いっぱいに息を吸う。


安心する匂い。


大好きな匂い。


……


少女は目を閉じたまま。


その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


それだけで。


胸の苦しさが少し和らいだ。


「……一人じゃ狭いね。」


……


どれくらい。


そうしていたのだろう。


少女はゆっくりと身体を起こした。


視線を巡らせる。


……


鏡台。


櫛が置かれている。


少女は自分の髪へ触れた。


……


衣装棚。


指先が。


礼服の袖をそっと撫でた。 


……


窓辺のソファ。


雨が窓を叩いていた。


何も変わらない。


その景色だけが。


そこにあった。


そのまま。


視線を落とした。


……


大好きな部屋。


何も変わっていない。


少女は静かに微笑む。


もう一度。


部屋を見渡す。


……


机の上。


一冊の本が目に入る。


……


少女はゆっくりと歩み寄った。


机の前で足を止める。


見覚えのある装丁。


少女はそっと本へ触れた。


……


指先が止まる。


そっと。


表紙を撫でる。


……


少女は本を抱き上げた。


両手で。


大事そうに。


胸へ抱く。


……


しばらく。


そのまま動かなかった。


少女は静かに。


本を開いた。


……


最初のページ。


一枚の写真。


幼い頃のお母様だった。


「……似てる。」


思わず笑みが零れる。


……


ページを捲る。


押し葉。


小さな羽。


見たこともない大きな足跡。


思い出が。


一つずつ綴られていた。


……


また一枚。


お父様とお母様。


寄り添って笑っている。


「ふふ。」


「お父様って。」


「本当にお母様が大好きなんだ。」


そんな顔。


見たことなかった。


……


また一枚。


「あ。」


赤ちゃんの私。


小さな手。


小さな足。


写真の横。


整った文字が綴られていた。


『私の世界のすべて。』


少女は指先でその文字をなぞる。


「お母様の字。」


「やっぱり綺麗。」


……


また一枚。


「これ。」


「初めて立てた日。」


少しだけ笑う。


「大げさだなぁ。」


……


ページを捲る。


また一枚。


また一枚。


少女の写真。


一緒に摘んだ花。


季節ごとの思い出。


どのページにも。


二人の時間が残っていた。


……


少女の手が止まる。


……


薄紫色の押し花。


少女は息を呑む。


その横へ。


整った文字。


『ガゼルとの約束』


……


「……大切なものは。」


小さく。


声が零れる。


「形をかえて。」


唇が震える。


「――残せる。」


……


ぽたり。


白い紙へ。


小さな雫が落ちた。


じわり。


滲みが広がる。


少女は動かない。


また一粒。


ぽたり。


押し花のすぐ隣へ。


雫が落ちた。


「……あぁ。」


声にならない。


指先が震える。


本を抱く力が抜ける。


どさり。


膝の上へ本が落ちた。


……


「……おかあ、さま。」


声にならない。


喉の奥で。


何かが崩れる。


……


身体が折れる。


そのまま。


床へ崩れ落ちた。


……


床へ手をつく。


指先へ力が入る。


白くなる。


それでも。


足りない。


床を掴む。


爪が軋む。


力を込めた。


縋るように。


何度も。


何度も。


……


「ぁ……っ」


息を吸う。


吸えない。


喉が震える。


肩が震える。


胸が震える。


止まらない。


……


唇を噛む。


両手で口を押さえる。


「……っ」


声を押し殺そうとする。


だめだった。


漏れる。


小さく。


また一つ。


嗚咽が零れる。


……


「おかあ……さま……。」


その一言だけが。


何度も。


何度も。


部屋へ零れていく。


……


止められなかった。


涙も。


声も。


震えも。


あの日から。


心の奥へ閉じ込めていたものが。


堰を切ったように。


溢れ続けていた。


……


息は乱れたまま。


涙は止まらない。


開かれた本は。


少しずつ濡れていく。


白い紙へ。


新しい雫が落ちる。


押し花が。


滲んでいく。


……


震える手が。


本へ伸びる。


抱き寄せる。


胸へ強く抱き締めた。


「おかあさま……!」


押し殺した声が。


部屋へ溢れる。


本を抱えたまま。


身体を丸める。


右腕へ。


左手の爪が食い込む。


それでも。


力が抜けない。


左腕へ。


右手が縋る。


爪が肌を抉る。


「ぅ……ぁ……!」


それでも。


離れる方が苦しかった。


……


嗚咽は途切れない。


涙も止まらない。


抱き締めた本は。


少しずつ濡れていく。


押し花のページは。


もう滲んで見えなかった。


……


「おかあさま……。」


震える声だけが。


何度も零れる。


抱き締める腕へ。


力が入る。


指先が震える。


離せない。


離したくない。


……


雨音だけが。


窓の向こうで降り続いていた。


……


「――めさま。」


誰かの声がした気がする。


……


背中へ。


誰かの体温が触れる。


抱き締められた。


少女は振り向かない。


振り向けない。


……


本が手から離れる。


「……っ」


少女は身体を捩る。


腕を伸ばす。


届かない。


……


抱き締める腕へ。


ぎゅっと。


力が込められた。


震えている。


その腕も。


止まらない。


……


「……っ」


少女はもう一度。


身体を捩る。


腕を振りほどこうとする。


離して。


届かない。


……


「ガゼル。」


少女の動きが止まる。


頬へ。


新しい雫が落ちた。


……


頭へ。


もう一つ。


優しい手が触れる。


ゆっくりと。


髪を撫でる。


……


「ガゼル。」


その声が届いた瞬間。


少女の肩が大きく震えた。


ゆっくりと。


振り向く。


涙で滲んだ視界。


ぼやけた二人の姿が映る。


……


少女の唇が小さく震える。


何かを言おうとして。


声にならない。


「……っ」


少女は縋るように妹へ抱きついた。


細い身体へ。


力いっぱい。


しがみつく。


震える腕へ。


何度も。


何度も。


力が入る。


爪が食い込む。


服を握る。


身体が勝手に縋っていた。


妹は小さく息を呑む。


それでも。


腕を緩めることはなかった。


震える腕で。


少女を抱き締め返す。


もっと強く。


もう二度と離さないように。


……


姉は二人の前へ膝をつく。


震える二人ごと。


包み込むように。


そっと腕を回した。


優しく。


少女の頭を抱き寄せる。


もう誰も。


言葉を見つけられなかった。


涙だけが零れていく。


……


「おかあ……。」


息が乱れる。


嗚咽が喉を塞ぐ。


言葉にならない。


何度も息を吸う。


それでも。


震える声は止まらなかった。


「おかあ……さまが……。」


抱きつく力が強くなる。


爪がさらに食い込む。


妹は離さない。


ただ。


もっと強く抱き締めた。


……


「いなく……。」


涙が溢れる。


息が続かない。


それでも。


少女は必死に声を紡ぐ。


「なっちゃっ……たぁ……!」


その瞬間。


張り詰めていたものが。


音を立てて崩れた。


少女は妹の胸へ顔を埋める。


閉じ込めていた全てを吐き出すように。


声を上げて泣いた。


抑え続けてきた悲しみが。


止まることなく溢れていく。


妹も。


姉も。


もう涙を堪えられなかった。


三人は互いを抱き締めたまま。


ただ。


泣き続けた。


……


どれくらい。


泣いていたのだろう。


もう。


少女にも分からなかった。


嗚咽は少しずつ弱くなる。


それでも。


涙だけは止まらない。


……


妹は少女を抱き締めたまま。


何も言わない。


震える背中を。


小さく。


何度も。


とん。


とん。


とん。


優しく叩いていた。


……


姉の手は。


少女の髪をゆっくりと撫でる。


乱れた赤い髪を整えるように。


何度も。


何度も。


優しく撫で続けた。


……


少女は何度も小さく嗚咽を漏らす。


そのたび。


妹は抱き締める腕へ。


少しだけ力を込めた。


……


やがて。


少女の震えが少しずつ小さくなる。


泣き疲れた瞼が。


ゆっくりと閉じていく。


呼吸はまだ乱れていた。


それでも。


少女は妹へ縋ったまま。


静かに眠りへ落ちていった。


……


妹は少女の顔を見つめる。


涙の跡が残っていた。


頬を伝う雫を。


そっと指先で拭う。


……


姉は静かに立ち上がる。


寝間着を抱えて戻ってきた。


二人は小さく頷き合う。


……


少女を起こさないように。


ゆっくりと。


礼服へ手を添える。


少女は薄く目を開く。


眠ったまま。


小さく身じろぎをした。


「……おかあさま。」


掠れた寝言が零れる。


妹の胸が痛む。


それでも。


涙を堪えた。


……


少女は目を覚まさない。


二人は何も言わず。


濡れた礼服を脱がせる。


冷えた身体を包むように。


柔らかな寝間着を着せていく。


……


着替えが終わる頃。


少女の手が。


眠ったまま妹の服をきゅっと掴んだ。


離れない。


妹は小さく微笑む。


その手へ。


そっと自分の手を重ねた。


「……大丈夫。」


声には出さない。


もう一度。


少女を抱き寄せる。


姉も静かに隣へ座る。


二人は眠る少女を挟むように寄り添った。


……


妹は少女に重ねた手を優しく握る。


その温もりを。


静かに受け止める。


……


姉は少女の赤い髪を梳く。


乱れた髪を。


指先で優しく整えていく。


……


「……寝たね。」


妹が小さく呟く。


姉は頷いた。


「うん。」


……


しばらく。


二人は少女の寝顔を見つめる。


頬にはまだ涙の跡が残っていた。


……


姉は少女の髪を撫でながら。


わずかに息を吐く。


「私達は。」


「まだまだ子供だから。」


妹は頷く。


「……もっとしっかりしないと。」


少女の寝顔を見る。


ふっと。


少しだけ笑う。


「この子は。」


「もっと子どもだもん。」


……


姉は静かに微笑んだ。


「守らないと。」


「これからは。」


「私達が。」


妹は力強く頷く。


「うん。」


「この子が。」


「寂しくならないように。」


……


姉はもう一度。


少女の髪を優しく撫でた。


「隣にいよう。」


「泣きたい時は泣けるように。」


「笑いたい時は笑えるように。」


妹は少女の手を握ったまま。


頬を伝う涙を拭う。


「ずっと。」


「側にいるからね。」


雨音だけが。


静かな部屋へ響いていた。


……


「「ガゼル。」」


二人は顔を見合わせる。


小さく微笑んだ。


「「おやすみ。」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ