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第三十六話 静かな夜


王城は静かな眠りに包まれていた。


月明かりだけが、静かな廊下を照らしている。


夜風が庭園の木々を揺らした。


……


小さく扉が叩かれる。


「失礼いたします。」


治療師だった。


王は無言で迎え入れる。


部屋へ入り、一礼する。


王は黙って頷いた。


診察が始まる。


部屋には衣擦れの音だけが響いていた。


……



治療師は静かに手を下ろす。



「……以前より。」


……


「進行しております。」



誰も答えない。


王も。


王妃も。


部屋には時計の音だけが響く。


治療師はもう一度息を整えた。


「このままですと——」


……


「その先は。」


王妃は小さく首を横へ振る。


「結構です。」


……


治療師は目を伏せる。


「……失礼いたしました。」


深く一礼した。


静かに部屋を後にする。


扉が閉まる。


静寂だけが残った。


残されたのは二人。


夜風が薄いカーテンをわずかに揺らす。


窓辺へ目を向けた王妃は、月明かりに溶け込むように静かだった。


王はその姿から目を離せない。


長い沈黙のあと、小さく口を開いた。


「……すまない。」


一言だけだった。


王妃は静かに首を横へ振る。


「謝らないでください。」


「誰も悪くありません。」


……


「お願いがあります。」


王はゆっくりと顔を上げる。


「ガゼルには。」


「まだ話さないでください。」


「……。」


「笑っていてほしいのです。」


王は静かに頷いた。


「……分かった。」


     ◇


それからしばらくして。


母付きの侍女が双子を呼びに行った。


二人は部屋へ入り、静かに一礼する。


「お呼びでしょうか。」


王妃は穏やかに微笑んだ。


「ええ。」


「少しだけ、お話があります。」


双子は姿勢を正す。


王妃はゆっくりと言葉を選ぶ。


「これから先も。」


「ガゼルのそばにいてあげてください。」


双子は少しだけ目を見開いた。


母付きの侍女も静かに目を伏せる。


何かを察したように。


それでも誰も理由は尋ねなかった。


双子は深く頭を下げる。


「承知いたしました。」


「必ず、お守りいたします。」


しばらく。


誰も顔を上げなかった。


王妃は静かに瞳を閉じた。


……


「ありがとう。」


双子は深く一礼した。


静かに部屋を後にする。


扉が閉まる。


静寂。


     ◇


机の上には、小さな花のリース。


少しいびつで。


けれど、一生懸命編まれたことが伝わる花の輪。


王妃はそれをそっと手に取った。


指先で優しくなぞる。


花びらが一枚、静かに指先へ落ちた。


……


窓の外には星空が広がっていた。


部屋には何も語られない静けさだけが流れていた。


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