表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/34

第十四話 命の灯火(1)


森が好きだった。


城の庭園も綺麗だった。


季節ごとに花が植え替えられ。


職人達が丁寧に枝を整える。


噴水には澄んだ水が流れ。


どこを見ても美しかった。


けれど。


森の方が好きだった。


庭園は美しい。


でも。


少しだけ息苦しかった。


王女として歩く場所だったから。


背筋を伸ばして。


笑顔を作って。


皆の期待へ応える場所だったから。


森は違った。


誰も見ていない。


誰も評価しない。


風が吹いて。


鳥が鳴いて。


花が咲いている。


ただそれだけだった。


だから好きだった。


森へ来ると。


少しだけ呼吸がしやすくなる。


王女ではなくなれる気がした。



木漏れ日が降り注いでいた。


若葉の隙間から差し込む光が。


森の中へ柔らかな模様を描いている。


赤い髪が風に揺れた。


草が擦れる。


花が揺れる。


白い花。


青い花。


名前も知らない小さな花達。


少女はしゃがみ込む。


そっと指先で花弁へ触れる。


柔らかい。


思わず小さく笑った。


風が吹く。


葉が揺れる。


鳥が鳴く。


その全部が好きだった。


世界は綺麗だと思っていた。



ふわり。


淡い光が舞った。


小さな精霊だった。


花びらのような姿。


蝶のような姿。


掌へ乗りそうな小さな光。


ひとつ。


またひとつ。


木々の隙間から現れる。


少女が歩くと。


精霊達も後ろをついてくる。


楽しそうに。


くるくると。


踊るように。


森の中で遊んでいるみたいだった。



少女は昔から精霊が見えていた。


王家へ受け継がれる星癒術。


その加護を持つ者だけが見ることのできる存在。


森の精霊達は気まぐれだった。


誰にでも姿を見せるわけではない。


けれど。


少女にはよく懐いた。


だから森へ来るのが好きだった。


ここでは一人じゃなかったから。



不意に。


小鳥が肩へ止まった。


小さな茶色の鳥だった。


少女は微笑む。


「こんにちは」


小さく声を掛ける。


鳥が鳴く。


返事みたいだった。


思わず笑みが零れる。


すると今度は。


草むらから小さなリスが顔を出した。


木の上には鹿の親子がいる。


遠くでは兎が草を食べている。


森の生き物達は。


少女を怖がらなかった。


彼女の持つ星癒の魔力を知っているから。


傷付けないことを知っているから。



だから。


異変にはすぐ気付いた。


最初に逃げたのは肩の小鳥だった。


突然羽を広げ。


慌てたように飛び去っていく。


「あれ?」


首を傾げる。


次の瞬間。


リスも消えた。


鹿も。


兎も。


森の生き物達が一斉に姿を消していく。


まるで。


何かから逃げるように。



ざわり。


森の空気が変わった。


精霊達だった。


いつもなら。


一緒に遊ぼうとする。


花を見せたり。


木の実を運んだり。


楽しそうに飛び回ったり。


けれど今日は違った。


誰も遊ぼうとしない。


誰も笑っていない。


落ち着かない様子で周囲を飛び回り。


何度も森の奥を振り返っている。


ひとつ。


またひとつ。


服を引っ張るように。


奥へ行こうとする。


「どうしたの?」


答えは返らない。


けれど。


伝わってくる。


不安。


焦り。


怯え。


助けを求めるような気配。


胸がざわついた。


嫌な予感がした。



その時だった。


遠くで遠吠えが響いた。


低く。


重く。


森全体を震わせるような不気味な声。


少女の顔色が変わる。


知っている。


魔獣だ。


瘴気に侵された獣の声。


しかも近い。


近すぎる。


こんな場所まで来るはずがない。


森のもっと奥にいる存在だ。


それなのに。


どうして。



精霊達が一斉に飛び出した。


森の奥へ。


まるで。


こっち。


早く。


急いで。


そう訴えるみたいに。


少女は走り出した。


考えるより先だった。


木々の間を駆け抜ける。


枝を避ける。


草を踏む。


息が上がる。


胸が苦しい。


嫌な予感だけがどんどん強くなっていく。


何かがいる。


何かが起きている。


助けを呼んでいる。


そんな気がした。



そして。


見つけた。


木々の隙間。


暗い森の中。


白いものが見えた。


最初は花だと思った。


違った。


髪だった。


長い銀色の髪。


月光を受けて淡く輝いている。


少女だった。


小さな身体。


泥に汚れた服。


血。


裂けた肌。


不自然に曲がった腕。


動かない身体。


そして。


その周囲を取り囲む赤い瞳。


魔獣だった。


何匹も。


何匹も。


牙を剥き。


獲物を見下ろしている。



呼吸が止まった。


知らない子だった。


見たこともない。


名前も知らない。


どこから来たのかも分からない。


けれど。


そんなことはどうでもよかった。


だって。


あの子。


死んでしまう。


そう思ったから。


魔獣の一匹が一歩前へ出る。


牙を剥く。


唸る。


銀髪の少女へ近付く。


ゆっくり。


確実に。


獲物へ歩み寄るように。


その瞬間。


少女は叫んでいた。


「――――だめっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ