封印の旅『タヌキの隠れ里』 その2
タヌキの隠れ里で、宴を楽しんだ翌日、3人は大神子海岸の巡所を訪れることにした。
朝早く、日峰山から大神子海岸に向けて歩いていると、途中で奇妙な光景に出会う。
1匹の蛇がヒキガエルに狙いをつけ、目を細めて舌をチョロチョロと出し入れしている。
だが、そのヒキガエルは目の前にいるナメクジに狙いをつけていた。
そして、そのナメクジは、蛇ににじり寄ろうとしている。
蛇はナメクジが苦手なのか、その動きを気にして動けずにいた。だが、ヒキガエルも蛇が気になり動けない。ナメクジもヒキガエルが気になり…お互いに動けないでいた。
「これが三竦みってやつか!」
空が感心してつぶやきながら、その場を後にした。
「砂浜が綺麗ね!」
海が大神子海岸の砂浜ではしゃぐ。
「松林も良い感じだな!」
優も、大神子の景観に目を奪われ、感嘆の声を上げた。
「急深で危ないから、遊泳は禁止だぞ!!」
空が釘を刺す。
空達は、タヌキの隠れ里を出て、大神子海岸を訪れていた。
「海が綺麗だな!」
空が入江になった水面に、波が打ち寄せる姿を見てつぶやく。
「あら、綺麗だなんて!!」
海が頬を染めるが、そんな海を冷めた目で優が見る。
「海よ、我を降ろすなり!」
前鬼が海の手を離れ、砂浜を走り出した。
「やはり、後鬼に言われた『前鬼は豚鬼なり!!』が地味に効いてたんだな!」
小さな身体で、懸命に砂浜を走る前鬼を、空達が温かく見守った。
「ここが大神子海岸の巡所だな!」
空が祠と岩戸を指差し、3人が納経軸を取り出した。
『ゴゴゴ』と岩戸が震えるが、岩戸は閉まったままだった。
「おかしいな?」
空が岩戸と祠を調べるが、異変は見られない。
「とりあえず、小神子海岸と日峰神社も調べてみるか!」
仕方なく、空達はその場を離れることにした。
だが、小神子海岸の巡所も日峰神社の巡所も、大神子海岸の巡所と同じく、岩戸が開くことはなかった。
「反応はあるけど、何かが引っ掛かる感じだな」
優が日峰神社の巡所の前で頭を捻り、「だけど、大神子海岸の巡所や小神子海岸の巡所に比べたら、日峰神社の巡所が一番開きそうな感じがしたな!」とつぶやいた。
「あら、私は小神子海岸の巡所なら開く気がしたわ!」
「そう言えば、俺は大神子海岸の巡所は開くと思った!」
海と空も、巡所で納経軸を出した時の感覚を思い出していた。
「これは、以前にもあった、1人づつの試練ってやつか!」
優が目の前の日峰神社の巡所に目をやる。
「どうやら、その様だな。明日、時間を合わせて攻略するとしよう」
空の言葉にうなずき、3人はタヌキの隠れ里に帰ってきた。
「如何にございましたか?」と尋ねる茂右衛門に、明日攻略することを告げて、その日は休むことにするが、そこに金長が現れた。
「お兄ちゃん達、一緒にお風呂に入ろうよ!!」
その声に前鬼がビクリと反応し、「よし、我は金長と一緒に入るなり!」と慌てて宣言した。
すると海が「あら金長ちゃん。お姉ちゃんと一緒には入ってくれないの?」と哀しそうにつぶやく。
「そんなことないよ」
その哀しそうなつぶやきに金長が慌てて「オイラはお姉ちゃんと一緒に入るよ!!」と海に抱きつく。
「ありがとう、金長ちゃん。なら、前鬼も一緒に入りましょうね〜!」と、前鬼を抱き上げた。
「「恐ろしい策士だな!!」」
海と優が、海の罠に絡め取られた前鬼に同情の目を向けた。
いつもは厳しい後鬼も、今回ばかりは何も言わなかった。
翌朝、空は大神子海岸の巡所に、海は小神子海岸の巡所に、そして優は日峰神社の巡所に向かうことにした。
「海と優は大丈夫かな?」と二人を心配しながら大神子海岸に向かう空の前に、金色に輝くナメクジが現れた。
『巡所を封印する修験者に神の使いたる我が問う。神とは何と考える?』
その問いに、これまでの戦いでの神の神力を思い出し、金色のナメクジにその思いを伝える。
「神とは、畏れであり脅威と感じます。だが、単なる畏れや脅威ではなく、それは試練でもあり恩恵を齎すものであると考えます」
『なるほど、文殊が認めるだけはあるか。ならば、先に進むが良い!』
空の答えに満足さた金色のナメクジが告げると、光となり天に登っていった。
『娘よ!其方に問う。仏とは何と考える?』
小神子海岸に向かう海の前には、1匹の白蛇が現れた。
突然、白蛇に呼び止められた海が驚くが、『その白蛇は仏界の僕なり!』と、腕の中で前鬼が海に告げた。
『海よ、応えるなり!!』
後鬼が海に答えを促す。
「仏とは、救いであり光だと思う。手には取れないし、意識しないとその存在に気がつかない。自分が成長するための道標なのかな?空兄みたいに上手く言えないけど、いつも自分の周りにあって…でも自分の中にもある、不思議な感じ…」
拙く言葉を繋げる海を白蛇が温かい目を向けた。
『言葉には出来ずとも、本質は掴んでいますね。ならば、この先に進むことを許します。更に精進しなさい』
白蛇も光となり天に登った。
日峰神社の鳥居の前で、1匹のヒキガエルが優を見ていた。
『其方は、役優婆塞の縁のものか?』
「小角のおっさんなら、この世界に来る時に助けてもらったよ!」
『ならば問う。神仏習合とは?』
「は?空なら簡単に答えるんだろうけど……」
優が頭を捻る。
「そもそも、おれが纏った那伽は、八部鬼衆だから仏様だよな。だけど、那伽は龍神でもあるよな。そもそも、力を借りるのに、いちいち神とか仏とか考えないから。神と仏って、どこに線引きがあるんだ?」
『なるほど、役優婆塞が目を付けただけはある。恐ろしいほどの勘の良さだな。無意識に仏神一体が使えた訳だ!』
『優よ、お主はそのままで良い。先に進むが良い!』
そう告げながら、そのヒキガエルの姿は闇に溶けるように地に返って行った。
神仏習合 神仏分離
どちらが正しいとかは無いのでしょうが、平木は神仏習合の方が日本的であり、腑に落ちると考えます。




