封印の旅『つるぎの里』 その6
その身の内に水天を宿した空が、須佐之男を纏う。
そして、櫛名田比売を宿した海が、須佐之男と熱く抱擁を行う。
そんな二人を優が咎める。
「空!海!!お前達、自分の意識はあるだろう。何を抱き合っているんだ!!」
須佐之男と櫛名田を纏ってはいるが、基本的には空と海の身体である。
「いや、須佐之男の神力に引っ張られて……」
モゴモゴと、空が恥ずかしそうに言い訳しながら頭を掻いた。
「櫛名田比売が須佐之男様を慕う気持ちと、私が空兄を想う気持ちが一致したのよ。兄貴には関係ないからほっといて!!」
海は悪びれることなく優に食ってかかる。
『すまぬ、すまぬ!櫛名田に逢えた喜びが抑えきれなかった!!』
須佐之男が空の身体を使い、優と海に話しかける。
『さて、八岐大蛇が酔い潰れている間に奴を退治するぞ!優よ、母神様から授かりしガイアの剣を貸してくれ。海は、娑伽羅龍王と竜女の御力を宿す薙刀を貸してくれ』
空が、優と海から剣と薙刀を受け取ると、智慧の利剣と並べて地面に置いた。
そして、須佐之男の神力を高めると、その手を高く上げた。
『我が剣よ、我の元に参れ!!』
須佐之男の神力により一振りの剣が空の手に納まり、内なる仏に呼びかける。
『水天よ、御力を貸してくれ!』
すると、空が掲げる剣が光りを発し、それに応えるように、智慧の利剣とガイアの剣、海の薙刀が光に包まれる。
『神剣 十束剣降臨!!』
空が手にした神剣を見つめる。
『空よ、この十束剣こそ、遥か神話の時代に八岐大蛇を屠った剣だ。今回は、母神である伊邪那美命の神力に娑伽羅と竜女、おまけに文殊の加護まで加えてある。空よ!この剣で奴にトドメを刺せ!!』
須佐之男が檄を飛ばした。
空が十束剣を腰に差し、不動の構えを取る。
その自然体のまま、静かに鯉口を切った。
「仏神一体の行 神技 天羽々斬!!」
その動きはどこまでも自然で、近くで見ていた優にも海にも、いつ剣が居抜かれたのか見えなかった。
不動の動きの中で居抜かれた剣は、神技の行により光輝き、その刀身が天にも届くかのごとく長く伸び、八岐大蛇の首筋に一筋の線が入った。
空が八度剣を振るい、光の刃が八岐大蛇の八本の首を断つ。
空が十束剣を鞘に収め、『チン』と鯉口が響くのと同時に、『ズルリ』と八岐大蛇の首がずり落ちた。
『良くやった!』
須佐之男の思考が流れ込む。
『あとは…天叢雲剣を回収するだけだ!空よ、その十束剣で八岐大蛇の尾を切り開き、天叢雲剣を探せ!!』
ーーーー
吹き飛ばされた岩戸を、優が太郎笈と次郎笈の神力を使い、巡所に設置し直す。
3人が御朱印地を取り出すと、『ゴゴゴ』と岩戸が動いた。
「良し、無事に直ったな!」と、空達が中に入っていく。
八岐大蛇に食べ尽くされたのか、巡所内はもぬけの殻で、空達はすんなりと封印の間に辿り着く。
そこにはいつものように、掠れた五芒星が描かれていた。
いつもと違うのは、その五芒星の真ん中に錆びた剣が刺さっている事だった。
『良くぞ八岐大蛇を退けてくれました!』
封印の間に光が溢れると、その光の中から日孁が現れ、空達と空が纏う須佐之男、海が纏う櫛名田比売を労った。
『今回も櫛名田の活躍のお陰だが、海の働きが大きかったな!あの舞ならば、姉貴が覗き見たのも納得だ!!」
須佐之男がニヤリと日孁を見て、海を褒め称えた。
空の口を通して発せられる須佐之男の言葉に、海の頬が夕日のように真っ赤に染まった。
「ホーホッホッホ!妾を敬うが良い!!」
海が照れ隠しに戯ける。
そんな海を生暖かく見守り、キッと須佐之男を睨んだ日孁が声を掛ける。
『さあ、昔話はお終いにして、封印を行いましょう!』
五芒星の頂点に日孁、空、海、優、前鬼後鬼が立つ。
「さあ、九字印を切りなさい」
日孁の声が響いた。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
すると、五芒星が輝き出す。
その五芒星に日孁が祓詞を唱える。
『空様、中心に刺さる剣を抜き、その手の天叢雲剣を新たに差し込んでください!』
その言葉に、空が五芒星の中心に刺さる剣に手を伸ばした。
すると、先程まで錆びていた剣が光輝き、空の手に収まった。
空が手に持った天叢雲剣を新たに刺し入れると、日孁が大祓詞を唱えた。
『高天原に神留り坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以ちて 八百萬神等を神集へ賜ひて……』
すると、優の身体から太郎笈が離れ、黒牛の姿となると、天叢雲剣の上にドッカと鎮座した。
『これで島喰いの楔を、一つ打ち直す事が叶いました。剣山の神力で抑えていますから、いくら島喰いとはいえ、動くのは困難となるでしょう』
日孁が安堵したように息を吐き、空が手にした古い剣に目を止めた。
『空様、その剣と智慧の利剣を妾に貸してください』
日孁が二本の剣を受け取ると、静かに呪文を唱えた。
すると、その二本の剣が光輝き一本の剣となる。
『これは草薙剣です。お使いください』と、その剣を空に手渡すと、光と共にその場を去っていった。
空達が外に出ると、それまでの曇天が嘘のように、太陽が降り注いでいた。
空が纏う須佐之男が、海が纏う櫛名田を見つめる。
櫛名田も、空を纏う須佐之男を熱く見返す。
何かを察知した優が、その二人の前に慌てて飛び出そうとするが、前鬼と後鬼に阻まれる。
すると、優の身体を纏う次郎笈が離れ、青牛の姿となった。
青牛となった次郎笈が、後足で優を蹴飛ばすと、青々と輝く次郎笈に走り去って行った。
「馬ではなく、牛に蹴られたなり!」
「人の恋路は邪魔してはダメなり!!」
次郎笈を見送る前鬼と後鬼の後では、次郎笈に蹴飛ばされた優が「空、海…俺はまだ許してないぞ〜」と息も絶え絶えに手を伸ばした。
その手の先には、夕日に溶け込むように一つに重なる須佐之男と櫛名田比売の姿があった。




