封印の旅『つるぎの里』 その5
同じ頃……元の世界では、大量の酒樽を剣山の山頂に運び込む直公の姿があった。
その姿を認めた月読が直公に声を掛けた。
「直公殿、鞍馬山から出雲の国とご苦労様にございます」
「なんの…この世界の危機、老骨に鞭打って働かせて頂きます」
「老骨などとご謙遜を!」
月読が鍛え込まれた直公の身体を見て笑った。
「ところで、やはりヤツが現れましたか!」
彼方の世界から溢れ出る邪気を感じ、直公が警戒感を強める。
「そのようです。お持ち頂いた八塩折之酒が役に立ちそうです。大社の大国主大神様の御神力もお借りし、私がこの酒樽を八岐大蛇用に変えて、彼方の世界に送ります。ただ、私の神力は使い切りそうなので、後は須佐之男…お願いしますね!」
「ああ、任せろ!今度こそ、二度と復活出来ないように封じ込めてやる!!」
須佐之男が、固く拳を握りしめた。
ーーーー
「何よあれ!怪獣じゃない!!」
八岐大蛇の巨体に海が目を見張った。
「首周りだけでも5メートルはありそうだが……それが8本か!!」
うんざりしたように優もつぶやく
「アイツが暴れたら、世界が破滅しそうだな。やるしか無いし、今の俺たちなら大丈夫だ!!」
空が自分の内の仏と、太郎笈の力を感じながら、決意を固めた。
「よし、行こう!!」
八岐大蛇の巨体に気押されそうになりながら、優が声を振り絞る。
「飛斬!飛斬!飛斬!」
次郎笈の神力を感じながら、優が飛斬を放つ。
だが、八岐大蛇はその斬撃に微動だにせず、真っ赤に染まる目で空達の様子を伺っていた。
「なら、これでどうかしら。神技 竜斬一閃!!」
巨木を切り裂いた海の神技も、八岐大蛇を覆う強靭な鱗に阻まれ、本体に傷一つ付けることは叶わなかった。
優と海に続き、空が内なる仏と、太郎笈の神力を感じながら技を繰り出す。
『仏神一体の行 神技 破邪斬断!!』
だが、仏神一体の行でも、八岐大蛇の鱗を数枚吹き飛ばすのが精一杯だった。
八岐大蛇が蝿でも追い払うように軽く頭を振ると、突風が巻き起こり空達に襲いかかる。
『危ないなり!!』
後鬼の盾が突風を防ぐ。
「あんなの、どうやって退治するのよ!!」
空の行までが弾かれ、海が絶望したように声をあげた。
『墜ちたとは言え、元は水神!やはり正面からでは敵わぬか!!』
海の内で、娑伽羅龍王がつぶやき、『其方の徳では、我はここまでじゃ。後は水天と神界に委ねるが、竜女が加護を与えた薙刀に、我が御力を宿しておく!』と告げ、天に返っていった。
手詰まりかと思われたその時……
『前鬼と後鬼は御力を優に戻して、太郎笈は空から離れて優を纏いなさい!』
何処からか、声が響いてきた。
その声に従い、前鬼と後鬼が小さくなり、太郎笈は光となって空から離れ、次郎笈と共に優の身体を纏った。
『優は、この後で力を使ってもらいます。そのまま力を蓄えておきなさい』
「貴方様は……?」
空が尋ねる。
『我は十二天 がひとつ水天。水の神にして龍を総べる者です。娑伽羅の願いにより参りました。其方の内の仏はまだまだ未熟ゆえ、我が其方の内に入りましょう』
その声に導かれ、空が九字印を切った。
すると、天から光り輝く雨が空に降り注ぎ、その雨が空の内に入り込んだ。
同じ時、海が頭に飾った櫛が眩い光を放つ。
『柘植の櫛は告げの櫛!海よ、妾をその身に受け入れ神託を告げなさい!!』
「貴女は?」
『妾の名は櫛名田。さあ、八岐大蛇を屠りますよ!』
その言葉のまま、海も九字印を切った。
「兄貴!元の世界から八塩折之酒の酒樽が送られてきたから、太郎笈と次郎笈の力で八岐大蛇の近くまで運んで!!」
海が、その身の内にある櫛名田比売の神託に従い、優に声を掛ける。
海が指し示す方を見ると、いつの間にか山積みにされた酒樽が芳醇な薫りを漂わせていた。
ただ、そのサイズが桁違いに大きい。
どうやって運び込んだのか、どう見ても人力で動かせる大きさではなかった。
それが八個。
「げっ!これをヤツに呑ませて酔い潰すのか?だけど、そんなに上手く呑んでくれるかなぁ!!」
「それは任せて!兄貴は太郎笈と次郎笈に頼んで、運んでくれたら良いから!!」
「匂いだけでも酔いそうだな!!」
優がぶつぶつと言いながらも、太郎笈と次郎笈の神力を借りて、酒樽を八岐大蛇の頭が届く所に並べた。
その匂いに釣られ、八岐大蛇が真っ赤な眦をニタリと下げるが、警戒しているのか酒を呑もうとはしない。
すると、何処からか『ドン ドン ヒャララ ピーヒャララ』と、陽気なお囃子が流れてきた。
いつの間に現れたのか、舞姫がそのお囃子に合わせて踊り出す。
舞姫が一節舞ったところで、一際高く『ピー!!』と横笛の音が鳴り響き、『テン テン テテテン』と皷が打ち鳴らされる。
「元は水神で有らせられた八岐大蛇様に、我が舞を一差しお披露目いたしましょう」
皷の音がかき消えると、そこには天宇受売命を纏い、舞姫を周りに従えた海の姿があった。
ハラリ ハラリと海が持つ扇子が宙を遊ぶ。
その天女の舞に、八岐大蛇の警戒が薄れた。
目の前には大量の酒があり、顔を上げると天宇受売命を纏う海が雅に舞い踊っている。
たまらず、八岐大蛇が目の前の酒樽に頭を突っ込み、ゴクゴクと八塩折之酒を呑み干していく。
やがて、八岐大蛇の頭が地面に落ち、そのまま寝入ってしまった。
「八岐大蛇は上手く眠ってくれたが……どうやってトドメを刺すんだ?」
神技を使っても、数枚の鱗しか傷つけることが出来なかった、巨大な体を見て優が頭を捻った。
ーーーー
元の世界にいる須佐之男が、櫛名田比売の気配を感じ取っていた。
「おぉ、櫛名田が異世界への渡りを手助けしてくれるか!」
須佐之男が懐かしげにその名をつぶやくと、限界まで神力を高め、手にした十束剣を固く握りしめた。
海が深く眠る八岐大蛇を確認すると、空の方に振り向いた。
「これから須佐之男様を召喚します。空兄は、水天様と須佐之男様を仏神一体で纏い、八岐大蛇を仕留めてください」
櫛名田比売をその身に宿した海の願いに、須佐之男がその場に顕現し、須佐之男を空が纏う。
『櫛名田よ、久しいな!』
空の身体を借りて、須佐之男が櫛名田を抱きすくめる。
『貴方様もお変わりなく!!』
櫛名田も海の身体を借り、須佐之男の胸に顔を埋めた。
その横では……「コラコラ〜!!」と今にも須佐之男に飛び掛かりそうな優を、前鬼と後鬼が小さな身体で押し留めていた。
後は八岐大蛇を切り刻むだけなのですが…トドメは次話に回します。
本来、天宇受売命は八岐大蛇の神話には出ませんが、前回(神話)でやられたのと同じ方法でやられる設定のため、海に舞を一差し披露してもらいました。
もちろん、神話の踊りとは違う雅な踊りです。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【十二天】
仏教の護法善神である「天部」の諸尊12種の総称。
帝釈天•火天•焔摩天•羅刹天•水天•風天•毘沙門天•伊舎那天•梵天•地天•日天•月天
の十二天部




