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豪奢な装飾が施された廊下を歩く。

天井が高い。

その廊下にジャラジャラと鎖の音が響く。

その鎖は僕の首からヴァレシアさんの左手に伸びていた。

大股で歩いていくヴァレシアに急いで付いていく。

「好き嫌いは無いだろうな。犬。」

「は、はい。何でも頂きます。」

「うむ。良いぞ。我が城の料理は旨いぞ。貴様が口にしたことのない美食の数々を楽しみにしておけ。」

ヴァレシアが饒舌になっているように感じた。

そして、どこか嬉しそうな雰囲気がこちらにも伝わってきた。

「なんだか、楽しそうですね。ヴァレシアさん...。」

「そう見えるか?」

「はい。」

「そうか。だが仕方あるまい、今から我が妹と食事をするのだからな。」

ヴァレシアが大きな笑みを浮かべた。

「普段ならば2人きりで過ごす時間だが、今回は特別に貴様も同席させてやろう。」

「妹さんが大好きなんですね。」

「当たり前だ。我が妹セシルほど可憐で美しいものなど存在しないぞ。貴様は今日の日を永遠に宝にするであろうな。」

「あははは...。」

「一応、言っておくが...。」

ヴァレシアの声のトーンが急に暗く変わる。

「もし、セシルに無礼な真似をしたときは、貴様には死を与える。覚えておけ。」

「は、はい...。」

背が凍るような錯覚を覚えずにはいられなかった。

ヴァレシアさんは妹さんを溺愛しているようだ。

セシルさんの事を話すときのヴァレシアさんは先ほどまでとはまるで別人に見えた。

大きな扉の前でヴァレシアが立ち止まった。

「ここだ。楽しむのは良いが。立場を忘れるなよ?」

「は、はい...。」

扉が開くと賑やかな雰囲気が伝わってきた。

「これは...どういうことだ...。」

ヴァレシアの眼が大きく見開かれた。

晩餐会場は沢山の着飾った人たちで賑わいを見せていた。

「...ヴァレシアよ。待ちかねたぞ...」

弱々しくも良く通る声が奥からした。

枯れ木のような老人が、長テーブルの席に着いていた。

「お父様...。」

「席に着くがよい...。皆も待ちかねておる...。」

「はい...。犬、貴様は下がれ。」

「ならん。」

老人の声が響いた。

「その少年、近くで見たい。席につかせよ。」

「...仰せのままに。」

僕はヴァレシアに連れられて部屋の奥へと進んだ。

ヴァレシアが首輪の鎖を外し、老人の近くに立った。

「ふむ...。席が足らぬな。そこの者...。」

王が1番近くに座っていた壮年の男を指指した。

豪奢な衣服に身を包んでいた。

「は...?私でしょうか?」

「うむ...。邪魔だ...。去ね。」

「なっ...。」

男は口を大きく開け、言葉を失っていた。

「私っ、私はあなたの甥ですぞ!それを邪魔だと申させれるか!」

「...衛兵。」

短く言った王の近くに武装した兵がやってきた。

「この者を地下牢へ...。反逆の咎で首を跳ねよ。」

「な、なにを...何を言っている...。よせ、触るな!よせえええ!!」

男は衛兵たち連れられ部屋を出ていった。

「...これで、席が空いたな。少年よ、ここに掛けるがよい。」

ヴァレシアが動いた。

そして、僕よりも先に男が居た席に座った。

「お父様。久しぶりに娘の顔が見たくはありませんか?」

「...ふむ。まぁよい。少年、すまぬな。ヴァレシアの隣に腰掛けるがよいぞ...。」

「...えっと...。」

王とヴァレシアの顔を見比べる。

ヴァレシアが頷くのを見て、席に座った。

「...カカ。愉快、愉快...。ヴァレシアと名も知らぬ少年、そしてセシルが並んで座っておる。奇妙な光景よ...。」

「...。」

ヴァレシアは何も口には出さないが、明らかに不機嫌になっていた。

僕の左隣に座っている女の子が、妹のセシルのようだ。

ヴァレシアと同じ赤い髪をツインテールにしている。

黒いドレスを身につけているが、ヴァレシアのデザインとは違い可愛らしい印象を受けた。

セシルと眼があった。

「よろしく。お名前は...。」

「僕は、ライルと言います。」

「ライルさん...。良いお名前ですね。」

ニコリとセシルが笑みを浮かべた。

優しい笑顔だった。

とても、ヴァレシアの妹とは思えない。

「き、貴様!犬っ!少しセシルから離れんか!」

ヴァレシアが立ち上がって言った。

「お姉様。」

凛とした声が響く。

「う...。」

ヴァレシアの動きが止まった。

「行儀が悪いですよ。お座り下さい。それにこの方はライルさんでしょう?犬、という名前では無いはずです。」

「で、でもな、セシリー...。それは私の愛玩動物で...。」

「お姉様...?」

口答えを許さない声音をセシルが放つ。

「...はい...。」

ヴァレシアがしゅんとした様子で、大人しく席に着いた。

あのヴァレシアをまるで子供扱いしていることに驚きが隠せない。

姉妹なのになんだか立場が逆みたいだな...。

「...それでは、晩餐会を始める...。」

王の言葉と共に料理が運ばれてくる。

どれも見たことが無いほど洗練された料理だ。

しかし、沢山の食器が並んでいてどれを使えばいいのかわからない。

冷や汗が出てきた。

「ライルさん。」

左隣から小声が聞こえてきた。

セシルがニッコリと笑みを浮かべている。

「これを使って食べると良いですよ。」

そう言ってセシルが食器を指差してくれた。

「あ、ありがとうこざいます。セシルさん。」

「どういたしまして。ライルさん。」

セシルのおかげで何とか食べ始めることができた。

僕と同じ位の年に見えるのにとても頼りに見えた。

全ての所作が洗練されている。

これが王族というやつなのだろうか。

「...。」

右隣から何やら不穏な視線を感じる。

眼を合わせたら動けなくなるだろうから気づいて無いフリをして食事を食べ進めた。

新しい料理が運ばれてくる度にセシルが食器や使い方を教えてくれた。

とても親切な人だ。

優しい笑顔もヴァレシアとはまるで似ていない。

肉料理が運ばれてきた。

骨付き肉がとても美味しそうな香りを漂わせている。

「...ときに、少年。」

黙っていた王が口を開いた。

それまで談笑していた他の人間が徐々に口を閉じていく。

「...お主。ここに来る前はどこで何をしていた...?」

老人の落ち窪んで影になった眼がこちらを凝視しているように感じた。

嫌な汗が背を伝う。

「...故郷を出て...1年ほど旅をしていました。」

「ほう...。お主のような年頃で旅をするのは難しかろう...。なぜ旅を続ける?」

「それは...。」

この老人の前で嘘を吐いても見破られそうな気がした。

息を整えて言葉を口に出した。

「ある物を探しています。それは人の願いを現実に変える力が備わっていると聞きます。名を神機と言うそうです。」

老人の眼に好奇の光が灯った。

「ほう...。失われた神機を探すか...。」

「はい。僕はそれを必ず手に入れます。」

「...カカ...。人の身に余る大望を宿すか...。小気味良い少年よな...。」

老人が縮れた灰色の髭を撫でる。

「少年よ。お主...。」

王が震える左手でヴァレシアを指指した。

「...我が娘と婚姻を結び、この国の王になるつもりは無いか...?」

「...へ?」

「お父様!?何をっ!?」

ヴァレシアが驚きの声をあげる。

「...カカ...。悪い話では無かろう、少年。そなたは国の力を持ってあらゆる国を侵略し、世界をその手に掴めばよい。その後、ゆっくりと神機を探せばよい。ヴァレシアよ...。」

老人がヴァレシアのほうを向いた。

「...そなたが了承すれば、此度の王位継承戦取り止めよう。儂はそなたらに王位を譲り、また旅に戻る。どうじゃ...?」

「王よ...またそのようなお戯れを...。」

老人は微動だにしなかった。

「...儂は本気だ。少年もそのように見えるが?」

「ば、馬鹿なっ!?」

ヴァレシアの視線が此方に向いた。

正直、この老人が言っていることを信用したくは無い。

だけど老人が言うようにこの国の力を使えばずっと早く、神機を見つけだせるはずだ。

その為なら...。

「僕の願いの為に、その話喜んで受けさせて頂きます。」

「カカっ...。その意気やよし...。」

「犬っ!?貴様、何を考えている!?」

「ヴァレシアさん...。お願いします。あなたが必要です。僕は、必ず神機を手に入れなければならないんです。」

「どうする...。ヴァレシア。そなたが首を縦に振れば、無駄な血が流れずにすむぞ...?」

「き、貴様らぁっ!?」

ヴァレシアが立ち上がった。

そのまま席を離れて歩いていく。

「...何処へ行く、ヴァレシアよ...。」

「うるさいっ!!」

ヴァレシアが扉を思い切り開け放ち部屋を出ていった。

「ふむ...。」

王が骨付き肉を手掴みで頬張った。

灰色の長い髭に肉汁が垂れる。

左隣から何やらクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。

セシルが肩を震わせながら笑いを堪えていた。

目が合うと、楽しそうな笑みを1度顔に浮かべて何事もなかったように食事を続けていた。


食事を終えて晩餐会場を出た。

しかし、僕はどこへ行けば良いのだろうか。

ヴァレシアにここまで案内されたけれど、あまりに城内が広すぎて部屋への戻り方がわからない。

「お姉様のお部屋まで案内しましょうか?」

後ろを振り返るとセシルが立っていた。

困っていた僕を見かねて声を掛けてくれたみたいだ。

「セシルさん。はい、お願いします。」

「ええ。付いてきて下さい。」

セシルの横に付いて歩いていく。

歩き方もお淑やかで洗練されていた。

「久しぶりに楽しい食事会でした。お礼を言わせて下さい。」

セシルが笑みを浮かべて言った。

「そ、そんな...。僕は何もしていませんし、僕の方こそ色々教えて戴いてその...。」

セシルが不思議そうな顔をして笑った。

「ふふふ。ライルさんって変な方。先ほどお姉様に婚姻を申し込んだときはあんなにハッキリと物を言っていたのに。」

「そ、それは...。」

「ライルさんは旅をしていらっしゃるのでしょう?」

「はい...。ここにはその、成り行きで...。」

「では、その成り行きには感謝せねばなりませんね。」

「...え?」

「私はそのおかげでライルさんに会う事ができたのだから。」

セシルがニッコリと笑った。

「ここです。」

扉の前で止まった。

ヴァレシアの部屋の前まで来たようだ。

「ライルさん。また明日もお話しませんか?旅の話を聞かせて戴きたいのです。」

「は、はい...。僕でよければ...そのいつでも。」

「本当ですか?嬉しいっ!」

まるで華が咲いたかのようにセシルに笑顔が舞った。

「それでは、また明日迎えに参りますね。」

「は、はい。」

「ふふっ。おやすみなさい。」

「おやすみなさい...。」

セシルの後ろ姿を見送る。

ヴァレシアが言った通り、可憐な人だった。

僕とあまり年が違わない外見なのに凄くしっかりしていた。

ドアを見た。

この後が憂鬱だ。

ヴァレシアさんはさっき凄く怒っていた。

原因は僕のせいでもある。

相手を無視して無茶な事を言ってしまった。

謝らなくちゃ。

呼吸を整える。

ドアをノックする。

「ヴァレシアさん...?ライルです。今戻りました。」

「...。」

返事が無い。

...。

「...ヴァレシアさん。...犬です。今戻りました。」

ドアが半分開いた。

顔を赤らめたヴァレシアが此方を見下ろしていた。

「遅いぞ、犬。早く入れ。」

襟首をひっ掴まれ部屋の中に強引に連れ込まれる。

橙色の照明の柔らかい光が部屋を照らしていた。

ヴァレシアは椅子に腰掛け足を組んだ。

僕はその前に座らされた。

床が硬い。

「ど、どうしたんですか?ヴァレシアさん...。顔が赤いですよ...?」

「...。」

ヴァレシアは何も言わない。

今兎に角謝る事が先だ。

「あ、あの...さっきはその、すみませんでした!ヴァレシアさんに無理を押し付けてしまって...」

ヴァレシアは口を閉じたままだった。

どうしよう。

冷や汗が吹き出す。

「...ヴァレシアさん、怒ってますよね...?」

「...お手。」

「へ?」

「...お手だ、犬。」

そう言ってヴァレシアが手を差し出した。

僕は言われるままその手に手をのせた。

「...わ、わん。」

「くく...かはは...。」

「...ヴァレシアさん?」

「にゃははははは!!!!」

ヴァレシアが笑い声をあげた。

笑いすぎてお腹を抱えている。

「わんって!犬か貴様は!にゃははははは!!!」

「は、はい...。ヴァレシアさんの犬です。」

「そうか!そうであったな!」

ヴァレシアが椅子の横に置いてある小さな丸テーブルからワイングラスを取り、一息に煽った。

「お酒ですか...。」

椅子の近くをよく見ると空になった酒瓶が転がっていた。

「ちょっと、飲みすぎじゃないですか?」

「なんだァ?犬が口応えするのかぁ?」

「い、いえ...。」

「犬は芸をしてればよいのだ!回って見せよ!」

「は、はい。」

ヴァレシアに言われた通り回り始めた。

「良いぞ!もっとだ!」

回りすぎて足がふらついて転んでしまった。

「イタタタ...。」

「にゃははははは!!!誉めて遣わすぞ、犬!次だ!次は~」

このままヴァレシアの言葉に従う他無いだろう。

怒り狂うヴァレシアよりは良い。

「次は...。...だ。」

ヴァレシアが何やら小声でゴニョゴニョと言った。

語尾しか聞き取れなかった。

「へ?も、もう一度言って戴けますか?」

ヴァレシアの顔がパッと赤く染まる。

「き、貴様っ!主人を愚弄するか!」

「で、でも、聞き取れなかったので...。」

「ぐぬぬぬぬ...。わかった。では次は聞き漏らすなよ。」

ヴァレシアが深呼吸する。

僕は耳をそばだてた。

「...ち、チンチン...。」

「へ?」

「ち、ちんちんと言っておろうが!ちんちんじゃ!はよちんちんせい!!」

僕は大人しくちんちんのポーズを取った。

恥ずかしくて顔が熱い。

「ほう...。なかなか良い格好ではないか、犬。」

「そ、そんなにジロジロ見ないで下さいよ!恥ずかしいです!」

「たわけ。犬に羞恥心などあるはずなかろうが。」

そう言ってヴァレシアは並々に注いだワイングラスを持ちベッドに腰掛けた。

次は一体何を命令されるのだろうか。

「...犬。近くへ来い。」

ヴァレシアが言った。

「はい...。」

ヴァレシアが座るベッドの前に座った。

ヴァレシアが着ているネグリジェの露出が大胆でソワソワしてしまう。

青いネグリジェは複雑な意匠が施されているにも関わらず着ている人間の魅力を損なわないものだった。

褐色の艶やかな肌があまりに扇情的に見えてしまう。

ドレスの布の下にあった大きな胸の谷間が露になっていた。

目が離せない。

無理やり床を見た。

心臓の鼓動がヴァレシアにも届いてしまっているのでは無いかと心配になった。

「犬...。次はあれをやるのだ...」

「な、何でしょうか?」

「決まっておろうが...。」

「ヴァレシアさん...?」

ワイングラスが傾き、ベッドに染みを作った。

ヴァレシアが座りながらこくり、こくりと船を漕ぎだした。

「寝ちゃってる...。」

大きく息を吐いた。

「助かった...。これ以上起きてたら何をされてたか。でも、このままだと可哀想だよね...。」

ヴァレシアをきちんとベッドに寝かせる事にした。

褐色の艶やかな肩が寝息で上下している。

触れてしまっていいのだろうか。

思わずそんな事を考えてしまった。

しかし、もう太陽は沈んでいる。

急がなければ。

覚悟を決め一息でヴァレシアの体を動かした。

自分より大きな体をしている相手であるから当たり前だけど、重い。

「よし。これで良いかな。」

ヴァレシアが心地良さそうに寝息を立てていた。

大きな胸が上下していた。

誰も咎める人がいないため見入ってしまう。

「だ、ダメだ!このチャンスに行かないと...。」

僕は熟睡するヴァレシアを残し、テラスから城の外へ出た。





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