壊れた異世界人 辞令
机の上を書類を片付ける。
短い間だが世話になった。
楽しかった思い出など全く無い。
それでも感謝の気持ちは湧き上がる。
妹の命を繋いできた大切な場所だ。
もう僕には出来ることは何もない。
道は他者によって敷かれた。
僕に選択肢はなく、歩くことしかできない。
少尉:
「ユミル伍長。
異世界人と供に行くのか。
おめでとう、と言うべきかな?」
ユミル:
「短い間でしたが、お世話になりました」
少尉:
「ノルナゲスト少将がお呼びだ。
急いで行ってくれ」
ユミル:
「少将が、直接お呼びですか?」
少尉:
「そうだ。
陸軍棟の2階だ。
受付で聞けば、教えてくれる」
ユミル:
「わかりました」
一息ついて、服装を整える。
コンコンコンコン。
ユミル:
「情報部伍長ユミル参りました」
不明:
「入りたまえ」
ユミル:
「失礼します」
40代男性:
「まずは、椅子に掛けてくれユミル伍長」
ユミル:
「はっ。
失礼します」
言われるままに席に着く。
40代男性:
「倉庫であって以来だね、ユミル伍長。
私が、ノルナゲストだ。
よろしく頼む」
ユミル:
「よろしくお願いします。
ご用件を、伺ってもよろしいでしょうか?」
会釈をすると、話を切り出す。
ノルナゲスト:
「まぁ、そう急がなくても良いのではないかな?
要件は、異世界人のことだ。
軍へ協力をしたいという意向が届いている。
君の交渉が、功を成したようだ。
まずは、おめでとう。
約束通り、君の妹さんの処遇改善について、
ヴァンランディから、話があるから聞いてほしい」
ヴァンランディ:
「これから何度も、顔を合わすことになるはずだ。
お互い建設的に、やっていこう。
申し訳ないが、妹さんの話の前に、事務的な連絡があるから聞いてほしい」
ユミル:
「はい」
ヴァンランディ:
「君と我々の接触は、倉庫で偶然出会った時より少し前。
異世界人の交渉を行うように、君へと命令書が出ている。
ノルナゲスト少将が直々に手渡ししているはずだ。
一応、説明しておくが……
少将は大変優秀で、人を見る目には定評がある。
今回の異世界人との交渉は非常に困難なものだと予想されていた。
しかし。
少将は君なら確実に達成できる、と見抜いた訳だ。
軍では実績以外にも、体面が物をいう。
言っている意味はわかるな?
明日、異世界人から軍へと協力をしたい。
という文章が正式に届く。
君は3日後、
遅くとも5日後までに交渉に関する報告書を提出してほしい。
情報部の君の上司から、こちらに届くようになっている。
我々に『壊れたの異世界人』の案件が来てから、
粛々と交渉を行い、良い成果を出すことができたはずだ。
君の妹さんは、すでに別の病室へ移っている。
24時間、看護の者がつくように手配済みだ。
君も安心して任務につくといい。
新たな治療環境へ行ったばかりだ、妹さんも疲れているだろう。
明日にでも、面会に行くといい。
そうだった!
ユミル伍長。
ノルナゲスト少将より頂いたはずの命令書が……
なぜかここに届けられている。
大切な命令書だ、気を付けてくれ。
上司へと報告書を渡すときに、必要になるだろう?」
ユミル:
「申し訳ありません」
いたって真面目な表情の中佐から、命令書の入った封筒を受けとる。
ご丁寧に折り目、誰かに踏まれたのか靴跡まで付いていた。
こんな細かいところまで、こだわる必要があるのか?
なんだコレ?
封筒の中には、他にも何枚か紙が入っていた。
僕が書くはずの報告書、その原文が入っている……
ノルナゲスト:
「さて、ユミル軍曹」
ユミル:
「昇進ですか?」
ノルナゲスト:
「後々、正式な辞令が届くだろう」
ユミル:
「ありがとうございます」
ノルナゲスト:
「今後の異世界人の話だが……
彼には補給に関して協力してもらうつもりだ。
たぶん1万人規模の物資が運搬できるだろう」
ユミル:
「1万人分もですか?」
ノルナゲスト:
「君は、彼の能力を知らないのか?
能力は空間支配だ。
君も本人に、確認しておくことように。
彼は魔導書の中に、大きな倉庫を持っている。
そこへ物を出し入れできるんだ。
物資の輸送は敵に襲われることも多い。
生命線だからな。
護衛の兵を沢山つければ輸送できる物資の量が減るし、遠くからもよく目立つ。
彼の協力があれば、目立たず安全に輸送できるはずだ。
無論、護衛兵は付ける」
ユミル:
「頻度は、どれくらいになりますか?」
ノルナゲスト:
「何か問題があるのか?」
ユミル:
「彼は家族を探しに行くはずです。
どこに行くかわかりません」
ノルナゲスト:
「たぶん大丈夫だ
軍もいくらか協力するし、国中をまわるのだろう?
物資供給の目的地を工夫すればいい。
急ぎの場合は、飛竜を出す。
活動資金と情報提供も行う。
各軍事拠点で、報告を定期的に行ってくれ」
ユミル:
「活動資金は、どれくらいになりますか?」
ノルナゲスト:
「1000万だ」
ユミル:
「3ヶ月毎、1000万ですか?」
ノルナゲスト:
「いや
2年で1000万だ」
ユミル:
「1年間で500万ですよ!」
ノルナゲスト:
「妥当な額だろう?
従軍といっても、名目上になる公算が大きい。
交戦するわけでもないし、諜報活動でもない。
人探しは、こちら側でも手伝う。
沢山の資金を与えたら、彼はどこかに行ってしまうぞ!
彼の有用性もまだ、証明されていない。
軍事拠点にいる際は、宿泊施設、食料、その他物資の提供もする。
金はそれほどかからないだろう?
説得するのが君の仕事だ!
君は……
自分の妹にかかる治療費を、活動資金に回すか?
私はべつに構わない」
ユミル:
「いぇ……」
ノルナゲスト:
「頑張ってくれ。
期待しているよ。
ユミル軍曹。
報告書の方を、至急頼む。
また何かあったら、呼ぶこともあるだろう。
今日のところは退席してくれ」
ユミル:
「はい、失礼します」
席を立ち、部屋の外へと戻る。
この条件を伝えるのか?
活動資金で揉めることは間違いない。
少将とまた交渉するのか。
また妹の件をチラつかせてくるのだろう。
はぁ……
コンコンコンコン。
フリスト:
「はーーーい」
扉が勢いよく開かれる
フリスト:
「ユミル、早くこい。
ナオキちゃんが待ってるよ」
ちゃん付け?
席に座ると、異世界人に声をかけられる。
直樹:
「どうした、体調でも悪いのか?」
フリスト:
「いえ、大丈夫です」
異世界人は待遇の書かれた紙を、眺めている。
直樹:
「協力条件は……
これでいい」
ユミル:
「え?
いいんですか?」
直樹:
「まずいのか?」
ユミル:
「いえ……」
酷い条件だったはずだが……
紙を見るように自分に渡してきた。
少将が話した事と同じような内容だった。
いいのか?
これで……
直樹:
「金については気になっていた。
1度だけだが金が1000万も支給される。
俺はこの世界をよく知らないからな。
働けるまでの当座の資金としては、ありがたい」
この人、働くつもりだったのか……
直樹:
「軍の宿泊施設は、好きに使えるし食事も出る。
極力利用すれば金はほとんどかからないはずだ。
もらった物資を換金するのは、駄目だろうな……
移動についても馬車と護衛が付く。
輸送目的ならある程度の安全を確保され、楽に移動もできる。
それに、これだな。
これは面白い!
どうやら俺は、1万人規模の物資を移動できるらしいぞ!」
ユミル:
「え?
知らないんですか?」
直樹:
「ああ、よく知らないんだ。
自分の力についても色々と、実験する必要が出てくるな。
これは異世界人の基本スキルだろうか?
俺の知らないことまでわかるなんて。
軍は色々と情報を持っているんだな」
ユミル:
「活動資金の方は、どうですか?
毎年、支給があったほうが宜しかったのでは?」
直樹:
「なぜ?
この国にとどまる気はないぞ。
金があるには越したことはないが、働けるようにしておかないと後で困る」
ユミル:
「他に何か問題はありますか?」
直樹:
「特に問題はない」
ユミル:
「条件に問題がなければ、このまま進めていきます。
それでは失礼します」
直樹:
「よろしく頼む」
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