貰い火 嘆き・15
メグスラシル中将:
「ナオキ殿。
追加の報告をお願いしたい」
全員の目は真剣で、人数は居るのに酷く静かだ。
緊張するな。
この緊迫感は何とかならないか。
頭が真っ白になる。
直樹:
「俺は。
何を話せばいい?
聞きたいことはあるか?」
メグスラシル中将:
「ナオキ殿。
もう少し、肩の力を抜くと良い。
大雑把でもいいんだ。
君が賢人たちから聞いた話を、聞かせてほしい」
直樹:
「はぁ。
そうだった。
中将の陣地から、3kmほど先に敵の陣地がある。
ここの連中と戦っていたんだろ?
これが、5万人いた陣地らしい。
お前たちの方が詳しいと思う。
援軍5万人の援軍の話なんだが。
当初から予定されていたものだったらしい。
3km先の陣地では10万人の収容は無理。
そこで今ある陣地から、20km近く先に陣地を敷く計画のようだ。
中将の戦っている場所は、先発部隊用の仮設だったらしいぞ。
仮設として作っていたら、敵が発見された。
そこで急遽。
兵の増員と陣地の作り直したとのことだ。
今は、増援との合流。
再編成が最重要命令になっているはずだ。
陣地の設営、通路の警護などに、敵の兵士が駆り出される可能性が高い。
何割かが20km先の陣地へと移動していると予想される。
新たな地図がコレ。
およその位置が書いてある」
メグスラシルはこぶしを握りしめ、顔が険しくなる。
周りの者たちも、改めて背筋を伸ばし、息を飲んだ。
メグスラシル中将:
「最悪だな。
こちらの状況も伝えよう。
おおよそ3日前。
上層部から周囲を警戒するよう、命令が来ている。
君の情報が、ノルナゲストを通して上層部へ伝わったのだろう。
偵察を周囲に出したが。
いくつかの部隊が帰還していない。
既存の敵に殺されたのか。
新たな増援なのか。
判断が付かない状況だ。
地図をしばらく貸してほしい。
後でこちらから届けよう。
あと次回の物資輸送の際、少将へ手紙を持って行ってくれ。
敵のおおよその位置が分かるのなら、やり方はいくらでもある。
今回の偵察では、有益な結果が得られるだろう。
ナオキ殿。
情報提供、感謝する」
直樹:
「中将、がんばれよ。
皆もな!」
ユミルに丸投げすればよかった。
大した時間ではないのに、ひどく疲れる。
俺たちは仕事に戻った。
次の日、中将からは連絡だけ届く。
千人の兵士の交代は、一時中断するという連絡だ。
4日が経過する。
その間に軍医がやってきて、重体の兵士に案内された。
26人の兵士を取り込む。
兵士たちの動きが、活発になった気がするな。
俺たちが、いつものように作業していると。
兵士:
「ナオキ様。
中将がお呼びです」
いつものように中将の居るテントへと案内されるが。
様子がおかしい。
異様な威圧感、兵士の数が今までよりも多かった。
出入口を地面に張り付ける。
直樹:
「ユミルは、このまま一緒に俺を守れ。
フリスト。
一度、隠れ家に戻ってフル装備で戻ってきてくれ」
フリストが転移した後、出入口を回収する。
テントの中に入ると。
10人の兵士、全員が剣を抜いていた。
軽装に見えるが、体を守る鎧は頑丈そうに見える。
剣の種類も短刀、剣も通常よりも短い気がした。
ここで振り回すためか……
こんなのを見せびらかして良いのか?
意図が俺にばれるだろ。
本気で殺るのなら、隠しておくはず。
外の様子も騒がしいな。
何かの警告か?
直樹:
”追加、超回復ラブリービューティー
1時間、精神の鎮静化、呼吸を整えろ”
念話操作で魔術を行使する。
中将の前には、椅子が3つ。
真ん中の椅子に腰をかけると、足元に出入口を張り付ける。
ユミルは椅子を退かして、横に立った。
剣に手をかけて、腰を少し落とす。
いつでも対応できるように準備する。
メグスラシル中将:
「ナオキ殿。
ご足労感謝する」
直樹:
「あぁ、でも兵士の様子は。
感謝の感じではないが?」
メグスラシル中将:
「テントの周りにも200人ほど。
兵士を待機させている」
直樹:
「200人?
俺の4千人には、数が少ない気がするが?
それに。
俺はいつでも逃げられる。
異世界人の力を過小評価しているのか?」
メグスラシル中将:
「自分の決意表明みたいなものだ」
直樹:
「わかった。
話を始めてくれ」
メグスラシル中将:
「君にはどうしても、やってほしいことがある。
まずは現状を説明しよう。
我々は、君からもらった情報を精査した。
1、隠蔽された敵拠点。
我が軍の後方、2カ所を調査した。
拠点と思われる周囲を巡回し、敵を数人を見つけた。
その後、追跡するが見失う。
見失う場所は、おおよそ君が印をつけた場所だ。
我々の持つ装備、魔法では拠点を特定できない。
2、敵陣地の確認。
200人の兵士を探索に出したが、半分近くが帰ってこない。
無事だった者たちの報告によれば、ここから18km先に陣地が作られていた。
多くの兵が作業をしていた様だ。
君からの情報通りだ。
結論を伝える。
援軍の話は事実だと考えて行動する。
我々は、明日の夜。
闇に紛れて前面の敵陣地、約3万を襲撃する。
わが軍は正規兵約2万人、準兵士約1万人を動員。
準兵士は練度も低く、士気も低い。
正規兵に換算すれば5千人程度だ。
2万5千人での戦闘と考えてもらえば、差し支えない。
君への頼み事は。
兵士3千人以上を敵の背後に展開し。
連携して、敵を攻撃してほしい。
我々には!
後がない。
時間もない。
どんなことをしてでも。
君には協力してもらう!」
大丈夫だ。
精神状態は問題ない。
魔術は機能しているようだ。
いつかは、こうなると思っていた。
異世界人は戦場にいる。
戦場にいない俺は、いつか駆り出される。
直樹:
「報酬はあるんだろ?
条件は?」
メグスラシル中将:
「金を1000万だ」
直樹:
「そんな、はした金でやると思うか?」
メグスラシル中将:
「わからない。
だから聞いている」
出入口から、フリストが突如現れる。
瞬時に周囲を見回し。
俺をかばうように立つと、剣を抜いた。
マジか!
脱出用に張り付けておいたんだが。
フリスト:
「大丈夫?
殺していいの?」
直樹:
「駄目だ」
このタイミングで……
失敗だ。
待ってから一緒に来るべきだった。
フリストの不穏な言動を聞き、周りの兵が中将を庇う。
多少ピリピリした空気にはなるが。
中将が手を上げて、制止した。
メグスラシル中将:
「申し訳ない。
こちらは、現段階では戦う意思はない。
剣を引いてもらいたいな」
直樹:
「フリスト。
横に来い。
そこで俺を守れ。
現在、交渉中だ」
フリストは椅子を蹴り飛ばす。
剣を抜いたまま、俺の脇に付いた。
向こうも剣を抜いているんだから、問題はないだろう。
馬鹿はやる気満々だな。
対照的に、ユミルの方は顔色が悪い。
直樹:
「協力の件だったな。
はっきり、言おう。
無理だ!」
メグスラシル中将:
「仕方がない……。
君は。
異世界人に会いたくはないか?」
直樹:
「会えるのか?」
メグスラシル中将:
「可能だ。
自分が1人、管理している」
直樹:
「会うだけで、戦闘か?
うーーーん。
それは。
無理と言うモノだろ?」
メグスラシル中将:
「くれてやるぞ!」
直樹:
「え!?
俺に、くれるのか?」
メグスラシル中将:
「ああ。
自分に協力すればな」
直樹:
「本当か?
しかし……
本人の意思は?」
メグスラシル中将:
「拷問をしてでも、君にやろう。
必ず従わせる。
必要であれば、骨の2・3本はへし折る。
腕を切り飛ばしてでも従わせる。
必ずだ。
確約する。
自分の命を賭けて、約束しよう」
直樹:
「異世界人がいるのなら……
そいつを戦闘に参加させれば、いいんじゃないか?」
メグスラシル中将:
「無理だ。
戦闘の役には、立ちそうにない」
直樹:
「うーん。
どんな奴だ?」
メグスラシル中将:
「説明しづらい。
君に、直接見てもらうべきだと思う。
我々には今、戦える戦力が必要なんだ。
君の持つ、我々の兵士の協力が!
兵士を呼び出してくれれば。
君自身は安全な場所へと避難してくれて構わない。
詳しい事は後で伝えるが。
我々がまず、敵と衝突する。
その後、牽制してくれれば、敵も混乱するだろう。
背後から攻撃してもらえれば、ありがたい」
異世界人を貰えるのはいいな。
簡単に貰えるところを見ると、あまり役には立たないのだろう。
何か情報を持っているといいんだが。
報酬としては十分か。
でも。
もう少しは、いけそうだ。
直樹:
「参加してもいいが。
もう少し……
欲しいな」
俺の方を見て、プルプルとしている奴がいる。
准将か……
足元を見ている俺のことが、腹立たしいのだろう。
こっちも命懸けだ。
この国を守りたいお前とは訳が違う。
俺は、この国とは無関係だ。
メグスラシル中将:
「何が欲しい?」
直樹:
「俺の言う事を聞いてほしい」
メグスラシル中将:
「何を聞けばいい?」
直樹:
「今は、まだない」
メグスラシル中将:
「どういう事だ?」
直樹:
「中将に命令というか、頼み事というか。
そういう権利が欲しいな。
どこかで役に立つだろ?」
メグスラシル中将:
「しかしな……
軍規に違反はできないし。
余分な金も出せないぞ」
直樹:
「協力できる範囲でいい」
メグスラシル中将:
「それは。
内容によっては拒否できるのか?」
直樹:
「もちろんだ。
話し合いで内容を決める」
メグスラシル中将:
「わかった。
それでは頼みたい。
メグスラシルの名において、約束しよう」
直樹:
「武器は、どうすればいい?」
メグスラシル中将:
「そうだな……
48番、武器庫を使ってくれ。
ノルナゲスト少将への手紙も持たせよう。
そちらで調達してもかまわない」
直樹:
「じゃあ。
よろしく頼む」
中将からは、48番武器庫を使用するための命令書。
少将への手紙を貰った。
1590万も受け取り、握手して別れる。
内訳は。
兵士の貸し出し90万。
食料の販売500万。
先ほどの戦闘協力への1000万だ。
中将はノルナゲストと違い、払いがいい。
乗り換えるか?
48番武器庫へ行き、中のものを確認しよう。
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