3 - 要請
「……悪魔退治の、手伝い……? 私に?」
教室、翌日の放課後。西日によるオレンジの光の中で、私は何故かクラスの友人:かなみから意を決したような勢いでそんなことを頼まれていた。
よりによってこの子からこんなこと聞く日がくるとは……。
「そ……そう、こんなこと夜ちゃん以外の人には頼めないから……!」
「逆に、どうして私には頼めると思ったの? ゲームとかの話なら聞けないよ、スマホのゲームアプリだって何もやってないし」
パッと聞けば漫画かアニメかのモノマネみたいに思われかねない内容の話題だけに彼女の顔は真っ赤だ。しかし瞳は真剣そのもの。あしらってどうこうなるような気楽さはどこにも無い。
「げ、ゲームの話なんかじゃないのは分かってるでしょ! 夜ちゃんならさあ……‼︎」
問題点は二つある。そんな普通の人が聞いたら混乱するようなことを、突然かなみから頼まれるのかというそもそもの疑問について。そしてもう一つは、なぜ秘密裏とはいえ”実際に問題解決能力のある私”を選んで声を掛けたのかという部分について。
しかし疑問点なんて言いつつも、こうなっている時点で答えは出ているようなものだった。
……かなみには十中八九、私と魔術、そして悪魔との関わりがバレている。
「な、なんでそう思——
「夜ちゃんの右腕の“古傷”あるでしょ? その包帯取ったとこ見たことないけど分かる、それは『闇の炎』でつけられた火傷。違う?」
的確に図星を撃ち抜かれた気がした、言い逃れも出来ない。
“闇の炎”といういかにもな単語はすなわち悪魔たちが使う炎のことだ。
元々この世界にいる存在じゃない悪魔がこちらの世界に呼び出されたとき、連中はこの世界の炎とよく似た『地獄の炎』を使う。これが“闇の炎”で、焼かれた物質はこの世界の物質であっても“地獄の灰”へと変性する。つまり私の右腕の包帯の下はいま、見るも無惨な黒ずみに変貌を遂げたままだ。
「実は……むしろそれがあったから夜ちゃんに声掛けたんだ。悪魔のこと知ってるなら力になってくれれるかもって! だからお願い、力を貸して欲しいの」
「じゃあ、もしかして最初から……?」
「……うん、ごめんなさい。でも声を掛けるなら絶好のチャンスだったの、こっちも必死で!」
「事情はわかる……わかった。何をかは分かんないけど協力する。説明をお願い」
自分でも意外なくらいに、私は今の状況を飲み込めていた。いやむしろ諦めていたのかも知れない。ここまで私の事情を勘付かれていたのなら、もはや抵抗は無意味だって。
かなみは顔がやや明るくなって、流れるように事情説明を始める。
「この町に……この町に悪魔が入り込んでるのは知ってる、よね?」
「気づいてはなかったけどそうだろうとは思ってた。そうでもないと師匠がこの町にいる理由が説明つかないし」
私があの事故を引き起こしてから三年、目が覚めた時から目の前にいたかの魔女はずっとあの小劇場に住み着いて劇場オーナーと魔術師という二足のわらじを履きこなして生活している。
弟子である私の面倒を見るためなのかと疑ったこともあったけど、彼女は未だ何かの目的を成し遂げていないからこの町に留まっているのがなんとなく分かるようになった。それがかなみの言う悪魔の存在に関わることなら納得できる。
「この二、三年の間ずっとあたしは悪魔の行方を追ってきたの。この町のどこかにアイツは——
「ち、ちょっと待って! そんなに長いことずっと……?」
「うん、だって」
かなみはそう言ってから制服のシャツを掴んで、自らの脇腹を露わにする。……炎で炙ったみたいに皮膚が煤けて真っ黒だった。
「あたしも悪魔に“焼かれた”から……二年半くらい前かな。直接焼かれると魔力の流れとかもなんとなく分かるようになるでしょ? それにあたし、見ての通り結構な範囲を焼かれちゃったから、たぶん夜ちゃんよりもはっきり魔力が分かると思う。夜ちゃんの右腕だって見抜けたしね」
「な、なるほど……」
このクラスに悪魔と関わりがある人間が私含めて二人もいたとは! 物凄く小さな確率で私たちは恵まれていたらしい、あるいは悪魔が不運だったと言うべきか。気を取り直してかなみは続ける。
「それでね。こないだやっとソイツを見つけたの。アイツまだこの町に潜んでた……人間の姿に化けて、魔力も押し隠してね」
なるほど、かなみ(と恐らくいるであろう彼女の師匠)は捜査官として私よりも優秀らしい。対するウチの師匠は……こっちの捜査についてはやる気あるのかよく分かんないからなぁ。
「で、やっと夜ちゃんにどう協力して欲しいかって話になるんだけどさ。夜ちゃんのところにも師匠っているんでしょ? 退治のときにはあたしのところの師匠も来るから、今度四人で協力して悪魔を倒したいの」
「なるほどね。分かった、師匠に伝えとくよ」
ようやく話が見えてきた。なるほど、それは私たちの協力が欲しいワケだ。
確かに悪魔の相手をするというのなら魔術師の味方はいくらでも欲しいに決まってる。
「ところで協力するってことで一応聞いときたいんだけど……かなみの師匠はやっぱり名前って教えてくれてないの?」
「名前……? ……まさか夜ちゃんのところって名前教えてもらってないの⁉︎」
「う、うん、まぁ。名前を教えたら相手に“つけいる隙”を与えることにもなるから誰にも教えないようにしてるって」
あれ? 師匠からこの説明を受けたときは『なるほど』と思ったものだが。どうもそれは一般的なことではないらしい。
「びっくりした、そんなところまで注意してる人もいるんだ。偽名とかじゃダメなのかな……? あ、それでうちの師匠の名前なんだけど、海外の生まれらしくってさ。エンデュミオン・クロウリーって名乗ってるよ」
…………!
間違えようがない、外国人とはいえこんな名前が他に何人もいるハズがない。
選りにもよって、友人の師匠というのは私にとっての仇だった。




