事件3-2『魔女っ子はロボがお好き?』
〈前回までのあらすじ〉
空から魔法少女が降ってきた!?
魔法少女の活躍によって窮地に追い込まれた怪人・モグラヒドーダは巨大化して応戦する。
熾烈な戦いの中で、遂に黄金のロボットがその姿を現した。
私は、保護した謎の魔法少女とともに、ゴールドベースのメインルームへ戻った。
モニターには、キンピカオーと巨大モグラヒドーダが対決する姿が映し出されている。
「わー! 本当にロボだー! 私ロボット好きなんだよねー! カッコいい〜」
少女はモニターに映る現実味のない光景に、目をキラキラと輝かせる。
「それで……あなたはいったい」
「あっ、そうだった!」
そういうと、少女はスカートの中のモコモコしたところに手を突っ込み、そこから一枚の名刺を取り出した。
私はそれを渡されるがままに受け取る。
「改めまして、私、江古田デンデンっていいます! 魔法少女やってます!」
名刺には確かに「中学二年生/魔法少女 江古田デンデン」と書かれている。
「魔法少女……?」
「はい、魔法少女として、元の世界では悪いやつらと戦ってるんです!」
信じられない。こんな若い女の子が我々と同じように悪と戦っているなんて。
……と一瞬思ったが、よく考えたらゴールドファイブのホワイトは中学生一年生。年下だった。
「にしてもカッコいいな……巨大ロボ……」
再び少女はモニターを見る。
巨大モグラヒドーダは穴に入っては出て、入っては出てを繰り返しながら、何度もキンピカオーを攻撃する。
その度に頭の耳はピカピカと点滅する。
なんでヒドーダがサイダーを飲んだら頭の装置まで巨大化するのかは分からないが、これに関しては気にしても意味が無さそうなので気にしないことにする。
多分なんかそういう技術があるんだと思う。
巨大モグラヒドーダの攻撃はさらに激しさを増す。
しかしキンピカオーも負けてはいない。
モグラヒドーダが穴から出てきたところを掴み、思いっきり投げ飛ばした。
モグラヒドーダの身体はその場に転がるが、すぐに立ち上がりじだんだを踏む。
地面が大きく揺れ、それに合わせて周囲のビルが倒壊した。
「お前の攻撃はもう見切った!」
レッドがロボットの中から叫ぶ。キンピカオーがモグラヒドーダにゆっくり近づいていく。
そのとき、モグラヒドーダは思い切り叫んだ。
「チューチュー! こうなったら俺の隠されたもう一つの能力を使うしかない! 今だチュー!」
「まだ何か能力が……!」
私の胸の中に不安が渦巻く。
キンピカオーの操縦は操縦者にも負担がかかる。これ以上戦闘が長引けば、五人の身体が持たないかもしれない。
モニターを見ていたデンデンちゃんも、思わず目を瞑る。
――次の瞬間、突然キンピカオーから火花が散り、黒い煙が出始めた。
「どうしたの!?」
すぐにブレスの通信で状況を確認する。
「分からない。どうやらキンピカオーの回路が突然ショートしたらしい」
「これでは全く動かないでござる!」
それを見てモグラヒドーダはチューチュー笑う。
「チューチュー! 計画通りチュー! 俺様のこの頭についた次元ホール発生装置には、特殊電波によってロボットを破壊する機能もあるんだチュー!」
恐ろしい能力だ。これではまともに戦えない。
デンデンちゃんの顔も曇る。
「どうしますか……あの能力があっては……」
私は慌ててりゅうま隊長に尋ねる。
「だが、このまま放おっておく訳にもいかん。試運転はまだだが、新開発のアレを使うぞ」
「了解しました!」
いよいよあれを使うときが来たようだ。私も開発に参加したあれを。
「どうするの……?」
デンデンちゃんが不安そうに尋ねる。
私が答える前に、通信ブレスからレッドの叫びが響いた。
「発進! 黒妖獣!」
空から黒い二体の獣が飛来する。
片方は黒とオレンジの貂のような姿の獣。
もう片方は黒と紫のオオカミのような姿の獣、
二体の獣はそれぞれ空中で変形、瞬く間に合体し地上に降り立った。
「黒貂之鉄! アンコクオー!」
ロボット内部で五人の叫ぶ声が聞こえる。合体完了したら叫ぶ決まりになっているのだ。叫ぶ意味は分からない。
「えっ! うそ! 何あれ! 何!?」
「あれは新開発のアンコクオー。キンピカオーよりも更に鈍重だけど、その分パワーがある」
地上に降り立ったアンコクオーのボディは日の光を反射して光を放つ。
「ロボって、二体目居たの……」
先ほどロボが好きと言っていた割に、なぜかデンデンちゃんのテンションが低い。デザインが合わなかったんだろうか。
「キンピカオーからの乗り換えが完了した。これより戦闘に入る」
レッドの声が聞こえる。さぁいよいよ新ロボットの初舞台。
しかし、敵はロボットを破壊する力を持っている。果たして……。
「まっ待つチュー、きょ、今日のところはひとまず撤退するチュー!」
そういうと、モグラヒドーダは耳(もとい次元ホール発生装置)を光らせ、それで作った穴に飛び込んでどこかへ消えてしまった。
「あれ……モグラさん消えちゃった?」
ホワイトの少し残念そうな声が聞こえる。
「仕方ない、壊されたキンピカオーを回収したのち、ゴールドベースに戻るぞ」
レッドがそういうと、アンコクオーはキンピカオーの身体を掴み、それを担いでゴールドベースの方へ歩いていった。
◇ ◆ ◇
ゴールドベースのメインルームにみんなが戻ってくると、話題はもう異世界から来た魔法少女のことで持ちきりだった。
「魔法少女というのはどんな敵と戦っているでござるか?」
「魔法少女だけじゃなくて、ボクに似合う大人なレディの魔法使いもいるのかい?」
「ねーねー! 魔法でお菓子とか出せるの?」
「男のぼくでも、魔法少女になれたりするの……?」
みんなからの目が、一斉にデンデンちゃんに向けられる。
「ちょっとストップ! いっぺんに話しかけられても困るよ!」
そういうと少女は腰についていたポシェットからカラフルなコンパクトを取り出し、それを開いた。
「それなにー?」
すあまちゃんが興味津々に尋ねる。
「これはマジカパクト。私たちはこれに、エレメントバッジをセットして変身するの」
そういってデンデンちゃんは、パクトの中に取り付けられていた稲妻の形のバッジを取り外す。
すると、みるみるうちに魔法少女の姿から普通の女子中学生の姿に戻ってしまった。
「私たち魔法少女はこれで、闇の世界からくる侵略者と戦うんだ」
そういってデンデンちゃんが得意そうに話す。
「すごいすごい! 私も変身したい!」
「それは無理かなー、魔法少女は選ばれた人しかなれないし」
その後も異次元からの来訪者への質問合戦は続く。
さながらその注目度は、転校初日の転校生だ。
みんなとワイワイお喋りするのを遮るように、りゅうま隊長が咳払いした。
「たしか、デンデンと言ったな。君の素性について、詳しく聞かせてほしい。君はなぜここに来たのか。魔法少女とは具体的にどんな存在なのか」
りゅうま隊長はそういうと腰を落として、少女に目線を合わせる。
「な、なぜと言われても……、家で宿題やってたら、突然次元の穴が開いちゃって……、どこから来たかと言われても……別世界の地球としか……」
少女が腕を組んで眉間にしわを寄せる。
「なるほど……それで、これから次元を超えて迎えがくる見込みはあるのか、そもそも君に仲間はいるのか? それによって我々のできることも変わってくる」
りゅうま隊長が優しい口調で話しかける。
普段は自分にも他人にも厳しく、周囲から怖がれることも多いが、その心の内はとても優しく、情に厚い男なのだ。
「迎えにくる見込みは無いです。次元を超える魔法は未だ開発されていないので……、でも、仲間はいます!」
そういうとデンデンちゃんは、ポケットからスマホを取り出し、そこに映る写真を見せてきた。
そこにはお揃いでピースをする同い年くらいの女の子三人が映っている。
デンデンちゃんはまず最初に、写真に映る自分を指差した。
「一番右の黄色い服の子が雷の魔法少女、マジカサンダーである私」
次に真ん中の少女を指差す。
「真ん中のピンク髪の子が真地魔法子ちゃん。花の魔法少女、マジカフラワー」
最後に左の少女を指差す。
「左の青い髪の子が不忍まつりちゃん。水の魔法少女、マジカスプラッシュ」
三人ともすごく可愛い。
そしてとても仲良しそうだ。
「この写真からでも、君たちの絆を感じる。俺たちのように、いい仲間がいるんだな」
りゅうま隊長が珍しく微笑む。
最近久しく笑ったところを見ていなかったので、妙に新鮮だ。
「はい、二人ともすごく良い子なんだ! 私の友達なのが勿体ないくらい。……だから、私が守らないと……」
デンデンちゃんの顔が曇る。よほど心配なのだろう。
「気持ちは分かるが、気負い過ぎるのも良くないぞ。彼女たちは君の仲間なんだろう。仲間を信頼するのも大切だ。こと戦いにおいてはな」
そういって少女の肩を優しく叩く。
「あ、いや! ごめんなさい! なんか変なこと言っちゃって」
そういいながらも、スマホに映った写真を見る少女の目には、どこか悲しみがこもっている。
「きっと寂しいんだ。ボクたちで早く返してやりたいけど」
いつきがそう言っているのを横目に、いとしさんがりゅうま隊長に耳元まで近づき何かを耳打ちした。
「何? それは本当か!」
「はい、さきほど小暮博士に頼んで、調べてもらっているでござる」
いったいなんの話なのかは分からないが、デンデンちゃんに関わる話のようだ。
そのとき、デンデンちゃんのスマホの画面上部にメッセージアプリの通知と思われるものが届いてみえた。
「あれ……メッセージ届くの? だったら連絡取れるんじゃ」
私が尋ねると、するとデンデンちゃんは、咄嗟に胸にスマホを押し付けて画面を隠す。
「あー、いや! 今のはメッセージじゃなくて、ゲームの通知だと思う。ゲームならインターネットに繋がらなくても、スマホの時計に合わせて通知来るから」
「そっか?」
「ご、ごめん。ちょっと今日のログインボーナス受け取ってくるね!」
そういって、デンデンちゃんはメインルームを飛び出した。
(今の……やっぱりメッセージアプリに見えたけど……それにゲームなら、なんで隠す必要が……?)
私が不思議そうにしていると、見かねてめぐむがため息をついた。
「駄目だなぁ、全然分かってないよ」
「分かってないって?」
「あれは多分、チャット式の恋愛ゲームだよ。こっちの世界にだってあるんだ。イケメンや美女からメッセージが届いて、リアルなやり取りを楽しむやつ。そんなの見られたら、誰だって恥ずかしいよ」
流石めぐむ、ゲームのことには詳しい。でも本当にそうなのだろうか。なんとなくの偏見でしかないが、あの子がそんなゲームをやりそうには見えない。
それにそういうゲームは年齢制限があるものが多いのではないか。
「めぐむ兄ちゃんって、普段そういうのやってるの?」
すあまちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「えっ、いや、やってないよ! ぼくは……全然!」
あからさまにたじろいだ。この反応は、多分、やってる。
「あっごめんなさい! 今戻りました!」
さっき部屋から出たデンデンちゃんが、元気よく戻ってきた。
「そうか、今博士に頼んで帰る方法を模索している。もう少しここで休んでいてくれ。俺は博士の手伝いに行ってくる。何かあれば研究室に……」
「あの! それより……」
りゅうま隊長の話を遮って、デンデンちゃんが声をあげた。
「もしよければ、ロボットを見せてもらえませんか? 私、ロボットのことが大好きなので、キンピカオーもアンコクオーも、間近で見たいなー……なんて……」
りゅうまさんが険しい表情で考え込む。
「それは……悪いが、格納庫は一般人立ち入り禁止なんだ」
りゅうま隊長が断りそうになったのを見て、私はすかさずそれを止めた。
「良いじゃないですか! 見せてあげましょうよ!」
りゅうま隊長が驚いて目を丸くする。
「珍しいな……君がそんなことを……だが、やはり駄目だ」
私はりゅうま隊長のすぐ横まできて、耳元で囁く。
「お願いします。少し確かめたいことがあるんです」
「確かめたいこと……?」
りゅうま隊長が小声で聞き返す。私はそれにさらに続けた。
「――実は、ロボットを壊した犯人は、怪人じゃないかもしれません」
〈つづく〉




