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戦隊捜査官の事件簿 〜戦隊さん、その事件の犯人、怪人じゃないかもしれません!〜  作者: サイトーアツシ
事件2「夢は頂点のその先にあるのかもしれません」

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7/15

事件2-3『獅子、投げる!!』

〈前回までのあらすじ〉


ゴールドファイブの活躍によって、強敵・エスパーヒドーダを倒すことができた。

しかし、このお話にはまだ続きがあって……?

 ここはゴールドベースのメインルーム。

 ここでは今日も戦隊さんたちが思い思いのときを過ごしている。


 すあまちゃんはお絵かきをし、いとしさんは大画面で野球観戦し、いつきはまたデートの誘いを断られたのか、部屋の隅で落ち込んでいる。


 ちなみにめぐむは今日は推しの配信を観るため宿舎に戻っている。

 りゅうま隊長はトレーニング中だ。


 私は暇だったので、お菓子を食べながらいとしさんと一緒に野球の試合を観ていた。


 まだルールはあまり分からないが、取り敢えずボールを打ったら走ると良いっぽいことは分かってきたところだ。


 すあまちゃんがふと顔を上げ、いとしさんの方を見る。


「今日はやけに静かだね。いとし兄ちゃん」


 そういえばたしかにそうだ。

 いつもならあんなにやかましいのに、今日は驚くほど静かに観ている。


 もしかして負けているのだろうか。ルールが分からないので、私にはどっちが勝っているのかも分からない。


「ねぇ、もしかして今日本のチーム負けてる?」


「これはメジャーリーグだから、日本のチームとか無いでござるよ」


 そうだったのか。やはり私はまだまだ野球を理解できていない。


「それに……そういう話ではない。拙者が応援しているチームは、いや五十夢(いそむ)殿は今日も素晴らしい成績を残している。素晴らしすぎるほどに……」


「だったらなんで落ち込んでるんですか……?」


 応援しているところが勝っているなら、普通は嬉しいはずではないのだろうか?


「ちょっと、これを見るでござる」


 そういっていとしさんは、またタブレットを見せてきた。


「これは三カ月前の試合の五十夢(いそむ)殿のプレーの映像だ」


 映像の中で、五十夢(いそむ)は相手の投げたボールを打ち、ボールは綺麗な弧を描いて飛んでいった。観客が騒いでいるから多分ホームランだ。


「そしてこれが、ついこの間の試合で見せたプレー」


 やはり映像の中で、五十夢(いそむ)の打ったボールは綺麗な弧を描いて飛んでいく。


 しかし、この日はいつもより飛距離が足りないように見える。

 下にいる、敵なのか味方なのか分からない選手が、落ちてくるボールを取ろうと、グローブを空に構えて待機する。


「問題はここからだ」


 いとしさんがそう呟くと、映像の中でおかしなことが起きた。


 ボールがグローブに入ろうというそのとき、突然そのボールが空中でピョンと跳ねたのだ。

 

 ボールはそのまま空中をハエのように飛び回り、遠くへ飛んでいく。


 明らかに物理法則を無視した動きだ。不正とかそういう次元の話ではない。


「どう見てもおかしいだろう。しかし、ほとんどの盲目な野球ファンは『五十夢(いそむ)、神の子、不思議な子』と囃し立て、疑いもしていない」


 にしたって盲目が過ぎる。野球ファンの目は軒並み節穴なんだろうか。


「プロの野球解説者すら、これはきっとボールの回転によるものだと言っていた。そんなわけがない」


 うん、そんなわけがない。ボールの回転であんな上下左右に飛び回ることが無いのは私でもわかる。


「拙者はこれをヒドーダ怪人の陰謀ではないかと考えている。だが、拙者一人では捜査の許可が降りない。あずき殿、再び拙者とアメリカに来て欲しいでござる」


 たしかにボールの動きは不自然だったが、それはどうなのだろう。


 たしかに、こんな芸当ができるのは怪人以外ありえない。


 しかし、怪人が一人の野球選手の不正を助けて何かメリットがあるとも思えない。侵略との関連性がなさ過ぎる。動機として不十分だ。


 私はこのあからさまな不正事件に、無性に興味が湧いた。


「分かりました。私もこの件には何か裏がありそうに思います。協力させてください」


 こうして私といとし、ついでに部屋の隅で落ち込んでいたいつきも連れて、再びアメリカへと飛んだ。


   ◇   ◆   ◇

 

 私たちは五十夢(いそむ)邸に到着した。


 前のときは集合場所が屋外の練習場だったが、この日は雨が降っていたため、五十夢(いそむ)さんの部屋で話を聞くこととなる。


 インターホンを押すと、五十夢(いそむ)さんがドアを開け、中から顔を出した。


「待ってたぜ。さぁ、風邪引くから早く上がれって」


 私たちは五十夢(いそむ)さんに案内されるがまま五十夢(いそむ)邸の中に入っていった。


   ◇   ◆   ◇


 それから三〇分ほど歩いて、ようやく五十夢(いそむ)さんの部屋にたどり着いた。

 五十夢(いそむ)邸は馬鹿みたいに広いので、部屋に着くまでだけで、ものすごく時間がかかる。


 なるほど、前回わざわざ練習場に集まったのは、廊下が長い上に道が多く迷ってしまうからか、と私は納得した。


 現に、途中でトイレに行ったいつきがまだ帰ってこない。


「素晴らしいお部屋でござるなぁ」


 いとしさんが恍惚の表情を浮かべる。


 壁際にはびっしり棚が並んでいて、その棚の中に数々のトロフィーや額に入った賞状が飾られている。


 部屋の真ん中には八人がけのソファ二つが向かい合うように置かれ、その間にある横長のテーブルは大理石でできている。


 テーブルの上に置かれた高級そうな金の皿にはスナック菓子らしきものが入っていて、とても美味しそうだ。


「ささっ、座って座って」


 私たちは促されるままに、ソファに腰掛ける。気持ちいい。尻がソファに吸い込まれていく。


 どうやら、この部屋のものは全てナンバーワンの一級品らしい。ソファはもちろん、テーブルも何もかも、全ての品質が違う気がする。なんとなく。


 きっとこのお菓子もさぞ美味しいのだろう。


 私は皿に置かれたスナック菓子に手を伸ばし、二、三粒ほど掴むと口のなかに放り込んだ。


「あっ、それは!」


 ……まずい、クソまずい。堪えきれず、顔が歪んでしまう。およそ人間の食べ物とは思えない。

 

 そんなとき、部屋の奥からデカルトが走ってきた。


 ――そして、ピョンと跳ねてテーブルの上に上がると、皿の上のお菓子を貪り食いはじめた。


「これ……、ドッグフードです」


 飲んじゃったよ。もう少し早く言って欲しかった。


 横に座っているいとしさんが、私の方をチラリ見て呆れた表情を浮かべる。


 五十夢(いそむ)さんはそんな私たちの座った席の向かいに座ると、テーブルの上のデカルトを撫で回しながら尋ねてきた。


「それで、今日はどういったご要件で? もう怪人は倒したんでしょう? もしかして、俺のサインが欲しい?」


「はい、それが……」


 私が説明する前に、いとしさんの方が口を開いた。


「単刀直入に言うでござる。五十夢(いそむ)殿、ここ最近のプレーが明らかにおかしい。何か怪人と共謀したり、不正なことをやってはござらぬか……」


 五十夢(いそむ)さんの顔が明らかに曇る。やはり、心当たりがあるのだろうか。


「すごいですね。ファンはみんな、俺の実力だと思ってるのに。あなたは本当によく見ている。流石です」


 やはり……、ということは彼が怪人と何かしているのだろうか。


「でも、俺も分からないんですよ。急に俺の打ったボールが、変な軌道を描いたり、突然消えたり、燃える魔球になったりするようになって……。原因が全く分からないんです」


「それはいつごろから起き始めましたか?」


「ちょうどあなた方が怪人を倒した、翌日の試合からです」


 そのとき、部屋のドアが突然開いた。

 そこにいたのは、トイレに行っていたはずのいつきだった。


「遅れてごめん……ちょっと……迷っちゃって……」


 かなり息切れしている。本当にだいぶ迷ったらしい。

 いつきの姿を見て、さっきまでドッグフードを貪っていたデカルトが駆け寄ってきた。


 いつきの前で尻尾を振るデカルトを、いつきは優しく抱きかかえる。

 すると、デカルトが急に、目の前のトロフィーの棚に向かって吠えだした。


「お、どうした〜デカルト? ん? このトロフィー、ちょっと傷ついてる? さては、お前、噛んだな〜この〜」


 そういっていつきがデカルトを可愛がる。犬と接するいつきは、まるで別人のようだ。


 私たちは立ち上がって、デカルトの吠えたトロフィーを見た。トロフィーにはたしかに、犬の噛み跡のような傷が付いている。


 しかし、それ以上にこのトロフィーには違和感があった。


「このトロフィー、前にいとしさんが画像で見せてくれたやつですよね?」


 そう、あのクリスタルでできた、ボールを掴む右手のデザインのトロフィーだ。


「あぁ……、だがこの水晶玉、何やら色が……」


「どうした? そのトロフィーがどうかしたか?」


 五十夢(いそむ)さんも気になって、私たちの後ろから覗き込む。


「あれ? このトロフィーの玉……こんなにピンク色だったか?」


 トロフィーの水晶玉が、妙にピンク色なのだ。そして、このピンクの水晶玉に、私たちは確かに見覚えがあった。


「……この事件の犯人、怪人じゃないかも知れません!」


 私が真実にたどり着いたそのとき、後ろから吠えるような声がした。


「見たな! その水晶玉を!」


 振り返ると、そこにいたのは、あのガオル監督だった。


「あれ? ガオルっち!? 今日は練習無しのはずじゃ?」


 五十夢(いそむ)さんが目を丸くする。


「お前から急に『また戦隊の方々がくる』と連絡受け、まさかとは思ったが……」


ガオル監督が、こちらをギッと睨みつける。


「ガオル監督、あなたですね。この水晶玉を使って、不正を働いていたのは」


「ああ、そうだ……、俺が全部やったんだ……!」


 ガオル監督はその場に立ったまま自供しはじめた。


「あの日、お前ら戦隊が最初にここに来た日のことだ。怪人が発生したとき、そこの青いのがボールを投げたろう?」


 そういってガオル監督がいつきを睨む。


 あの日、練習場で悲鳴を聞いた私たちは、怪人を倒すべく悲鳴のする方へ走った。


 その際、デカルトとじゃれ合っていたいつきは「デカルトが付いてきたらまずい」と、近くに落ちていたボールを遠くへ投げたのだ。


「その後、いつまで経っても戻ってこないデカルトをおかしいと思った俺は、探しに行ったんだ。そしたら……」


「デカルトがあのピンクの水晶玉を噛んでいたんですね?」


 ガオル監督はコクリと頷く。


 おそらく、イエローのふっ飛ばした水晶玉が、そこまで飛んできていたのだろう。


 それをデカルトが不思議がったのか、投げられたボールと勘違いしたのか、とにかく噛み付いたようだ。


「俺は不思議に思って、その水晶玉を拾ってみたんだ。そしたらどうだ、近くに落ちていたボールが魔法みたいに浮かび上がったじゃねえか」


「それで、水晶玉にエスパーがあると気づいたあなたは、それを試合での不正に利用した……と」


 ガオル監督が、ふたたびコクリと頷く。


「お前さんに渡したあの透明の水晶玉は、本当はこのトロフィーが掴んでた普通の水晶玉だ。トロフィーの一部。すり替えればバレないと思ったんだ」


 これが、今回の事件の全ての真相である。


「しかし、どうしてそんなことを! 俺様のナンバーワンの実力なら、そんな不正無くとも!」


 そう叫ぶ五十夢(いそむ)さんの声を遮って、ガオル監督が怒鳴った。


「うるさい!」


 監督は顔を真っ赤にして、赤いライオンのように吠え立てる。


「俺は不安だった。この快進撃がいつか止まってしまうのではないかと! お前は俺の夢そのもの。常にナンバーワンの先を追い求めなければならない! こんな地位で満足してはダメなんだ!」


 そういうと、監督は棚へ近づき、ピンクの水晶玉を掴んだ。


 いとしさんといつきは、咄嗟に監督を抑え込むが、すぐにそれを振り払って、水晶玉を持ったまま逃走した。


 あの怪力自慢のいとしさんを振り払うとは、とんでもないパワーの持ち主だ。


 それとも、あの水晶玉の影響を受けているのか。


「「ゴールドチェンジ!!」」


 いとしさんといつきは変身し、監督を追いかけていく。


 私と五十夢(いそむ)さんだけが、部屋に残された。


 五十夢(いそむ)さんは、大好きなコーチに裏切られたショックが大きいのか、俯いたまま拳を握りしめる。


「俺の……、俺のせいだ」


「え?」


 五十夢(いそむ)さんが、目に涙を浮かべる。


「たしかに、ここ最近の俺は、自分の強さに胡座(あぐら)をかいてた。今の俺はナンバーワンだって。そこで満足して……。それがガオルっちを不安にさせたんだ!」


「でも……今、勝ててるならそれで……」


 私がそう言いかけると、五十夢(いそむ)さんは優しい声で答えた。


「ダメなんだよ。スポーツの世界は。一番になれば終わりじゃない。常に誰よりも先へ、誰も追い越せないほどに自分が強くあろうとしなきゃダメなんだ。でなきゃ自分がどんどん落ちていく」


 それを聞いて、ガオル監督や五十夢(いそむ)さんの言う「ナンバーワンのその先」の意味が、少しだけ分かった気がした。


 そのとき、私のブレスに通信が入った。


「聞こえるかい? マイハニー! やつの水晶玉に込められたエスパーが暴走して大変なんだ! 至急、練習場に来てくれ!」


「分かりました! マイハニーじゃないけど……すぐに!」


 私が走ろうとすると、後ろから五十夢(いそむ)さんがその肩をポンと叩いた。


 見ると、その目は真っ直ぐと前を見据えている。


「行かなきゃ!」


 私は勢いよく部屋を飛び出した。


「俺も行く! コーチを、ガオルっちを止められるのは、俺しかいねぇ!」


 私の後ろから、そう叫んで走り出す五十夢(いそむ)さんの声が聞こえた。


   ◇   ◆   ◇


 練習場に着いてみると、ものすごい土砂降りのなかで、イエローとブルーが監督相手に苦戦を強いられていた。


 エスパーによって操られた大量の野球ボールが、次々と二人を襲う。


 野球場のあちこちに落ちていたボールというボールが次々に浮かび上がって、イエローとブルー目掛けて飛んで行くのだ。


 とてもゴールドハンマーやゴールドブラスターで対処できる量では無い。


「ハッキリ言って、エスパーヒドーダより……強い!」


「拙者が、こんなところで……」


 しかし、あまりに猛攻に耐えきれず、ついに二人は持っていた武器を取り落としてしまった。


 それを見て、監督は咆哮をあげる。

 咆哮とともに、持っていた水晶玉が眩い光を放ち、その光に監督自身が包まれていく。


「あれは何!?」


 光に包まれた監督の身体が、みるみるうちに野獣のような化け物へと変わっていく。


 全身は赤い毛に包まれ、手には大きな爪、結晶化したエネルギーがまるで(たてがみ)のように顔に纏わりつく。


(赤い……ライオン……?)


 私は思わず息を飲む。


「イエローサーチして分かったでござる! あの水晶玉の中のエスパーエネルギーが監督の身体に逆流し、獣の姿に変えたのでござる!」


「ということは、あの水晶玉を壊さない限り……元には戻らない!」


 しかし、監督は……いや異形の怪物は、再び大量の野球ボールをエスパーで操り、イエローとブルーにぶつける。

 ついに二人の変身は解除され、その場に突っ伏してしまう。


 もう勝ち目は無いのかと思ったそのときだった。


「待て!」


 勇ましい声が辺りに響いた。


 見ると、そこには野球のユニフォームを着て、監督にバットを向ける五十夢(いそむ)さんの姿があった。


「監督! 俺と勝負しろ! 監督の投げるボールを百回連続で打ち返せたら、そんな不正は必要ないって認めてくれ! 罪を償ってくれ!」


 異形の怪物が、喉をゴロゴロと鳴らす。


「馬鹿な! 俺のエスパーボールを、お前に打ち返せるはずが無い!」


 五十夢(いそむ)さんは黙ってバットを構える。


 強く握りしめたその手から大粒の汗が落ちる。


 怪物は大声で咆哮し、空に水晶玉を掲げた。


 水晶玉は妖しく輝き、周囲に落ちていた野球ボールが、一斉に五十夢(いそむ)さん目掛けて飛んでいく。


「危ない!」


 思わず叫んだ。


 しかし、集中した五十夢(いそむ)さんに、その声は届かない。


「今だ!」


 そして五十夢(いそむ)さんは、飛んできた野球ボールのうちの一つを、思いっ切り打ち返した。


 そして、それを皮切りに二個、三個と飛んでくるボールを次々に打ち返す。


(一、二、三、四……、すごい! 本当にどんどん打ち返してる!)


 分身する魔球、瞬間移動する魔球、燃える魔球、あっちこっち飛び回る魔球、歌を歌う魔球……。

 その全てを、正確に打ち返していった。


(九六、九七、九八、九九……)


「これで終わりだー!!!」


 最後に打ち返したボールは、怪物の持っていた水晶玉目掛けて飛んでいき、そのまま直撃した。


 その瞬間、水晶玉には大きなヒビが入る。


 それを見たブルーは、咄嗟に落ちていたゴールドブラスターを拾い上げると、そのトリガーを引いた。


「ゴールドブレイクショット!」


 放たれた光弾は水晶玉を正確に貫き、水晶玉は粉々に砕け散った。

 それとともに、怪物の姿が元の監督へと戻る。


「ゴールドワッパー!」


 ブルーの光の輪によって拘束された監督は、落ち込んだ様子でその場に座り込む。


 私はすぐさま、拘束された監督の元へ駆け寄った。


「怪人の使っていた武器や道具を用いて不正を働くことは、法律によって禁じられています。署までご同行願えますね」


 私の問いに、監督は黙って頷く。

 

 五十夢(いそむ)さんも駆け寄ってくると、その場で膝をついて、監督の肩をポンと叩いた。


「安心してくれ……ガオルっちが務所から出てくるまでに、俺はもっともっと強くなってるからよ。ナンバーワンを超えたスーパーナンバーワンになってやる!」


 監督の顔がほんの一瞬、ふふっと笑ったように見えた。


 ――こうして、ガオル監督が引き起こした不正事件は、静かに幕を下ろした。


   ◇   ◆   ◇

 

 ここはゴールドベースのメインルーム。


 大きなモニターにはメジャーリーグの中継が流れている。


 今日は五十夢(いそむ)さんが所属するチーム「リングファイターズ」の試合の日だ。


 いとしさんだけでなく、いつもは野球を見ない私といつきも、今日は一緒に応援することにした。


 勝てば今シーズンの優勝に大きく近づく大事な試合。


 応援用のメガホンを持った右手にも力が入る。


 いよいよ試合が始まった。最初のバッターが打席に立つ。


「いけー! 打てー! かっとばせー!! ホームランーー!!」


 ……おかしい。なぜか私からしか応援の声が聞こえない。


 いつきはまだしも、いとしが応援しないなんて。


 横を見ると、なぜか二人が頭を抱えている。


「ねぇ、なんで応援しないの?」


 まさか、また何かあったのだろうか?


 もしふたたび、怪人の力を使った不正事件が起きたのだとしたら大変だ。またアメリカへ捜査しに行かなければならない。


「あの……、あずき殿……?」


「?」


 私は首を傾げる。


「あのね、あずきちゃん……。今こっち、守備側」


 ――え?


〈つづく〉

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