事件2-2『ハンマーサムライ・ゴーアメリカ』
〈前回までのあらすじ〉
野球界ナンバーワンの頂五十夢選手から護衛任務の依頼が届いた。
戦隊捜査官とゴールドファイブの二人は、ともにアメリカへと飛ぶことになる。
私、いとし、いつきの三人は、メジャーリーガー・頂五十夢の護衛任務のため、アメリカの高級住宅街にある、五十夢さんの邸宅にやってきていた。
普段、いつきはこういう任務には付いてこないが、今日は珍しく一緒だ。
多分デートを全て断られて暇だったんだと、思う。
「すごい……庭にプールがある……」
サッカーコート二〇面分もの広さがある庭には二五メートルプールや植物園、さらには噴水まで設置されていてる。
奥に見える邸宅は、遠くからでも東京ドームが何個あっても足りないほどに大きく見え、デカ過ぎて、どこからどこまでが家なのか分からないほどだ。
「驚くのはまだ早いでござる! なんと言ってもすごいのはこの先でござるよ」
いとしさんに案内されるがままに私たちは広い庭を突っ切って奥に入っていく。
先ほど連絡を受け、五十夢さん本人から、庭の奥の待ち合わせ場所まで入ってきてくれと言われていた。
「さぁ、着きましたぞ! 待ち合わせ場所の、五十夢邸専用の練習場!」
これはすごい、都会のバッティングセンターよりもっと広い、専用の屋外練習場が邸宅の敷地内に存在している。
広さは甲子園球場一個分ほど。
地面は人工ではない天然芝、練習場というよりもはや実際の野球場、というか本当に甲子園球場となんら変わらない見た目だ。しっかり客席まである。
個人の練習場にいったいどれだけ観客を呼ぶつもりなんだろう。
「よく来てくれたな! どうだ、俺の練習場は」
奥の方から、昨日テレビに映っていた顔の男が歩いてきた。
「はじめまして、あなたが頂五十夢さんで……」
「は、じ、め、ま、し、て! 五十夢殿の活躍いつも拝見させていただいております! 拙者、ゴールドファイブのゴールドイエローこと琴平いとしというものでござる! あ、握手よろしいですかな!」
私の自己紹介を遮って、いとしさんが割って入ってきた。
すごい饒舌さで、流れるように手を握る。
「おう、応援ありがとな……痛っ、あの、もうちょい優しく」
いとしさんは怪力の持ち主なので、手を握られてちょっと痛そうだ。
「これは申し訳ない! 拙者、力が強いもので!」
いとしさんが手をすぐに離し、深く頭を下げる。
「改めまして、私、戦隊捜査官という仕事をしている綾川あずきです」
私はそう言って、名刺を手渡した。
五十夢はその名刺を見もせずにグシャッと服のポケットにしまい込むと、右手の人差し指を天に掲げて、空を指さした。
「こちらも名乗るぜ! 俺こそが、今をときめくナンバーワンベースボールプレーヤーにして、いつかナンバーワンを超える真のナンバーワンベースボールプレーヤーになる男! 頂五十夢様だ!」
長い割に中身の薄い自己紹介だ。
大体、ナンバーワンを超える真のナンバーワンってなんだ。何が違うのかさっぱり分からない。
なぜか、横にいるいとしさんは目を輝かせて拍手をしているが。
「……あれ? いつきは?」
そういえばさっきまで横に居たはずのいつきの姿がなくなっている。
「いつきって……アイツのことか?」
五十夢選手が先ほどまで天を指さしていた指で、少し離れた場所を指した。
その方を見ると、奥でいつきがうずくまっているのが見える。
「お〜よしよし、かわいい子でちゅね〜! どこから迷い込んできたのかな〜」
「いつき?」
よく見ると、いつきが一匹の子犬を抱えていた。犬種はシェパードだろうか。
いつきがこちらに気づいて、少し顔を赤らめる。
「な、なんだ? 見るなよ、ボクのことを」
いつきは無類の犬好きだ。ことあるごとにリーダーのりゅうま隊長に「犬を飼わせてくれ」と懇願している。
もちろん、ゴールドベース内でのペット飼育は全面的に禁止である。
「なんだデカルト、遊んでもらってたのか?」
五十夢さんが優しい声で話しかける。
テレビでみる試合のときの真剣な表情とは似ても似つかないほど、柔らかな笑顔をしている。
「この犬、五十夢さんの犬なんですか?」
「ああ、俺の愛犬、名はデカルト。かわいい見た目だが、こう見えて中々パワフルなんだぜ」
たしかに、いつきに元気いっぱいに尻尾を振っている。
「なんだ……もう来ていたのか! 噂の戦隊さん!」
奥の方からもう一人、年老いた男性が歩いてきた。
年老いたといっても、よぼよぼなお爺さんという感じではない。
がっしりとした体格と、服の上からでも分かるたくましい筋肉は、ただものではないオーラを放っている。
「こちらの方は……?」
「おお! ガオル監督!」
いとしさんが嬉しそうに叫ぶ。
「えっと……有名な人?」
失礼ながら、全く見たことがない。
「あずき殿! この方こそ一昨年まで日本のプロ野球チーム・空岩アニマルズで監督をしていた百瀬薫殿でござる! 聞いたことくらいはあるでござろう?」
ごめんなさい。本当に知らない。
「なんで引退した人がここにいるんですか?」
「ガオル監督は引退されて以降、アメリカで暮らしながら、暇なときには五十夢殿の練習を見ているのでござるよ」
私は野球を知らないので分からないが、そういうことはよくあるのだろうか。
「よく知ってるな。ガオルっちは日本にいたときからよくお世話になってる恩師なんだ。今はほとんど俺の専属コーチみたいになってるけどな」
五十夢がそういって笑う。
「月刊ファイヤーボールの2025年6月号のインタビュー記事にも書いてあるでござる」
どこから取り出したのかは知らないが、いとしさんが雑誌の記事を開いて見せる。
「おっ、俺のインタビューまで読み込んでるのかい! 照れるねぇ」
薫監督が嬉しそうに頭を掻く。
「そのインタビューでも話したがよ、五十夢のポテンシャルはこんなもんじゃない。五十夢ならもっと上、ナンバーワンの先に行けると信じてる。五十夢をコーチすることは、俺にとっての夢でもあるんだよ」
ナンバーワンの先。やはり私にはよく分からないが、キラキラした監督の目を見ていると、その本気さが伝わってくる。
「ガオルっちはこう言ってるけど、俺は正直、もうコーチなんて必要無いくらいだと思うけどな」
五十夢さんが得意げに鼻をこすってみせる。
「さっきからガオル監督とかガオルっちって言ってるけど、それはなんだい?」
いつきがデカルトを抱っこしながら会話に入ってきた。この短時間でもう犬と仲良くなっている。もう犬を恋人にしたほうが良いんじゃないだろうか。
「あー、監督の愛称だよ。コイツ、怒るとガオーって吠えて、ライオンみたいに怖ぇんだ。だからファンの間でそう言われるようになった」
「ほぅ、恩師に向かって、コイツ呼ばわりとはいい度胸だな、五十夢。この!」
そういって、ガオル監督が五十夢さんの頭をグリグリする。
「痛い痛い! ごめんなさい! ごめんなさい!」
このやり取りを見る限り、二人は相当に仲が良いのだろう。
「それで、どうして護衛の依頼を……?」
五十夢がグリグリされたまま答える。
「近ごろここいらで怪人の目撃情報があってな。最近は日本だけじゃなく、海外も危ないとか。野球界ナンバーワンのこの俺様がケガでもしたら大変だろ?」
そう、これまで超頭脳集団・バカバッカは日本を中心に侵略活動を行っていたが、最近になってついに海外にまで魔の手を伸ばすようになってきた。
おそらくゴールドファイブがいない国の方が狙い目だと考えたのだろう。
「そういうわけだから、何かあったら……」
「――キャァァァァァ!」
そのとき、突然誰かの悲鳴が響き渡った。
近い、ここのすぐ近くだ。
「すみません! ちょっと行ってきます!」
「いざ、出陣でござる!」
「デカルト、ごめんね、ちょっと行ってくるよ」
いつきがデカルトを地面に優しく降ろす。
しかし、デカルトはよほど懐いたのか、いつきから離れようとしない。
「しょうがないな……」
いつきはそういうと、近くに転がっていた野球ボールをひょいと拾い上げ、遠くへ投げ飛ばした。
デカルトは一目散にボールの飛んだ方へ走っていく。
デカルトが遠くへ走っていったのを確認すると、私たちは悲鳴の聞こえた方へ急いだ。
◇ ◆ ◇
現場へ駆け付けると、左手にピンク色の水晶玉を持った怪人が、高級住宅街の真ん中で暴れていた。
怪人はツタンカーメンの棺をそのまま人型にしたような姿で、ゴールドファイブに負けず劣らずの金ピカ具合だ。
周囲には瓦礫が散乱し、人々がパニックになって逃げ惑う。
「現れたでござるな!」
「あらいやだ! アメリカまで来ればゴールドファイブに合わなくていいと思ったのに!」
やはり、日本ではなく海外をターゲットにしたのはそういうことらしい。
「残念ながら、そういう訳にもいかないんだよね」
いつきが小さくため息をつく。
「戦隊さん、ここはお願いします!」
そういって私は、近くにあった巨大な瓦礫の陰に隠れた。
二人の戦士は顔を見合わせると、すぐ怪人の方を睨んで右腕のブレスを振りかざしてみせる。
「「ゴールドチェンジ!」」
その叫びと共に、二人の姿が一瞬にして変わった。
「まぁいいわ! このエスパーヒドーダがあなたたちを始末してごらんにいれましょう!」
そういうと、怪人の持っていた水晶玉が妖しい光を放ち始めた。
すると周囲に散らばってた瓦礫たちが、ふわふわと浮かび上がる。
「これは……」
「なるほど、エスパーヒドーダという名前は伊達じゃないみたいだね」
イエローとブルーは背中をピッタリと合わせ、それぞれの武器を構える。
イエローはゴールドハンマー、ブルーはゴールドブラスターを。
「今よ!」
次の瞬間、浮かんでいた瓦礫が一斉にイエローとブルー目掛けて飛んできた。
しかし、そんな攻撃は彼らにとって恐るるに足らない。
飛んできた瓦礫たちを、イエローは次々にハンマーで叩き壊し、ブルーは全てブラスターで撃ち砕いた。
「うそよ! わたくしの攻撃がいとも簡単に!」
エスパーヒドーダが明らかにたじろいで後退りする。
「この程度でボクたちを倒せると思わないでほしいかな」
「次はこちらから参るぞ。ハンマーサムライの実力を見よ!」
ハンマーサムライというのは、ゴールドイエローが勝手に名乗っている肩書きだ。
彼は元々サムライの修行をしていたが、あまりにも剣の扱いが下手で破門された。
それ以来、彼は剣ではなくハンマーを使いながら、武士道の精神で戦っているのである。
イエローはゴールドハンマーの長い柄を両手で持ち、ブンブンと振り回しながら敵のエスパーヒドーダに近づいていく。
振り回されたゴールドハンマーのヘッド部分はエスパーヒドーダの急所を的確に捉え、着実にダメージを与えていく。
エスパーヒドーダはなんとかそれを躱そうとするが、攻撃のスピードが早く中々かわしきれない。
「やめなさいよ! わたくし、物理攻撃は苦手ですわよ!」
なぜ敵は苦手な攻撃を自分からバラしてしまうんだろう。
それを聞いたイエローの更に攻撃は激しくなる。
「待つんだ! 敵のエスパーはおそらくあの水晶玉を使って発動している。先にそれをどうにかした方がいい!」
ブルーの冷静な指示を受け、イエローがコクリと頷く。
「承知した!」
そういうと、ハンマーを思いっ切り振りかぶって水晶玉にぶち当てた。
「必殺! ハンマーホームラン!」
水晶玉は思いっ切りふっ飛ばされ、空の彼方へ消えていく。
私としては、正直これはやめてほしかった。
敵の怪人の使っていた道具は戦闘後の調査で回収しなければならない。
あんなにふっ飛ばされたら探すのにどれだけかかることか。
「しまった! これではエスパーが使えないわ!」
それはともかくチャンスだ。倒すなら今しかない。
「あとはボクに任せなよ! ゴールドワッパー!」
ブルーだけが使える能力、ゴールドワッパー。
巨大な光の輪っかを作って飛ばし、相手の体を締め付け拘束することができる。
ゴールドワッパーを喰らったエスパーヒドーダはもう動けない。
「とどめだ! ゴールドブレイクショット!」
ブルーのゴールドブラスターから金色の光弾が放たれ、エスパーヒドーダの胸を貫いた。
「いやぁ〜! 全米を、泣かせたかった〜!」
よくわからない断末魔と共に、ヒドーダは爆散した。
◇ ◆ ◇
いとしといつきが現場で爆散した怪人の破片を回収している頃、私は一人、五十夢邸の練習場で水晶玉を探していた。
かれこれ三〇分も探しているが、見つかる気配すらない。
「見つからない……たしかにこっちに飛んできたはずだけど……」
私が探していると、後ろから声が聞こえた。
「探しものはこれか?」
声のする方を見ると、ガオル監督が水晶玉を手に持っている。
「はい! それで……あれ? 色が……」
不思議なことに先ほどまであんなに綺麗なピンク色をしていた水晶玉が、なぜか透明になっている。
「あぁ~、なんか拾ったときはピンク色だったんだがなぁ、みるみるうちに色が抜けていっちまったんだ」
なるほど、おそらく怪人が倒されたことで、水晶玉に込められていたエスパーの力が抜けて、透明になったのだろう。
怪人と怪人の使うアイテムの力が相互作用しているのはよくある話だ。
私はひと安心して、水晶玉を受け取った。
「ご協力ありがとうございます! これでもう怪人も現れないと思いますよ!」
そうして、私たちはアメリカを後にした。
――このときの私たちは知らなかった。
新たな事件は、このとき既に始まっていたということを……。
〈つづく〉




