↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦隊捜査官の事件簿 〜戦隊さん、その事件の犯人、怪人じゃないかもしれません!〜  作者: サイトーアツシ
超金星ゴールドファイブ外伝「白銀の残響」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

外伝-1『キラー・ビギニング〈前編〉』

「暴人(ばくと)、あなたはお兄さんなのよ。お兄さんは、弟にとって誇れる存在でなければならないの」


「暴人(ばくと)、これからお前は俺たちの息子じゃない。弟の教科書だ。決して弟に負けるな、勉強も、スポーツも、何もかも。それが悪魔が宿ったお前に出来る唯一の善行だ」


「暴人(ばくと)!」


「暴人(ばくと)!」


「暴人(ばくと)……」


 また、あの声が聞こえる。


   ◇   ◆   ◇


 俺に弟ができたのは、小学三年生の時だった。それはもう可愛い弟だった。目に入れるのも痛くない、食べてしまいたいほどに。


 名前は太郎(たろう)。普通の家庭では、太郎(たろう)という名前は大抵、一人目の子どもに付けるものだ。

 んで、二人目が次郎(じろう)、三人目が三郎(さぶろう)。そう相場が決まっている。


 だが、我が家は違った。


 我が家では、太郎(たろう)は弟、二人目の名前……、いや両(・)親(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)は(・)、こっちが一人目だったのだろう。


 というのも、我が家、阿波連(あばれん)家には代々伝わる言い伝えがあった。


「白い眉の子どもには、悪魔が宿っている」


 もちろんただの迷信だ。医学を勉強した今の俺には、それがどんなにくだらない伝承なのかがはっきり分かる。


 だいたい、俺が白眉だったのは生まれてすぐのときだけで、今はもうすっかり普通の眉になっている。


 だが、両親はその言い伝えを完全に信じ切っていた。ずっとそう言われて育てられていたせいで、当の俺自身もそのことになんの疑問も感じてはいなかった。


 両親はそんな忌み子の俺をいつもこういって育てた。


「お前が忌み子だとしても、俺たちはお前を育てないわけにはいかない。頼むから迷惑だけはかけるなよ」


「暴人(ばくと)、いい? 外では私のことをお母さんと呼ばないでちょうだいね。恥ずかしくてたまらないから」


 両親は何度も、冷たい目をしてそういった。俺に言い聞かせるように。俺をわざと傷つけるように……。


 俺は悔しかった。悔しかったから、目いっぱい努力した。

 少しでも認められるように、学校では勉強もスポーツもナンバーワンを目指した。


 そして、実際ナンバーワンを取ることが出来た。全てにおいて、俺は常に良い成績を残し続けた。


 しかし、それでも両親からの扱いは変わらなかった。


「暴人(ばくと)、お願いだから学校で目立つようなことは止めて。気持ち悪いったらありゃしないわ」


「暴人(ばくと)、やはりお前は悪魔だな。お前のせいで親戚や近所からの目は悪くなる一方だ。なんでお前みたいなやつが生まれてきたんだろうな」


 俺は言われ続けた。


 しかし、そんな風な生活は、弟が生まれたことをきっかけに一変することとなる。


 悪魔の宿っていない、両親にとって心から愛せる、本当の子どもが生まれたのだ。


 両親は太郎(たろう)を溺愛した。最初は、それが気に食わなくて仕方なかった。


 だが、そんな憎しみもすぐに消えてしまった。


 それは弟が、太郎(たろう)が、どうしようもなく可愛かったからだ。


 俺が何かをするたびに、太郎(たろう)は「スゲー!」と、目をキラキラさせて褒めくれた。


「兄ちゃんスゲー! またテストで百点取ったの!」


「マラソン大会で一位! マジで!?」


「一秒間に十九連射(じゅうきゅうれんしゃ)!? どうやんの!?」


 ずっと忌み子として扱われてきた俺にとって、初めて本当に認めてくれる存在が現れたような気がした。


 心地よかった。それを聞くたびに、俺はどんな辛いことでも頑張れた。


 そしてそれがきっかけで、両親の俺に対する目も変わりだした。

 忌み子の俺を、太郎(たろう)の教育係、教科書代わりとして利用しようと考えたのだ。


 立ち振る舞い、行動、学業、スポーツ、ありとあらゆることで弟の手本を求められた。

 同時に両親が仕事で忙しい日には、弟の世話も任せられた。


「悪魔の宿った俺に、大事な息子を任せて良いのか」


 前に聞いたことがある。


 母さんはこう返した。


「本来なら生きる価値の無いあなたに、少しでも価値を与えてあげているのよ」


 父さんはこういった。


「お前は悪魔だが、いや悪魔だからなのか、頭の出来が良いらしい。ならば少しでも利用してやったほうが良い」


 都合がいい。都合がよすぎる。散々俺をよく分からない迷信で傷つけておいて、今更利用しようだなんて。


 だが、それでも俺は、歯向かいもせず、言われるがまま、素直に親の言うことに従った。


 いや、親に従ったというより、ただ純粋に、弟にカッコいい姿を見せつけたいだけだった。


「お兄ちゃんスゴい!」


「お兄ちゃん天才!」


 弟はいつも俺を褒めてくれて、俺を憧れにしてくれた。キラキラした目で、いつも俺を見つめてくれた。

 俺は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。


 ……それと同時に、俺はどんどん、自分が追い詰められるのも感じていた。


(弟に、負けちゃいけない)


 俺が言うのもなんだが、弟は俺に似て天才だった。頭が良いし、スポーツもできる。俺ほどでは無いが、十分過ぎるほどに。


 弟が俺の背中に迫ってくるたびに、俺の頭のなかに、両親の声が響いた。


「暴人(ばくと)、あなたはお兄さんなのよ。お兄さんは、弟にとって誇れる存在でなければならないの」


「暴人(ばくと)、これからお前は俺たちの息子じゃない。弟の教科書だ。決して弟に負けるな、勉強も、スポーツも、何もかも。それが悪魔が宿ったお前に出来る唯一の善行だ」


 俺は頑張った。勉強も。スポーツも。何もかも。絶対に追い越されないために、絶対に憧れであれるように。


 憧れで在り続けることができれば、両親も太郎(たろう)も、俺を認めてくれるから。


 しかし、高校三年生のころ。俺にライバルが出来た。


 名前は初代(はつだい)しろみ。俺と同じ学年で、夏から入ってきた特別編入生である。


 スラっとした細い身体に整った顔立ち、成績優秀、頭脳明晰。まさに才色兼備と呼ぶに相応しい、ナンバーワン美少女。

 クラスでも常にみんなからの人気者だった。


 俺はその女にすぐに追い越された。いつもはテストでもスポーツでも、常に学年ナンバーワンだったのに、テストでナンバーツーを取ってしまったのだ。


 俺が人生でナンバーワンを取れなかったのは、生まれてこの方これが初めてのことであった。


 その日の晩、太郎(たろう)が眠ったあと、俺は両親に和室へ呼び出された。


 和室では母さんと父さんが、険しい表情で座っている。俺はその前に正座し、尋ねた。


「こんな夜中に、何のようですか」


「聞いたぞ。お前、今回のテストで学年二位だったそうだな」


「……」


 やはり、その話だった。


「どういうつもりだ」


 父さんが俺に厳しく冷たい目を向ける。


「申し訳ありません」


「自覚が足りないんじゃないのか。お前の命に価値はない。弟のための教科書でしかないんだ、だいたいお前は……」


 父さんはクドクド続ける。これだけ酷いことを言われても、今の俺はもうすっかり慣れてしまっていた。


「もうやめましょうよ」


 珍しい。見かねた母さんが割って入った。いつもなら俺を庇ったりなんかしないのに。


「無茶だったんですよ。暴人(ばくと)が生まれた時点で分かっていたことじゃないですか。この子自身がどんなに頑張ったって、宿った悪魔が必ず悪さをするんです。だから私たちのように完璧に出来ない」


(悪魔……)


 それは庇っているわけではなかった。失望だったのだ。


 母さんはこう続けた。


「現実はおとぎ話とは違う。どんなことをしたって、醜いアヒルはハクチョウにはなれないんですよ」


 その言葉が深く刺さった。どれだけ俺が頑張ったところで、両親にとって俺は醜いアヒルでしかない。


 ……認められたと、思っていたのに。


 俺が俯いていると、父さんは俺に更に語気を強めてこう言い放った。


「暴人(ばくと)、次のテストでは全教科で学年一位となれ。失敗は許されない。取るのはナンバーワンただ一つだ。それがお前に与えられた責務のはずだ」


 俺は静かに頷いて答えた。


「分かっています。必ずや……、必ずやナンバーワンを取ってみせます」


〈後編へつづく〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。