事件8-4『未来と悪に賭ける想い!』
〈前回までのあらすじ〉
冷蔵庫ヒドーダとの戦闘中、ペストマスクヒドーダを名乗る人物が現れ、冷蔵庫ヒドーダとともに二人で姿を消してしまう。
そして、りゅうま隊長が病室から消えた。
果たして何が起きようとしているのだろうか……?
私は病室を見つめながら居なくなったりゅうま隊長の居場所とペストマスクヒドーダの正体を考えていた。
病室のカーテンとペストマスクヒドーダが身に纏っていた布はほとんど一致していたように思う。すると、成りすました人物は病室のカーテンを利用したことになる。
(だとしたら、犯人は元々病室に居て今は居ない人物。まさか、りゅうま隊長……?)
「どうかしました?」
ナダ先生が私に問いかける。私は事情聴取も兼ねて、先生から事件についての話を聞くことにした。
本来外部の人間に事件のことを話すのには、りゅうま隊長の許可が必要になるが、今回はその当人が行方不明。
緊急性が高いため現場判断が許される。
「実はさっき、ヒドーダ怪人に変装した何者かが現れて、怪人とともに姿を消したんです。そして、その変装にこの病院のカーテンとよく似た布が使われていて……」
「それはつまり……、行方不明になったりゅうまさんが……?」
ナダ先生が私に問いかける。たしかに今の話の流れではたしかにそう言っているようにしか聞こえない。
だが、何かが引っ掛かる。どこか確信を持てないのだ。
するとナダさんが不思議そうに口を挟んだ。
「それって……、おかしく無いですか?」
「え?」
「だってりゅうまさんがカーテンを使ったなら、この病室のカーテンは消えているはずじゃないですか。でもカーテンはそのままついている」
言われてみればそうだ。この病室にカーテンが残っている時点で、りゅうま隊長は容疑者から外れる。わざわざ他の病室のカーテンを使う理由が無いからだ。
「それに、仮に犯人の使った布がこの病院のカーテンだったとして、どうして外しづらいカーテンを使ったんでしょう。病室にはシーツも布団もあるのに……」
どうしよう。この先生私よりずっと鋭い。なんか私の面目丸潰れって感じがする。
ここで私も、なんか鋭い推理を見せなければ。
(えーと……、シーツや布団を使わなかった理由……、先に気づけ……、この人より先に……)
「あっ、そうだ!」
私は思わず声を上げた。
「何か気づいたんですか?」
ナダ先生が尋ねる。私は自分の推理を確かめるべく、逆にナダ先生に問い返した。
「あの、一つ尋ねても良いですか?」
私は横に居たナダ先生に話しかけた。
「え? なんですか?」
「この病院で今病床が埋まっている病室はいくつあります?」
ベッドのシーツでは無く窓のカーテンを身に纏う必要があったということは、すなわちその病室のシーツが全て他の誰かに使われていたことになる。
となれば、その病室さえ分かればペストマスクヒドーダの正体に一歩近づくはずだ。
「いえ……、今はどこの病床も空きがあったと思いますけど……」
「え?」
おかしい。じゃあなんでカーテンを使ったんだ。あの偽物ヒドーダの纏っていた布と、この病院のカーテンの素材や色は明らかに同じだったように思う。
「あっ! でも……一つだけ!」
ナダ先生がハッとして声を上げた。
「一室だけ昏睡状態の人間を寝かせるための特殊な病室があるんです。そこはベッドが一つしか無くて……」
「……それだ! すぐに案内してください!」
◇ ◆ ◇
そうして私たちがやってきたのは、あの美依さんが眠る病室だった。
やはり、あったはずの緑のカーテンが無くなっている。
「これでようやく分かりました」
「りゅうまさんの居場所がですか?」
「え?」
ナダ先生に言われて思い出した。そういえばりゅうま隊長が居なくなってたんだ。でも一旦それは置いておくことにする。
「いえ……、ペストマスクヒドーダの正体が分かったんです」
「あっ、やっぱりそっちなんですね? 私としては患者の方が心配なんですけど」
……まぁ、りゅうま隊長は多分大丈夫だろう。りゅうま隊長だし。
「あの、ともよさんってここによく通ってますよね? ちょっとともよさんについての話を聞いても良いですか?」
私は明確に話を逸らした。
おそらくペストマスクヒドーダの正体はともよさんだ。
何らかの理由で冷蔵庫ヒドーダを利用しようとしたは良いものの、人間とバレては襲われてしまう。だからカーテンを纏ってマスクを着け、誰だかバレないように変装したのだ。
ベッドのシーツではなくカーテンを使ったのは、シーツや布団を美依さんが使っていたからである。
しかし、まだともよさんの動機が分からない。冷蔵庫ヒドーダを助けて何のメリットがあるのか。
そこで加岳井ナダ先生から話を聞こうと考えたのだ。
「たしかに私は美依さんの担当医で、ともよさんともよく話していますが……こういうことをおいそれと話すのは……」
「そこをなんとか……!」
すると、ナダ先生はしばらく思案したのち、口を開いた。
「分かりました。本来患者や関係者の話をほかの人にはしないことになっていますが、今回は特別です。ここは人目につきますから、場所を変えましょう」
◇ ◆ ◇
私たちは病院の建物を出てすぐの道を歩いていた。今ここはヒドーダ怪人の発生の影響で入り口が封鎖されたため、誰も入ってこない。
病院で入院している患者も、働いている医者も、この時間なら来ないのだという。
「教えてください。手掛かりになりそうなこと全部」
私は歩きながら尋ねる。
ナダ先生も歩きながらコクリと頷く。
それから、ナダ先生は話してくれた。美依さんの現在の状態、目を覚ます見込みが無さそうなこと、それでもともよさんは毎日のように病院に通っていること……。
「ともよさんは本当に健気な人です。美依さんの今の状態を知りながら、それでも毎日通っているんですから」
「はぁ……」
しかし、どうしてもペストマスクヒドーダに成りすます動機に繋がらない。
「きっと未来を信じているんでしょうね」
「未来って……?」
ナダ先生の言葉が引っかかった。そういえば、さっきともよさん本人に「未来を信じますか?」と聞かれたのを思い出したのだ。
「私、少し前に言ったんですよ。ともよさんを少しでも励ましたくて。『未来の医療や科学の発達によっては、もしかしたら目を覚ますかもしれない』って」
「それって、本当にそうなんですか?」
私はなおも尋ねる。医者が患者や関係者にそんな不用意なことを言っていいものなのだろうか。
「別に嘘や荒唐無稽なことを言った気はありません。私は決して夢物語では無いと思っています。覚えてませんか、前に阿波連暴人という人がノーベル賞を授賞したのを」
世間的にはシルバーキラーの正体が阿波連暴人であることは知られていない。
彼は癌を完璧に治療する技術を開発したことで世間的には世界を変えた英雄ということになっているのだ。
「かつて完璧に治療することは不可能とされてきた癌すら、ナノマシンによって完璧に治療する技術が開発された。いつか全てのケガや病気が治療できるようになる日……、いや、あるいは人間が死の恐怖で怯える必要が無くなる日もきっと来る。それが何年先かは分かりませんが」
たしかに、今の医療技術の進歩は目覚ましい。もしかしたらそう遠くない未来。不老不死が実現することだって決して夢では無いのだ。
「未来の医療……、未来……、そうか!」
ようやく繋がった。ともよさんの目的、犯行の動機がなんなのか。
「だとしたら……、まずい! さっきの病室に戻らないと!」
私は困惑するナダさんを置き去りにして、一人美依さんの眠る病室へと走った。
◇ ◆ ◇
私が病室に戻ってみると、先ほどのペストマスクヒドーダと、明らかに四角い姿の白いシーツを被った怪人が並び立っていた。
おそらく病院内を怪人の姿のままではうろつけないので、どこか別な病室からシーツを拝借し、それを冷蔵庫ヒドーダに被せて侵入したのだろう。
「ともよさん、悪魔に魂を売っちゃ駄目!」
ペストマスクヒドーダと冷蔵庫ヒドーダが振り返ってこちらを見る。
「ともよ……? なんの話だ? 私はペストマスクヒドーダ」
「違う、あなたの目的は自分と美依さんを、冷蔵庫ヒドーダの力でコールドスリープすること!」
ともよさんは一番最初にブルーが氷漬けになる瞬間と、イエローの分析でブルーの命に別状が無いと判明するところを目撃していた。
そのときともよさんは、ヤツの氷漬けにする力があれば、人間をコールドスリープできると考えたのだ。
「だからあなたはヒドーダ怪人のフリをして、冷蔵庫ヒドーダに近づいた! 未来の医療技術なら美依さんを救えるかもしれないって信じたから! その未来に届くまで、眠っていようと思って!」
すると、ペストマスクヒドーダはゆっくりとそのマスクを外して投げ捨てた。
仮面の下の、涙目になったともよさんの顔が露わになる。
「そうよ……、それの……、それの何が悪いの!? 別に怪人を利用して人を殺したりなんかしてない! ただ、未来を信じただけじゃない!」
「ヒドーダ怪人は約束を守るようなヤツじゃない! 早く逃げて! 早く!」
ヒドーダ怪人の目的は人間の苦しみから生み出されるクルシミウムを集めること。
だとしたら、ともよさんはヒドーダ怪人にとって格好のカモだ。
「あんなヤツの話なんか聞かなくて良い! 冷蔵庫ヒドーダ! 早く美依を氷漬けにして!」
冷蔵庫ヒドーダが美依さんの眠るベッドの方を向くと、被っていたシーツを投げ捨て、そっと冷蔵室の扉に手をかける。
「さぁ、早く!」
「……なーんてね!」
すると、冷蔵庫ヒドーダは冷蔵室から手を離して、野菜室を開けた。
そして、自分の野菜室の中に手を突っ込んで、そこから大きなほうれん草のようなものを取り出した。
だが、明らかに普通のほうれん草では無い。葉っぱの部分がとても硬く鋭利に見える。
「刃物野菜! ほうれんソード!」
「えっ!?」
すると、冷蔵庫ヒドーダは横にいたともよさんを片足で蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたともよさんはふっ飛ばされ、身体を病室の壁に打ちつける。
「痛っ……なんで……?」
「決まってんじゃん! 大事な人が目の前で殺されれば上質なクルシミウムが集められるっしょ! ウチってマジ天才!」
「じゃあ……! あなたは最初からそのつもりで……!」
「今さら気づいても遅いっつーの! とっととくたばれー!」
そういって冷蔵庫ヒドーダはほうれんソードを持った手を思いっ切り振り上げた。
ダメだ。間に合わない。このままでは美依さんが殺されてしまう。
そのときだった。
「ゴールドソード!」
私の背後から何かが、風を切って飛んできた。
飛んできたそれは私の頬を掠め、冷蔵庫ヒドーダの腕に突き刺さる。
「いったい!」
冷蔵庫ヒドーダはほうれんソードを取り落とし、こちらへ振り返る。
「いったい誰なの!? ウチの邪魔したのは!」
私も驚いて振り返る。
「今度こそ倒しに来たぞ! ヒドーダ怪人!」
――そこに立っていたのは全身に冷却ジェルシートを貼ったりゅうま隊長だった。
冷却ジェルシートというのは、熱を出したときおでこにピタッと貼る、いわゆるアレのことだ。
私の住んでいた地域では「冷えペタ」と呼んでいた。
「隊長!? 今までどこに……、っていうか何ですか? その身体!?」
「お前の言う通り、あのまま戦ったら足手まといになるからな。少しでも熱を冷まして健康的に戦おうと、冷えペタを買いに行っていたんだ」
「そういうことじゃないです! 休んでてって言ったでしょ!? 馬鹿なんですか!?」
「ば、馬鹿!?」
なんで全身に冷えペタを貼っちゃうんだ。かえって身体に良くないだろう。
だいたい服の上から貼ってる分は意味ないんじゃないか。
「もうマジギレ! 憤怒バーニングファッキンストリーム! 今度という今度こそぶっ潰す!」
冷蔵庫ヒドーダは腕に刺さったゴールドソードを引き抜くと、それを構えてこちらへ向かってきた。
私はそれを素早く躱し、りゅうま隊長はサッとゴールドチェンジして戦闘を開始する。
「俺は戦いながら、コイツを病院の外へ誘導する! そっちはともよ君の保護を頼んだ!」
そういうとレッドは思いっきり冷蔵庫ヒドーダの腹部を蹴り飛ばし、同時に敵の持っていたゴールドソードを掴んで奪い返した。
蹴り飛ばされた冷蔵庫ヒドーダが病院の壁を突き破り、外の地面に落ちていくのが見える。
レッドもそれを追って、開いた穴から病院を飛び出した。
穴の向こうでレッドと冷蔵庫ヒドーダが揉み合いながら、少しずつ病院の建物から離れていくのが見える。
私はすぐさま、病室の隅で縮こまるともよさんのそばに駆け寄る。その場でしゃがみ込んで、彼女の震える手を優しくそっと握ってあげた。
「大丈夫ですか……?」
「ごめんなさい……、私……、私……」
「安心してください。怪人は、ゴールドファイブが必ず倒してみせます!」
「でも、でも……」
ともよさんは震えて涙を浮かべている。ヒドーダ怪人の恐ろしさと、そのヒドーダ怪人の悪事に加担しそうになったことで心にダメージを受けてしまったようだ。
「気にしないで。それより早く逃げましょう。ここは危険です!」
すると、病室前の廊下からナダ先生が走ってきた。
「やっと追いついた! どういう状況ですか? そこの壁に穴開いてるんですけど!」
ナダ先生は病室に入ってくると、私に尋ねてきた。
「すみません。詳しいことはあとで話します。それより、ともよさんを連れて安全な場所まで逃げてくれませんか?」
冷えペタを全身に貼っているとはいえ、体調が最悪なりゅうま隊長一人にヒドーダ怪人退治を任せるのは心配過ぎる。
できれば私もすぐに駆けつけて、りゅうま隊長に協力したい。
「わ、分かりました! ここは私に任せてください」
ナダさんはそういってコクリと頷く。それを受け、急いで病室をあとにした。
◇ ◆ ◇
私が病院の建物を出ると、病院の駐車場でゴールドレッドと冷蔵庫ヒドーダが戦っていた。
レッドは冷蔵庫ヒドーダの出す冷気をなんとか躱していくが、やはりいつもより動きが鈍い。
このままではレッドが氷漬けにされるのも時間の問題だ。
冷蔵庫ヒドーダは冷蔵室から冷気を出すのをやめ、今度は野菜室を開いた。
「これならどうだ! ボマト!」
そういって、野菜室からトマト型の爆弾を出してレッドに投げつける。
レッド、躱しきれずついに直撃を受け、拍子にゴールドソードを取り落とした。
すると、冷蔵庫ヒドーダはふたたび自分の野菜室からほうれんソードを取り出す。
「今度……今度こそ……」
「待つでござる!」
とても力強い叫び声が聞こえた。見ると、イエロー、グリーン、ホワイトが並び立っていた。
私が来る途中に三人に連絡しておいたのだ。
「ムカTK! まだ来るわけ!? もう何回目!? シャバい! ダルい! もうええでしょ!」
冷蔵庫ヒドーダが怒ってその場でほうれんソードを振り回してみせる。
駆けつけた三人は疲れて倒れそうなレッドに声をかけた。
「りゅうまお兄ちゃん、あとは私たちに任せて!」
「前に推しのライブのとき、隊長はぼくに休暇を与えてくれた。今度はこっちが頑張る番だ!」
「りゅうま殿、常に共に戦うだけが仲間にあらず! 趣味や一人でやりたいことがあるとき、疲れて限界なとき、具合が悪いとき、そんなとき自由を認めてあげる存在こそ、真の仲間ではござらぬか!」
イエローの言う通りだ。常に肩を組んでいなければ仲間じゃないなんてことは無い。互いに想い合う気持ちこそ、真の仲間の証なのだ。
「隊長、ここは私と一緒に陰から見守りましょう!」
レッドはため息をつくと、ようやく変身を解除した。
「そうだな、仲間を信じるのも隊長の務めだ」
私はりゅうま隊長の元へ駆け寄ると、すぐにその肩を担いで近くに植えられた木の陰に隠れた。二人で木から顔を出し、戦いの様子を伺う。
「動物園に行けなかった恨み!! 絶対晴らす!!」
ホワイトがそういってゴールドクローを構える。
「ぼくの仲間を凍らせた罪、その身で償わせてやる!」
グリーンがゴールドアローを構える。
「拙者も、これで……!」
イエローがそういってマキシマムガジェットをブレスにセットしようとした。
――そのときだった。
「シルバーインパクト!」
銀色のエネルギーの刃が飛んできて、イエローに直撃した。
イエローはふっ飛ばされ地面に転がり、マキシマムガジェットが爆風で宙を舞う。
マキシマムガジェットは綺麗な放物線を描いて、一人の白銀の戦士の手中に落ちた。
「……シルバーキラー!!」
見ると、そこに立っていたのは紛うことなきシルバーキラー。
「貴様……!」
イエローがすぐに立ちあがり、ゴールドハンマーを構える。
「ウチのこと助けに来てくれたの!? キタコレ最高! マジ沸いた!」
「親の仇……!」
「どうしてここに……!」
ゴールドファイブも、冷蔵庫ヒドーダも、一斉にシルバーキラーの方を見る。
「そろそろ、タイムリミットが近づいててな……」
シルバーキラーはそういうと、手にしたマキシマムガジェットをブレスにセットし、そしてその腕を大きく振り上げて叫んだ。
「マキシマムチェンジ!」
すると、その身体にマキシマムアーマーが装着される。
――そしてシルバーキラーは、マキシマムシルバーキラーへと変わった。
「さぁ、ゲームの始まりだ」
〈つづく〉




