事件7-5『俺様だけが世界を支配する』
〈前回までのあらすじ〉
敵の狙いがゴールドブレスだということが分かった私たちは、遂にD作戦の発動を決定するが……。
部屋に戻った私は、電気を消し、ベッドの中に潜り、毛布で顔を隠す。そして目を瞑り、寝たフリをした。
敵は確実に私たちの持つブレスを狙ってくる。私のブレスに変身機能は無いが、それでも奪われたらまずい。そこで寝たフリをして、犯人を探ろうと言うわけだ。
私は一度寝てしまったらなかなか起きないが、寝ないように耐えることには自信がある。
「グー……グー……、寝てまーす……、グー……グー……」
私が寝たフリをして待ち構えていると、部屋のドアがガチャリと開いた。何者かが入ってくる。
私は思わず息を潜める。せっかくやっていたイビキの真似も忘れて。
「こんばんはー、あのブレスをいただきにあがりましたよー」
部屋に入ってきた女がヒソヒソ声で呟く。この声、かなりくぐもってはいるが、九十九さんごだ。なぜ盗みに入って挨拶してるんだろう。起こしたらどうするんだ。
すると、ゴソゴソと物音がし始めた。
私はちょっとだけ毛布から顔を出し、薄目を開けて音のする方を見た。部屋のドア付近でガスマスクを付けたさんごさんがバッグの中をゴソゴソと漁っている。
でもあれはどうみても私のバッグじゃない、おそらくさんごさん自身のものだ。
(私のブレスを奪いにきたのに、なんで自分のバッグを漁ってるの……? それにあのガスマスク……)
すると、さんごさんは何やらツブツブの入った透明の瓶を取り出して、高く掲げてみせた。そして、ヒソヒソ声で言った。
「ねむねむ芳香剤〜〜!」
なんかまた変なのが出てきた。なんだあれは。さんごさんは更にヒソヒソ声で続ける。
「説明しましょう。この芳香剤から出る香りを嗅ぐと猛烈な睡魔に襲われて、どんな不眠症の人でもパタリと眠ってしまうのです。念のためこれをセットして……」
だからなぜ一人で解説してるんだ。それは誰向けの解説なんだ。
……ん? というか今、なんかとんでもないことを……言っていた……ような……。
◇ ◆ ◇
「起きて……、起きて……」
誰かの、聞き馴染みのある声がする。
「起きて……! 起きて……!」
それになんだか身体がすごく揺れる。誰かに揺らされている。
「ねぇ、起きてってば!」
まぶたを開けると、すあまちゃんの可愛らしい顔が目に入った。
「おはよう。すあまちゃん……」
私は大きくあくびをする。
「おはようじゃないよ! ねぇ!」
どうしたんだろう。すあまちゃんの様子が変だ。
(そういえば私……昨日……)
「あっ!」
私は昨日寝る前のことを思い出し、勢いよく身体を起こした。
「うわっ! 急に起きないでよ!」
「あぁ、ごめん」
私はそう言いながらも、自分の腕を見る。付けていたはずのブレスが無くなっている。
「……それより、りゅうま兄ちゃんが王の間に来いって」
「分かった!」
私は飛び起きると、すあまちゃんとともにすぐに王の間へと向かった。
◇ ◆ ◇
私とすあまちゃんが王の間に来ると、既にみんなが揃っていた。
国王の蓮さんとその隣に側近の竹匡さん、更にその隣に占い師のさんごさんと、更にその隣にエンジニアの旺成さん。
そして、それと向き合って立つゴールドファイブのメンバー、りゅうま隊長、いとしさん、めぐむ。
護衛をする戦士のギンガさんと、かかりつけ医の九さんは、ゴールドファイブの少し後ろからその様子を不思議そうに見ている。
呼び出されたはいいものの状況が飲み込めていない様子だ。
よく見ると、九さんの首には昨日国王から貰った小さな鍵が、穴に紐を通してネックレスのようにかけられている。
私とすあまちゃんはなんとなく空気を読んで、急いでゴールドファイブのメンバーが並び立っているところに入り同じように並ぶ。
「あの、えっと……、りゅうま隊長、今どういう状況ですか?」
私が尋ねると、りゅうま隊長より先にさんごさんが答えた。
「私が呼んだんですよ。皆さんのことを」
さんごさんが不敵にニヤリと笑う。
「何か知ってますか? ギンガさん」
「いや、俺は何も……」
九さんとギンガさんが後ろでヒソヒソ話す声が聞こえる。どうやら彼らも何も知らないらしい。
すると、竹匡さんも口を開く。
「正確にはさんごだけではない。私たちが呼び出したんだ。これを見せるためにな」
そういって竹匡さんが腕に付けたゴールドブレスを見せつける。
すると、それに合わせて旺成さん、さんごさん、そして国王もブレスの付けた腕を見せつける。
「そ、それはーー! せっしゃたちのブレスでござるかーー!?」
「どう? 寝てる間に奪ったんだ。すごいっしょ?」
旺成さんがそういって鼻をこする。
間違いない。昨晩ねむねむ芳香剤で眠らせて私以外の人間からもブレスを奪ったのだ。
「あっ、一個間違えて黒い方奪っちゃってたので、そっちは返しておきますね。多分それは変身できなそうですし」
そういってさんごさんが、黒いブレスを私の足元に投げ捨てた。
昨日私の部屋に来たのはただの間違いだったのか。たしかに変身機能は無いが、なんか癪に触る。
すると国王は申し訳なさそうな顔で口を開いた。
「すまん、だが、竹匡に提案され……逆らえなかった。ドラゴンの話も嘘だ。お前たちからブレスを奪い、その力で他国に戦争を仕掛ければ、もっと国が豊かになると言われたのだ」
やっぱりこの国、色々駄目だと思う。
「私がある日占っていたら、何やら金色の戦士の姿が映り込んだんです。それでそのことを旺成くんに話したら、この作戦を考えてくれたんですよ」
さんごさんが満面の笑みでそう説明する。
「そんな……国王どうして!」
九さんの叫びに国王は何も答えない。昨日わざわざ王位継承の話をしていたのは、自分を止めて欲しい思いもあったのだろうか。
「そういうわけだ。真実を知ったお前たちには消えてもらうぞ」
竹匡さんがそういってこちらを睨む。
「よーし! いよいよ処刑タイムです! 合法的に人を殺せる! ワクワクが止まりません!」
さんごさんがとても嬉しそうにその場で飛び跳ねる。
「国王、一緒にやりますよ」
旺成さんが国王に目で合図を送る。
「あ、あぁ」
国王が弱々しい返事をする。
そして次の瞬間、四人はブレスのついた腕を思いっきり振り上げ叫んだ。
「「「「ゴールドチェンジ!」」」」
……しかし、何も起こらない。
「あれ? どうしたんでしょう?」
「動かないな……」
「どうなっておる? 話が違うぞ」
「さぁね」
四人がそれぞれ自分の腕についたブレスを訝しげに見つめる。
「お探しのものはこれでござるか?」
そういったいとしさんの方をみると、腕に奪われたはずのブレスがついている。
いとしさんの腕だけじゃない。りゅうま隊長にも、めぐむにも、すあまちゃんにも。
そしてもちろん私にも黒いブレスが。
「まんまと引っかかったな! 俺たちのD作戦に!」
りゅうま隊長が怒りをあらわにして叫んだ。私もそれに続けて声を上げる。
「私たちはもしこのブレスを狙う敵が現れたときのために、常にダミーのブレスを持ち歩いているの。そしてあなたたちがブレスを狙ってることに気づいた私たちは、わざとダミーのブレスを奪わせたのよ!」
そう、夜寝ている隙に奪われることは想定内。まさか、眠らされるとは思っていなかったが。
これには流石にさんごさんたちもさぞビックリしたことだろう。
「あー、やっぱりバレてましたか……。ちょっとボロ出しすぎましたもんね。一石二鳥だと思ったんですが」
あれ、意外と驚かない。というか一石二鳥って何のことだろう。
「せっかく異世界の兵器を奪うチャンスを……もったいないぞ。まぁ、本来の目的は果たせたからいいが……」
竹匡さんも平然としている。
「なんだ? どういうことだ? おい!」
国王だけが何も知らない様子で辺りをキョロキョロと見回す。なんだか、嫌な予感がする。
「……こういうことだよ。ブレス-A、起動せよ」
旺成さんがそう呟いた、次の瞬間だった。
「グッ!」
国王が突然その場に倒れたではないか。
「な、何を……」
国王はその場で激しくもがき苦む。苦しみながらも、必死に地べたを転がって旺成さんたちから離れていっているのが分かる。
自分を殺そうとした犯人の正体に気づき、なんとか逃げようとしているのだ。
「国王……!」
九さんはすぐに国王の元へ駆け寄る。しかし、国王の身体はだんだんと動きが鈍り、そして完全に動かなくなる。
「なんで……なんで……」
九さんが国王の身体を抱きあげて、大粒の涙を流す。
「何をしたの!」
私が焦って叫ぶ。りゅうま隊長たちもあまりに急なことで驚きが隠せない。
「貴様ら! 俺の愛する国王に何をした!」
ギンガさんが怒鳴りつける。
すると、旺成さんがボソリと呟いた。
「死んだんだよ、国王は。僕らの……いや、俺様たちの本当の目的は、国王を殺すことなんだから」
淡々と説明するその表情は、とてもたった今人を殺した人間とは思えない。
竹匡さんも、さんごさんも、旺成さんも、みんなヘラヘラ笑っている。
「よくも……!!!」
次の瞬間、私たちの後ろから、剣を持ったギンガさんが一目散に旺成さんに向かっていく。
そして、ギンガさんが旺成さんに斬り掛かった刹那。
――パァンと銃声が響いた。
ギンガさんは剣を取り落とし、腹から血を流してそのままぐったりその場に倒れ込む。
よく見ると、旺成さんの横に立っていたさんごさんが一丁の銃を持っていた。銃口からは一筋の煙が伸びている。
「さっすが、旺成くんの言うとおりでした。ギンガさんは国王のことが大好きだから、国王が殺されたら周りが見えなくなって襲ってくるって」
そういってさんごさんは、持っていた銃を目の前に投げ捨てる。
「どういうことです……? 説明してください」
九さんは呆然として、とにかく目の前の光景に理解が追いついていない様子だ。
「まだ分からないんですか? お馬鹿さん」
さんごさんがそういって私たちを嘲笑う。
「国王に付けさせたブレスは、あなたたちの持っていたダミーブレスとは別。3Dプリントカメラで作ったものです。あれは中がスカスカで小型注射器をセットしやすかったので」
「そ、そんな……」
九さんが無くしたといっていたあの小型注射器は、国王の殺す凶器として盗まれていたのだ。
それを聞いた九さんは、さらに声を上げて泣きじゃくる。
「なんで……、なんで……!」
九さんの言葉に、旺成さんは笑いながら答える。
「感謝してるよ。あんたが以前俺に依頼した小型注射器の開発が、今回の計画に繋がった」
さんごさんが足元に転がったギンガさんの遺体に足を置いて、旺成さんの言葉に付け加える。
「国王が慎重過ぎるのがいけないんですよ。毒味や危険物の確認なんて竹匡さん一人にやらせればいいのに、ギンガさんがいるせいでこんなに回りくどいことをしなければいけなかったんですから」
今のさんごさんの発言で私はようやく理解した。
竹匡さん、さんごさん、旺成さんの三人は元々、国王の暗殺を企てていたのだ。
しかし、国王を愛するギンガさんの毒味や警護はとても厳しく、中々殺すチャンスを掴めなかった。
そんなとき、さんごさんは占いでゴールドファイブの姿を見た。それを聞いた旺成さんは今回のブレスを利用した殺害計画を思いつく。
そして、側近の竹匡さんから、「ゴールドファイブからブレスを奪うための極秘の作戦」を国王に提案したのだ。
極秘の作戦ということにすれば、ギンガさんを介入させない口実が生まれる。
例えば「作戦関係者以外に話したら、情報が漏れて作戦が失敗するかもしれない」とか、ギンガさんや他の人に秘密する理由付けなんていくらでも出来るだろう。
そうして国王に作戦を信じ込ませたらあとは簡単。毒入りの小型注射器がセットされたブレスを「本物のブレスを奪ってきた」と嘘をつき腕に装着させれば、注射器を起動した瞬間に即死というわけだ。
「待て! 3Dプリントカメラは、カメラで写したものしかコピーできないはずだ! いつブレスを撮影した!」
りゅうま隊長が問いただす。たしかに、もしあのカメラで隠し撮りされていたなら確実に分かるはずだ。
3Dプリントカメラは使うとき、あまりにも眩し過ぎる光を放ち、爆音でシャッター音が鳴るという特徴がある。さすがに気づかないわけがない。
りゅうま隊長の質問に旺成さんが答えようとしたが、相手が答えるより先にめぐむが口を開いた。
「ドラゴンだ……。あの機械のドラゴンの目。あれがカメラのレンズで、ドラゴン自体が巨大な3Dプリントカメラそのもの。爆発したのはシャッターを切る光と音を誤魔化すため」
それを聞いて、旺成さんはニヤリと笑う。
「その通りだよ。よく分かったね。凄いでしょ? 俺様の発明」
そういえばたしかに、ドラゴンが爆発するときに一瞬激しい光が辺りを包み、爆発音が鳴り響いた。あの光はカメラのフラッシュで、爆発音はシャッター音をかき消すためのものだったのだ。
食事の席でみんな3Dプリントカメラを使うのを嫌がっていたのも、私たちに作戦を勘付かれたくなかったからだろう。
自慢げな旺成さんを見て、竹匡さんがため息をついた。
「もう自慢話も良いだろう。とっとと逃げるぞ。カモン、ホバリングボード!」
竹匡さんがそういって手を叩くと、どこからともなく三枚の木の板が飛んできて、竹匡さん、さんごさん、旺成さんの目の前で止まった。
三枚の板は床上二センチほどのところを浮遊している。
「まずい! あれはノア王国に来てすぐくらいのときに見たやつでござる! あれに乗って逃走するつもりでござるよ」
いとしさんの言うとおり、そういえばこの王国に来てすぐのとき、町でホバーする板に乗って移動する人を何人も見かけた。
「さぁ、早く乗り込め!」
竹匡さんとさんごさんが意気揚々と、浮遊するボードに乗る。
……が、しかし、なぜか旺成さんだけは一切その場から動かない。
「どうしたんですか? 旺成くん! ようやく国王の命を奪えたんです! これからは我々三人で世界を支配するんですよ!」
さんごさんがそういって焦る。
竹匡さんもそれに続ける。
「そうだぞ。今ここで異世界の戦士なんざに捕まったらすべて水の泡だ。今は一旦逃げよう。そして三人の王国を作るんだ」
すると、旺成さんが突然、プッと噴き出して大口を開けて大声でゲラゲラと笑い始めた。
「なんだ? どうした……?」
「急におかしくなっちゃったんですか?」
二人が不安そうに旺成さんのことを見る。
すると旺成が、ふたたびボソリと呟いた。
「ブレス-B、ブレス-C、起動せよ」
「うぁ!」
「痛っ……、嘘、なんで!!」
突然二人がボードから落ちて、ブレスのついた腕を押さえてその場でもがき苦しみ始める。
……間違いない、二人のブレスも小型注射器が仕込まれたものにすり替えられていたのだ。
旺成さんは苦しむ二人を見て、更に狂ったように高笑いする。そして目にかかっていた自分の髪をかき上げてこういった。
「三人の王国!? 馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ! この国は俺様だけの国だ。一つの国に、王様は三人も要らねぇんだよ!」
……あり得ない。自分たちの仲間を平気で裏切るなんて。
苦しみながらさんごさんが、必死に手を伸ばして旺成さんの足を掴む。そして涙声で訴えかける。
「なんで……、旺成くん。『愛してる』って言ってくれたのに……。旺成くんのために……私、あんなに……頑張って……」
旺成さんは掴んできたさんごさんの手を足で払うと、思いっきり顔面を蹴り飛ばした。
そのまま竹匡さんもさんごさんも、ピクリとも動かなくなる。
「酷い……、酷いよ……!」
すあまちゃんが怒りをあらわにする。
「拙者も、いくらなんでも許せないでござる!」
「最低だよ……ぼくが今まで会ったどの怪人よりも一番!」
いとしさんとめぐむも、そういって旺成さん……いや、旺成を睨みつける。
すると、旺成は両手を広げ、お城全体に響くような大きな声で叫んだ。
「仲間は道具! 使い捨ての歯車! すべては俺様が玉座に座るための踏み台でしかない!」
そういうと、旺成はポケットから、ドクロマークの描かれたガジェットを取り出し、自分の腕についた偽物のゴールドブレスに取り付けた。
「それはいったいなんだ!」
りゅうま隊長が、驚いて尋ねた。すると旺成は不敵な笑みを浮かべて答える。
「俺様も変身ってのに興味が湧いてさ。やってみたくなったからパクらせてもらった」
どうやら旺成の偽ゴールドブレスは、他のとは違う仕掛けがあるらしい。
次の瞬間、旺成はブレスのついた腕を振り上げて叫んだ。
「ヤバイチェンジ!」
するとけたたましいハードな音楽とともに、骨のような模様のついた装甲が旺成の身体に装着されていく。
まるでドクロのようなデザインのマスクが頭に出現し装着されると、その頭部に海賊帽と王冠を混ぜたようなデザインの冠り物が出現し被せられる。
〈ウバイトール! ヤバイクール!〉
ブレスから鳴る変な歌とともに、茶色のジュストスコール、いわゆる海賊が着ているあの服が、旺成の装甲のさらに上に出現し纏わされることで、変身が完了する。
〈ヤッバーイキーング!〉
という、変身完了と同時にブレスから鳴ったその声の通り、その全身の姿はとても禍々しく、いかにもヤバい雰囲気である。
変身が完了すると、旺成ことヤバイキングは、今日一番の大声で名乗りを上げた。
「略奪の王! ヤバイキング! 俺様だけが世界を支配する!」
〈つづく〉




