事件7-3『伝説の竜』
〈前回までのあらすじ〉
ドラゴカイザーを討伐すべく、私たちはモクボック船へと足を踏み入れる。
私、綾川あずきとその一行は、ドラゴカイザーを倒すべく、モクボック船へやって来ていた。
モクボック船は人の住んでいない、植物が生い茂る森のような船。
といっても、これは決して自然を守ろうという取り組みなどではなく、王家の人間や特権階級の人たちが好んで食べる高級な果実やキノコを育てるために作った島らしい。
さっきここに来る前に会った港の人が教えてくれた。
私たちは森の中を、草木をかき分けて進んでいく。
「うえー、もう疲れたー! 帰りたーい!」
「もう、足、つりそう……」
すあまちゃんとめぐむが文句を垂れる。無理もない。体力にはそこそこ自信のある私でも流石に疲れてきた。
「痛っ」
しまった。草で手を切ってしまった。小指の辺りに五ミリほどの傷ができる。
「誰か今なんか言った?」
めぐむが私の声に気づいて尋ねる。でもここでケガをしたなんて言ったらみんなを心配させてしまう。
「ううん、何も言ってないよ!」
この程度のケガなら一々止めるほどのことでも無い。きっと舐めれば治るだろう。私はそう考えてケガを誤魔化した。
「あっ、光が見えてきたよ!」
すあまちゃんが歩きながら指差す。もうすぐだ。この森を抜けた先にドラゴカイザーの住処がある。
「まもなくドラゴカイザーの住んでいる場所に着く。みんな、気合い入れて行けよ」
りゅうま隊長がそういって、私たちを元気づけてくれた。
「よーし! ドラゴン倒すぞーーー!!」
次の瞬間、すあまちゃんが勢いよく飛び出していく。さっきまであんなに疲れていたのに、どこにまだそんな気力が残っていたんだ。
「おい! 待て! 先に行くな!」
りゅうま隊長が慌てて追いかける。私たちも慌ててそれについていく。
――森を抜け、広い草原に出ると、私たちはみな上空を見て立ち止まった。想像よりもずっと大きなドラゴンが、私たちの来るのを待っていたかのように飛んでいたのである。
「あれが……、ドラゴカイザー……」
私は思わず息を飲んだ。鱗や牙はまるで鋼鉄で出来ているかのようにピカピカと陽の光を反射し、無機質な目はなんだか奥行きがあり、まるで生物では無いかのようだ。
「なんでこっち見て飛んでるの?」
「不気味でござる……」
「わー! アレが本物のドラゴンさん!? すごーい!」
みんなが口々に感想を述べている間もドラゴンは黙ってこちらを見つめ続けている。
「りゅうま隊長、なんか変じゃないですか?」
普通の生物が見慣れない生物を見かけたら、逃げるにしろ、攻撃してくるにしろ、なにかリアクションをするものだ。
なのに、あのドラゴンはただ黙ってジッとこちらを見ながら飛んでいるだけ。どう考えても普通じゃない。
――もっとも、普通のドラゴンなんてそもそも知ったこっちゃないが。
「とにかく! 我々の任務はあのドラゴンを倒すことだ! みんな行くぞ!」
りゅうま隊長がそういうと、私以外の四人は一斉にブレスのついた腕を振り上げた。
「「「「ゴールドチェンジ!!」」」」
(あれ、今ドラゴンの目、ちょっと動いた?)
そう思ったのも束の間、四人の姿が金色の戦士の姿へと変わった。
「ゴールドレッド!」
「ゴールドイエロー!」
「ゴールドホワイト!」
「ゴールドグリーン!」
「我ら! 超金星!」
「「「「ゴールドファイブ!」」」」
しかし、四人の名乗りを見てもなお、ドラゴンは無反応だ。
「よし、まずは俺から行くぞ」
そういうと、レッドはゴールドソードをドラゴンに向けて構える。
と、次の瞬間、レッドはサッと空中に跳び上がり、そのソードでドラゴンの首元を傷つけた。
そして、そのまま地面にシュタッと着地する。
「ダメだ……、まったく手応えが無い。まるで鉄を切っているかのよう……なに!?」
そうレッドが言いかけたそのときだった。突然ドラゴンが眩いほどの閃光を放ち、とてつもない轟音とともに大爆発したのだ。周囲にドラゴンの破片が飛び散り、辺りが黒い煙に包まれる。
私は眩い光ととてつもない轟音に驚き、咄嗟に目を瞑った。
(どういうこと……? 全然まだ倒せてなさそうだったのに……)
しばらくして目を開けると、煙は晴れて辺りが見えるようになっていた。
「これは……、これって!」
目の前の草原に落ちていたのはドラゴンの肉塊でも、鱗でもない。ネジや電子回路など、明らかに機械の破片だった。
「なにこれ! どういうこと!?」
ホワイトが回りをキョロキョロして尋ねる。
「拙者にもサッパリでござる……、これはいったい……」
「あのドラゴンは、人為的に造られたもの? でもなんのために?」
イエローにもグリーンにも、状況が掴めていない様子だ。
「仕方ない、ひとまず帰って国王に報告だ。撤収するぞ」
――そうして、私たちは落ちていたドラゴンの破片を回収すると、一度お城に戻ることにした。
◇ ◆ ◇
城へ帰ってきた私たちは、国王の前にひざまずくと、ドラゴン討伐中にあった全てのことを報告した。玉座に座る国王と、両隣に立つ側近と戦士はその話を黙って聞いている。
「というわけで、あのドラゴンは何者かが造ったものであると……」
りゅうま隊長の説明を聞いて、戦士のギンガさんが呟いた。
「やはりか……」
「やはり? どういう意味ですか?」
私が問いに、ギンガさんはさらに答える。
「実はおかしいとは思っていたのだ。そもそもノア王国が出来るとき、我々人類にとって不要と判断した生物に対しては駆除を行った。まだ海に沈んでいないほんの僅かな陸地にも毒を散布して生物を死滅させたはず」
来てからずっと思っていたが、やはりこの地球はろくな地球じゃない気がする。
「それなのにドラゴンが復活し暴れるなど、明らかに変。何者かの企みだとしたら、これは大変なことだぞ」
もし何か目的があるのだとしたら、また別なドラゴンを誰かが造って、暴れさせてしまうかもしれない。
私がそんなことを考えていると、りゅうま隊長が口を開いた。
「ひとつ、提案があるのですが」
「なんじゃ? 言ってみるがよい」
国王が髭をいじくりながら聞く。
「一度、我々の世界にあのドラゴンの破片を持ち帰らせてはいただけないでしょうか? 我々の基地であるゴールドベースにはしっかりとした研究設備があります。そこで詳しい分析をすれば何か分かるかもしれません」
国王はそれを聞くと、すぐに返事を返した。
「よかろう。どこでもゲートはさんごが持っておる。彼女ならこの時間は大食堂にいるはずだ。彼女に頼んで貸してもらうがよい」
「大食堂の場所なら、ここへくる途中にあったゆえ拙者が覚えているでござる。案内するでござるよ」
いとしさんがそういって胸を叩く。
私たちはいとしさんの言葉を信じて、一度元の世界へ帰るべく大食堂と呼ばれる部屋に向かった。
◇ ◆ ◇
私たちはいとしさんを先頭に、大食堂に向かい長い廊下を歩いていく。私はその道中で先ほどのドラゴンのことについて話していた。
「仮にあのドラゴンを作った黒幕が居たとして、目的はなんなんでしょう? なんで暴れさせるのか……」
私がそう呟くと、りゅうま隊長が神妙な面持ちで答える。
「分からない。だが、ドラゴンがまた暴れたらきっと大きな被害が出る。そうならないために今は出来ることをするだけだ」
「本当にそうかな」
私やりゅうま隊長の前を歩いていためぐむが、そう呟いて立ち止まった。つられて私も、りゅうま隊長も、そしてすあまちゃんも立ち止まる。
「それはどういう意味だ?」
りゅうま隊長が尋ねると、めぐむがこちらへ振り返った。
「本当に町は襲われたのかなって。襲われたにしては町の人たちはみんな普通にしてたし。あのドラゴンだって、浮かんでるだけのハリボテだったし」
たしかに、爆発しただけでなにもしてこなかったのは妙に引っかかる。
「でも、だったらなんのために……」
「それは……」
めぐむが俯いて考え込む。
おそらくめぐむの言うとおり、今回の事件は単に「ドラゴンのロボットが暴れた」のではなく、その裏に大きななにかがあるのはたしかだろう。
しかし、それがなんなのか、今の段階ではまだ情報が足りない気がする。この状況で敵の目的や悪者が誰なのかを推測するのは難しいだろう。
「ねー、めぐむ兄ちゃん」
みんなが考え込んでいると、さっきまで黙っていたすあまちゃんが急に話に割って入った。
「なぁに?」
めぐむが尋ねると、すあまちゃんが奥の方を指差す。
「いとし兄ちゃん、もう行っちゃったよ?」
「え?」
めぐむが驚いて正面へ向き直る。たしかにそこにはもう誰もいない。
まずい、これはまずい。
「りゅうま隊長、めぐむ、どっちか……大食堂の場所覚えてません?」
私はおそるおそる確認する。
「すまん、まったく」
「ごめん、サッパリ……」
大変だ。早く見つけないと、さんごさんがご飯を食べ終えたらきっと大食堂を出ていってしまう。
「……よし! 見つけるしかない! 急げー!」
私はそう叫ぶと大食堂を探しながら、みんなと一緒に廊下を走りだした。
◇ ◆ ◇
二〇分ほど走って、私たちは遂に大食堂を見つけることができた。
大食堂に入ると、いとしさんとさんごさん、それに旺成さんが三人で何かを話している。
いとしさんがご飯が食べ終わった後もさんごさんを呼び止めてくれていたのだろうか?
だが、それにしても様子がおかしい。
「やっと見つけたぞ。隊長を置いていくとはどういうつもりだ」
りゅうま隊長が呆れ声で呼びかける。
「りゅうま殿! 申し訳ないでござる!」
いとしさんはこちらに気づくとその場で深く土下座した。迷惑に思ってはいるが、土下座は逆に恥ずかしいので止めて欲しい。
「それより、なに話してたんですか?」
いとしさんが、土下座状態から顔を上げてこちらを見る。
「それが……」
いとしさんがその先を言う前に、近くにいた旺成さんが答えた。
「壊れたんだ、どこでもゲート。悪いけど、君たちはしばらく元の世界には帰れない」
「……え?」
◇ ◆ ◇
〈一方その頃・元の世界〉
ここは石船山。あまりに険しく人が滅多に寄り付かないこの山の山頂で、ボク、坂出いつきはある人物と待ち合わせしていた。
太陽が真上からボクを熱く照らし、吹き付ける風がボクのかいた汗を乾かしていく。
「人を呼び出すにしては随分酷い場所だな。待ち合わせってのはもっと分かりやすい場所でやるもんだぜ」
目の前に現れたのは、阿波連暴人。
ボクがネット上に「挑戦状」と称した書き込みをして呼び出したのだ。
『シルバーキラーへ、我々と決着をつけたいのなら、石船山へ来い。ゴールドファイブより』という内容で。
「ブルー、一人だけか……? まぁいい、まずはお前からだ」
「待て、話があるんだ」
ボクは戦うために呼び出したわけではない。もちろん戦いになる可能性を考慮して、人の居ない場所を選びはしたが、本当の目的は別にある。
――異世界に消えた仲間を救うために……。
「無理だな。俺は戦いたくてうずうずしてんだ……、シルバーチェンジ!」
暴人が腕を振り上げると、その姿は白銀の戦士、シルバーキラーへと変わる。そしてシルバーキラーは白銀の槍、シルバランスを構える。
「仕方ない……、やるしかないか……」
ボクはマキシマムガジェットをゴールドブレスへセットすると、腕を振り上げて叫んだ。
「マキシマムチェンジ!」
ボクの姿は輝かしき戦士、マキシマムゴールドブルーへと変わる。そして金色の銃、ゴールドブラスターを構える。マキシマムキンキラバスターはスマートじゃなくて性に合わないから、ボクは使わない。
二人の戦士は、それぞれ武器を構えたまましっかりと相手を見据える。
そして次の瞬間、二人の戦士は同時に、お互いに相手のいる方に武器を構えて向かっていった。
――こうしてこのボク、ゴールドブルーとシルバーキラーとの戦いが始まったのだが、このお話の続きはもうちょっと先まで待ってもらうことになる。
それまではいったん、異世界でのあずきちゃんたちの奮闘を楽しんでほしい。
〈つづく〉




