事件7-2『キング早速登場』
【前回までのあらすじ】
異世界から来た女性、九十九さんごさんからの依頼。それは自分たちの世界で暴れるドラゴンを、ゴールドファイブの手で倒してほしいというもの。
私たちがその世界にやってくると、そこにあったのは空に浮かぶ船の王国・ノア王国だった。
私たちはさんごさんに案内されるまま、船の上の町を歩いていった。潮風の香りが鼻をくすぐる。
町に住む人々が、セーラー服ではない私たちの姿を見て不思議そうな顔をする。きっと私たちの姿が物珍しいのだろう。
特にゴールドファイブのメンバーは金ピカの服を着ているので、普段の私たちの世界でもちょっと浮いている。
「それで……、どうして船の上に国が?」
りゅうま隊長が尋ねると、さんごさんは歩きながら話してくれた。
「我々の科学は驚異的なスピードで発達し、高度な文明を築き上げました。しかし、その代償として森は切り開かれ、温室効果ガスの排出も進み、それにより地球は温暖化、海面上昇によってどんどん陸地は狭くなっていきました」
たしかに、よく見ると高い技術力を感じるところは多々ある。
人々が自分で歩かずホバーする板に乗って移動していたり、小さい子供は空を走るラジコンカーを操って遊んでいたり、ファンタジー映画とSF映画の世界が一緒になったような光景だ。
さんごさんはなおも説明を続ける。
「そこで、我々人類は考えたのです。だったら陸地なんて捨ててしまえば良いと。空飛ぶ船の上に逃げれば、海面上昇の影響も、地震や津波の影響も受けやしない! ノア王国はこうして誕生したのです」
さんごさんがとても得意げだ。しかし、私はなんだか釈然としない。
「動物さんは……?」
動物好きのすあまちゃんが不安そうに尋ねる。
「もちろん居ますよ。愛玩用の猫や犬はもちろん、家畜用の豚や牛、鶏など。さらには動物園で鑑賞するためのライオンなども何頭か避難させました」
しかし、すあまちゃんの顔はそれを聞いても明るくならない。
「ネズミさんは? 虫さんは?」
すあまちゃんの問いにさんごさんは笑顔で答える。
「鑑賞用や実験用で何体か持ち込まれたと思いますが……。それ以外の害獣や害虫は放置ですね。人間の利益に寄与しない生物なんて救う意味は無いですし、絶滅した方がいいです」
「ぼくはネズミが嫌いだけど……、だからって絶滅すべきとは思わないけどな」
さんごさんの話を聞いて、めぐむがボソリと呟く。
「悪いが、俺もあまりいい話とは思えんな」
「拙者もでござる」
りゅうま隊長といとしさんもそういって、顔を顰める。
「そうですか? 私は寧ろ素晴らしいと思いますよ。この海に覆われた地球こそ、人類が地球を奪い勝ち取ったことの証明じゃないですか」
(それで良いのかな……)
――私たちは、心にモヤモヤしたものを抱えたまま、王様の待つ城へと向かった。
◇ ◆ ◇
しばらく歩いて、ついに私たちは城の中、王様の待つ王の間へと到着した。
王の間は王城の三階に位置し、ベランダからは心地のよい風が入ってくる。
大理石でできた床の上には、見た目だけでも良い生地でできているのが分かる赤い絨毯。壁には高級そうな名画らしき絵がいくつも飾られている。
何本もの太い柱によって支えられた天井にはステンドグラスが張られ、そこから眩しいほどの光が差し込む。この国は海の上空にある分太陽も近く、光もよく届くのだ。
最奥には玉座にふんぞり返って座る国王と、その両脇に二人の若い男が立っているのが見える。
国王はいかにも絵本に出てくる王様という感じの服装にふくよかな体型、顔にはもじゃもじゃのヒゲをたくわえている。その顔つきはとても柔和で温厚そうだ。
両脇に立つ男二人のうち、片方は紳士服に身を包み、眼鏡をかけた誠実そうな面持ち。
もう片方は、まるでほうれん草を食べたら強くなりそうな、そんな水兵さんの格好をした屈強な男だ。その腰には鞘に入った剣が携えられている。
私たちは、王様の前に来ると、すぐに片膝をついて頭を下に向ける。
王様は私たちの姿に気がつくと、腰をあげて口を開いた。
「そんなにかしこまらなくともよい。顔をあげよ。楽な姿勢になれ」
すると、すあまちゃんとめぐむが真っ先に足を伸ばして絨毯に座り始めた。まるで自分の家でくつろいでいるかのような様子だ。
「ちょっと! お二人!?」
さんごさんがビックリして声をあげる。私もビックリしている。恐れというものを知らないのだろうか。
「お、おい! いくら楽な姿勢と言ったってだな」
りゅうま隊長が叱責する。それを見て、王様が大口を開けて笑った。
「いやいや良いのだ。それくらい肝が据わっているヤツの方が信用できるわ。おぬしらもほれ、もっと楽な姿勢になれ」
「し、しかし……」
「ほれ、早く座れ」
そう言われて、私とりゅうま隊長はおそるおそる姿勢を崩し、体育座りでその場に座った。
いとしさんはその場で正座をする。
「改めて、よくぞ来たなゴールドファイブ。我こそはこのノア王国の国王。吾王蓮だ」
すると両脇に居た二人も続けて名乗る。
「私は国王に仕える側近。従王子竹匡だ」
紳士服を着た男がそう名乗った。
「俺は王を護衛する戦士。星野ギンガ! 国王をこの世で最も愛する男だ」
続いてポパ……、水兵さんの格好をした男がそう名乗った。
よく見るとギンガさんは、椅子の肘掛けに置かれた国王の手に、自分の片手を重ね指を絡めている。国王を愛しているというのは本当らしい。
国王も国王で、満更でもなさそうだ。
「……で、お前は何者だ! 俺の愛する国王に何のようだ!」
ギンガさんがつよい口調で尋ねる。
するとりゅうま隊長が答えた。
「はじめまして。我らはこことは別の地球で平和を守る為に戦っている、超金星ゴールドファイブという者です。ドラゴンを倒して欲しいと直々の依頼を受け、馳せ参じました」
体育座りのまま言葉遣いだけ礼儀正しいのは、なんかすごい違和感がある。
「それより国王、そろそろ本題に」
さんごさんがそういうと、国王はゴホンと咳払いをして話し始めた。
「うむ、既にさんごから話は聞いておるかもしれぬが、おぬしらには今からこの近くの島船、モクボック船で暴れているドラゴンを倒してもらいたい」
「島船……?」
聞いたことのない言葉だ。話の流れから考えて場所の名前のようだが。
「島船というのは、そのまま読んで字のごとく島のような船のことです。私たちが今いるこの広く大きな船が大陸船、その周りにプカプカ浮かんでいる小さな船が島船」
そういえば、行きでも上空や周囲のあちこちに帆船が浮かんでいるのを目にした。なるほど、あれが島船なのだろう。
「でも、どうやって行くの? またあのゲート使うの?」
めぐむがあくびしながら尋ねる。最初はゲームみたいで面白そうと思っていたのかもしれないが、今はもう帰りたそうだ。
「いえ、どこでもゲートは時空と時空を移動するためのもの。モクボック船には港から船が出ているので、それで行ってください」
私はさんごさんの言葉に耳を疑った。
「え? 船から船に船で移動するんですか?」
さんごさんは私の質問に当たり前のように答える。
「はい、この大陸船の北東側にある船の港から、周囲の島船に行くための船がいくつか出ているので、その中でモクボック船という島船に行く船を探してそれに乗るんです」
頭がおかしくなりそうだ。一つの文章に入れていい船の量を超えている。脳が理解を拒んでいる感じがする。
頭を抱える私を見て、めぐむが声をかけた。
「安心して。ぼくは割と理解できたと思うから、地図さえくれれば行けると思う」
そういってくれるととても助かる。
「もちろん地図なら渡す、安心しろ」
竹匡さんもそういって眼鏡をクイッとあげる。
すると、痺れを切らしたすあまちゃんが口を挟んだ。
「ねー! もー船の話はいいから、ドラゴンの話聞かせてよー!」
それを聞いて、国王の顔が先ほどまでの柔和な顔つきから一変する。
国王は竹匡さんに目で合図を送ると、竹匡さんがコクリと頷く。
「真ん中の、ほれ、金と赤のおぬし。おぬしがリーダーか? 少し立ってもらえるかの?」
国王に言われるがまま、りゅうま隊長は立ち上がる。
竹匡さんはゆっくりこちら歩いてくると、りゅうま隊長に一枚の丸まった古びた紙を手渡した。
「これを」
りゅうま隊長がその丸まった紙を開いて中を見る。私は立ち上がってりゅうま隊長の後ろからその中をのぞき込んだ。
「ドラゴンだ……」
私が呟くと、ほかのゴールドファイブの三人も次々立ち上がって私のさらに後ろからのぞき込む。
「わーーー!! カッコいい!!」
「これが伝説のドラゴンでござるか」
「なんかいかにもって感じだね」
そこに描かれたドラゴンは、体表に真っ赤な鱗がビッシリとついていて、背中には大きな翼を持ち、尻からは長く太い尻尾が伸び、頭に銀色の二本のツノが生えている。
ツノの形は少し変わっていて、昔テレビが地デジ化するときに流行った鹿のキャラクターみたいな、ちょっとギザギザの形をしている。
そして、そのドラゴンと向かい合うように、カラフルな五人の勇者とその後ろに巨大で五色に塗られた帆船も描かれている。
「ソイツが弩派手竜ドラゴーカイザー、略してドラゴカイザーだ。神話では太古の昔、五人の勇者が力を合わせて討ち倒したとされている」
国王がそう説明する。ドラゴーカイザーからドラゴカイザーって、あんまり略してないなと思う。
にしても五人の勇者……、なんだか少しゴールドファイブに似ている気がする。
ゴールドファイブをわざわざ呼んだのは、ゴールドファイブの姿が神話における五人の勇者と重なる部分があるからなのだろう。
国王はさらに説明を続ける。
「それが最近突然復活したのだ。ヤツは普段は人の居ないモクボック船を住処にしておるが、時々こちらの船に降りてきて町の人間を襲う。だからどうか倒して欲しいのだ」
国王はそういって自分のヒゲをいじくる。
「いつまでも話ばっかり聞いててもしょうがないし、そろそろ倒しに行こうよ。もう聞くこと聞いたしさ」
めぐむがそういってため息をついた。たしかに、こうしている間にもまたいつドラゴカイザーが来るか分からないのなら、出発は急いだ方がいいかもしれない。
りゅうま隊長はコクリと頷くと立ち上がって答えた。
「そうだな。よし、そろそろ出発しよう」
「港までの地図ならその紙の裏にメモしておいた。それを見て行くがよい」
国王が言った通り、りゅうま隊長が裏を見ると、たしかに隅っこの方に手書きの地図が描かれている。字も絵も上手い。これなら迷わず行けそうだ。
「では、行ってまいります」
りゅうま隊長がそういって、国王に背中を向けた。そのときだった。
「隙あり!」
さっきまで国王の横に居たはずのギンガさんが、突然剣を抜いて襲いかかってきた。
りゅうま隊長は咄嗟に腕を振り上げレッドに変身すると、すぐさま振り返ってゴールドソードでその剣を受け止める。
「なんの真似ですか! ギンガ!」
さんごさんが思わず立ち上がって怒鳴る。
「申し訳ありません国王。しかし、納得できないのです。なぜ王家直属の戦士である俺ではなく、どこの馬の骨とも知らぬ異界の戦士にこんなことを頼むのか」
驚いた。てっきりこの世界の戦士ではドラゴカイザーに歯が立たなかったから私たちにお願いしたんだと思っていた。
「口を慎めギンガ、それが我が国王の意思だ」
竹匡もそういってギンガに厳しい目を向ける。
「え……、竹匡が提案してきたのに……?」
国王がボソッと呟く。
「たとえ私の提案であっても、最終的な決断をしたのならそれは国王のご意思です」
竹匡さんは冷静に答える。
その問答の間も、レッドとギンガさんの剣は激しく競り合う。
「俺は誰よりも国王を愛している! 国王のためならなんだってする! 命だって捧げられる! お前にその覚悟はあるか!」
レッドはそれに対し、毅然とした態度で答えた。
「俺はどんな人間でも必ず守る! 正義のために命を懸けて! 少しでも多くの命を! それだけだ!」
そういうと、レッドはゴールドソードに力を込めて振り上げ、ギンガさんの剣をはじき飛ばした。飛ばされた剣がキーンという音を立て床に落ちる。
ギンガさんはそれを見てため息をつくと、深く頭を下げた。
「突然無礼なことをしてすまなかった。俺の剣に気づいて即座に受け止めるとは、その腕確かなようだな」
ギンガさんは頭を上げて、手をこちらに差し出す。
レッドは変身を解除して、その手をしっかりと握る。
「ゴールドファイブ、必ず勝てよ」
「あぁ、もちろん」
ギンガさんの言葉に、りゅうま隊長は力強く答える。
そうして、私たちがいよいよ今度こそドラゴン討伐に出発しようとしたそのとき、今度は城を支える柱の中の一本の裏から声が聞こえてきた。
「待ってよ」
すると、柱の裏から一人の男が顔を出した。男は身長こそ高いが、その顔立ちは幼い少年のようだ。マッシュルームヘアの銀髪で目は隠れている。
「あなたは……」
「旺成くん! 来てたんですね?」
私が喋ろうとしたのを遮って、さんごさんが男に声をかけた。とても嬉しそうな声色だ、仲が良いのだろうか。
「誰でござるか?」
いとしさんが尋ねる。
「湯浅座旺成くん、私の幼馴染でこの国一番のエンジニア。あのどこでもゲートを開発したのも、旺成くんなんですよ」
話しているさんごさんのテンションが全然違う。よほど仲がいいのか、それとも好きなのかは分からないが、全身からウキウキが溢れ出ているように見える。
「それで、なんで呼び止めたんですか?」
私が尋ねると、旺成さんは私の質問に答えるよりも前に、ポケットからスプレー缶を取り出してこちらに向けた。
次の瞬間、缶のノズルから勢いよくスプレーが噴出され私たち五人にかかる。
「ちょっ! なんですか! いきなり!」
「僕の発明、サンカットスプレー。この国に害虫や害獣は居ないけど、日光はあるからね。それも空飛ぶ船の上にある分、余計に日焼けしやすい」
旺成さんが答える。
「それを使えば、一週間は日焼けせずに済むんですよ!」
さんごさんも続けて説明してくれた。
「ねぇ、これかけられて大丈夫なの? 毒とかじゃない?」
めぐむが心配そうな表情を見せる。
すると、いとしさんは腕を振り上げてその場でゴールドチェンジした。
「ゴールドサーチ! ……問題ない、たしかにただの日焼け止めにござるよ」
「……あんま人を疑うなよ、失礼だよ」
イエローの言葉を聞いて、旺成さんが愚痴をこぼす。
イエローは申し訳なさそうに変身を解除する。
その後、旺成さんは私たちにスプレーするのを止めると、こちらを見て呟いた。
「さぁ、行きなよ。悪いドラゴンを退治してくるんだろ?」
「あっ、うん。ありがとう」
――こうして、私たちは今度こそ、国王やさんごさんたちに見送られながら城を後にした。
◇ ◆ ◇
〈一方その頃・元の世界〉
ゴールドベースのメインルームに戻ったこのボク、坂出いつきは、他の四人が異世界にドラゴンを倒しに行ったことを博士に報告した。
「……というわけで、ボク以外のみんなはそっちの世界に行ったからしばらく帰ってこないと思います」
博士はそれを聞いて答える。
「そうか、今話してみてもいいか?」
「話す? いや、だから今異世界に……」
ボクがそう言いかけると、博士がそれを遮った。
「もう忘れたのか? 前にデンデンくんとすあまちゃんがいつでも連絡できるように、異世界との通信機能をブレスに付けただろう?」
そういえば、この間の戦いでもデンデンちゃんと連絡を取ってキンピカオーの暴走を止めてもらっていた。
ボクは博士に言われるがまま、ブレスの通信ボタンを押す。
「もしもし。もしもーし! ……あれ?」
おかしい、なぜか全く繋がらない。まるでテレビの砂嵐のようなザーーーッといううるさい音に遮られ、何も聞こえない。
「馬鹿な。そんなはずはない。どんな次元、世界とでも通信できるようにしたはずだ。貸してみろ」
博士がボクの腕を掴んでグイッと引っ張り、ブレスを口元に近づける。
「もしもし! 聞こえるか! もしもーし!」
しかし、やはり返事がない。
「まさか、妨害電波……?」
博士が呟く。
なんだか嫌な予感がする。わざわざ妨害電波を出しているということは何か罠がある可能性が高い。みんなが危ない。
「博士、ボクもそっちの世界に行った方が……ほら、時空間移動ゲートを使って!」
デンデンちゃんたちの世界とを繋げるゲートの座標設定を変えれば、きっとあずきちゃんたちの居る世界へ行けるはずだ。
「無理だ! 次元の座標が分からない場所へは繋げられないんだ! 前のときはイエローのゴールドサーチによる分析データがあったから行けただけで……」
「そんな……」
――異世界に消えたゴールドファイブの仲間たち。果たして、彼らに待ち受ける運命とは……。
〈つづく〉




