事件7-1『THE VESSEL 空飛ぶ王国船(おうこくせん)』
ここは多くの人で賑わうはずの海水浴場。しかし今は誰もいない。
あちこちに浮き輪やパラソル、ビーチボールがそのままその場所に放置されている。つい先ほどまでここにはたくさんの人が居たが、みな逃げてしまったのだ。
今ここに居るのは、暴れ狂う怪人一匹とそれに向かい合う五人の戦士、そして、それを岩陰から見守る私一人だけである。
「現れたな! ドブネズミヒドーダ!」
ゴールドファイブのリーダー、ゴールドレッドが叫ぶ。
「ドブドブドブ! オデ、オマエ、タオス!」
目の前の怪人、ドブネズミヒドーダがそういって高らかに笑う。
「うわ! またネズミ……。勘弁してよ……、この間もネズミだったじゃん……」
ネズミ嫌いのグリーンが辟易した様子で呟く。
無理もない。ここ最近、ネズミヒドーダ、クマネズミヒドーダ、ハツカネズミヒドーダと、ネズミ怪人が続いているのだから。
「海水浴客を襲いクルシミウムを集めようなど、許しがたい蛮行! 拙者も戦おうぞ!」
イエローがそういってゴールドハンマーを構える。ゴールドファイブの他の四人もそれに合わせて、それぞれの武器を構えた。
「イケ、ヒレッツ! アイツラ、ヤレ! ドブ!」
すると怪人・ドブネズミヒドーダの影から、戦闘員・ヒレッツが次々と飛び出した、たくさんのヒレッツたちが一斉にゴールドファイブに襲いかかる。
ゴールドファイブはそれぞれの武器で襲い来るヒレッツに応戦する。
イエローがゴールドハンマーで地面を叩いて揺らし、ヒレッツたちが次々と転ぶ。そこをブルーがゴールドブラスターで撃ち抜いていく。
グリーンがゴールドアローでヒレッツたちの足の甲を撃ち抜いて地面に固定すると、ホワイトがゴールドクローでその身体を切り刻んでいく。
そうしてヒレッツたちが倒されていく中、レッドはドブネズミヒドーダに一目散に向かっていき、避ける隙も与えず腹部にゴールドソードで斬り掛かった。
「これで終わりだ! ゴールドスラッシュ!」
ドブネズミヒドーダが斬られた箇所を手で押さえながら海の方へ歩いていく。
「ヤラレタ……、ウミニ……、カエル……。……ドブー!」
その言葉とともにドブネズミヒドーダの身体は爆発した。
(ドブネズミは海に帰らないでしょ……)
ゴールドファイブの五人は、敵がやられたことを確認するとその場で変身を解き、レッドのいる場所へ集合する。
私も岩陰に隠れるのを止めて、レッドの方へ手を振って歩く。
「お疲れ様!」
私がそういうと、めぐむが疲れた声で返事をする。
「あーもうやだ……ネズミはもうこりごりだよ……」
「ネズミかわいいのに……」
すあまちゃんがポケットからネズミのぬいぐるみを取り出して、めぐむの前に差し出す。めぐむはすぐに目を瞑って顔を背ける。
「やめてよ! 勘弁して!」
「コラ、人が嫌がることをするんじゃない」
りゅうま隊長がピシャリと窘める。
そんな風に話していると、突然後ろから拍手する音と知らない女性の声が聞こえてきた。
「素晴らしい戦いっぷりでした! 流石はゴールドファイブ!」
私が驚いて後ろを振り向くと、セーラー服を着た二十代くらいに見える若い女性が立っていた。ゴールドファイブの五人も、すぐにその女性の方へ顔を向ける。
「すみません……、どなたですか?」
私がそう尋ねると目の前の女性はハッとした顔で拍手を止め、頭を下げた。
「すみません! 申し遅れました。私、ノア王国の王家に仕える占い師、九十九さんごと申します」
いつきがそれを聞いて首を傾げる。
「ノア王国……聞いたことが無いな……」
すあまちゃんもすぐ近くに居たいとしさんに尋ねる。
「どこにあるのー?」
「さぁ……拙者も初めて聞くでござる」
すると、さんごさんは元気のいい声で答えた。
「無理もありません。ノア王国は、こことは別な地球にある国なのですから」
「別な地球?」
別な地球というと、以前私たちの地球に、別の地球の魔法少女・江古田デンデンちゃんがやってきたことがある。今回も次元を超えてやってきたということだろうか。
「なぜ別な地球の人間が我々に会いに?」
りゅうま隊長が尋ねる。すると、さんごさんは悲しそうな顔をして叫んだ。
「実は……我々の王国を救ってほしいのです!」
「救う? どういうことですか?」
私が聞き返すと、さんごさんはなおも続けた。
「実は、我々の住むノア王国では、近頃ドラゴンが暴れて困っているのです」
ドラゴン。随分ファンタジーな話だが、既に魔法少女と出会っているし、いつも暴れる怪人の姿を見ているのであまりビックリしない。慣れとは怖いものだ。
「ドラゴンを倒せる者はいないかと占ったところ、水晶玉にあなた方ゴールドファイブの姿が映りました。ぜひ皆さんの力でドラゴンを討ち滅ぼしてはいただけないでしょうか」
さんごさんはそういって頭を下げる。
「どうしますか? りゅうま隊長」
たしかに、もしそれが本当なら助けてあげたい。だが、我々には自分たちの世界を守る使命がある。もし留守にしている間に怪人が襲ってきたら大変だ。
「ん……。しかし……、こちらの世界を放っておくわけには……」
りゅうま隊長が顔を顰めていると、みかねたいつきが口を挟んだ。
「だったらこちらの世界に残る一人をじゃんけんで決めるってのはどうだい? マキシマムガジェットがあれば一人でもある程度敵に対抗できるだろうし、何より困ってる人を見捨てるなんて、ヒーローらしくないよ」
いつきがそういって、マキシマムガジェットをズボンのポケットから取り出して見せる。
珍しくいつきがカッコいいことを言っているが、美人なさんごさんに良いところを見せたいだけだろう。
いつきはいつも美人を見るとあんな風にカッコつける。そのたびに、私の心はなんだかモヤモヤする。
「ねー! 行こうよ、ノア王国! ドラゴン退治、なんか楽しそう!」
「拙者も困っている人を見捨ててはおけないでござる」
「まぁ、ぼくもちょっと興味はあるけど……」
ほかの三人からも声があがる。それを聞いてりゅうま隊長も迷いが晴れたのか、キリッとした声で答えた。
「よし! ならば行ってみるとしよう。そのノア王国に」
「よし、ならば早速じゃんけんでござる!」
ゴールドファイブのみんなは五人で向かい合い、呼吸を合わせて同時に叫んだ。
「「「「「最初はゴールド! ジャンケンポン!」」」」」
叫ぶと同時に、一斉に手が出される。
りゅうま隊長、グー。
いとしさん、グー。
すあまちゃん、グー。
めぐむ、グー。
いつき……、チョキ。
それを見て、すあまちゃんがパァッと嬉しそうな顔をした。
「やったー! 勝ったー!」
「何でボクが! せっかくこんな可愛い女の子に出会えたのに……」
後ろの方で悔しがるいつきをよそに、他の四人はさんごさんの方へ向き直った。
「というわけで、我々ゴールドファイブが力を貸しましょう」
りゅうま隊長の言葉に、さんごさんが嬉しそうに答える。
「ありがとうございます! では、すぐに行きましょう」
「え? どうやってですか? こことは別な地球にあるんですよね?」
私は思わず尋ねる。よく考えたらそもそも彼女がどうやってここにきたのか、どうやってノア王国に行くのか、何も分からない。
「そんなときは……」
さんごさんは私のそういうと、セーラー服の胸ポケットから小さなドアのような形の機械を取り出した。
「どこでもゲート〜〜!」
なんかすごく怒られそうな名前の機械が出てきた。大丈夫なのだろうか。色んな意味で不安になる。
さんごさんがそれを地面に置くと、機械はみるみるうちに大きくなって、あっと言う間にドアになってしまった。
「これに入れば良いんですか?」
私が尋ねると、さんごさんはニッコリした様子で答えた。
「入る必要もないですよ」
「えっ、それってどういう……」
私がそう言いかけた、そのときだった。ドアが勝手にガチャリと開き、ものすごい勢いで私たちを吸い込み始めたのだ。
「うそ!?」
私たちはなんとか踏ん張ろうとするが、あまりにもすさまじい吸引力で、とても足で踏ん張れるようなものではない。
すあまちゃん、めぐむ、りゅうま隊長は、次々とゲートの中へ吸い込まれていく。
私はなんとか吸い込まれるギリギリのところで、どこでもゲートの縁を掴み耐える。
前を向くと、吸い込まれまいと地面を掴んで耐えるいとしさんのお尻が見える。
「みんなどうしたの!?」
いつきの声が聞こえる。どうやらいつきだけ吸い込まれていないらしい。
「なぜブルーの方だけ吸い込まれないか気になりますか? 先ほどブルーの方だけ留守番すると話されていましたので、ドアに搭載された人工頭脳が音声認識し、除外する設定に自動的にしてくれたんですよ」
さんごさんがそういって教えてくれる。が、今そんなことはどうでもいい。ちょっとぐらい心の準備をさせて欲しい。
「もう、駄目……!」
ついに私も、ゲートの中へ吸い込まれてしまった。
「いつき殿〜〜! 現場調査も含めて、後のことは頼んだでござる〜〜!」
後ろから、いとしさんの叫び声も聞こえる。おそらく私に続いて吸い込まれてきたのだろう。
ドアの中はまるで、アニメでタイムマシンに乗っているときに通る道のような不思議な空間だった。私たちはその中を、とんでもないスピードで進んでいく。
さながら気分は掃除機に吸われたゴミの気分だ。
◇ ◆ ◇
「痛っ!」
数分経った頃、私たちの身体は思いっきりふっ飛ばされて、どこかの地面に打ちつけられた。目の前には、先にドアに吸い込まれた三人が、痛そうに身体を押さえてうずくまっている。
私は打ちどころが良かったのか、うずくまるほどの痛さでは無かったので、ゆっくり立ち上がって後ろを見る。
同じように吸い込まれたいとしさんがドアから飛び出してきて、私の目の前の地面に転がってきた。
その奥から飛び出してきたさんごさんは慣れているのか、シュタッとドアの前の地面に、体操選手のように綺麗に着地してみせる。
「みんな、大丈夫?」
私が声をかけると、寝転がっていた他の四人も立ち上がる。
「痛ーい! 頭ぶつけたー!」
「乱暴だなぁ……」
「もう少し準備したかったのだが……」
「拙者もビックリでござるよ……」
口々に文句をいう四人を見てさんごさんは答えた。
「申し訳ありません。つい焦ってしまって」
それほどまでにドラゴンを倒すことは急を要するのだろうか。
「ここがノア王国……?」
私はキョロキョロとあたりを見回す。
石畳の地面の広場。
その先、遠くの方には石やレンガで出来た家が立ち並ぶ。家の色は赤やオレンジ、青などとりどりで、まるで戦隊のようにカラフルだ。
そこで暮らしているであろう人々は、男も女もさんごさん同様みんなセーラー服を着ていて、ちょっとだけ昔通っていた女子校を思い出す。
さらに遠くには大きなレンガ造りの城が見え、その屋根の上には帆船のマークが描かれた旗が立っている。ノア王国の国旗だろうか?
頬を撫でる風がとても心地良く、人々も幸せそうな町だ。
しかし、私はどこか違和感を感じた。
「なんか、この地面揺れてない?」
決して地震のような揺れでは無い。もっとゆったりとした、乗り物に乗っているような揺れだ。それをこの地面に立っていると、常に感じるのである。
「それになんか、酸素が薄いような……」
たしかにめぐむの言うとおり、地上にいるはずなのに、まるで山の上にいるかのように酸素が薄く感じられる。なんとも不思議だ。
「みんな! 上見て! 上!」
すあまちゃんの声を聞いて、私たちは一斉に空を見あげた。そして、その光景に驚愕した。
なんと、空中に何隻もの帆船が浮かんでいるではないか。
私はさんごさんに尋ねる。
「さんごさん、これはいったい?」
私が尋ねると、さんごさんは笑って答えた。
「あぁ、あれも我が国、ノア王国の領土ですよ、もちろんこの船も」
「……え? 船?」
私がキョトンとすると、さんごさんもキョトンとした顔をし返した。
「あれ? もしかして言ってませんでしたか?」
さんごさんはそういうと、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
写真には海の上に浮かぶ木製の帆船が写っていた。
といっても海に直接プカプカ浮かんでいるのではなく、その上空を浮かんでいるのだ。
船には大きな帆が張られているが、目を凝らさないと分からないほどに透明で、日の光をよく通しそうだ。
かなり遠景で撮られているのに、船の全体像が完全には写っていないことからその大きさが伺える。
そして、その船の上には沢山の建造物が立ち並んで見えた。
「これが今いる場所。ノア王国は空を飛ぶ船の王国なんですよ」
それを聞いて私たちは思わず叫んだ。
「「「「え……え〜〜〜〜!?」」」」
〈つづく〉




