事件6-5『白銀の正体』
〈前回のあらすじ〉
太郎さんの遺書に隠された秘密とは……!?
真実が解き明かされるとき、白銀の正体も明らかになる!
あれから、最初にネズミヒドーダが現れてから四日ほど経った今日。遂にふたたびネズミヒドーダがリベンジを仕掛けてきた。だが、今回は前回とは違う。
「ヂュ〜〜〜〜!!!」
甲高い叫び声がビル街にこだまする。
全高五〇メートルの巨躯を手に入れたネズミヒドーダが、足元の車や街路樹を踏みつぶしながら歩いていく。
どうやらビッグソーダを飲んで巨大化したらしい。
私はそれを少し離れたビルの屋上から眺める。その後ろですあまちゃんも険しい表情で敵を見据えている。
「やっぱり予想通り巨大化してきた……」
ネズミヒドーダの狙いは分かりきっている。こちらのロボット、キンピカオーを操ることだ。
やつの腕についたアクセサリーのどれかには、おそらくシルバーキラーと同じ機械を操る力が備えられている。
キンピカオーがこの間のトラックのように暴走すれば、被害は甚大だ。
「そろそろだよ、いける?」
私が後ろにいるすあまちゃんに話しかける。
「うん! だいじょぶ! ……ゴールドチェンジ!」
背中越しに変身音が聞こえた。すあまちゃんがゴールドホワイトに変わったのだろう。
私はそれを聞くなり、ブレスの通信ボタンを押した。
「準備整いました! 来てください」
「了解! これより作戦を開始する!」
りゅうま隊長の声がブレスから聞こえると、ドシンドシンという足音が聞こえてきた。
そしてネズミヒドーダの方へ、前からキンピカオーが歩いてきたのである。
キンピカオーとネズミヒドーダはお互いに相手の目の前で立ち止まると、黙って見つめ合う。
ネズミヒドーダはニヤリと笑った。
「ヂュヂュヂュ! このときを待っていたヂュー!」
ネズミヒドーダが右腕を前に突き出す。すると、ネズミヒドーダの右腕が眩く光り出す。
「さぁ、暴走して町を破壊するヂュー! キンピカオー!」
……しかし、目の前のキンピカオーは微動だにしない。
「ん? どうしたヂュー! なんで暴れ出さないヂュー!」
ネズミヒドーダは自分の右腕についた大量のアクセサリーの中にある、銀色のブレスレットを左手でコツコツ叩き始めた。
「叩けば直るヂュー? クソッ、あのシルバー野郎の説明もっとちゃんと聞いとけば良かったヂュー!」
私は自分のブレスに叫んだ。
「隊長、今です!」
すると、私のその声とともに、ネズミヒドーダの真横にもう一体のキンピカオーが現れた。
キンピカオーはネズミヒドーダの右腕についたブレスを掴むと、そのまま引きちぎり握り潰す。
「どういうことヂュー!? キンピカオーは今そこに……!」
ネズミヒドーダが目の前を見る。が、そこに立っていたはずのキンピカオーの姿は既に無い。
そう、ネズミヒドーダの前にいたキンピカオーはゴールドホワイトの能力で映し出された立体映像だったのである。
「あー! 疲れたー! ゴールドビジョン、けっこう体力使うんだよー! もー!!」
後ろを振り返ると、ゴールドホワイトが近くに置いていた椅子に座っている。よほど疲れたのだろう。
「あーもう、ネズミ気持ち悪い! とっとと倒そうよ!」
ブレスからめぐむの声が聞こえる。そういえばネズミ嫌いだった。ロボ越しでもやはり嫌なものは嫌らしい。
「ではさっさと倒すでござる!」
「ボクたちの復帰試合! サクッと終わらせるよ!」
ほかの二人もロボットの中から威勢よく叫ぶ。めぐむだけではない、遂にゴールドファイブが全員戦線に復帰したのだ。
そうしてキンピカオーの猛攻が始まった。激しい一方的なパンチのラッシュにネズミヒドーダはなすすべなくその場に倒れる。
「ヂュ……ヂュヂュ……」
ネズミヒドーダは、近くのビルに捕まり、なんとか立ち上がろうとする。しかし、立ち上がったところでもう遅い。
「大金剣!」
りゅうま隊長の叫びとともに、キンピカオーの手中に真っ金金の大剣が出現した。
「「「「超金星! ヴィーナスターブレイク!」」」」
キンピカオーは大剣を振り下ろし、立ち上がろうとしていたネズミヒドーダを真っ二つにしてしまった。
「ヂュヂュヂュ〜〜! 窮鼠戦隊を噛めなかったヂュ〜!」
その断末魔とともに、ネズミヒドーダは爆発四散した。
「よく倒せたな、ゴールドファイブ。まぁ、あれくらいはできて当然か」
聞き覚えのある声。見ると、私とすあまちゃんの目の前にはあの、シルバーキラーの姿があった。
座っていたすあまちゃんも、すぐに立ち上がって武器・ゴールドクローを構える。
「あなたがネズミヒドーダにあの機械を渡したのね……! なんのためにそんなことを!」
「テストだよ。俺の作った発明が今度はちゃんと動くかどうかのな。それに、せっかくならたくさんの人を苦しめた方が面白いだろ」
そういってシルバーキラーは、自分の右腕についたブレスをこちらに見せてきた。
「面白くない! だいたい、『今度は』って何……どういう意味!?」
すあまちゃんが尋ねる。するとシルバーキラーは笑いながら答えた。
「前にテストしたときはうまくコントロールできなくて、結局二人しか殺せなかったからな……、まぁお前らにはなんの話か分からねーか」
シルバーキラーが、そういって鼻で笑う。どうせ何のことか分からないと思ってこちらをからかっているのだ。
――私が既に証拠も掴んで、シルバーキラーの正体に気づいているとも知らずに。
「分かるよ。あのトラックの暴走事件、やっぱり犯人はあなただったんだ。テストとは機械を暴走させる装置のテストのこと」
私の言葉を聞いて、シルバーキラーが驚いた様子を見せる。
「何? なぜそれを、まぁいい。どうせ逮捕なんかできないだろ」
やっぱりそうだ。すあまちゃんの両親を殺したのは、コイツだったんだ。
「お前が……お前が!」
「待って! ホワイト!」
今にも飛びかかっていきそうなホワイトを、私は制止した。ホワイトが顔をこちらに向ける。
「なんでよ!」
「やつの口から事件の全容を聞きたいの。すあまちゃんも知りたいでしょ?」
ホワイトは腕を降ろし、俯いてその場でため息をつく。
「……分かった。ちょっとだけ待つ」
すあまちゃんからの許可を得た私は、改めてシルバーキラーを問いただした。
「あなたは今、『どうせ逮捕なんかできない』って言ったけど、なんでそう思うの?」
するとシルバーキラーが更に笑う。
「だってそうだろう。あの事件の犯人がこの俺シルバーキラーと分かったところで、そのシルバーキラーの正体が分からなければどうしようもない」
私はそういって余裕こいているシルバーキラーを睨んで答えた。
「正体なら分かってるよ……阿波連暴人でしょ」
それを聞いて、シルバーキラーの動きがピクッと止まった。
「何……?」
「あなたが弟を自殺に見せかけ殺害、そしてシルバーキラーシステムを奪ったのよ!」
それを聞いて、シルバーキラーはため息をつく。
「あぁ、たしかに俺はシルバーキラーシステムを奪った。そうでなきゃ今こうして変身できないからな。だが、だからって正体を身内って決めつけるのはどうかと思うぜ。それにアイツの自殺が見せかけ? 遺書があったのにか?」
シルバーキラーはなおも続ける。
「真実を教えてやる。俺はアイツの研究を噂で聞いて、アイツが自殺する前にパソコンをハッキングして奪っておいたんだ。そのあと自殺したのは知らねぇよ」
よくもまぁそんな嘘をペラペラと喋れたものだ。当時シルバーキラーの研究を知っていたのは博士と身内だけで、噂が流れているはずも無いし、ハッキングだってされていない。
もしものときのために言い訳を用意していたのだろうが、もはやそんな言い訳にはなんの意味もない。
「だいたい遺書を筆跡鑑定したんじゃねぇのかよ。直筆だって分かっただろ。筆跡は偽造なんかできない。アイツは自殺したんだよ」
その言葉を聞いて私は思わずニヤリと笑ってしまった。その遺書こそが、シルバーキラーの正体を裏付ける決定的な証拠なのだから。
「そう、筆跡は簡単に誤魔化せない。真似ようとしても、結局はバレてしまう。でも、鑑定するために用意された資料が、最初から本人のものでは無いとしたら?」
私はポケットから一枚の紙を取り出し見せつけた。
「これを見なさい! この、改めて遺書を鑑定した結果を!」
そこには昨日改めて鑑定してもらった結果が書かれている。
遺書の筆跡が、太郎さん本人のものでは無かったという結果が。
「なぜだ! なぜ違う結果が出た! じゃあ一回目の結果は!」
「とぼけないで! 一回目の鑑定に使った資料は、全てあなたが用意した偽の資料でしょ。あなたは弟の部屋の鍵を盗み家に潜入、そこにある太郎さんの直筆の字が書かれたものを全て処分して、自分の字で書いたものとすり替えた!」
そう、太郎さんは元々実家が火事で燃えて、筆跡鑑定に使える資料が失われてしまっていた。
そのため、使えるのは研究室にある資料と、自宅にある資料のみ。
研究室にある資料を全て処分して遺書を残し、そのあと自宅の資料を自分で作った偽の資料とすり替えれば、太郎さんの本当の筆跡が分かるものは全て無くなり、暴人の筆跡を太郎さんのものと勘違いすると考えたのである。
「か、仮にそうだとして! その鑑定結果はどうやって出した? ほかの資料があったとでもいうのか?」
私はその質問を待ってましたとばかりに、ハッキリとした声で答えた。
「年賀状よ! 太郎さんと友達の小暮博士は、毎年年賀状を送りあう仲だった。そしてそのときの年賀状に太郎さんの筆跡が残っていた!」
博士が馬耳の娘とウミウシを見て、年賀状のことを思い出してくれたのだ。どれだけメールが発達した現代でも、年賀状や特別なメッセージは直筆の手紙で書く人が多い。
直筆の字には、その人の温かな気持ちがこもるからである。
私の推理を聞いたシルバーキラーが声を荒げて問いただす。
「だ、だが、遺書が太郎のものじゃないとしても、この俺の正体が暴人だという証拠はないはずだ!」
私はそれを聞くと、すぐにもう一枚の紙を出して見せた。
「いいえあるわ! あなたの筆跡と遺書の筆跡が一致したという鑑定結果も出ている! もう観念しなさい!」
私が見せた紙には、たしかに太郎さんの遺書の筆跡と、暴人の筆跡が一致したという鑑定結果が書かれていた。
「なんだと!? それはどうやって鑑定した! 俺の筆跡が残った資料なんて! ……待て、その後ろの椅子! まさか!」
シルバーキラーがホワイトが先ほどまで座っていた一脚の椅子を指差す。
「そう、あなたがノーベル賞を取ったときにサインしたノーベル博物館のカフェの椅子。その筆跡から筆跡鑑定ができたのよ!」
歴代のノーベル賞受賞者はノーベル博物館のカフェにある椅子の裏にサインを書くという習わしがある。
ノーベル賞を受賞していた阿波連暴人のサインもそこに残されていた。それをわざわざ取り寄せたのである。
実家が燃えて、自分の研究資料も自分で管理や処分をしているから筆跡は残っていないと思ったのだろうが、流石にカフェの椅子を処分は出来なかった。
筆跡鑑定の結果、ノーベル博物館の椅子にサインされた「阿波連暴人」の文字と、遺書に書かれた「阿波連太郎」の文字、その名字の書き方が完全に一致していたというわけだ。
「なんで……なんでそんなことしたの!」
すあまちゃんが声を荒げて叫ぶ。自分の親の仇の正体が分かり、今にも冷静さを失いそうだ。
シルバーキラーは変身を解除し、遂にその素顔を露わにした。
銀色のコートに銀色のズボン、インナーまで銀色な銀ピカコーデに長髪の黒髪がよく映える。見た目も、およそ三〇代とは思えないほど若々しい。
「許せなかったんだよ。弟が俺を超えるのが……」
すると暴人は、屋上の淵にある手すりの方まで歩いていき、空を見上げた。
「俺は今まで、どんなときでも常に百点の人生を送ってきた。常に弟に勝ち続け、世界に勝ち続け、負けのない完璧な人生。それが俺の誇りだった……それなのに!」
暴人は手すりを拳で叩いて怒りを露わにする。
「俺がノーベル賞を取った数年後だ! アイツは俺にメールで、新しい遺跡の発見と、人間に超人的な力を与えるシルバーキラーシステムの設計図を自慢してきた。まだ開発途中だったが、それでも俺には分かった。あれは俺の頭脳を超えた発明だと!」
太郎からのメールが届いたということは、暴人は失踪した後も連絡先を変えずにいたらしい。
なぜ失踪したのだろう。シルバーキラーの正体が分かったは良いものの、まだ謎が残る。
私がそんなことを考えていると暴人はこちらへ向き直り、更に大声で叫んだ。
「俺は許せなかった! 兄である俺を、弟が超えていいはずがない! だから殺してシステムを奪った! そうすれば、シルバーキラーも俺のものだ!」
私はそれに思わず反論する。
「違う! 太郎さんはあなたを超えたかったんじゃない! 認められたかったの! あなたを尊敬していたから!」
すると、暴人は更に激昂し、じだんだを踏んだ。
「どっちでも同じだ! 俺は常に弟より上なんだ! だから弟を殺した! 俺の両親を燃やしたのも俺だ! 実家に火をつけて、弟の直筆の字を燃やすのと一緒にな!」
「え……? 自分の両親も!? なんで!?」
ホワイトがドン引きして思わず後退りする。自分の両親の命を奪うということが、すあまちゃんには理解できなかったのだ。
「これでようやく一番になれたと思ったのに……今度はゴールドファイブとかいうパチモンが出てきやがった。気に食わねぇ! だから俺がお前ら全員潰して、俺の方が上だって証明するんだよ!」
すると暴人は、右腕についた銀色のブレスを思いっきり振り上げた。
「シルバーチェンジ!」
その叫びとともに、暴人の姿がシルバーキラーへと変わるのであった……。
〈つづく〉




