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戦隊捜査官の事件簿 〜戦隊さん、その事件の犯人、怪人じゃないかもしれません!〜  作者: サイトーアツシ
事件6「過去の事件には秘密があったのかもしれません」

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事件6-4『ナメんな鑑定人』

〈前回までのあらすじ〉


シルバーキラーの正体が何者なのか……それを解く鍵が太郎さんの遺書にあると読んだあずきは、さらなる捜査を開始する。

 私は遺書の秘密を探るべく、当時太郎(たろう)さんの遺書の筆跡鑑定をした鑑定士、真影(まかげ)(つるぎ)さんの自宅前までやってきた。


 前に研究所内で起きた殺人事件で、おまんじゅうの箱に書かれた字を筆跡鑑定してもらったのもこの人だ。


 あのときはバリアが張られ研究所から出ることが出来なかったため、資料のデータを送って筆跡鑑定してもらった。


 通常なら時間がかかることもある筆跡鑑定だが、この(つるぎ)さんに頼めば、ほぼ全て半日で鑑定できてしまうというほどの、超腕利きの鑑定士である。


 家のインターホンを鳴らすと、若い男の声が聞こえてきた。


「鍵開いてるから、部屋まで入ってきて。一番奥の部屋ね。入れば分かるから」


 そう言われ、そのまま足を踏み入れる。


 そうして部屋まで辿り着きドアを開けると、部屋の隅にある椅子に腰掛ける黒縁眼鏡の男が座っていた。年齢は二十代前半くらいに見える。


 おそらく彼が(つるぎ)さんだ。


 彼の座る椅子の前にはアンティーク調のカウンターテーブルがあり、ノートパソコンと何枚かの紙の資料が乱雑に置かれている。


 部屋全体は壁際にもどこにも、まるで図書館のようにあちこち本棚が並べられ、その本棚一つ一つに、専門的な資料や何かのファイルが綺麗に収納されていた。


 (つるぎ)さんはカウンターテーブルに頬杖をついて、ジト目でこちらを見つめてきた。


「あなたが真影(まかげ)(つるぎ)さんですね?」


「は? 違うけど」


 え? 家を間違えたか? 私が焦って冷や汗をかいていると、男がため息をついた。


「……たく、冗談通じねぇな。嘘だよ嘘。俺、嘘つきだからさ」


 そういって男がニヤリと笑う。嘘つきの筆跡鑑定、あんまり信用できないなと少し思ってしまう。


「で、何の用だっけ?」


「メールで先にお伝えしていましたが、三年前の太郎(たろう)さんの遺書の件で……」


「知らねーよ」


 私が全てを言い切る前に、(つるぎ)さんがその言葉で遮った。


「あのさ、俺が今までいくつ仕事受けたと思ってんの? そこの本棚に並んでるファイル、全部今まで俺が受けた仕事をまとめたやつだよ」


 そう言って男は壁際の本棚を指差す。本棚には年号と〈あ〜か〉〈か〜け〉などが書かれた分厚いクリアーファイルが、その年号とあいうえおの順でビッシリ並んでいる。


「だいたいね、筆跡鑑定を今さら調べ直したって意味ないよ。俺は嘘つきだけど筆跡鑑定は嘘をつかないんだ。あんた、筆跡鑑定ってどうやってるか分かる?」


 (つるぎ)さんが苛ついた様子で、机を指でトントン叩き始める。鑑定の不備を疑われて腹を立てているのだろう。


 (つるぎ)さんはなおも話を続ける。


「単に目で見て似てる似てないって話じゃないの。鑑定したい資料と、その人が書いた別な文字の書かれた資料を用意して、それをデータ化。筆圧とか字形とかをデジタルな数値として比べたりもするの」


 たしかに、前の研究所の事件のときも、筆跡鑑定を頼んだら「単に画像だけじゃなく筆圧なども分かるデータを送ってくれ」と言われた。

 さいわい研究所にその設備があったから良かったものの、めんどくさいなと思ったことを覚えている。


「確認するのはそれだけじゃない、その人特有の癖とか、真似しようとして文字が震えてるかどうかとか、そういうところまでハッキリと分かるんだ。だからミスなんて絶対ないの」


「でも、何か……」


 私は申し訳無さを感じながらも食い下がる。ここで何かを掴めなければ、白銀(シルバー)の正体を一生掴めない気がしたのだ。


 (つるぎ)さんはいつまでも帰らない私を見ると大きなため息をついた。


「あー、もう、分かったよ。じゃあそこにある二〇✕✕年の〈あ〜か〉の資料取って」


 私はキョロキョロと見回し、その資料を探す。


「違う、そこだよ。分かんだろ」


 そういって(つるぎ)さんは目で合図を送る。視線の先、壁際の棚の一番上の方にあるファイルには、たしかに『二〇✕✕年〈あ〜か〉』と書かれている。


 私はそのファイルを手に取ると、(つるぎ)さんに手渡した。


 (つるぎ)さんはパラパラとそのファイルをめくり、中の資料に目を通していく。


「えーとどれどれ、あーこれか? あー思い出した。この事件か」


 そういって彼が開いたページには、太郎(たろう)さんの顔写真、遺書の写し、鑑定についての情報が細かく書かれた資料が、全て一纏めにしてクリアーファイルのポケットに入れられていた。


「何か思い出したんですか? ぜひなんでも話してください!」


 私が食い気味に尋ねる。


「落ち着けよ……。まぁでも、この時は印象的だったから覚えてるよ。こいつ全然鑑定に使えるサンプルの資料が無くて困ったんだ」


「資料が……無い?」


「そそ、筆跡鑑定にはいくつか、文字のサンプルとして使える資料が必要なんだけど、こいつ実家は焼失してるし、研究資料とかは全部処分されてるし、ほとんど直筆のものが残ってなかったんだよ」


 そういえば、遺書にもそんなことが書かれていたと聞いた。太郎(たろう)さんが亡くなる半年前に実家が焼失し、両親を失い、研究資料は処分したと……。


「まぁ結局、本人が生前住んでたアパートの部屋に残ってた数少ない資料から鑑定したんだけどさ。あれは大変だったな……」


 そのとき、私の脳内にある仮説が生まれた。私は改めて尋ねる。


「それ以外の資料は使っていないんですね? アパートにあった資料以外は」


「ん? なんだよ。そう言ってるだろ」


 (つるぎ)さんが怪訝な顔をする。私の質問の意図が分からず困惑しているのだろう。


「すみません、今日はもう帰ります。サンプルの資料を集めたら鑑定をお願いするので! 待っててください」


 私の仮説を確かめるためには太郎(たろう)さんの遺書に加えて、二種類のもの用意する必要がある。


 私はすぐに(つるぎ)さんに背を向け、早足で歩き始める。


「え? なんの鑑定だよ! おい! 待てって! おい!」


 私は背中越しに(つるぎ)さんの声を聞きながら、その家を後にした。


   ◇   ◆   ◇


 私がゴールドベースのメインルームに着くと、そこにはめぐむの姿があった。一人椅子に座って、目の前の巨大モニターでゲームをしている。


「あれ? もう傷は大丈夫なの?」


 私の声に気づくと、めぐむがゲームをポーズ画面にして答えた。


「あぁ、居たんだ。気づかなかった。身体のことなら医者がもう大丈夫だってさ。まだ完全に直ったわけじゃないけど、だいぶ良くなってきたって。ほかの二人も宿舎に戻ってるよ」


 シルバーキラーにやられていとしさん、いつき、めぐむの三人は相当なダメージを受けたはず。それなのにもう回復してるなんて、流石はゴールドベースの医療設備だ。


「そうなんだ、良かった。それより、博士知らない?」


 私の仮説を確かめるための資料を持っているとしたら、それは博士しかいない。


「博士……? 知らないけど……、たぶん研究室じゃない?」


「すあまちゃんと一緒じゃないの?」


 てっきり私は博士とすあまちゃんが遊んでいると思っていた。


「あぁ、すあまちゃんはさっきいとしと二人でウミウシごっこしてたよ」


「ウミウシごっこ?」


 ウミウシごっこはよく分からないが、すあまちゃんが元気になったようで何よりだ。水族館に行って思いっきり楽しんできたのだろう。


「……んで、そろそろゲーム戻っていいかな」


「あぁごめん、どうぞ」


 めぐむが少し不機嫌そうな表情を見せる。めぐむは自分の時間を邪魔されるのが一番嫌いなのだ。だったらメインルームでゲームしなければいいのに。


 そう思って、私はゲーム画面を見てみた。ゲーム画面では動物の耳が生えたスレンダーな水着の女の子たちがプールを全速力で泳いで競走している。


「……えっ、これ何のゲーム」


「知らない? 『馬スイム』。馬の女の子を泳がせるゲーム。一時期すごい流行ったんだけど」


 全然知らない。馬の女の子ってなんだ。それは人間なのか馬なのかどっちなんだ。めぐむの趣味はよく分からない。


「なんでそんな変なゲームを……?」


「推しの配信者が配信でやってたゲームは、全部やることにしてるんだ」


 それはちょっと引いてしまう。それほどまでに推しているのか。


「あっ、てか、そんなこと話してるんじゃ無かった! 研究室に行かなきゃ!」


 私は急いでメインルームを飛び出し、研究室に向かった。


   ◇   ◆   ◇


 研究室に着くと、博士が椅子に座ってコーヒーを啜りながら、何やら机に置かれたノートパソコンとにらめっこしていた。どうやらシルバーキラーの映像を見ながら、その戦闘力の詳しい分析をしていたようだ。


 私はそんな博士に、ある二種類の資料を持っていないか尋ねた。


「――というわけで、その二種類の資料が欲しいんですけど……」


 博士は険しい表情で答える。


「んー、片方の資料は在り処を知ってるから用意できるが、自宅アパートにあったもの以外の太郎(たろう)くんの直筆の資料と言われても……。そもそも当時だって見つからなかったんだろう?」


 そう。その資料の一つは、アパートにあったもの以外の太郎(たろう)さん直筆の資料。私にはそれがどうしても欲しかった。


「何か無いですか……? 同じ研究者なら何かやり取りしてたりとか……」


「いまどきはレポートを書くのも書類を纏めるのも、全部パソコンだからな……。たまに咄嗟のひらめきをメモ書きすることはあるが、当時の研究資料は本人が処分したし……」


 博士がそういって、研究室をキョロキョロと眺める。私も同じように研究室をキョロキョロ見回してみる。


 あちこち見回していると、奥の棚に置かれたアクリルスタンドとその横に置かれたぬいぐるみが目にとまった。


「あれ……、さっきのゲームに映ってた娘……?」


 馬耳をつけた女の子のアクリルスタンドが、棚の実験器具の横に飾られている。


「あー、年のはじめにめぐむから貰ったんだよ。布教活動の一環……らしいが、私にはよく分からん」


 私にも分からない。


「その横のウミウシのぬいぐるみは水族館で買ったんですか?」


 私が指差して尋ねる。黄褐色の体に白色と濃褐色の斑点を持つ、あまり見かけない色のウミウシだ。


「あぁ、すあまちゃんがウミウシを偉く気に入ってな。珍しいデザインだろう? なんでもネズミウミウシって種類らしい」


 そういえばさっきウミウシごっこがどうとか言っていた気がする。


 正直私としては、ネズミヒドーダが暴れている今あんまりネズミと名のつくモノの話は聞きたくないが、すあまちゃんはそういうのは気にしないらしい。


「しかし、馬の娘とネズミみたいなウミウシとは、我ながら妙な組み合わせだ、馬に鼠に牛……」


 そのとき、博士の顔色が急に変わった。


「そうだ! 思い出した!」


 博士が急に大声をあげて手を叩く。


「あるぞ! 私が唯一持っている、太郎(たろう)くんの直筆の資料!」


 ――後日、私は手に入れた二種類の資料を持って、ふたたび(つるぎ)さんの家を訪ねた。


 そして(つるぎ)さんに鑑定を依頼したのである。


〈つづく〉

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