事件6-2『憎い仇のトラック』
〈前回までのあらすじ〉
シルバーキラー、それは小暮イヴ博士と仲の良い阿波連太郎という男の開発していた変身システムだった。
しかし、彼は開発途中で自ら命を絶ち、研究の資料も処分されたという。
いったいなぜ、シルバーキラーは甦ったのか……。
ここはゴールドベースのメインルーム。
すあまちゃんは学校の宿題を終わらせるため博士と一緒に宿舎に戻り、りゅうま隊長はトレーニングルームへ行き、今ここには私、綾川あずきがただ一人。
椅子に座って、机に肘をついて、ため息をつく。
博士からシルバーキラーについての話を聞いて、その正体について考えていた。
シルバーキラーに関する情報が既に処分された今、その存在を知るものはほとんどいない。もしいるとしたら、それは亡くなった阿波連太郎の関係者か、もしくは太郎本人その人だ。しかし……。
「太郎さんなわけ、無いもんな……」
一人でボソリと呟いたそのとき、けたたましいサイレンが、ゴールドベース全体に鳴り響いた。
天井がパカっと開き、そこからゆっくりとパトランプのような赤いランプが顔を出す。
ランプは金色の部屋全体を、真っ赤に染め上げた。
間違いない怪人発生の合図だ。
私の腕についたブレスから声がした。りゅうま隊長の声だ。
「エリアBB-G48に怪人出現! すぐに来てくれ!」
◇ ◆ ◇
街がオレンジに染まる夕暮れ時。高速道路脇、サービスエリアの広い駐車場。たくさんの車が止まっているその中に、怪人の姿が見える。
妙なことに怪人はまだ暴れてはおらず、周囲をキョロキョロとして何かを探しているようだ。
りゅうま隊長とすあまちゃんが駆けつけ、そんな怪人の背後に並び立つ。
その後に続いて、私も駆けつける。そしてサッと、すぐ近くに停まっていた赤い車の陰に隠れた。
「そこで何をしている! ヒドーダ怪人!」
怪人は声に気づいて顔をこちらを向ける。
怪人は灰色の体に大きな耳を持ち、顔はとんがっていて、ヒゲが生えていた。
……ん? なんかこの特徴、ちょっとデジャヴを感じる。
すあまちゃんがそんな怪人の姿を見て叫んだ。
「あれ! モグラさん!?」
そうだ。思い出した。やつは以前ゴールドファイブが倒したはずのモグラヒドーダにそっくりだ。
違うところといえば茶色ではなく灰色なこと、大きな爪がなく小さな四本指の手になっていること、なぜか両腕にブレスレットやネックレスなどのアクセサリーをジャラジャラ付けていることくらいだ。
「モグラヒドーダ……! 貴様、なぜ甦った!」
りゅうま隊長も怪人を指さして叫ぶ。
するとモグラヒドーダは、首を傾げて答えた。
「……何言ってるチュー?」
「とぼけるな! なんど甦ろうとも、このゴールドファイブが相手になるぞ! モグラヒドーダ!」
するとモグラヒドーダは、足をジタバタして怒り出した。
「なーにがモグラチュー! どこどう見てもネズミヒドーダチュー! お前らの目は節穴チュー!?」
すあまちゃんが怒る怪人に、不思議そうに尋ねる。
「えー、でもおっきな耳ついてるよ」
「モグラの耳見えないチュー! 動物図鑑見てみろチュー!」
たしかに、彼の言うとおりモグラに耳は無い。ちなみに、実はそんなに耳の大きいネズミも種類は多くない。
オオミミトビネズミなどはかなり大きいが。
「どうやら、今回は本当にネズミらしいな……」
りゅうま隊長が指さした手を下ろし、不思議そうに怪人を見つめる。
「モグラでもネズミでも、悪いヤツはやっつける! ゴールドチェンジ!」
そう言うと、すあまちゃんの姿がゴールドホワイトに変身した。
「ああ、俺も行くぞ! ゴールドチェンジ!」
それに続いて、りゅうま隊長もゴールドレッドに変わる。
変身した二人の姿を見て、突然モグラ……、じゃなかった。ネズミヒドーダがチューチューと笑い出した。
「チュッチュッチュッ、このときを待っていたチュー! 俺様は貴様らを倒すために現れたチューからね!」
なるほど。いつもは好き勝手に暴れるヒドーダ怪人が、今日はなぜか暴れずに駐車場の真ん中で何かを待っている様子だったが、ゴールドファイブのことを待っていたからだったのか。
……? いや、だったらなおさら暴れた方がすぐに駆けつけてくれるのでは?
車を破壊したり、分かりやすい被害を出せば、もっと早くに通報されるし、クルシミウムも集められる。
わざわざこんなサービスエリアの駐車場に呼び出す意味も分からない。
そんなことを考えていると、モグ……、ネズミヒドーダが右腕を胸の前に突き出し叫んだ。
「見よ! 俺様の新しい能力!」
腕が桃色の光を放つ。
「いったい何を……ひゃっ!」
すると次の瞬間、突然私が身を潜めるのに使っていた赤い車が勝手に走り出した。私は驚いて、思わずニ、三歩後ろに下がる。
赤い車はバチバチと静電気のような桃色の妖光を纏って、レッドとホワイト目掛けて一直線に向かっていく。
「危ない!」
レッドとホワイトは、咄嗟に気づいてそれを躱す。
赤い車はそのまま直進し、目の前に停まっていた別の車に激突。爆発して炎をあげた。
「チューッチュッチュッ! 見たか、俺様の能力! 俺様は車でもバスでも、機械であればなんでも動かすことができるんだチュー!」
これで暴れなかった理由も、サービスエリアに呼び出した理由も分かった。
やつはここにある車を利用して、ゴールドファイブの二人を轢き殺す作戦だったのだ。
だから車を破壊するわけにはいかなかった。
「まだまだやるチュー! それ!」
すると、ネズミヒドーダの腕がさらに光って、駐車場に停まっていた車が一斉に動き出した。みなレッドとホワイトに向かって猛スピードで向かっていく。
レッドとホワイトは、走ってくる車たちを次々と華麗な身のこなしで躱す。
私も、駐車場を走り回る車をなんとか躱しながら、その様子を観察する。
躱された車たち同士はそのまま追突し、その度に火の手が上がる。
あっという間に駐車場は火の海だ。
周囲にあった車がみな壊れて動かなくなると、レッドとホワイトは再び並び立って、ネズミヒドーダを見つめた。
私も躱すのをやめて、二人の後ろからその様子を眺める。
「どうした? ホワイト?」
レッドがホワイトに尋ねた。見ると、たしかにホワイトの様子がおかしい。いつもは元気いっぱいで、この程度では息が上がることなんて無いのに、今日はハァハァ言っている。
「なんか……、なんか、怖い……」
怖い? めぐむはネズミ嫌いだが、すあまちゃんは動物が大好きのはずだ。
カニヒドーダを前にしたときも、モグラヒドーダを前にしたときも、タヌキとキツネのヒドーダを前にしたときも、すあまちゃんはとても嬉しそうだった。
休みのときは、メインルームでよく動物図鑑を読んでいるほどだ。
そんなすあまちゃんが、今更ネズミに怯えるとは思えない。
「大丈夫か? 何かあったのか?」
レッドが困った様子でホワイトの背中を優しく擦る。こんなすあまちゃんを見るのははじめてた。
レッドがどうすれば分からず困っている一方、その奥でネズミヒドーダもまた困り顔になっていた。
「チュー、もう操れる車が無いチュー……どうすればいいチュー……?」
怪人発生の通報を受けた時点で高速道路は通行止めになり、車が走ってくることはない。つまりやつの操れる車は、今ここにある分しか無いということだ。
ネズミヒドーダがキョロキョロと辺りを見回す。そして、何かを発見し声を上げた。
「あっ、あれチュー!」
見ると、かなり遠くのほうに、トラックが一台停まっている。
ネズミヒドーダはそのトラックに向かって、右腕を突き出し叫んだ。
「動けチュー!!!」
次の瞬間、ネズミヒドーダの腕が光り、トラックのヘッドライトが呼応するかのように点灯する。
そしてトラックは、ゆっくりとこちらに向かって走り出した。バチバチと妖光を纏いながら少しずつ加速していく。
レッド、それに気づいてすぐに躱す態勢に入る。ギリギリまで引きつけて躱し、近くにある炎上した車に激突させる作戦だ。
しかし、ホワイトはまったく微動だにしない。トラックがどんどんこちらに迫っているのにも関わらず、ただ棒立ちでそれを見つめている。
危ない。このままでは轢かれてしまう。
「どうしたホワイト! しっかりしろ! おい!」
レッドの声に、ホワイトは一切答え無い。というより、耳に入ってなさそうな様子だ。
レッドの呼びかけを無視して、ホワイトはボソリと呟いた。
「……思い……出した……」
ホワイトの声が震えている。やはり明らかに様子がおかしい。ホワイトはなおも続ける。
「トラック……ピンクのバチバチ……轢き逃げ……」
そして、両手に爪型の武器、ゴールドクローを出現させると、涙声で叫んだ。
「返せ……、お父さんとお母さんを返せ!!」
次の瞬間、ホワイトはトラックへ向かって走っていき、ピョンと高く飛び上がってそれを越えると、その奥にいるネズミヒドーダに向かって走っていった。
「待て! ホワイト!」
レッドはトラックを引きつけてヒラリと躱す。そして、トラックが後ろにあった別な車に激突して動きを止めたのを冷静に確認する。
再び前を見ると、ホワイトはネズミヒドーダの腹を何度も何度も執拗に引っ掻いて攻撃を食らわしていた。
いつもの楽しそうなそれとはまるで違う。怒りに囚われて我を忘れている。
「返せ! お父さんとお母さんを返せ!」
「知らんチュー! 何の話かサッパリチュー!」
「とぼけるなー!」
そう言うと、ホワイトは思いっきり敵の水月に飛び蹴りを食らわした。
ネズミヒドーダがふっ飛ばされて、地面に突っ伏す。
レッドはホワイトのそばにすかさず駆け寄り、ホワイトを羽交い締めにして抑え込んだ。
「落ち着けホワイト! お前の両親を轢き逃げした犯人はもうとっくに捕まっている! 第一、事件が起きた二年前に、まだバカバッカの侵攻は始まっていない!」
「でも……でも!!」
ホワイトが手足をバタバタさせて抵抗する。
――すあまちゃんは二年前、親子でお出かけ中に暴走トラックに出くわした。
トラックが歩道に向かって走ってくるのに気づいた両親は、咄嗟にすあまちゃんを突き飛ばすと、そのまま目の前で轢かれてしまった。
そしてトラックは走り去り、轢かれた両親は命を落としたのだ。
そういうことがあって、今はすあまちゃんの母方の親戚だった小暮イヴ博士に引き取られ暮らしてきたのだ。
だが、りゅうま隊長の言うとおり、その事件で轢き逃げをした犯人は既に逮捕されているし、怪人が発生し始める前の事件の犯人がヒドーダ怪人なはずもない。
走ってくるトラックを見て、当時の記憶がフラッシュバックし混乱してしまったのだろうか。
私は、暴れるすあまちゃんに優しく話しかける。
「大丈夫だよ、すあまちゃん。あの怪人は、二年前の事件とは関係ないよ」
「でも! バチバチ! 二年前と一緒だった! ピンクのバチバチ! ビリビリ! トラック! たしかに見たもん!」
そういえば、たしかにあのトラックはピンクのバチバチとした、まるで電撃のような妖光を纏っていた。あれは普通のトラックではあり得ない。
すあまちゃんは、二年前にもそれを見たのだろうか。
「なんだかよく分からないが、今のうちチュー! さらばチュー!」
ネズミヒドーダはレッドが暴れるホワイトを押さえている隙をついて、そのまま走り去ってしまった。
「逃げられたか……。周辺の調査をしようにも、ホワイトをこの状態で放ってはおけない。我々も一旦戻ろう。ホワイトは俺が連れ帰る」
レッドがそういって、ジタバタするホワイトを動けないようにしっかりと抱え込み帰ろうとする。
「待ってください!」
私は、そんなレッドを咄嗟に呼び止めた。
レッドが振り返り、ホワイトも暴れるのをやめてこちらを見る。
「どうした?」
「……二年前の事件、私に調べさせてください!」
レッドが不思議そうに尋ねる。
「だが……あれはもう解決した事件だ。今回のことと関係があるとは……。きっとホワイトは気が動転しているだけだ」
それを聞いてすあまちゃんが再び暴れ出す。
「そんなことないもん! 私ウソついてないもん!」
私はさらに話を続けた。
「実は、私も気になることがあるんです」
「気になること?」
りゅうま隊長が訝しげに尋ねる。
「怪人の能力です。今までのヒドーダ怪人は泡を吐くカニとか、化けるタヌキとキツネとか、反芻するヤギとか、なんとなくイメージ的に近いものがありました」
実際のところを言えばカニは人を溶かさないし、タヌキやキツネも化けたりしないが、それでも割と人間の持つ動物のイメージに近いものがあった。
そのお陰で私も、戦隊捜査官として、敵の見た目から能力の分析・予想ができていたのだ。
「でも今回の敵は、あまりにもネズミのイメージとはかけ離れている。何か妙に引っかかるんですよ」
機械を操る敵なら、普通はきっとリモコンヒドーダとか、ハッキングヒドーダとか、そういう電子的なヒドーダ怪人の方が自然である。
私の話を聞くと、レッドはコクリと頷いた。
「……分かった。そこまで言うなら捜査を許可しよう」
ホワイトは暴れるのをやめて変身を解除すると、私の方を見て涙目で話した。
「おねがい……、真犯人を突き止めて!」
〈つづく〉




