事件6-1『はかせとたろう』
〈前回までのあらすじ〉
謎の戦士、シルバーキラーによってこっぴどくやられたゴールドファイブ。
果たして、彼は何者なのか……。
シルバーキラーが現れた次の日の昼下がり。
ゴールドベースのメインルームには私、りゅうま隊長、すあまちゃんの三人だけが残っていた。
三人とも表情は暗く、席に座ったままひと言も喋ろうとしない。ただ黙ってモニターに映るシルバーキラーの戦いの記録を見つめている。
「ねぇ、もう何回見るの……、何回見たって分からないものは分からないよ」
「だが、よく見れば何かヒントが……」
すあまちゃんが止めるのも聞かず、りゅうま隊長は手元のリモコンで何度も巻き戻したり、動画を止めたりを繰り返す。
「隊長、もうやめましょう。すあまちゃんの精神衛生上よくありません」
私は、そういってリモコンを取り上げ、モニターの電源を切った。
「すまん……、たしかに君の言うとおりだ」
違う。本当はすあまちゃんの精神衛生上の話じゃない。この私自身が、あまりのショックに気が滅入っているのである。
いとし、いつき、めぐむの三人は今、メディカルルームで精密検査を終え、病室のベッドで安静にしている。
さいわい酷い怪我では無かったものの、完全なる敗北によって彼らも心にかなりのダメージを受けてしまっているらしい。
「すあま、大丈夫か!」
メインルームに白衣姿の女性が入ってきた。小暮イヴ博士だ。
「あ、博士!」
すあまちゃんは博士の姿を見ると、すぐに席を立って博士の元に駆け寄る。
すあまちゃんはかつてとある事件で親を失い、それによって精神年齢が五歳児程度にまで退行してしまった。
そんなすあまちゃんをずっと親代わりとなって育ててきたのが、何を隠そうこのイヴ博士。すあまちゃんにとっては二人目のお母さんである。
博士は駆け寄ってきたすあまちゃんを優しく抱きしめた。
「すまない! 遅れてしまって……怪我は無かったか? どこも痛くないか?」
博士は昨日、学会のため外国に飛んでいた。そのあいだずっとすあまちゃんを心配していたようだ。
「うん……、でも、みんなが……みんなが……」
すあまちゃんが涙声で話す。すあまちゃん自身も第二のお母さんに会えなくて、ずっと辛く寂しかったらしい。それをグッと堪えていたのだ。
博士がすあまちゃんを抱きしめたまま、こちらに顔を向けた。
「いったい誰なんだ。私の大切なすあまを、仲間を、苦しめたやつは」
「それは……」
私が言い淀むと、すあまちゃんが小声でボソリと呟いた。
「シルバー……キラー……」
「シルバーキラーだと!?」
博士は目を丸くして抱きしめる手を離すと、すあまちゃんの肩を掴んで問いただす。
「本当に、シルバーキラーと言ったのか……!」
すあまちゃんがコクリと小さく頷く。
私は持っていたリモコンの電源を入れ、シルバーキラーの姿をモニターに映した。
博士はすあまちゃんの肩から手を離すと、モニターに映るシルバーキラーの姿を見て思わず息を飲んだ。
すあまちゃんは少しでも側に居ようと、博士の足元にしがみつく。
「まさか……、そんな、どうして……」
「知っているんですか? シルバーキラーを」
りゅうま隊長の問いに、博士は黙って頷いた。
「あぁ……だが、あり得ない。だって……彼は……」
「彼……?」
――それから、博士はシルバーキラーについて話してくれた。
ここからは博士から聞いたシルバーキラーについてのお話を、私、綾川あずきが、私の脳内イメージとともに話そうと思う。
◇ ◆ ◇
時は五年前、小暮イヴ博士が、キンピカ川流域で超黄金文明の遺跡を発掘した頃まで遡る。
実はその頃時を同じくして、キンピカ川を挟んだちょうど反対側で、もう一つの遺跡が発見されていたのである――。
「やったぞ! 遂に発見した!」
イヴ博士が嬉しそうに超黄金文明の遺跡に目を輝かせている。
超黄金文明の遺跡はまるで何千年も前の文明とは思えないほど、建物や柱が黄金に輝いていて神々しい。
まさしく黄金郷と呼ぶに相応しい場所だ。
博士は首にかけていた紐付きのタブレットを、遺跡の方へ向けた。
あのタブレットには特殊な計測装置がついていて、カメラに映すだけでその周囲のエネルギー量を測定できるのだ。
「凄い量のエネルギーだ! これは平和のために役立てられるんじゃないか!?」
後にこの莫大なエネルギー・ゴールドパワーとそのエネルギーを秘めた数々の出土品は、超金星ゴールドファイブのシステムに役立てられることになる。
「おーい! 博士ー!」
遠くから何やら声がする。博士が振り向くと、白衣姿にピンク髪の若い男が走ってきていた。
「太郎くん! そっちは何かあったか!?」
彼の名は、阿波連太郎。
博士よりだいぶ年下だが、博士とは大の親友で、研究においては博士に勝るとも劣らないほどの才能を持つ男だ。
しかし彼は、あまり人付き合いが得意ではない。嫌なヤツではないのだが、研究に対する拘りが強く譲れない性格なのだ。
だからどんな研究も基本的に自分一人で行う。自分一人専用の研究室を持ち、そこで研究しているのだ。
唯一こうやって、遺跡の調査などどうしても一人で勝手にできないときには、博士に許可取りのお願いや知恵を借りたりしていた。
「ありましたよ! ええ、ありましたとも! とんでもない発見が!」
そんな太郎が目を輝かせて叫ぶ。
「なんだ! 言ってみろ!」
博士が鼻息を荒くし、目を大きく見開いて尋ねる。
「それは……、ってあれ!?」
太郎が話している途中で、博士の背後にある遺跡に気づいて声を上げた。
「博士も発見してたんですか!? 新しい遺跡を!」
「……も? ということは、そっちにもあったのか!?」
博士が驚いて尋ねる。
「ええ……! あったんですよ! それも銀色ギンピカに輝く遺跡が!」
太郎が発見した遺跡は、後に超白銀文明と呼ばれる文明のものだ。
規模は超黄金文明のものより少し小さい程度で、その昔、よく栄えたとされている。
「しかも遺跡から発せられるエネルギー量が凄いんです……! あれだけあれば、きっと今世界が抱えている多くのエネルギー問題を解決できますよ!」
博士がそれを聞いて、思わずフフッと笑った。
「何がおかしいんですか!」
太郎がムッと眉間にシワを寄せる。
博士はそれを見て、申し訳無さそうに答えた。
「いや、すまんすまん。やっぱり私とお前は、よく似ていると思ってな……」
「似てるって?」
太郎が不思議そうに首を傾げる。
「私も考えていたんだ。この遺跡から発せられるエネルギーを使って、何か平和を守るための発明をできないかと……」
博士はそういって、自分の発見した超黄金文明の遺跡を見上げる。
「そんな……博士みたいに立派じゃないですよ。僕はただ、兄さんみたいに世界を救うようなことをしたいだけなんで」
彼の兄、阿波連暴人は若くして『他の細胞を一切傷つけることなく、体内のがん細胞のみを完全に消す技術』を開発し、ノーベル生理学・医学賞を取った英雄だ。
だが、賞を取った一年後に突然姿をくらましてしまった。
太郎は、そんな偉大な兄にずっと憧れてきたのだ。
「僕は兄さんみたいに完璧な人になって、兄さんを驚かせたい。僕がなにかを成し遂げれば、行方不明の兄さんもきっと帰ってきて褒めてくれる」
彼の兄は常に完璧な存在だった。太郎は、そんな兄に褒められたことがない。
小学校の頃、太郎が逆上がりができるようになったときも、漢検で準一級を取ったときも、兄は褒めてくれなかった。
太郎が何かをしたときには、兄はそのすぐ後に、もっと凄いことを成し遂げてみせたのだ。
太郎が逆上がりをして見せたときには、兄はすぐにその横の鉄棒で大車輪をして見せたし、太郎が漢検で準一級を取ったときには、そのすぐ後に一級を軽く取ってみせた。
それは大人になってからも変わらず、太郎は自分の研究に進展がある度にそれをメールやビデオ通話で報告したが、全く褒めてはもらえなかった。
そういうとき、兄は決まってこういうのだ。『お前は俺には勝てねぇよ。褒めてほしいならとっとと俺を超えてみろ』と。
そして、ノーベル賞を授賞して一年後には、もはや連絡もつかなくなってしまった。
それでも太郎は、いつか連絡に気づいてくれるのではないかと、自分が何かを成し遂げるたびにメールでそれを報告しているのだという。
「別に勝ちたいわけじゃない。ただ、認めて欲しい。褒めて欲しいんだ。兄さんに……」
こうして、博士と太郎が発見した二つの遺跡は話題となり、世界中に知れ渡ることになる。
◇ ◆ ◇
――それから一年後のある日の朝。
東京上空に、突如として謎の黒い球体が浮かび上がった。
直径一〇〇メートルをゆうに超えるほどの大きさで、地上三〇〇メートルを浮遊し続けていて、表面は黒いガスのようなものに包まれていてよく見えない。
どこからともなく現れたそれは、自衛隊機などが攻撃しようが、鳥がやってこようが、スルリと全てすり抜けてしまう。
ゴールドホワイトの使うゴールドビジョンの立体映像のようなものらしい。実体が全く無いのである。
球体が現れてからちょうど二時間、東京中の人が空を見上げたそのとき、突如その黒い星から、厳かな女性の声が聞こえてきた。
「人間ども、聞こえるか? わが名はホロボス。超頭脳集団・バカバッカの首領にしてこの地球の支配者となる者だ」
人々がその声を不気味がり、ざわめき始める。不安そうにする人々をよそに、ホロボスと名乗る謎の存在はさらに話を続けた。
「今お前たちが見ているのは、我の住む星、ホロボスターの有り様だ。見てのとおり、汚れた大気で覆われ、その下の大地も、海も、全てが黒く染まってしまった」
たしかにその球体をよく見ると、厚い黒いガスの層の下に僅かだが黒い陸地や海が見える。
「だから我々バカバッカはお前たちの地球を侵略することにした。大人しく我を受け入れろ。さもなくば、お前たち人類に未来は無い。降伏の意思を示すが良い」
しかし、地上の誰も、その声に答えようとはしない。誰も困惑し、ただその場で立ちすくむことしかできないのだ。
謎の声の主はその様子を見たのか、気づいたのか、さらにこう続けた。
「まぁいい。すぐには決められないこともあるだろう。二年だけ猶予をやる。それまでにどうするか決めるのだ。我々は二年後に侵略を開始する。覚えておけ」
その言葉とともに、浮かんでいた謎の黒い球体は、パッと姿を消してしまった。
この事件を聞いた博士と太郎は、来たる地球の危機に備え、地球を守るための研究を始めることになる。
博士は超黄金文明のゴールドパワーを使った戦闘装備の開発に。
太郎は超白銀文明のシルバーパワーを使った戦闘装備の開発に取り掛かった。
迫りくる侵略者に対抗すべく、正義の戦士を作り上げようとしたのである。
――しかし、それから一年が経ったある日、太郎は、突然この世を去った。死因は毒物を飲んだことによる中毒死。
彼が亡くなっていた大学の研究室には直筆の遺書が遺されており、そこにはこう書かれていた。
『半年前に実家が火事になり、母も父も、思い出の我が家も、全てが燃えて人生が嫌になった。私の研究が誰かに悪用されぬよう、これまでの全ての研究資料を処分し、私自身も消えようと思う。さようなら』
どうやら半年前に彼の実家で起きた原因不明の火事によって、精神的なダメージを負ってしまったらしい。
こうして、彼の開発していた戦闘装備・シルバーキラーの研究も、完全に闇に消えたのである。
〈つづく〉




