事件5-2『ホロボスターからの亡命者』
〈前回までのあらすじ〉
秘密研究所にやってきたら、謎のヒドーダ怪人に襲われ絶対絶命のあずき。
果たして、今日が彼女の命日になってしまうのか!?
「そこまでだ!」
そこに立っていたのはゴールドレッド、ゴールドブルー、ゴールドグリーンの三人の戦士だった。
レッドはゴールドソードを両手で握り締め、怪人の背中に向ける。
悪魔のような怪人は私の腕から手を離すと、すぐさま振り返り、背後の三人と睨みつける。
「お前ら……!」
「お前は!」
辺りに緊張が走る。いよいよ、この研究所内で激しい戦いがはじまる……、と思ったら、次の瞬間、なぜかレッドは剣を下ろし、腰についた鞘に戻してしまった。
(え? なんで? 助けてくれないの?)
ほか二人も糸が切れたように、その場でホッと息をつく。
いったいどうしてしまったのだろう。
「なんだ……、ヤギ助じゃないか!」
そう言って、りゅうま隊長たちはその場で変身を解除してしまった。
「おおお! りゅうま隊長! 会いたかったぜ!」
「え? え? どういうこと?」
私は起き上がり、キョロキョロと辺りを見る。
私以外、みんなにこやかな表情で目の前の怪人を見つめる。
分からない。目の前に怪人がいて、いったいどうして気を抜いてるのか。
私の脳内にクエスチョンマークが溢れ出す。
「そっか、あずきちゃんはまだ来る前だったから知らないんだね。ヤギヒドーダのヤギ助のこと」
いつきがそう言って、目の前の怪人の肩に手を置いて見せる。
「ヤギ助……?」
するとりゅうま隊長はにこやかな笑顔で話してくれた。
「彼……ヤギ助は元々バカバッカの一員だったんだが、地球に来て美味しい食べ物を食べるうちに、人間が好きになってな。足を洗ったんだ」
めぐむも、いつの間にかソファに座ってゲームをしながら話を続ける。
「だけど、バカバッカは裏切り者を許さないヤツらでしょ。だからこうして最新鋭の防衛システムが整った研究所で保護してるんだよ」
たしかにここは所在地も極秘なうえに、バリアでしっかりと守られていて外からは誰も入ってこられない。
「今はまだクルシミウムが溜まっていないから大丈夫だとは思うけど……、そのうち絶対粛清されちゃう……わぁこわーい」
ヤギヒドーダ……もといヤギ助がそういってその場で小刻みに震える。
クルシミウムというのは、ヒドーダ怪人に襲われた人間の恐怖や苦しみから生み出されるエネルギーのことだ。
超頭脳集団・バカバッカの怪人たちは、そのクルシミウムのエネルギーを利用して地球に転送される。
「バカバッカの幹部やボスを地球に転送するには、莫大なクルシミウムが必要。だから先に怪人を送ってクルシミウムを集めさせ、いつか全員で一気に侵攻するつもり……なんでしたっけ?」
「そうだよ。実はその情報を僕たちに教えてくれたのも、このヤギ助なんだ。中々良い子だろ?」
そういって、いつきがヤギ助の頭を撫でる。
ヤギ助は嬉しそうにその場でピョンピョン飛び跳ねる。どうやら撫でられるのが好きらしい。
「そうでーす! ぼくちゃんすっごく良い子でーす!」
「良い子なことがあるか!」
そういってりゅうま隊長はヤギヒドーダの頭を叩いた。
ヤギ助が痛そうに頭を押さえる。
「お前また、壁を突き破って壊したな……。これで何度目だと思ってる」
りゅうま隊長がそういって頭を抱える。なるほど、ドア横の壁の色の違う場所は、ヤギ助が壊して後からそこを埋めたところだったのか。
「だって〜」
ヤギ助はそのまましょげてその場でしゃがみこんでしまった。
(ん……? てことはこの場でヤギ助のことを知らなかったのって……)
部屋の隅で紅茶を啜る所長といおさんの方を見る。
「……所長もヤギ助のこと知ってたんですか!? なんで教えてくれなかったんですか!?」
「だって……、悪いヤツじゃないんじゃが、関わるとめんどくさいし……」
所長が申し訳無さそうに頭を掻く。
「ガーン、ぼくちゃんショック」
ヤギ助がさらに縮こまる。
「だいたい迷惑してるんですよ。壁は壊すし、大事な設計図や機械はことごとく食べるし……」
いおさんがそういってヤギ助を睨みつける。
「ガビーン! ぼくちゃんめちゃんこショック!」
ヤギ助が更に悲しそうな表情を見せる。
「すみません、所長。よくいって聞かせますから、どうか」
りゅうま隊長がそういって申し訳無さそうに頭を下げる。
「頼むよりゅうま君、うちは動物園じゃないんじゃからね?」
不機嫌な所長を前に、いつもは頼もしいりゅうま隊長がとても頼りなく見える。
「そ、そんなことより、すあまちゃんたちは大丈夫そうですか?」
今日、すあまちゃんは基地内にデンデンちゃん達を呼んで一緒に遊ぶ約束になっている。
あのモグラヒドーダの事件以来、彼女たちはすっかり仲良しになったらしい。暇を見つけてはお互いの世界に行って、一緒に遊んでいるのだ。
「そっちはいとしくんが見てるから大丈夫だよ。彼はああ見えて面倒見は良い方だから」
いつきがそう答えたそのとき、ブレスに連絡が入った。いとしさんからだ。
「どうしましたか? 今日はすあまちゃんたちを見てるんじゃ?」
「それが、先ほど……、事件があって……。予告状が……届いたのでござる」
「予告状?」
正直、私はこの時点で「またか」と思ってしまった。
一ヶ月に五回くらいは、ゴールドファイブに対してこういう迷惑な悪戯メールがくるのだ。
もちろん悪戯なので、そのほとんどが結局何も事件なんて起きずに終わる。
しかし、「結局何も起きないだろう」と薄々思っていたとしても、もし万が一本当だったときのために対応をしなければならない。
まったく迷惑極まりない話である。
「どういうことだ? くわしく説明してくれ」
りゅうま隊長は真剣な表情で尋ねる。よくもまぁ悪戯と分かりきったものにそんな真面目な対応ができるものだと、私は感心する。
「『明日、エリアSJ-05を襲撃する。白銀の殺し屋より』というメッセージが、ゴールドベースの緊急通報に入っていたでござる」
ほーら、出た。白銀の殺し屋って。この手の悪戯にありがちな厨二病全開ネーミングだ。
「既に周辺住民への避難勧告は出し、基地内も警戒態勢に入ったでござるが……」
「ふぇ〜ん、もっとデンデンちゃん達と遊びたかった〜」
ブレスから、すあまちゃんのぼやきが聞こえる。
ゴールドベースが警戒態勢に入ったことで、デンデンちゃんたちが元の世界に返されてしまったのだろう。
可哀想だが、非常事態なので仕方がない。
こんな悪戯のために……。なんだか私まで申し訳ない気持ちになってしまう。
「では、そちらは続けて警戒していてくれ」
「了解でござる」
「ぶー、納得いかなーい……」
りゅうま隊長は二人の返事を聞くと、すぐにブレスの通信を切った。
「隊長、あんなのどうせまた悪戯ですよ。すあまちゃんだけでも遊ばせてあげたら……」
私が小声で囁く。
「そういうわけにはいかない。もしものことがあってはマズい。なぁに、ゴールドファイブの中でも戦闘面で特に強いイエローとホワイトが居れば大丈夫だ」
ゴールドファイブの中でレッドの次に強いのはイエローとホワイトである。
イエローの圧倒的な怪力と、ホワイトの戦闘においての天才的なセンスが合わされば、まずほとんどの相手には負けない。
この二人には、りゅうま隊長も絶大な信頼を置いている。
「それより、そろそろ新兵器の開発に取りかかりませんか? 私ワクワクしてるんです」
いおさんが、そういって目を輝かせる。よほど兵器作りが好きならしい。
「そうだな。所長、開発室に案内してくれ」
「ふーむ」
りゅうま隊長の言葉に、なぜか所長が言葉を詰まらせる。
「どうしましたか?」
「いや、実は昨日から、研究員の一人が行方不明なんじゃよ」
「何? 本当か?」
りゅうま隊長が目を丸くする。私も初耳だ。
この特殊なバリアが張られている研究所から、研究員が簡単に出られるとも思えない。一体何があったのだろう。
私が不安そうにしていると、いおさんが呆れた表情で話した。
「心配するだけ無駄ですよ。あの酔っぱらい、この間もトイレの個室でグースカ寝てたじゃないですか。またどこかで酔い潰れて寝てるのがオチです」
「じゃが……、前はそうでも、今の彼が酔い潰れるはずなど……」
所長が不安そうな様子で呟く。
「いいからさっさと始めようよ? 今は新兵器の開発が優先でしょ?」
ソファでふんぞり返ってゲームをしているめぐむもそう呟く。
多分早く帰りたいだけだ。
「ボクもめぐむ君に賛成かな。今は居ない人を気にしたってしょうがないさ」
いつきもそう話す。
所長はそれ聞いてコクリと頷いた。
「そうじゃな。よし! さっそく新兵器、マキシマムガジェットの開発に取り掛かろう。いお君、スクマ君を呼んできたまえ」
「はーい。かしこまりましたー」
いおさんが面倒くさそうに返事をする。
「よーし、ぼくちゃんもお手伝いするぞー!!」
さっきまでそこで落ち込んでいたヤギ助が、突然飛び上がって拳を突き上げる。
「あなたは邪魔だから来ないでください、アホヤギ」
いおさんにそう言われて、ヤギ助はまたしゃがみこんでシクシク泣き出す。
私たちはそんなヤギ助を応接室に残して、みんなで開発室に向かった。
◇ ◆ ◇
こうして、新兵器の開発が始まった。
りゅうま隊長とニコン所長の指示のもと、みんなで懸命にパーツを組み立て、プログラムをインプットし、完成へ近づけていく。
そして、夜中の十二時を回った頃。ついに新兵器・マキシマムガジェットは完成した。
途中でヤギ助が開発室に入ってきたり、そのヤギ助が大事なパーツや設計図を食べようとしたりと、様々なトラブルはあったが、なんとかここまでこぎ着けた。
「やりましたね! 所長!」
「あぁ、これもりゅうま君やみんなの協力があったお陰じゃ」
りゅうま隊長と所長が満面の笑みを浮かべながら固い握手を交わす。
「あぁ〜、疲れた〜、ゲームしたい」
「でも良かったです。これでヒドーダ怪人をこの世から消し去ることができます!」
「ガビーン! いおちゃ〜ん! ぼくちゃんは消し去らないでよ?」
「はぁ、みんなで何か一つのことをするってのはあんまりボクの趣味じゃないけど……、まぁたまには悪くないかな……」
みんながそれぞれに喜びを分かち合う。
私も、やっと大きな仕事が一つ終わって胸を撫で下ろす。
すると、所長がわざとらしく咳払いをして、みんなの注目を集めた。
「諸君、みんなの協力によって、無事に新兵器が完成した。本当に感謝する。今日はもう遅い。部屋に戻ってゆっくり体を休めたまえ」
「あの、我々は?」
りゅうま隊長が尋ねる。
おそらく休むより、警戒態勢を取っているゴールドベースに早く帰ったほうが良いのではないかと考えたのだろう。
しかし、そんなりゅうま隊長に所長は優しく返した。
「りゅうま君、キミの言いたいことも分かるが、今はみんな疲れが溜まっている。今日はゆっくり寝て、明日の朝、体調を万全にして帰ったほうが良い」
そんな話の最中、いおさんが急に開発室の出入り口付近に向けて声をかけた。
「スクマ君? どこ行くんですか? まだ話の途中ですよ?」
見ると、スクマさんが一人で部屋を出ようとしていた。なんだかとても顔がやつれている。
「ごめん。でも、やっぱり心配なんだ。ジェッ太のこと」
鳥井ジェッ太、昨日から行方不明になっているこの研究所の新米研究員で、スクマさんとは幼馴染だったらしい。
先ほどこの研究室に集められたときに話を聞いて、それからスクマさんはずっとあんな感じで落ち込んでいる。
自分が薬品の研究に没頭している間に大切な幼馴染がいなくなってしまったことを、気に病んでいるに違いない。
「アイツは飲んだくれだけど、根は曲がったことが嫌いで良いヤツだからさ、何かあったらって思うとね」
スクマさんが弱々しい声で答える。
所長がそんなスクマさんをみかねて声を掛けた。
「まぁ落ち着くんだ。今日はもう夜も遅いし、研究所は広い。昨日も敷地内で土砂崩れがあったばかりで危険だ。部屋に戻って休んだほうがいい」
「でも……」
「また明日探せばいいじゃないですか、大丈夫です。この研究所はバリアで守られているんですから、誰も出れやしませんよ」
いおさんもそういって、スクマさんを励ます。
「それじゃあ、各自部屋に戻って休むように!」
こうして、りゅうま隊長の掛け声でみんなは部屋に戻ることになった。
◇ ◆ ◇
〈翌朝・六時〉
研究所内の来客用の部屋のベッドですやすやと眠っていると、突然自分の腕から叫び声が聞こえてきた。
「あずき君! すぐに来てくれ! 大変だ!」
「うぅ〜ん、うぅん。なんですかぁ……? まだ……眠い……」
私は、腕についた自分のブレスに話しかける。何者かに盗まれないよう、基本的にブレスはどんなときも外さない決まりになっているのだ。
「……事件だ。この研究所内で殺人事件が起きた!」
「あぁ……なにぃ……さつじ……ふぇ!?」
私はすぐに飛び起きて、パジャマのまま部屋を飛び出した。
〈つづく〉




