事件5-3『殺人事件の謎を追え!』
〈前回までのあらすじ〉
遂に研究所内で殺人事件が発生した!
果たして、犯人は誰だ!?
私はパジャマ姿のまま、研究所敷地内の山奥にある古い倉庫の裏手にやってきた。
既に現場には研究所の仲間たちやゴールドファイブの面々が揃っている。
そしてその足元には、行方不明になっていた鳥井ジェッ太と見られる男の遺体が転がっていた。
「あっ、来たね。あずきちゃん……って、パジャマのままなのかい?」
いつきに呆れられたが、寝起きなのだから仕方がない。
「ギャー! 人が死んでるー! こりゃ大変だー!」
などと叫びながら、ヤギ助は遺体から少し離れたところでグルグル走り回っている。
鬱陶しいのでやめてほしい。
いつきの横で、スクマさんが膝をついて泣きじゃくっているのが見える。
私はそのそばに駆け寄ってしゃがみ込み、そっと声をかける。
「大丈夫ですか……?」
「僕のせいだ……、僕がもっと早く探しに行っていれば……」
私が少しでも慰めようとスクマさんの背中を擦っていると、りゅうま隊長が私の横にしゃがみ込んで、そっと耳打ちする。
「第一発見者は邑樂スクマ、朝早く起きた彼は、やはり大切な仲間のことが心配になって、一人で探していたらしい」
私は小声で、具体的にはスクマさんに聞こえないぐらいのボリュームで聞き返す。
「でも? どうしてここに? こんな山奥、普通一人で来ないんじゃ」
りゅうま隊長が更に小さい声で耳打ちする。
「さっき聞いたが、もしかしたら一昨日の土砂崩れに巻き込まれたんじゃと考えたようだ。そのせいで見つからなくなっているのではと」
私は思わず頷いた。
たしかに丸一日行方不明になっているなら、何かの事故に巻き込まれたと考えるのはごく自然だ。
「あー、だから敷地内の山奥に」
私は小声でそう答える。
するとすごく小さな涙声ですぐそばから返事がきた。
「あの……、全部聞こえてるので、小声で喋らなくていいですよ」
スクマさんがそういって腕で涙を拭う。そして、その場に立ち上がると更に話を続けた。
「それに……、僕がここに来たのはそれだけじゃないんです。ちょっとこっちに来てください」
そういってスクマさんは歩き始める。私とりゅうま隊長は黙ってついていく。
そうして倉庫の中に入ると、スクマさんは奥の段ボールを指さした。
「あの中を見てください」
私は言われるがままに段ボールへ近づき中を見る。
「うわっ、ビールがいっぱい!」
箱いっぱいにビールの缶が詰められてる。銀色のパッケージは間違いなくスーパーでドライな感じのアレだ。
「何!? アイツ隠れて飲んでおったのか!?」
後ろから大声が聞こえた。見ると、所長といおさんが倉庫の入り口からこちらを覗いている。
どうやら気になってついてきていたらしい。所長はとても驚いた様子だ。
「ジェッ太はしょっちゅう酔い潰れて廊下で寝るので、所長から禁酒するように言われていました。だからここにビールを隠していたんです」
「え? 後ろのお二人は知らなかったんですか?」
私が尋ねるといおさんが答えた。
「え、えーと……、私も、聞いてなくて……、禁酒してるとばかり……」
所長も悲しそうに答える。
「気づいとらんかった……まさか隠れて飲んでいたとは……」
すると、スクマさんが答えてくれた。
「彼は僕にだけ教えてくれたんです。隠れて飲んでいるのは幼馴染同士の秘密だって」
大事な秘密を共有するほど、スクマさんとジェッ太さんは仲が良かったらしい。
スクマさんの説明を受けたあと、私たちは一旦、元の遺体がある倉庫裏に戻ってきた。
「これ……、いとしくんを呼んだほうがいいんじゃないの?」
いつきが呟く。いとしさんが変身するゴールドイエローの特殊能力、イエローサーチは見たものを瞬時に分析する力を持つ。
それを使えば死亡推定時刻、殺害に使われた凶器、周囲の不審物など、ありとあらゆることが分かるだろう。
「ですが、今この研究所のバリアを解除したら、犯人に逃げられる可能性があります。犯人が確実にこの中にいるのなら、逃げられる隙を与えるべきではありません」
私がそう答えると、いおさんが割って入って反論したきた。
「でも、このまま殺人犯がいるかもしれない研究所に残されるなんて、私はまっぴらごめんですよ! 絶対応援は呼ぶべきですって!」
するとりゅうま隊長は厳しい顔で答えた。
「気持ちは分かるが、今ゴールドベースは白銀の殺し屋からの予告状の件で警戒態勢だ。その状態でホワイトを一人にするのは危険すぎる」
あの予告状はおそらく悪戯だろうとは思っているが、それでもイエローをここに連れてくるのは心配だ。
ゴールドファイブのメンバーとはいえ、すあまちゃんはまだ中学生。彼女一人に全てを任せるのはあまりにも酷である。
「まぁまぁ安心してよ、いおちゃん。何かあったらこのボク、ゴールドブルーが、必ずキミを守ってあげるからさ」
そういって、いつきがいおさんの頭をポンポンと優しく叩く。
「そうですか……、ありがとうございます」
いおさんが不安そうに答える。
私はその様子を見てなぜか少しモヤっとした。
別にいつも通りのいつきなのに、いつきがほかの女の子に優しくしているのを見ると、無性にイライラする。
その理由は、自分でもまだ分からない。
それはさておき、私は改めてしゃがみ込んで、遺体の様子をよく観察した。
「血の色や固まり具合から見て、時間はかなり経ってそうですね。死因は……、頭を大きく損傷していることから、何か固く大きいもので殴られた?」
すると、いおさんが再び口を挟んだ。
「固いもの、もしかして、ヤギ助の蹄?」
「え!?」
ヤギ助がビックリして駆け寄ってきた。
「えぇ! なんで! ぼくちゃん、人殺しなんかしないよ!」
ヤギ助が焦って冷や汗……ではなく、口からダラダラよだれを垂れ流す。
「いえ、それよりもっと大きいものだと思いますよ」
「じゃあ……、おまんじゅう!」
ヤギ助が閃いたように叫んだ。
「いや、全然デカくもないし、固くもないじゃないですか! そんなこと言って、さっき食べたモノを言っただけなんじゃないですか?」
いおさんがビシッと突っ込む。もちろん、凶器がおまんじゅうなワケが無い。
「えへへ〜、だって美味しかったから〜、ぐへへ」
ヤギ助がなぜか照れて答える。なぜ照れるのかはサッパリ分からない。
「そうですね、挫傷痕から考えるに自然物。大きな石のようなもので殴られたと思われます」
所長も、いおさんも、スクマさんも、ヤギ助も、みんなとても不安そうな様子だ。
私は一旦全員に、自分の部屋に戻るように促した。
そして、後から一人ずつ研究所内宿舎の部屋を訪ね、事情聴取することにしたのだ。
◇ ◆ ◇
まずは第一発見者の邑樂スクマさんへ事情聴取することにした。
スクマさんの部屋は机にも足元にも、怪しい薬品の入った瓶や化学式が書かれた紙が、そこら中に散らばっている。
部屋に入っただけでその薬品の臭いが鼻をツーンと刺してくるようだ。
その部屋の隅に置かれた向かい合わせの小さな二つの椅子の片方に座るスクマさんは、すでに泣きやんでいはいるものの、まだ目のまわりが腫れ上がっている。
私は反対側の椅子に座ると、ポケットからメモ帳とペンを取り出し事情聴取を始める。アナログだが、私にはこれが一番性に合っている。
「遺体を発見したのは何時頃ですか?」
「えっと……、いつだったかな……、あっそうだ」
スクマさんが何かを思い出し、スマホを確認した。
「ちょうど朝の五時三〇分でした。見つけてすぐ所長に連絡したので」
そういってスクマさんはスマホの通話履歴を見せてくる。
私はメモを取りながらさらに尋ねる。
「……なぜ警察ではなく所長に?」
「いや、この研究所は警察も知らない秘密の場所ですよ。バレたら大変じゃないですか。第一、呼んだところでバリアで入ってこれないし」
「あ、そりゃそうか」
だいぶ馬鹿な質問をしてしまったと自分で反省する。
「生前の様子で心当たりは……?」
「あぁ……、そういえば、ヤギ助のことをだいぶ嫌ってたかな……」
意外な情報だ。もしそれが本当なら、二人で口論になった末に、ヤギ助が何かの凶器で頭部を殴って殺害という線も考えられる。
「なぜヤギ助を?」
「まだアイツが所長から禁酒させられる前の話ですが、冷蔵庫に置いてたアイツのビールを、ヤギ助がジュースと勘違いして飲み干すことがよくあったんです」
「なるほど……」
事件現場近くの倉庫にもビールが沢山隠されていた。勝手に飲んでいたところを見つかって逆ギレという可能性は十分にあり得るかもしれない。
「貴重な情報、ありがとうございました」
◇ ◆ ◇
次に事情聴取したのは、研究員の萬葉いおさんだ。
いおさんの部屋は綺麗に整理整頓され、部屋の真ん中にあるテーブルも、椅子も、棚も、ありとあらゆる家具がラタンで出来ていてとてもオシャレだ。
いおさんは椅子に座って紅茶を啜っている。紅茶の匂いがこちらまで伝わって私も飲みたくなってしまう。
が、今は捜査の最中。私はグッと堪えて取り調べを開始した。
「事件に気づいたのは何時頃ですか?」
いおさんが紅茶を飲みながら答える。
「朝起きたときなので……、五時四〇分くらいだったかと」
「起きたとき……?」
「はい。部屋で寝てたらなんだか、廊下がドタドタうるさくて、部屋を出たら、なんかみんな走ってて、ついて行ったら遺体があった……って感じですね」
「そのとき廊下を走っていたのは?」
「ゴールドファイブの方々でしたよ」
たしかに、この証言は事実と一致している。
取り調べを始める前にりゅうま隊長から聞いた話だが、隊長が事件現場に到着してみんなに集合の連絡をかけたのは五時四〇分だったらしい。
いおさんが足音がうるさくて目を覚ました時刻と同じだ。
ちなみに私は全然起きなくて、一人だけ六時に起きた。
ベッドがふかふかだったせいだ。
「事件前のジェッ太さんや周囲の様子で気になることは?」
「さぁ……、私は常に小型爆弾や破壊兵器の開発に熱中していたので……」
小型爆弾というのは、私が研究所の応接室でりゅうま隊長たちを待っていたときに見たアレのことだろう。
誤魔化している様子は特にない。
「あ、でも!」
急に何かを思い出したようにいおさんが叫んだ。
「少し前にヤギ助、ジェッ太さんの発明品を間違えて食べて怒られてました。もしかしたらその恨みで……」
取り敢えずさっきの証言といい、ヤギ助とジェッ太さんはとても仲が悪かったことは確かなようだ。
◇ ◆ ◇
次にやってきたのは所長室。広い割に家具は少なく、生活に必要な最低限のものしか無いという感じの質素な部屋。
私はこの研究所の所長である知恵島ニコンに話を聞いた。
「事件に気づいたのは何時頃ですか?」
「スクマ君から連絡受けたのは、五時三〇分頃じゃよ」
先ほどのスクマさんの証言と一致する。ここに嘘は無さそうだ。
「その後、りゅうま君に連絡して、二人で先に事件現場を確認しに行ったんじゃ。しっかり事実確認をするまえに騒ぎ立てるのはよくないからの」
これも事前にりゅうま隊長から聞いていた話の通りだ。そして事実確認できた五時四〇分に、りゅうま隊長はみんなに集合をかけたのだ。
私は起きなかったけど。
「何か、生前の様子で気になることなどあれば」
「さぁなぁ……、彼は普段は酔っぱらいじゃが、研究に向き合う姿勢だけは真面目じゃった。ワシは健康を案じて、禁酒するよう勧めたが、酒の件で恨みを買っているとはとても……」
私は酒嫌いなので、酒臭い人は苦手だが、特段この研究所内で嫌われている様子は無さそうだ。
「あぁ、でも。ヤギ助は別じゃな。ジェッ太は酔っ払うとよくヤギ助の悪口や文句を言っておったから、ヤギ助もそれを聞くたび怒っておった」
前言撤回。ヤギ助はかなり嫌っていそうだ。
「貴重な証言、ありがとうございました」
(ここまでの証言、一番怪しいのはヤギ助かな……)
◇ ◆ ◇
最後の事情聴取先であるヤギ助の部屋に向かう途中、りゅうま隊長とはち合わせた。
「あ、りゅうま隊長。どうしました?」
「おお、ちょうどあずき君を探していたんだ」
りゅうま隊長の顔がなんだかいつにもまして険しい。明らかによくないことがあったときの顔だ。
「何かあったんですか?」
隊長が重い口を開け理由を話す。
「……予告通り、エリアSJ-05が襲撃された」
「え!?」
ありえない。てっきりただの悪戯でしかないと思っていた。
エリアSJ-05は多くの人たちが暮らす住宅密集地。そこが襲われたとなれば、被害も甚大だろう。
「今、ホワイトとイエローが現場に急行したらしいが、心配だ……」
隊長は熱い男だ。本当なら今すぐにでも駆けつけたいに決まっている。
「どうしますか? やはり私たちも……」
私がそう言いかけたのを遮って、りゅうま隊長が冷静に答えた。
「いや、今は犯人を捕まえることが先決だ。ゴールドファイブの関係者に殺人犯がいるとなっては大問題だからな」
「分かりました……! 必ず犯人を捕まえて、いち早く仲間のもとへ合流しましょう!」
そう口先では元気よく答えたが、私の心のなかには、大きな不安という名の嵐が渦巻いていた……。
〈つづく〉




