事件4-4『アイツが二人!!』
〈前回までのあらすじ〉
再び現れた二匹の怪人。果たしてゴールドファイブは勝てるのか?
そして事件の裏に隠された真実とは?
現場であるとある広場に到着すると、ブルーとグリーン、もとい、それに化けた二匹の怪人が暴れていた。
正義の味方の姿で悪事を働くなんて、なんとも許しがたい悪党だ。
広場は移動式のクレープ屋、ホットドッグ屋の車が見え、近くには食べるために設置されたプラスチック製の椅子と机が置かれていた形跡がある。
形跡がある、というのはつまり、クレープ屋の車もホットドッグ屋の車も怪人の攻撃のために横倒しになっていて、椅子や机もバラバラに壊されていたのだ。
コンクリートタイルの綺麗な地面も、怪人によってみるみるうちに次々破壊され、瓦礫となって辺りに散らばっている。
非道な怪人のために平和な日常が脅かされていることに、私は激しい怒りを覚える。
私はすぐに近くで横倒しになったクレープ屋の移動車の陰に隠れ、その様子を観察する。
するとそこへ、いつきとすあまちゃんが駆けつけた。
「わー! すごーい! 本当にそっくりー!」
「ボクの好感度を下げるのは、やめてほしいんだけどな」
私はブレスを使い、すぐ目の前の二人に通信する。
「あれ? みんなは?」
「あー、えっと、いとしくんは修理後のロボの動きの最終確認で……、他は……」
「とりしらべーー! だからこれないって!」
いつきが言い淀んでいると、代わりにすあまちゃんが元気よく答えた。
しかし、取り調べって何のことだろう。
「き、気にしないで。ボクたちにはりゅうま隊長が考えてくれた対抗策がある。ボクたちだけで大丈夫さ」
その言葉とともに、通信は切られてしまった。
なんだか、何かを誤魔化しているような言い方に、少し引っかかる。
「ゴールドチェンジ!」
「ゴールドチェンジ!」
二人の姿が、ゴールドホワイトと、ゴールドブルーに変わった。
偽物が、二人の変身に気づいて振り向く。
「現れたポンね! ゴールドファイブ! 今日こそお前らを倒してやるポン!」
「二人だけなら余裕コン! とっとと殺っちゃうコン!」
「二人だけ? それはどうかな?」
そういって、ブルーが意味ありげに笑う。
(対抗策って……、いったい……?)
私が考えていると、ホワイトが元気よく叫んだ。
「ゴールドビジョン!」
次の瞬間、私は驚いた。怪人二匹も驚いた。
ホワイトの叫びとともに、なんと周囲に大量のゴールドファイブが現れ始めたのだ。
ゴールドレッド、ゴールドイエロー、ゴールドホワイト、ゴールドブルー、ゴールドグリーン。
普段は五人のはずの戦士が、今はそこかしこで、武器を構えて見せる。
これではもはや、ゴールドファイブとは呼べない。
ゴールドワンハンドレッドだ。
「なんだこいつら! どれが本物ポン?」
「戦えば分かるんじゃない?」
本物のブルーがどこからかそう話す。どこにいるのかは私にも分からない。
「行っけー!」
ゴールドホワイトの合図とともに、大量のゴールドファイブが一斉にあっちこっちで暴れ始めた。
といっても、このゴールドファイブたちは全てホワイトの能力、ゴールドビジョンで見せる立体映像。当然ながら町への被害はない。
「お前か! お前ポンか! じゃあそっちポン!」
「ゴールドアロー! 喰らえコン! そっちコン! じゃあこっちコン!?」
偽物のブルーとグリーンが次々に撃ち抜こうとするが、立体映像に攻撃が当たるはずもなくスルリスルリとすり抜けてしまう。
「ぐぅ〜、いったいどれが……。ん? その動き怪しい! お前が偽物ポン!」
すると次の瞬間、偽ブルーの銃撃が偽グリーンのお尻に命中した。
「痛いコン! お兄ちゃん酷いコン! 仕返しコン!」
偽グリーンが怒り、ゴールドアローの弦についた刃で偽ブルーに斬りかかる。
「痛っ! ちょっと間違えたくらいで何ムキになってるポン!」
そういって、偽ブルーは偽グリーンに掴みかかる。
そしていよいよ、兄妹同士の取っ組み合いの喧嘩が始まってしまった。
「ゴールドワッパー!」
すかさず、たくさんいるブルーのなかの一人、横倒しになったホットドッグ屋の移動車の前に立っていたブルーが、二人の偽物に向かって光の輪を放った。
ブルーが投げた光の輪はガッチリと喧嘩する二人を締めつける。
その締めつけに耐えかねて、ついに二人の姿が元のタヌキヒドーダとキツネヒドーダの姿に戻った。
「くっ……だが……、また蛾になればいいだけポン!」
「そうはさせない!」
さっき光の輪を放ったブルーがそういうと、今度はどこからか水風船を取り出して敵に投げつけた。
水風船は二匹にぶつかり破裂。中の透明な液体で怪人の毛がビシャビシャに濡れる。
「その水風船の中身は殺虫剤だ! 虫には化けられないよ!」
なるほど。ゴールドイエローのゴールドサーチによる分析で、既に敵の擬態はその性質まで完全に真似られることが分かっている。
ならば虫が殺虫剤を苦手な性質もコピーしてしまうはずだ。これで今度こそ二匹は逃げられない。よくできた対抗策である。
先ほどまで大量にいたゴールドファイブの姿もみるみるうちに消え、二人に戻る。
やっぱり水風船を投げたあのブルーが本物だったようだ。その横にホワイトも立っている。
「さぁ……、そろそろトドメと……」
本物のブルーがゴールドブラスターを構える。しかし、ホワイトがそれを見てすかさず叫ぶ。
「待っていつき兄ちゃん! たまには私が決めたい!」
「しょうがないな。ちゃんと決めなよ」
ブルーはそういうとゴールドブラスターを下ろし、ホワイトの頭を優しく撫でる。
「はーい!」
ホワイトが嬉しそうに前に出て、両腕に付いた爪、ゴールドクローを構えた。
「や、やめるポン!」
「助けてコン! 離してコン!」
拘束された二匹が、その場でジタバタするが、もう遅い。
ホワイトに目をつけられたら最後、決して逃れることはできないのだ。
「行っくよー! 必殺! ゴールドみだれひっかき!」
次の瞬間、ホワイトが目にも留まらぬ速さで、二匹の怪人の近くまで駆け寄る。
「うにゃにゃにゃにゃにゃーー!!」
そして、両腕の爪で激しく怪人を切り裂くと、振り返って決めポーズを取った。
「タヌキ汁にはしないでくれポーン!」
「喧嘩しなきゃ良かったコーン!」
断末魔とともに、ホワイトに刻まれた二匹の怪人は爆発四散した。
「いぇーい! 大勝利!」
ホワイトはそういうと嬉しそうにブルーに向かってVサインをして見せる。しかしブルーは何も答えない。
「……あれ?」
ホワイトが不思議そうに首を傾げる。
いつもならブルーは「よく頑張ったね」などと言って褒めるはずのなのに、今日は何も言わず俯いたままだ。
めぐむといい、今日はみんなの様子が少しおかしい気がする。
そんなことを考えていると、ブレスにめぐむから通信が入った。
「……もしもし? 現場の調査が終わったら、すぐに取り調べ室に来てくれないかな。大事な話があるんだ」
◇ ◆ ◇
私は、現場の調査を終えると、めぐむに言われた通り、ゴールドベース内にある取り調べ室まで来た。
これは、捕まえた人間や怪人を取り調べるための専用の部屋。
よく刑事ドラマに出てくるようなものとまったく同じような感じで、唯一違うところといえば壁も床も椅子も全てが金ピカなことくらいだ。
ゆっくりと取り調べ室の扉を開け中へ入ると、そこにりゅうま隊長、いつき、めぐむが壁に寄りかかって立っているのが見えた。
そして……。
「天身くん……? って、二人!?」
そこにいたのは、私の彼氏、五星天身くんと、それに瓜二つなもう一人の天身くんの姿だった。
二人とも気まずそうに下を向いたまま、黙って横並びで椅子に座っている。
「なんで二人いるの? さっきタヌキヒドーダは倒したはずじゃ……、どっちが本物?」
いつきもめぐむも、視線を逸らして何も答えない。
そんな中、りゅうま隊長が話しはじめた。
「そうだな……ある意味どちらも本物で、どちらも偽物だ」
「え?」
するとめぐむが、二枚の資料を出して机の上に置いた。
資料には天身くんの顔写真と、その情報が載っている。
だが、その資料には明らかにおかしいところがあった。
「五星……兄師? 五星……教弟? 何これ? この名前は何? どういうこと?」
天身くんの顔写真の横に載っている名前が二枚とも全然違う。
どういうことか分からず尋ねるが、やはりいつきもめぐむも答えてくれない。
そんな中、りゅうま隊長が再び重い口を開ける。
「あずき君……、単刀直入に言おう。君の彼氏、五星天身という男は存在しない」
「え……? いや、だって今までずっと……、昨日だってデートしたし……」
ありえない。そんなわけがない。頭が真っ白になる。
「その資料にある通りだよ。五星天身っていうのは、この二人が使っていた共通の偽名だったんだ」
さっきまで黙っていたいつきが、神妙な面持ちで口を挟んだ。
「……なんでそんなことする必要があるの?」
するとめぐむが机の上に、無言で二冊のメモ帳を置いた。
片方の表紙には「忍崎風」。
もう片方の表紙には私の名前「綾川あずき」と書かれている。
私は、自分の名前が書かれたメモ帳を開いてみる。やはり、昨日のデートで見たのと同じものだ。これまでのデートの内容が書かれている。
「それ、見て何か気づかない?」
いつきに尋ねられ、そのメモを改めて、注意深く読んでいく。
「日付によって……筆跡が違う?」
「そう、そのメモ帳は、双子同士でお互いにお互いの彼女の情報を把握し合うために作ったんだ。入れ替わったときも話を合わせられるように」
双子? 入れ替わる? 話を合わせる?
意味が分からない。
いや、正確にいえば分かりたくない。
しかしそんな私に、いつきは残酷な真実を告げた。
「あずきちゃん、この二人は自分たちがそっくりな双子であることを利用して、彼女を交換し合いながら弄んでいたんだよ」
りゅうま隊長も続けて話す。
「さっき取り調べて全て吐かせた。双子同士で彼女を入れ替えながらデートをすれば、二股でもバレないし、相手も自分たちが途中で別人になってることに気づかない、だからそうやって二人の女性を回して楽しんでいたと」
「そんな……、そんなこと……」
私がそう呟くと、めぐむが悲しそうに答えた。
「五星天身の名前でいくら戸籍情報を検索しても何も出ないからおかしいと思った。それで監視カメラに映っていた顔から人物を特定しようとしたら二人の人間がヒットして、そこでようやく気づいたんだ」
嫌だ。ありえない。
私が愛していた相手は実はずっと二股をしていたの?
私はずっと、途中で相手が入れ替わっていることにも気づかずにデートしていたの?
「嘘だよ……、嘘でしょ……」
私がそういうと、私のことを見ていたいつきがポケットから何かを取り出し、無言で机の上に置いた。
「それは……私のスマホ! 無くしてたやつ!」
無くなっていたスマホが、なぜか今目の前にある。
「弟さんの方が持っていたよ。君が怪人のことを調べてるのに気づいて、咄嗟に隠したってさ。連絡をできなくして、そのまま関係を切るつもりだったらしい」
そうか、ハグされて、お尻を触られたとき。あのとき、スマホを盗まれていたのだ。
「ねぇ……? 嘘だよね? なんか言ってよ! 天身くん!」
すると、天身くん……ではなく、兄の兄師が口を開いた。
「昨日、俺とお前がデートしている間に、弟は風とデートをしてた。だが、近くに怪人が出たせいで、弟のデートしているところをお前に見られちまった」
弟の教弟も続けて真実を明かす。
「その後どう誤魔化すか考えていたら、次の日君から連絡が来た。会ってみたら、どうやら君は昨日見た僕を怪人だと勘違いしている。ここで誤魔化して、連絡手段を断てば、それ以上追及されないと思った」
「このまま関係を続けたら、いつ真相にたどり着かれるか分かったもんじゃない。とっとと関係を切って風との関係だけでも続けるつもりだったんだよ」
「まぁ……、結局手遅れだったけどね」
二人は悪びれもせず、代わりばんこで淡々と話す。
信じられなかった。
彼氏が二人いたことも、平気でそんなことをするような人間だったことも。
怪人を見たというのすら、嘘だったなんて。
「そんな……そんなの……」
現実を受け容れられず、その場で膝から崩れ落ちる。
自分でも気づかないうちに、目から涙があふれ出していた。
私が泣いているのを尻目に、兄の兄師がりゅうま隊長に話しかけた。
「なぁ、掴まるのは弟の教弟だけだよな?」
「兄貴? どういう意味だ?」
弟の教弟が、驚いた様子で兄の兄師の方を見る。
「だってそうだろ? 怪人に罪を擦り付け捜査を撹乱したのも、咄嗟にスマホを盗んだのも、俺じゃない。俺は二股をしただけ。罪に問われるのはお前だ」
「……んだと? 元はといえば、二股を提案したのは兄貴だろ! 僕は最初から無茶だって言ったんだ!」
弟の教弟が、立ち上がって兄の胸ぐらをつかむ。
「兄貴に向かってなんだその口は!」
兄と弟の激しい喧嘩が始まろうとしたそのとき、ドンッ、と、強く取り調べ室の机を叩く音が響いた。
「ふざけるなよ……、ふざけるな!」
見ると、いつきが今までに見たことのないような形相で、喧嘩する二人を睨んでいる。
「乙女の気持ちを……、いや、ボクの大事な仲間の気持ちを踏み躙って、何が悪くないだ!」
はじめて見た。いつきがあんなに本気で怒っているのを見るのは。
「たしかにお前たちは、そこまで大きな罪には問われないかもしれない……けどな!」
いつきが左手で、兄師の胸ぐらを掴んだ。
「愛するあずきちゃんを傷つけたことを! ボクは絶対に許さない!」
兄師はいつきから視線を逸らすと、チッと舌打ちした。
「……騙される方が悪いんだよ」
「お前……ッ!」
怒ったいつきが右手で拳を作り、兄師に殴りかかろうとする。
「よせ! やめろ!」
りゅうま隊長が慌ててその拳を押さえて、いつきと兄師とを引き剥がした。
「俺たちは正義の戦士だ。その拳を、怪人以外に振るってはならない!」
「でも……、でも!」
「もういいよ。いつき」
私は、涙を拭いて立ち上がった。
そして、いつきが作った右手の拳を、両手で優しく包む。
「ありがとう。もう……大丈夫だから」
その言葉を聞いて、いつきはようやく振り上げた拳を下ろした。
――こうして、今回の事件と、私の恋は、同時に幕を閉じた。
◇ ◆ ◇
夜、みんなが寝静まった頃、私は一人ゴールドベースのメインルームに置かれたゴミ箱の前で立っていた。
「どうしたの?」
ビックリして振り返ると、いつきが心配そうな顔で立っている。
「いつき……まだ起きてたの?」
「まぁね、ボクは夜更かしと夜遊びが好きだからさ」
そういって、いつきは優しく笑ってみせる。
「……それ、何持ってるの?」
いつきが、私の手の中にある銀色のペンダントを指差した。
「……彼から、……天身くんから、貰ったんだ」
「そっか……、ごめん……」
いつきが、気まずそうな表情を見せる。
私はそれを見て、慌てて笑顔を作った。
「いやー! 馬鹿だよね! いくら双子でそっくりだからって、彼氏が別人になってるのにも気づかないなんて……、自業自得だよ……本当……」
気を使わせないように、頑張って気丈に振る舞おうとするが、どうしても目から溢れる雫を抑えることができない。
ポロリ、またポロリと、零れ落ちていく。
いつきが、そんな私を見て声をかけた。
「……そうだ! ラーメン食べに行こう! 近くに美味しい店があるのを知ってるんだ」
「え? 今から?」
急な提案に私は思わず笑ってしまう。
「こんな深夜にラーメンって、いつもそんな風にデートに誘ってるの? だからモテないんだよ」
「そ、そうだよね……、ボクとしたことが、何言ってんだろ」
そういって、お互い笑い合う。
なんだか、今のいつきといると、不思議と元気が出てくる気がした。
「ごめんね、変なこと言って……、じゃあ」
「待って」
私は腕で涙を拭うと、持っていたペンダントをゴミ箱に投げ捨て、いつきの元に駆け寄った。
「……やっぱり、食べる」
「いいの?」
「うん、今日は思いっ切り食べたい」
そうして、私たちは二人でラーメンを食べに行った。
――その日食べたラーメンは、少ししょっぱい味がした。
◇ ◆ ◇
一方その頃、どこかのマンションの屋上に怪しい男が一人、窓の光がキラキラ輝く夜の町を見下ろしている。
男は銀色のフードを被り、銀色のサングラスを付け、銀色の……、ではなく流石に普通の白いマスクをつけている。
男がマスクをつけたままモゴモゴと呟いた。
「やれやれ、研究開発に随分と時間がかかっちまったぜ……」
男は自分の右手を空に掲げ、その腕を見つめる。その腕には、ギラギラと光る謎のブレスが付いている。
「……待ってろよゴールドファイブ……俺が必ず……」
――果たして、この男は何者なのか、それはまた次の事件で……。
〈つづく〉




