事件4-3『フォーリンラブ・インベスティゲーター』
〈前回までのあらすじ〉
タヌキとキツネの怪人のどちらかが、自分の彼氏に化けているのでは無いかと睨んだあずき。
それを確かめるべく、直接会って話を聞くことにした。
次の日、私は近所の公園に彼を呼び出した。
急な呼び出しにも関わらず、私の「会いたい」という言葉に、彼はすぐに応えてくれた。
私が公園についた頃には、彼はもうとっくにベンチに座っていた。
「ごめん! 遅くなっちゃって! それに昨日の今日でいきなり……」
「いや、いいよ! 寧ろ嬉しい。君の方から言ってくれて。いつもは僕からだから」
彼はベンチから立ち上がると、爽やかな笑顔で笑いかけてくれる。
笑ったときに見える白い歯も、彼の好きなところの一つだ。
「それに、僕もあずきちゃんに会いたいと思ってたんだ……、昨日、渡しそびれちゃったからね」
そう言って彼は、綺麗に包装された箱を手渡してきた。昨日の付き合って三年の記念日に貰うはずだったものだ。
「開けていい?」
「もちろん」
私はそっと、プレゼントの包装を取って、その中身を見る。
中には銀色の綺麗なネックレスが入っていた。私には分かる。これはブランドモノのかなり高いやつだ。
「いいの……? こんな素敵なもの……」
「当たり前だよ。大切なあずきちゃんのためだから」
「付けていい?」
「僕が付けてあげるよ」
そういって、彼はネックレスを手に取り、その手を私の首に回す。
近づいてきた彼の吐息が、私に当たって、少しくすぐったい。
そのくすぐったさと恥ずかしさで、私の身体が少し熱くなる。
ネックレスを付けると、彼は私から少し離れて、その姿をマジマジと見つめる。
「どうかな……?」
「うん、すごく似合ってる」
彼に褒められると、嬉しくて思わず顔がほころんでしまう。
「それで、用事って何? 何かあるから呼び出したんでしょ?」
そうだった。すっかりデート気分になっていたが、今は戦隊捜査官としての任務で来ていたのだ。
「うん、あのね。唐突に聞くんだけど、最近、怪人を見かけたりしてない……?」
「えっ、怪人……? なんで?」
突然にことに彼は驚いた表情を見せる。
急にこんな話をされたら無理もない。
「ごめん、実は昨日、あなたと別れたあと、あなたにそっくりな人を見かけたの」
「え!? 本当に!?」
彼が動揺した様子を見せる。無理もない、ドッペルゲンガーなんて誰でもビックリするものだ。
「うん。それで、『なんでこんなところに?』って追いかけたら、怪人に出くわして……」
「……大丈夫? ケガしてない?」
真っ先に私の心配をしてくれるなんて、やっぱり彼は優しい。
「それは大丈夫、ちょうどゴールドファイブが助けてくれたから」
彼は安堵して、ため息をつく。
「そうだったのか……」
「それでね、もし怪人があなたに化けたなら、あなたも怪人の姿を見てるんじゃないかと思って。あの怪人、自分が見たものにしか化けられないから」
本当は『実は自分は戦隊捜査官で全て任務のための事情聴取』とハッキリ言ってしまいたいところだが、残念ながら現段階ではまだ彼が怪人事件の関係者と確定していないため、事情を説明できない。
直接の被害者やその関係者、正式に容疑をかけられている相手なら全てを明かせるのに、なんだかとても心苦しい。
「あー、そうか。そういうことか……」
彼は気まずそうに、少し考える。やはり思い当たる節がありそうだ。
「……あぁ、実は一昨日見たんだ。その怪人。すぐに逃げられちゃったけど、アレはたしかに怪人だった」
やっぱり。この証言はとても大きい。あの怪人のどちらかが彼に化けている可能性が高いことが分かったのだ。
あるいは、もし別な人間に化け直していたとしても、化けられた側の人間やその近くに居た人が怪人を目撃している可能性が高い。
彼が怪人を目撃していてくれて助かった。
「そっか、ありがとう……。それじゃ、私もう戻らなきゃ」
「え? もう?」
本当はこのままデートを続けたいが、あいにく調査が終わったらすぐに戻るようりゅうま隊長に言われている。
なんだか彼を振り回しているようで、とても心苦しい。
「ごめん。急に呼び出しておいて、すぐに帰るなんて」
申し訳なくて、私は彼の顔を見れずに俯いてしまう。
そんな私を、彼は突然抱きしめた。
「えっ!? 何、急に!?」
「大丈夫だよ。あずきちゃんにはあずきちゃんの事情があるんだろう? 僕はいつも君の味方だ」
彼の温もりに、全身が包まれる、温かくて心地よくて、とろけてしまいそうになる。
私も応えるように彼の背中に手を回す。
できることならこのまま、任務のことなど忘れて二人で溶けてしまいたい。
熱く抱き合っていると、彼が急に私のお尻の方を触り始めた。
「ちょっと……、やめてよ。恥ずかしいって……」
「いいじゃない、ちょっとくらい」
だが正直、不思議とそこまで嫌ではなかった。このまま何をされても、許してしまいそうになる。
でも私には、戦隊捜査官としての使命がある。それを忘れて、ここで彼氏と遊んでいるわけにはいかない。
私はつま先立ちで、彼の唇にそっとキスをすると、彼から離れた。
「ごめんね。デートはまた今度にしよ?」
「うん、じゃあね。行ってらっしゃい。お仕事頑張って」
私は、後ろ髪引かれる思いを胸に、その場を後にした。
◇ ◆ ◇
ゴールドベースのメインルームに戻ってくると、めぐむが一人でパソコンと向かい合っていた。
パソコンの周りには、空になったエナジードリンクの缶が何本も転がっている。
目の下の大きなクマと、その真剣な面持ちから察するに、いつものようにPCゲームをしている訳ではないらしい。
「おーい、めぐむー。りゅうま隊長は? 報告に来たんだけど……」
「あぁ、りゅうま隊長は今、怪人が次に現れたときの対抗策をいとしと話し合ってるよ。調査の報告なら僕が受けることになってるから、今この場で言ってよ」
「あぁ、うん。やっぱり、天身くん、怪人を目撃してた。少し前に、たしかに姿を見たって」
「ふーん。そう」
りゅうま隊長じゃないから仕方ない気もするが、せっかくわざわざ調べてきたのに反応が薄いとちょっとがっかりする。
「それより、そっちは何調べてんの?」
「それは……」
めぐむが珍しく言い淀む。気になって画面を覗き込むと、どこかの監視カメラの映像が映されていた。
「これって……?」
「……昨日怪人が出た現場周辺の監視カメラの映像。何か映ってないかと思って」
私は画面をまじまじと見る。道路や、駐車場など、沢山の監視カメラの映像が、一つの画面に収まっている。
その中にコンビニの店内のような映像があるのを見つけた。
「そうだ! 今思い出した! 昨日、天身くん……。じゃなくて、天身くんに化けた怪人と一緒にいた女の人、コンビニの袋持ってた!」
「それ、本当に……?」
めぐむの表情が曇る。その反応に少し違和感を感じる。
「うん、間違いないけど……」
するとめぐむは、ポケットからくしゃくしゃに折りたたまれた一枚の紙を差し出した。
開いてみると、それは女性の顔写真や名前、住所などが詳しく書かれた資料だった。
「この女の人……、私が昨日会った人だ! 昨日は後ろ姿しか見えなかったけど、それでも分かる。でもなんで……?」
「りゅうま隊長から頼まれて、昨日怪人が出た前後、周辺に誰がいたか調べてたんだ。ほとんど人が居なかったけど、唯一怪人が出る直前に、コンビニで買い物をするカップルの姿があった」
「それを、映像に映っていた顔から、人物を割り出して……?」
「そういうこと」
こういう調べ物をするのは、めぐむの得意分野だ。
いつもパパっと調べてくれる。
私は、めぐむが調べてくれた資料に目を通す。
「えーっと……、忍崎風。年齢二十六。数年前まで、地元で演歌歌手として活動していたが、あまり売れず去年引退。住所は……」
「気になるなら、その人にも事情聴取してみたら?」
たしかに、少しでも情報はあった方が良い。おそらく監視カメラに映っている彼女も怪人が化けたものだとは思うが。
……でも、だとしたらなんでコンビニで買い物なんでしているんだろう?
「僕は……、行ったほうがいいと思うけど、できれば……、なるべく……」
珍しい。私も調べる気満々では居たが、めぐむが怪人の調査でここまで乗り気になることは滅多にない。
「なんか珍しいね? めぐむがそこまで言うなんて……」
「いいから、なんでも。とにかく確かめた方がいいと思う」
なんだかとても表情が暗い。よほど事情聴取してほしい理由があるようだ。
しかたなく、私は資料を握りしめ、ゴールドベースを出ようとした。
「――待って!」
急に呼び止められ、私は足を止め、振り返る。
「何? 行って欲しいんじゃないの?」
「あ、いや……彼氏の名前って……、五星天身で合ってたっけ?」
「だから、そう言ってるじゃん……」
急にどうしたんだろう? やはり明らかに様子が違う。よほど寝不足で頭が回っていないのだろうか?
「顔写真とかあったら、見せてくれない?」
「監視カメラに映ってたなら、その映像から割り出せばいいじゃん」
「いいから、一応さ」
仕方なく、私はズボンのポケットを探り、スマホを取り出そうとする。
――そこで私は気付く。
ない。ズボンのお尻のポケットに入れていたはずのスマホが見つからない。
「あれ……、ヤバい……。落としちゃったかも……。紛失届け出さないと……」
「本当に? そっか……、だったら早く行きなよ」
「えっ、いいの?」
「うん……一応、確認したかったってだけだから」
歯切れの悪い返事が妙に引っかかる。が、しかし今は一刻も早くスマホの紛失届けを出したい。
私は足早にゴールドベースを後にした。
◇ ◆ ◇
スマホの紛失届けを出し終えた私は、めぐむの調べてくれた資料を頼りに忍崎風の家へ向かった。
彼女の実家はあのコンビニのすぐ近くらしく、迷わずすんなりこれた。
ドアの前に着くと、さっそくインターホンを鳴らす。
「はーい。今行きまーす」
声がして数秒待つと、すぐに家のドアが開いて、昨日の女性が顔を出した。
「えっと、どちら様で?」
「はい、捜査官をしている、綾川あずきというものです」
「捜査官?」
忍崎さんが首を傾げる。
「あの……、失礼ですが、ここ最近、怪人を見かけませんでしたか? タヌキと、キツネの」
まずは怪人の姿を目撃していないか聞いてみる。
おそらく天身くんの証言から、昨日コンビニ近くに居たのは怪人の擬態だとは思うが、一応確かめておいた方が良い。
「あ、あー! ニュースでやってた!」
忍崎さんが大きめの声で相槌を打つ。
「見たんですね?」
「いや、見てはいないんですけど、昨日彼氏とコンビニに行ったところのすぐ近くで出現したって聞いて、本当にビックリしたんですよ」
「えっ?」
昨日? 彼氏?
「しかも、怪人の出現時刻もちょうど、私が彼とコンビニに行った時間のすぐ後で……、もしバッタリ会ってたらって思うと……」
おかしい。私の推理が正しければ、あの日コンビニに居た二人が、タヌキとキツネの怪人の正体なはずだ。
そうでなければ、あの場に天身くんが居たことに説明がつかない。
あれが天身くん本人なら、天身くんが瞬間移動の能力者で、私と会ったあとすぐにテレポートしたということになってしまう。
天身くんだけが偽物で、一緒にいたこの人だけが本物だったということか?
じゃあもう一匹の怪人はどこから現れたのか。
考えても答えが出ない。
それに何より、私の彼氏のことを、彼女も彼氏と呼ぶことに、とてつもない胸のざわめきを覚える。
「あの……、昨日コンビニに行った証拠とかありますか?」
「あぁ、はい、それなら」
そういうと、忍崎さんはポケットから財布を取り出し、中からレシートを出してみせた。
レシートの購入品は、おそらく本当に彼とのおうちデートのために買ったものなのだろう。聞かなくても内容物でなんとなく分かる。
レシートに書かれている日付けは、たしかに昨日のものだ。
やはり、怪人が天身くんに化けて、彼女と恋人ごっこをしていたとしか思えない。
だが、ヒドーダ怪人が人間とデートをするなんてあり得るのか?
「あ! そうだ!」
忍崎さんがまた声をあげる。
「そういえば彼、昨日コンビニで買い物済ませた後、急に私の手を引いて走り出したんです。あのときは変だなと思ったんですけど、もしかしたら怪人を目撃していたのかも」
違う。あのとき見られたのは私の姿だ。
――そういえば、彼はなんで、私を見て逃げ出したんだろう。
なんだか、とても嫌な感じする。
そのとき、腕につけたブレスにいつきから通信が入った。
「マイ・スウィート・ガール……もとい、あずきちゃん! あの二匹がまた現れた! 場所のデータ送るからすぐに来て!」
〈つづく〉




