贈り物選び
今日は月島さんからのお誘い。
お礼と称した食事会の日である。
まだ時間よりだいぶ早いが外に出て、月島さんのお父さんの快気祝いにと百貨店で贈り物を探していた。
(うーむ、悩むなぁ)
宗馬は慣れてない贈り物選びに四苦八苦していた。
それなりに歳は重ねてきているが、いかんせん独りの時間と必要最低限しか人に関わってこなかった人生を反省していた。
「悪いモヤの逆パターンで良いモヤも見えたらなぁ」
そんなことまで口走ってしまいながら、百貨店を巡っていく。
和菓子洋菓子お酒にファッション小物……
あれでもないこれでもない、そうやって悩んでいた時だった。
(チリン)
人々のざわめきや店内の音響に混じり鈴の音が聞こえる、何故か意識が取られて気になる。
(何だ?呼ばれてる?)
宗馬はどうしても気になる鈴の音が、自分を呼ぶような感覚になり音の方面へ歩き出す。
(他の人は気にならないのか?)
沢山の人の中で割と高く響いてくる鈴の音、まるで自分にしか聞こえないようだった。
(リーン)
鈴は最後に一際高く伸びのある音色を響かせて鳴り終えた。
その時だった。
「桐生さん?」
名前を呼ばれてハッと振り返った先に、月島さんが驚きの顔で宗馬を見ていた。
「え?桐生さん!どうしたんですかこんなとこで!」
「月島さん!……いや実は今日お邪魔しますし、お父様の快気祝いで贈り物をと思いまして…」
正直に話すかは迷ったものの、このあと月島さんとまた会い店に行くのだ、隠しても察してしまうだろうと打ち明ける事にした。
「まあ!そんな父の為に!本当になんと申し上げていいのか!」
あわあわする月島さんを見て軽く笑い、宗馬も聞いてみる。
「月島さんは何故百貨店に?」
「それがですね、桐生さんと同じで……父に復帰祝いの贈り物をと考えてまして…ただ難航しちゃってて」
少し困った笑顔を見せた、という事は同じ状況だったのだろう。
こうなれば隠す必要も離れる必要も無い。
「僕も同じです、月島さん一緒に選びませんか?」
「良いんですか?」
「このままだと待ち合わせに間に合わなくなるところでしたので、月島さんが良ければ」
お互いに選びに来たのは良いが当てがなく、目移りして選びきれないとこに出会った。
このまま夕方の待ち合わせでまた会うのなら、もう一緒に選ぶのが正解だろう。
「ありがとうございます!」
月島さんはパッと笑顔でお礼を言ってくる。
(良い笑顔するよな月島さん)
宗馬は屈託の無い笑顔を見て笑顔で返した。
あの鈴の音が引き合わせたのか。
偶然には出来過ぎている、百貨店の規模や人の波の中でピンポイントで会えるのは相当な確率だ。
少し気になりながらも、月島さんと話を咲かせながら贈り物選びに店を周りだすのであった。
月島さんと会い二人になったからプレゼント選びはうまくいく…とはならないのがプレゼントを選ぶと言う難しさである。
「父、お酒好きなんですけど退院してリハビリしてたから禁止してるんですよ、身体の事も考えるとやっぱり心配で」
「あ〜お酒好きな方には辛いでしょうけど仕方ありませんね」
危なかった、宗馬の選択にはアルコールもしくはアルコールを楽しむ酒器もあった為、前情報を得れて一安心する。
しかし、それはそれで選択肢が狭くなってくる。
食べ物の好みもあるが、フレンチのシェフで店持って生きてる方に下手な物は選べない。
難易度高まったなと悩んでると……
「ふふ、真剣な顔」
月島さんが覗き込みながら笑う。
「ありがとうございます、父の為に真剣に考えて下さって」
「いえいえ、贈るなら喜んで貰える方が良いですし、恥ずかしい話贈り物の経験が少なく決めきれないのです」
「本当に優しい方ですね、桐生さん」
改まって言われ照れてしまう。
「あ!あれはどうです?」
照れ隠しに指した店は革細工の店であった。
財布やキーケース、スマホカバーに小さなバッグと多岐に渡る革特有の深みがある風合いと香り。
年配の男性へと贈るプレゼントとしては有りだろう。
「わぁカッコ良さと渋みがありますね、桐生さんもレザー系の物お好きなんですか?」
「僕も詳しくは無いのですがあまり見栄え気にしない親父がキーケースだけはいつまでも使っていたなと思い出しまして」
父のキーケースは母からのプレゼントで貰ったらしい。
手入れをしながら今も使っていると大事にしているのを見てきた。
自身の父のアイコニックな物としてイメージにある。
「革は手入れも要りますが、長年使えて少しずつその人を表す物になっていくと聞きます…ただ、やはりお値段は張りますね、ここまでだと逆に気を遣わせちゃうか…」
少し品が良さそうな物になると、値段を知られると萎縮されてしまいそうだな。
そう思った宗馬に月島さんの提案があった。
「なら、二人からにしません?」
「え?」
「一人だったら迷いますけど二人からなら予算も上げれて良い品にアップグレードできますし」
「いやでも、良いんですか?僕なんかと合わせてしまって」
「何を言ってるんですか、桐生さんに選んで頂ければ父も喜びますし長く使って欲しいですもの」
ニコリと笑いながら言われれば断る事も無いだろう。
「ありがとうございます、乗らせて頂きます」
「こちらこそありがとうございます!父も喜びますし私も良い物に出会えて嬉しいです!」
素直に感情表してくれる方だなと、宗馬も嬉しくなる。
「では、どれにしましょうかね」
方向が決まれば品を決めるのみになり、少し力が抜けた。
月島さんと二人で選ぶ時間が楽しいと感じる宗馬であった。
二人で贈り物を買い、宗馬は着替えに月島さんも店の準備ということで一旦解散をした。
自宅に戻る道のり、ぼんやりと宗馬は考えていた。
(あんな買い物で楽しんだのはいつぶりだろう)
自分の物を買うのでは無い、誰かの為に選ぶ行為が久しぶりだった。
それも、女性を横に一緒に選ぶのは初めてだったか。
そして聞こえた鈴の音はなんだったんだろうか。
二人を引き合わすように鳴り響く鈴の音、あのおかげでもある。
帰ったら着替えて駅前で月島さんと再会、そのままお店でもてなされる。
「濃い一日だな」
フッと笑い、預かった贈り物を見て両親を思い出す。
(母さんは今月末来るし父さんには年末年始実家かな、いや…その前に次の満月か)
満月の夜、黒一は来る
前回はこれまでに無い癒しであった、黒一の感情が少し溢れ出したような夜になった。
それに夢の遡りで見えた、遠く忘れてたあの小雨の中で抱えた子猫と幼き自分。
本当に色々起きて人生の密度が濃くなった半年。
四十代になってこんな体験するとは思わなかったが、悪いモノではないと宗馬は感じている。
宗馬にもたらしている現象は非現実的だが、事実現実に関わっている。
このまま享受するだけで良いのか、それとも真相を突き止めるべきなのか。
宗馬には胸の奥にチクリと刺す棘があった。
一旦帰宅した宗馬はスーツに袖を通し全身をチェックしていた。
(うーむ…そう言えば服装について聞き忘れたな)
以前に月島さんからは父の個人店なので気にせずにと言われたが、さすがに四十代になって下手な事も出来ないだろう。
スーツ自体はフォーマル、カジュアルと数着持っているがどちらに寄せるかで悩んだ。
店の価格帯を聞くのも失礼な気がするし、だがフレンチと聞けば格式みたいなものがあるような気もする。
宗馬はプレゼント選び同様、ここでも自身の経験の少なさを憂いた。
(まあ、フォーマルにしとくか、言ってもそこまで高いスーツでも無いが)
色々足掻くのをやめて派手過ぎないフォーマルスーツを取り出した。




