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黒一の恩返し Rewrite of favor  作者: かずや


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5/8

満月よ照らせ


 道の暗がりに映える薄紫を基調とした和装。

 夜より黒い息を呑む髪。

 おそらく見る者は全て魅入ってしまう幼げで綺麗な顔。

 

 「…今日は外なんだな」

「ええ月が綺麗でしたので」

 

 ふっと柔らかく黒一が笑う。

 なんて顔をするんだろう、あまりにも綺麗すぎて言葉を無くして見惚れてしまう。

 

「……家、来るか?」

 こんな道端でいつも通り意識を飛ばされるのはシャレにならない。

 しかし黒一の返答は意外なものだった。

 

「いいえ、今宵はお話させていただきます」

 これまではぐらかし続け、核心に迫れない状態だったのに何故いきなり?

 宗馬は少し困惑したが、話をするつもりなら何かわかるかもしれない。

 だが……

 

「ここで良いのか?人通り少ないとは言えその…目立つ格好で大丈夫なのか?店とかでも良いぞ」

「明るすぎる騒がしい所は苦手なので、この月明かりの下が落ち着きますゆえ」

 どうやらどこにも行く気は無いらしい。

 それなら仕方ない。

 

「話をするって俺が聞いた事にも答えてくれるのか?」

 黒一は微笑み言った。

「それは宗馬様次第でございますよ」

 どこかはっきりしないが逃げる気は無いらしい。

 

「そうか…黒一、君は……人なのか?」

 色々考え込んではいたが一番の根っこはこの質問だった。

 現実離れした出来事が続いて不思議な能力もある。

 オカルト的な事だとしても、真剣に聞いておきたかった。

 黒一は宗馬の言葉を受け僅かに悲しげな表情をしたが、すぐに微笑みを戻しはっきりと答えた。


「いいえ、私は人と呼べる者ではございません」


 ……人では無い

 

 確かに黒一は答えた、信じる信じないはあれど宗馬は予想していた事に驚きはしなかった。

 

「…まあ…そうだろうな、あまりにも不可思議な事が多すぎた」

 宗馬はこれまでを思い返しつつ聞いた。

「黒一は恩返しと言っていたが…俺の生まれ故郷で会ったか?」

「ええ、宗馬様が幼少期の頃、私は貴方様に救われております」

 幼少期に何があったか、これが思い出せない。

 救う行為をした事に心当たりが無くて、特に霊的な体験も無かったのだ。

必死に思い出そうとしていると黒一が側に寄ってきた。

 

「私はこのままで良いのです、でも宗馬様がそれで苦しむのは本意ではございません」

 

 そう言って胸元に寄りかかり、頭を軽く擦り付けてきた。

 小さく柔らかく甘い香りを漂わせ、あまりにもゆっくりと自然に。

 そのまま黒一は宗馬の顔を見上げにこりと笑った。

 

「思い出そうとしてくれるだけで私は幸せでございます」

 一瞬いつものどこか触れ難い黒一の雰囲気が柔らかくなった。

 少女のような動物のような可愛らしいものとなり、宗馬の心臓が跳ねたのを感じる。


「残念ですが月が隠れそうでございます、暗くなりますのでお帰りはお気をつけて…」


 黒一は名残惜しげに離れ、宗馬に小さな巾着を手渡した

「お土産でございます」

 そう言うと横をすり抜け、暗がりへ溶けるように消えていった。


 しばらく動けず黒一が消えた暗い道を眺めるしか出来なかった。

 フリーズが解けた宗馬は歩き出して自宅へと向かう、与えられた情報と行動を何度も反芻しながら…


 (人と呼べる者ではございません)

 

 はっきりと黒一は言い宗馬は受け入れていた。

 黒一が訪れ出して色々な変化があり不思議な体験を重ねている、さすがにそこまで頭が硬いわけでも無く受け入れた方が思考の流れがスムーズになるのだ。

 お土産だと渡された、薄紫の黒一が纏う同じような和装生地に似た巾着袋を眺める。

 とても品があり少し黒一と同じ香りを感じる。

 何が入っているのか紐を緩め口を開ければ、更に香りが強まった気がした。

 中に見えたのはコロコロとした物体の集まり。

「石…?」

 一つ手に取りよく見てみる、半透明に透き通る宝石のような物に見える。

 他の物もあるがそれぞれ色が違い甘い香りを漂わせてる、ふといくつかにザラザラしたザラメのような物が纏わせられている。

「…これは飴なのか」

 恐る恐る手に持つ色の付いた宝石を口にしてみる。

 すぐに上品な甘味が押し寄せてくる。

 渡されたお土産とは飴で間違いない。

 

「これが今回の恩返しなのかもな」

 誰に聞かれる事もなく宗馬は呟き飴を口内で転がした。

 どうやらこの飴は普通の物とは違うようで、黒一の癒しに似た感覚がやってくる。

 黒一の香りと甘さを感じ、安心感が包んできて睡魔が強くなる。

 (また、何かしら起こるのかもな……)

 宗馬は予感しながら睡魔に誘われ、眠りへと落ちていった。


 夢を見てる。

 感覚的に宗馬はそう感じていた。

 俯瞰的に見るような意識はフワついてるが、何か映像を見ているような。

 (あれは、俺か?)

 どうやら自分で自分を見ているらしい。

 黒一と会う前だ、とても疲れている見るに耐えない自分が見える。

 既にキャパオーバーの業務量に、上乗せされる人の退職や休職。

 様々な人や物にモヤが掛かってるのが見えている。

 でも当時の自分は自分がなんとかしなければと背負い込んで何も見えていなかった、この時は体調なんて考える余裕もないまま過ごした三十代……

 自身の土台が崩れていくのに、目の前しか見えてなくて足下が危険なのに気付かずに……

 足を踏み外しそうになった自分を見た瞬間、景色が変わる。


 (まだ生気がある頃か)

 上京してきた頃だろう、若い。

 見上げる高層ビル群の圧に飲まれていた。

 田舎の徳島から出て、東京都会の空気に何か馴染めずに仕事する事で誤魔化してたんだな。

 あわあわとしながら当時必死になっていた。

 両親の顔も浮かぶ。

 地元から離れる人はそう多くは無かった。

 皆農家だったり地域の商店の一つだったりで、家を継ぐ者が多かった。

 また景色が変わってく。

 

 (学生時代だ……生意気そうな顔してる)

 進路を決める時はあまりにも悩んだ。

 子供が多くはない地域、数少ない同級生達は実家を継ぐ選択をしてる中で自分は一人上京を決めた。

 上京を決めた理由も「レールに乗ったまま埋もれるのが嫌だ」と反抗心あっての事だ。

 そこまで深く考えれてなかった、一匹狼タイプのプライドもまだ子供だったのだ。

 上京をして結果、四十代まで周りに埋もれて疲弊しただけなのが笑えてしまう。

 

 (結局何も見出せていなかったんだ)

 

 少しずつ覚醒し出した頭の最後に浮かび、目を覚ました。

 はっきりと夢を覚えていて反芻していた。

「半生振り返りの夢なんてな……残酷な事してくれる」

 宗馬は夢で遡った自身のこれまでを、窓から差し込む朝日で上書きしようと目が眩みながら浴びた。


 (なんでいきなりあんな夢見たんだろうな)

 

 身支度をしながら宗馬は今と昔を比べていた。

 それなりに良い役職まで昇った、疲れ果てていたあの頃よりはマシになってきたと感じる。

 それは諦めなのか慣れなのか、自分が歯を食いしばれば何とか収まると思い込んでいた。

 ただ、黒一と出会って得たモノのおかげで今が一番うまくいってるまである。

 独身のままではあるがそれなりの生活力も備えれた。

 

「結婚か…出会いが無けりゃなんともなぁ…」

 両親が望むから結婚を考えるのは違う気がする。

 自分自身の願望が薄いのか、薄くなってしまったのか。

 地元の友人達は既に結婚してる者が多い。

 子育てに忙しい、連絡も取らなくなって久しい。

 (そりゃあ若い時はお付き合いもあったが結婚って言葉にまではならなかったな)

 仕事に引き摺られ過ぎて、縁が切れてしまうパターンだった。

 自分がもっと周りを見て人付き合いを把握してれば、違った未来もあったのだろうが。

 

 (そういえば結婚しようとはっきり出たのは子供の遊んでた時かな……)

 地元の神社の境内でよく遊んでいた女の子に好かれていたのか好いていたのか……子供時代は可愛いものだ。

 もう名前も顔も思い出せない。

 

 あの子はもうお母さんになってるのかな。

 (…ふ、自分の心配するべきだな)

 宗馬は自虐気味に笑い家を出た。


 半生の夢を見た事で、宗馬はぐちゃぐちゃになっていた自分「桐生宗馬」の形を見つめ直していた。

 満月が照らす死角、陰になる箇所が強く浮き出るように。

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