実家での不思議体験
人を助けた事になった夜から数日、世の中はお盆が訪れた。
会社も盆休みに入り宗馬は帰省する、帰省先は徳島であり何も無い地域だ。
それでも幼少期を過ごした場所で特別な想いはある。
東京から新幹線に乗って更に電車を乗り継ぎバスに乗り。
移動を進める内に変わった景色と変わらない景色に自分の歳を感じながら、数年振りになる実家へと到着した。
「ただいま」
ガラッと引き戸の玄関を開け帰省を告げる。
鍵をしてない所が田舎らしい。
「あらあらおかえりなさいー久しぶりね〜言ってくれてたらお父さん車で迎えに行かせたのに」
久しぶりの母との再会だが、宗馬も四十を過ぎてるので子供の頃のようには喜びを表せない。
「母さん元気そうだね、父さんは?」
「今買い出しに行ってるのよ、アンタ帰ってくるしお寿司とかお酒とか」
「そんな特別じゃなくとも…」
「いいのよ、久しぶりなんだから」
立ち話もそこそこに家へと上がる。
久しぶりの実家、久しぶりの廊下、少し年老いた母。
(モヤは無いか…)
宗馬は少し安心した。
帰省した夜はご馳走と両親が迎えてくれた。
上京したての頃は毎年帰ってはいたが、ここ数年は仕事に疲れ過ぎで帰省間隔も空いており、久しぶりの再会に熱が入ったのだろう。
歳の割によく呑む父に変わらぬ笑顔の母。
二人に嫌なモヤも見えず、宗馬は安心しきっていたところで
「で、宗馬はそろそろ良い人見つからないのかい?」
あまり触れてほしく無い爆弾を落とされた。
確かにもう四十代になり所帯を持っててもおかしくはない歳だが…
過去お付き合いした経験も無くも無いが、今は長年独り身である。
「やっぱり気になるからね、宗馬も私達もいい歳になっちゃったし」
実家は農家である、宗馬はその一人息子どうしても気にはされてしまう。
農家を継ぐとまではいかないとしても、孫の顔ぐらいは見たい気持ちがあるだろう。
勿論宗馬も理解はしているが……
「悪いな、出会いが無くてな…」
ふと黒一が過ぎるも彼女はあまりに違いすぎる存在だ。
「まあ宗馬が真剣に仕事取り組めてるって事だからな!東京の良い会社で続けれて役職も上なんだろう?元気にもう少し多く帰ってきてくれれば良い」
酔いの回る父が豪快に笑い飛ばしながら本音を漏らしている。
その日の夜は歳を取れど、変わる事ない親子の団欒で夜更けまで飲み明かした。
盆の行事、墓参り。
桐生一家で一族の墓に向かう。
「変わらないなこの辺」
「そりゃあ田舎だし霊園近くなってるからな」
車を走らせ山の中腹を曲がりくねる。
遠くに見えた墓石の並ぶエリアを目指して小一時間。
お盆なので人もそれなりにすれ違う。
霊園に入り目的の墓石まで来た。
「桐生家之墓」
先祖代々の墓として眠る者の名が刻まれている。
全体の清掃を行い華を飾り線香を上げる。
線香の香りが辺りに漂う中で宗馬は嗅いだ覚えのある香りに振り返った。
……甘い香り、気のせいか
どこかで嗅いだ気がした香りは線香の香りに上書きされて気のせいだったと思わせた。
墓参りも終わり帰宅後は男手のいるとこの家電清掃や手伝いをこなし夕方前にフリーとなった。
「せっかく帰ってきたのだから懐かしい箇所の散歩でもするか」
宗馬は1人散歩してくる事を告げ外に出た。
(やはり懐かしいな、変わってない)
子供時代に戻った感覚で、蝉の声を聴きながらゆったり見て回る。
(そういえばこの先は神社だったか、境内で集まってたな)
記憶に残る道筋を辿り、見えてきた神社はあの頃のまま地域のシンボルとして残っていた。
(変わらないな)
お参りをして、ひとしきり眺め帰ろうとした時であった。
「お主面白いのが憑いとるの」
背後から声のした方を向く、神社の神職だろうか?
年老いたお爺さんがニコニコと笑って宗馬を見つめている。
憑いてる?
訝しげに神職を見てると。
「なぁに不安がる事はない、間違いなくお主は善人じゃよ…恩返しされる程にの」
恩返し、そのワードに黒一が浮かぶ。
神職は何かわかるのか?
「あの、すいません何かわかるんですか?教えて下さい」
「ふむ…なるほどの…怖がる事では無い」
神職は宗馬の足下に目線を向けて言った。
「答えを焦るな、お主が知ろうとすれば分かってくるもんじゃよホッホッホ」
そう言うと神職は身を翻し建物の中へと消えていった。
「どういう事なんだ…」
宗馬は混乱したまま息を吐き、来た道を引き返した。
盆休みも終盤を迎え、実家に居るのも最終日となった。
どうしても先日の神社とそこに居た神職の言葉が気になる。
宗馬は自然に足を向けていた。
(憑いている)
確かに神職は言った。
言い方的には霊や妖怪といったオカルトの類を連想するが、正直に信じるには年齢も年齢である。
馬鹿らしいという気持ちと、だがしかしといった気持ちで揺れていた。
それだけ三ヶ月程で不思議な事が起きている。
そうこう揺れる内に神社へと辿り着いた。
まだ夏の午前中と言えど、暑さで参拝客は見当たらない。
境内を掃き掃除してる巫女さんが目に留まり、宗馬は意を決して声を掛けた。
「すいません、この神社にいらっしゃるお年を召した神職?の方今いらっしゃいますか」
「神職…年を召した…?」
「はい失礼ながら結構ご高齢だとは思ったので…この間少しお話ししまして去られる際にあちらの建物へ入って行かれたのですが…」
先日入っていった建物は今日も静かに佇んでいる、だが扉は閉まっている。
この時間は閉めているのだろうか。
視線を巫女さんに戻すと、大きく目を見開き驚きの表情で止まっていた。
「え?あそこに入ったお年寄りの方居たんですか?」
「はい?確かにあちらの…今閉まってますけど前開いてましたので」
「うーん…あちらの建物は地域の祭事に使う物の保管庫みたいなものでして人が頻繁に出入るような所でなく、そもそも祭事の時にしか開けないのでお盆中は閉めてたはずなんですが…」
宗馬の身体は固まりつつも頭はフル回転していた。
(いよいよオカルト地味てきたな…)
これ以上は迷惑になりそうだと巫女さんにお礼を言い神社を後にした。
何に遭ったのだろう、何が起こっているのだろう。
恩返しと言い黒一と言う謎の女性の初訪問から四ヶ月近くになろうとする、神社では神職に見えたがどうにも違う人なのかもわからない存在に話しかけられる。
自分の身に起こる事が現実離れしている。
それでも現実に起きている、自分だけが感じる確かな体験。
宗馬は前回黒一が現れた日付けがいつだったか思い返していた。
「父さん達身体に気を付けてな」
「あんたもよ、また帰ってらっしゃい」
「宗馬、次は嫁さん見つけて来いよ」
「……なあ、近くの神社って何を祀ってるの?」
「近くの神社……あそこはなんだったかな、確か犬とか猫とかじゃなかったか?」
「そうか……ありがとう、よし帰るわ」
盆休みも終わり、実家の両親との別れも告げて宗馬は自宅へと帰ってきた。
まさかこっちだけでなく、地元でも不思議な体験をするとは思っていなかった。
身体的な疲労は無いものの精神的な疲労を少し感じてしまう、無理もない数えて四ヶ月あまり色々な事が起きている。
休暇最終日一日は何も無く、平穏に過ごせるかと願いながら自宅のポストを確認する。
(特には…ん?コレは…)
一通の封筒を手に玄関へと向かい、静かで見慣れた自宅へと辿り着いた。
荷物を片付け洗濯を回し部屋の埃を軽く掃除する。
テレビを付けてニュースを流しながら封筒に手を伸ばす
(…お礼状だろうな)




