紫音とクロ
子猫と過ごし始め、黒一が来た日から数日が経つ。
クロと名付けられた子猫は元気に育ちよく走り回る。
宗馬は仕事の忙しさはあるが、更にメリハリが付くようになり会社内の評価も高水準で評価されていた。
(モヤが見えるのはずっとなんだろうか)
これだけは気になってはいた、以前黒一から「きっかけにすぎない、その眼は元々」と言われていた。
日常生活に支障はない、最近は集中してモヤをチェックして仕事に活かせているぐらいだ。
クロを助けれたのもモヤが視えたおかげでもある。
ただ、黒一の最後の訪問が終わればどうなるかは気になっていた。
(視えることも悪い事じゃないんだがな)
そもそも自分の目と黒一に言われた意味が、最近わかる気がしていた。
子供の頃のクロとの別れから無自覚に、一歩引いた所で見る癖が付いた。
それは自分がこれ以上傷付かない為に生まれた癖で、物事の関わりに於いて心を守り、人と距離を保つ為だったのかも知れない。
それが強く可視化されたのがモヤとして、宗馬に視える能力となった、黒一の不思議な存在と混じり合って。
仕事を終わらせ今日は人と待ち合わせている、待ち合わせ場所へ向かうと既に待つ人が見えた。
「すいません、お待たせしましたか紫音さん」
「今来たばかりですよ!さあさあお疲れ様で悪いですがクロちゃん見に行きましょ!」
紫音さんに猫を飼った事を話したら、凄い食いついてきたのだ。
紫音さん曰く「定期的に猫は摂取したいものなんです!」と力説され、じゃあウチへと言う流れになったのだ。
「今日はお休みですか?」
「ちょうど定休日でしたし、父が行っておいでと送り出してくれて」
恩義があるとは言え、独身男性の元に独身の娘を送り出すとはいかがなものだろうと、ちょっと思う。
歳はいってるが男なんだけどな…と思いながら案内していく。
「着きました、ここがウチです」
「わぁついにクロちゃんご対面ですね!」
(家は念入りに掃除も整理もしたし、大丈夫なはずだ。)
宗馬はちょっと緊張していた。
玄関を開け二人入った所で、奥から走りながら現れた白い塊クロ。
いつも出迎えてくれて擦り付きアピールをしてくるが……初めての紫音さんへはどうだろう?
クロは一瞬止まり初めての人間に警戒はしている。
紫音さんが屈んで手を差し出した。
ふんふんとクロはチェックしていく……そして頭を紫音の手に擦り付け出した。
「どうやら気に入られたようですよ」
「私、今最高に嬉しいかもです」
紫音さんは感無量と言った様子に笑いながらリビングへ案内する。
クロも離れず付いてくる。
「どうぞくつろいで下さい、コーヒー淹れますので」
「あ、おかまい…わっクロちゃんあなた良いの!?」
なんだと見れば、紫音さんの膝に乗りくつろぎ体勢になってるクロが居た。
あいつ人見知りが無いんだろうか。
笑いながらコーヒーを用意する、宗馬はブラック紫音さんはミルクと砂糖。
去年からの付き合いでその辺りもわかってきている。
「うれしいですね、猫の居る生活って」
肉球をフニフニ触りながら紫音さんは喜んでいる、紫音さんに愛でられクロも満足気で目を細めている。
自分よりリラックスしてないか?
少しの嫉妬を覚えながらコーヒーをお持ちした。
「でも成り行きとは言え、突然猫を飼うなんてどうしたんですか?」
紫音さんの素朴な疑問はもっともだ。
ただ説明するとなると幼少期の時のクロや、今現在毎月来る黒一の事などが絡みどう説明すべきか……
少し悩み宗馬は「運命でした」と答えた。
「クロちゃんは幸せですね〜こんな優しい人と出会えるなんて」
パッと肯定してくれる紫音さんが眩しい。
しかしまあ気が付けば、クロもベッタリゴロゴロと喉を鳴らしながら紫音さんから離れない。
「かなり気に入られたようですね」
「クロちゃん子猫だからか全力で甘えてきますね」
もっとバタバタ走り回るイメージはあったが、誰か来ると大人しい。
黒一に会った時も黒一の側から離れなかった。
親猫はわからないが子猫ながら一匹で生きてきて死にかけた経験から、今甘え癖が出たのだろうか。
「そうそう、こちら忘れない内に」
紫音さんが持ってきていた大きめの荷物を漁る。
そう言えばあれは何なんだろう……箱が出てきた?
「お口に合うかわからないですが、店で作ったフレンチ重になります」
「え!?……おぉ!」
開けられた箱には各種名前が分からないが、一口サイズに盛られた色とりどりの料理が宝石のように輝いている。
「宗馬さんにお渡しするよう父からの新年の挨拶です」
「こ、こんな凄い物頂いてよろしいのですか……?」
「勿論!じゃないと無駄になっちゃいますので」
紫音さんは手を振りながら笑い、どうぞどうぞと差し出される。
「日持ちはしますが、出来るだけ早くお召し上がり下さいね」
「ありがたい限りです、写真撮っとこう」
宗馬はスマホを起動し二枚三枚と写真を撮る。
最近、クロが来て写真撮りに目覚めたのもありアングルにこだわったりしていた。
「宗馬さんそんな色んな角度で撮らなくても」
紫音さんは大笑いし、膝上のクロは呆れた顔で見てる気がした。
「今度お店行きますね、悟さんにお礼言わなきゃ」
「またお会いしたいと言ってますし喜びますよ!」
本当に素敵で優しい親子だ。
紫音さんのように感情を表しながらも、常に受け入れてくれる姿勢。
クロと遊ぶ可愛らしい愛嬌のある仕草、そして自分の中身をしっかり捉えてくれるような眼差し。
うっすら壁を作りながら、人と付き合ってきた宗馬は嬉しかった。
「紫音さん、いつか聞いてくれますか?不思議な僕の夢みたいな体験」
キョトンとした顔で見つめられるがパッと笑顔を見せ。
「面白そうですね!是非聞かせて下さい!」
この人に出会えて良かったな、宗馬は噛み締めながらクロを撫で回した。




