光
正月休みも最終日、帰省から戻った宗馬は紫音の下へと向かっていた。
店はまだ休みだし、互いに動き出す前に帰省のお土産を渡そうとなったのだ。
空いてる店は少ないが、定休日無しのチェーン喫茶店がある、こういう所は都会が便利だなと宗馬は実家の地域の田舎さと比べていた。
「明けましておめでとうございます、宗馬さん!」
「紫音さん、明けましておめでとうございます」
約一ヶ月ぶりの再会だが変わりないようだ。
明るく眩しい元気を引っ張ってくれる紫音さん。
宗馬はなぜかホッとした気持ちだった。
「そうそう忘れない内にこれを」
宗馬は大袋に詰めたすだちを紫音に渡す。
「ありがとうございます!わ!こんなにすだちが」
「時期的には少し旬を外れた保管物ですが十分味と香りは保証しますよ」
「ありがとうございます!これだけあるなら店で使ってみようかしら」
「フレンチってすだち使うんですか?」
「フレンチと言ってもウチは正統派じゃなく創作も混じりますからね、父が新しい物を試行錯誤するのが好きなんです」
「紫音さんは本当に悟さんを好きなんですね」
「はっきり言われると恥ずかしいけど……はい!男手一つで育ててくれましたから」
(そうか、紫音さんも幼い時別れを経験してるんだもんな…)
自分と比べたらやはり強い人だ、宗馬は尊敬の眼差しで紫音を見つめた。
突然見つめられ照れた様子が可愛らしい。
「お母様達はお元気でしたか?」
「ええ、ゆったり変わらず元気なままで安心しましたよ」
「またこちらに来ることあれば、是非お会いしたいですね」
「実家帰った時も父への自慢話として、母が盛り上がってましたよ」
「それは、ふふっ自慢話になれる店としてありがたいですわ」
「僕は今まで流行りやお店選びとかを避けていた人生でしたから、親とあんな話出来たのは嬉しかったです、ありがたい事です」
宗馬の本音だった。
今考えれば気持ちに区切りが付くまで、記憶も興味も蓋をしていたような生活だったが、楽しい団欒を味わえたのだから。
「宗馬さん帰省で何かありました?なんかパッと明るいと言うか踏ん切りが付いたような……憑き物が落ちたような」
「ふふ、そうですね……そうかもしれません」
「どうしたんですかー楽しそうになって!」
こんなやり取りが出来る相手が居るのも良いなと宗馬は思った。
今日はとても心が落ち着いていた。
そして短い休みは終わりを迎え慌ただしさが戻ってくる。
仕事始めとなり世間も会社も動き出した、そんなある日だった。
帰り道で宗馬は人気無い路地裏の方に、強烈な黒く吹き出すモヤに気付いた。
黒煙のような、まるで火事が起きているかと思わせる。
(なんだあのモヤ!?悟さんの時みたいだ!)
不穏が視えるモヤには色と勢いがあり、強く濃くなるほど危険な状態である事は体感的にわかる。
宗馬は走って路地に向かった。
カラスの鳴き声が複数聞こえてくる。
黒い羽ばたきが何かを包むような動きで行ったり来たり。
宗馬は黒い塊、モヤの中心を見つめた。
そして……叫んだ。
「――っ!!やめろー!!」
勢いを付けて黒い羽ばたきの中に入り、必死にカラスを振り払う。
カラスの群れが開けた瞬間、中心にあったものを抱きその場から急いで離れた。
宗馬は息を切らしながらカラスから距離を取れた事を確認し、抱き抱えたものを見つめた。
腕の中で力無く、ぐったりしている子猫だった。
カラスに襲われたせいか、その前からか所々怪我をしている。
宗馬の記憶がフラッシュバックする。
クロを助けられなかったあの日、子供だった自分。
「死なせないからな」
宗馬は一番近い動物病院へと駆け出した。
——どれぐらいの時間が経ったかわからないが、待ち続けていた。
「桐生さん、お入り下さい」
獣医から声が掛かった、緊張を伴い処置室に入ると……
子猫は診察台で横たわっていた……
また……助けられなかった……と思った時。
「危なかったですが持ち直しました、今は麻酔が効いてますので、じきに目覚めるでしょう」
獣医は処置が上手くいった事を告げてくれた。
「良かった……」
身体から力が抜けていく。
「弱った所をカラスに突かれたのでしょう、後少し遅ければ手遅れになっていたでしょう……ただ桐生さんどうしますか?」
どうする?と聞かれた意味はすぐに分かった、答えは決まっている。
「私が引き取ります」
「宜しいのですか?大体のパターンとして時間を置いて考えてから決めるか、保護猫団体に預ける等もありますが……」
「いえ、迷いは無いです私が面倒見ます」
「そうですか、この子は幸運な子ですね」
宗馬は迷う事無く、家族に迎える事を決めた。
子供の頃、様々な力も知恵も知識も無くクロとの別れしか出来なかった、あの時に比べ今は自ら選択し守る力もある。
宗馬の決意と選択は強く、この子の生涯を共に過ごすと決めたのだ。
宗馬は、今は眠る子猫を優しく撫で続けた。




