帰省に向けて
年末の繁忙期、宗馬の部署もまたピークを迎えていた。
「その書類、もう一度チェックして」
宗馬は自身の眼で見る物に、不具合や不調があればモヤが掛かる能力を最大限仕事に活かし、年末の追い込みをこなしていた。
この能力自体は自分のモノだと黒一に言われたが、発現したきっかけは黒一のおかげだろう。
過去数年、数十年と小さなアクシデントでボロボロに詰まる仕事を背負う事なく日々が変わった。
あまりの変わりように周りも変わっていく。
上司同僚からの評価も高まる中、仕事とプライベートにメリハリが出来て気持ちが明るくなった。
(変わるもんだな人生)
静かに思いながら宗馬は、ふと窓から外を眺めた。
モヤが見える事で全てが救えるわけでは無い。
やはり、人がそれなりに居れば大小様々なモヤが見える訳だが物理的に手助け不可能な距離もある。
わかっていながら無視せざるを得ない事もタイミング的に出てはくる。
しかし、宗馬は背負い過ぎる事を止めて受け入れる事にしたのだ。
過去の事は変えれないし、子供の時の無力さを嘆いても全てが上手くいくと思わなかったからだ。
幼き自身の精神を守る為に忘れていた出来事も、今だからこそ受け入れた。
受け止めなければいけない現実も有り、手を伸ばし掴める範囲で生きると決めていた。
(四十代になって気付く…いや気付かせてくれたか)
ふっ、と笑って残りの仕事に向き合った。
年末の追い込みも無事に終わり、宗馬はスマホで通話をしていた。
相手は紫音さんだ、今年最後の挨拶をと連絡したのだ。
思えば、紫音さんの明るさにも助けられて自身の心に影響があった。
彼女は唯一の肉親を失いそうになったにも関わらず、前を向いていける素晴らしい人だと思っている。
「お疲れ様です、紫音さん営業お忙しかったですか?」
「ええありがたい事に大忙しでした〜」
「悟さんもリハビリ明けで大変だったでしょうに……」
「それが動ける有り難さを知ってか、ずっと張り切っちゃって……宥めるのが大変でしたよ!」
どうやら紫音さん親子も元気に今年を終えそうで安心だ。
「宗馬さんはご実家帰られるのですよね?」
「ええ、明日帰省しますよ、お土産何が良いですか?」
「そんな気にしなくても…と言いたいですが、徳島のすだちは興味ありますね!」
「ふふ、では一番良いやつ見繕ってきますよ、すだちも栽培してますから」
「まあ、お母様達がですか?」
「はい、親父とお袋が昔から世話してますし少しは目利きできますので」
「わあ!楽しみにしてます!」
年末の挨拶、今年縁があり繋がれたフレンチレストランを親娘で営む月島さん親子には、大層なもてなしも受け良い出会いだったと思える。
通話を終えて今年を振り返った。
春先、黒一が突然現れた、覚えの無い恩返しに来たとそれから毎月現れた。
不調が見えるモヤの認識、そのモヤで救えた一人の命。
重ねた黒一との癒し、そして思い出した過去。
簡単に振り返れば密度濃かったなと、寒空の星を見て懐かしむ。
「クロ…ありがとな、人生面白くなってきたよ」
誰に届かずとも呟いていた。
明日からは実家へ帰省、一つ確認したい事がある。
神社の神職、あの人は何かを知っている。
理解を超える存在かもしれないと薄々感じているが、会ってみなければわからない事だらけだ。
果たして会えるのかも怪しい。
それでも、黒一から色々と分かり出した今、宗馬に躊躇いは無かった。
以前ならば避けていただろうなと空を見る。
ただでさえ目の前の事で押し潰されそうな毎日に自ら重しを乗せる、そんな苦行はゴメンだ。
今だからこそだ。
黒一に出会い強くなれた気はしていた。
心身共に健康を取り戻し顔が前を向いている、視界が広がり世界が色付いた。
神職に会えたら答えが聞けそうな気がしていた。




