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黒一の恩返し Rewrite of favor  作者: かずや


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14/22

追憶の果て


 田舎から母親が訪ねて来て、紫音親子の店に行き数日経っていた。

 時期的にクリスマスの雰囲気が街に漂っている。

 そんな中、宗馬は夢を見ていた。

 意図的に見ると言えば変な話だが、不思議な少女、黒一から貰った追憶の飴を使い三度目の記憶遡りをしていた。

 次に黒一に会うまでに知っておきたい事がどうしてもあったのだ。

 意識が浮いたような感覚、俯瞰で見るあの日の幼い自分と抱き抱えられている黒猫。

 いつの頃だろう、宗馬の背丈的に小学校に入ったぐらいだろか。

 小雨降る日に、どこかで見つけた震える子猫を段ボールの箱にタオルを入れ、神社の片隅にある人目の付かない木々の下へ置いている。

 助けられた事をわかるのだろうか、子猫は小さな宗馬に寄り添い甘えている。

 宗馬もまた頭を撫で返す。

 思えば本格的に動物と触れ合ったのは、この時が初めてだった気がする。

 家で飼う事は出来ないからこっそり寝床を作り、隠すようにするのは小さな子供ならではの発想なのだろう。

 家に持ち帰ってもダメと言われる事がなんとなく分かる、だから隠す様にこっそり世話をする。

 大人から見れば短絡的な事だが、子供はそれでいられると信じている。

 夢のシーンは幾度か切り替わるが、この頃はずっと一緒に遊んでいたようだ。

 ただ、この経験を忘れるというのは信じ難い。

 宗馬は全く覚えてなく、夢を見て少しずつ思い出してはみるが繋がらない。

 まるで何かが邪魔するような、そんな印象があった。

 とある頃を映し出された、いつものように猫の所へ行き宗馬は慌てていた。

 見えたものは……子猫の……


 宗馬はここで目が覚めた、嫌な汗が出ている。

 夢の続きを何かが見せまいと、変なとこで切られたような。

 ただ、あの時の感情は蘇っている。

 何を見た?何があった?宗馬は自問自答した。

 何かを思い出せそうではある、しかし思い出すにはまだ足りない。

 少しずつ迫ってきてるのは間違いないと確信して、朝の身支度を始めた。


 宗馬は知りたくなった、これまで仕事に打ち込みプライベートも幼い時の記憶も後回しにして、生きてきた人生に変化が訪れているこの最近。

 黒一をきっかけに紫音さんとの交流、離れて長くなる親との久しいやり取り、目の前の仕事から距離を取れるようになり見えてきた日常。

 今更かもしれないが、今だから動き知るべきだろう。

 宗馬は静かに決意していた。

 三度目の追憶を辿り後一歩の気はしている。

 ただ、そこからが更に覚悟を要しそうな予感がするのである。

 (大事な出来事だけど思い出せない…思い出したくない事?)

 いくら考えても答えは出せずに気分は沈んでいく。

 そんな時横に置いてあったスマホの画面が点り、メッセージを受信した。

「宗馬さん近々にご飯に行きませんか?こないだ来てくれたお礼もしたいですし」

 紫音さんからだった。

 (思い切って相談してみるか…)


 クリスマスの空気を纏い、街の色が赤と緑を基調にしたライトが出始めた十二月。

 宗馬と紫音は駅前で待ち合わせ、あらかじめ予約しておいた個室居酒屋に来ていた。

「あの紫音さん、こんな所で良かったんですか?」

「うふふ、私結構好きですよ居酒屋さんのメニュー」

 フレンチの店を切り盛りする紫音さんが希望したのが居酒屋なのは意外であったが、洒落た店に経験少ない宗馬にとってはありがたい話だ。

 とりあえずの一杯を頼み乾杯をする。

「悟さんのご様子はどうですか?こないだ元気そうで何よりでしたが」

「おかげさまで父は元気に、お酒も減らして調子良いですよ!」

「それは良かった!母とお邪魔した時はありがとうございました、母もすっかり気に入ったようで」

「あら、嬉しいです!お母様も来ると聞いた時は驚きましたが選んで頂いてありがたい限りです」

 二人で談笑し、お酒を追加したところで宗馬は悩んでる事をポツポツ言い始めた。

 

「紫音さんなら、忘れていたい過去を思い出すとしたらどんな気分ですか?」

「忘れていたい過去ですか…蘇ってしまっても過去は変わらないと割り切って前を向くかなぁ…」

「そうですよね、前向くしか出来ないですもんね…」

「宗馬さん何か思い出したい過去があるんですか?」

「そうですね、思い出しそうといったところか蓋してた物が開く手前と言うか、怖い物みたさもあるかもです」

「怖い物見たさ…確かにわからなくはないですね、でも囚われすぎたらダメですよ?心壊れたら悲しいです」

「そうですよね…縛られちゃうのもダメですもんね」

「それでも受け入れるのは有りかなとは思います、受け入れてそれも自分の一つだ!ってカッコつけず前向くのは素敵な事だと思います」

 受け入れて前を向いていく、確かにシンプルだけど最終的に行き着く姿勢だろう。

「…そうですよね、すいません変な事聞いて」

「大丈夫ですよ!宗馬さんは優しいが強くて背負う性格だと思います、だから少し力を抜くのが良いんじゃないでしょうか」

 明るく、はっきり言ってくれる紫音さんに相談して心が晴れる。

 (やはり良かった話してみて)

 ここで話題を変えた、暗くなりすぎるのも良くない。

「紫音さんのお店は繁忙期になるんじゃ?」

「そうですね来週くらいから年末までノンストップになるでしょうね〜」

「今日は本格的に忙しくなる前に息抜きですか」

「ええ!毎年父に相手して貰いましたが、今年は身体が流石に……でも宗馬さんがお付き合いしてくれて元気出ましたよ!」

「それは良かった、僕でよければいつでもお相手になりますので!繁忙期過ぎたら会いに行きますよ」

「あら嬉しい!乗り切りますよ〜!」

 結構お酒が入っている紫音さんは、輪をかけて明るくなるんだなと微笑ましい。

 そんな元気に溢れた彼女の光を、少し分けて貰えた気分になった。


 紫音さんとの飲み会翌日、宗馬は昨夜の話を思い出す。

「受け入れて前を向く」

 確かにそれだけだ……宗馬は黒一から貰った追憶の飴を口にした。

 すぐに多幸感が押し寄せて来て睡魔が現れる。

 四度目ともなれば、この後は宙に浮いた自分が過去を見ていくのはわかっていた。

 宗馬は抗う事なく夢に落ちていった。


 ふわふわとした感覚、もうさすがに夢の中だと確信している。

 明晰夢と言うものか?意識はあるが夢である。

 ただし記憶を遡る夢。

 そんな四度目の夢の始まりは、幼い宗馬が神社に隠し置いた子猫の様子を見にいく事から始まった。

 (そうだ……この時、何かがあった)

 幼い日の宗馬がいつものように猫を愛でようと駆け寄った時……居るはずの猫が居なかった。

 寝床に作った箱とタオル、僅かな食べ物もそのままで姿が無い。

 遠くに出るには子猫過ぎる、近くにいるだろうと探し出すが見当たらない。

 

 名前を呼んでいる「クロー!」

 そうだ、あの子猫の黒猫にはクロと名付けていたんだ。

 蘇り出した記憶はこの先も少しずつ思い出していく。

 (探し回って…そうだ、見つけたんだ…)

 夢の自分が先に認知し、幼い自分がその時を迎える。


「クロ!」


 木々の陰に横たわるクロを見つけたのだ。

 カラスか野生動物か…襲われた跡を胴に付け呼吸は浅い。

 子供ながらに動物病院へと走り出したかったが、隠して飼っていた身だ。

 現実的に親へ話したりお金の事だったり、田舎故の病院は市内にしかなかったりとパニックになった事を思い出す。

 (この時は無力感しか無かったな…)

 クロは浅い呼吸のまま、へたり込んだ幼い宗馬の膝に這いずりなから乗り上げてきた。

「クロ……」

 そのまま蚊の鳴くような声で宗馬を見て鳴き、震えながら手を舐め……そして動かなくなった。


 (子供だったからとは言え何もしてやれなかったな……)

 少しずつ意識が現実の方向に覚醒していく、目覚めが近い。

 その間際、確かに「ありがとう」と聞いた事のある女の声がした。


 宗馬は目覚めた。

 時刻は昼を回った所で、三時間程夢を見ただろうか。

 ハッキリと思い出した。

 子供の時可愛がっていた猫の最期を看取る、あまりにもまだ心が未成熟だったのだろう。

 起きた現実を受け入れられずに精神を守る為か、忘れる事を無意識に選んだのかもしれない。

 

 あの後、泣きながらクロを神社の神木下に埋葬した、独り秘密裏に行ったので自分しか知らないはず。


「蓋を開けてみれば子供のやった事…だけど当時大きなショックだったんだよ」

 誰に言うでもなく宗馬は天井に呟いていた。

 

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