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黒一の恩返し Rewrite of favor  作者: かずや


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12/22

追憶の飴


 紫音さん親子にもてなされ数日が経った。

 宗馬はスマホで検索していた画面を閉じて呟いた。

 

「今日か…」

 会社の窓から見える空を眺めながら思いに耽る。

 

 (黒一…)

 

「どうしたんですか桐生さん?」

 同僚が何かを心配したのか声を掛けてきた。

「いや、何でもないよちょっと人?を思い出してただけ」

「桐生さんってあまり昔の事とか話さないですよね〜」

「そうだな、性格なのか昔を思い出す事も少なかったんだよ最近までは」

「最近までは?」

「うん、歳のせいかな、昔遊んでた奴とか遊んでたとことか思い出すようになってな」

「へ〜俺は昔に戻ってやり直したいだらけの人生っす」

「ふふ、歳いったらわかってくるよ」

 たわいない会話だったが宗馬には「やり直したい」の言葉が残っていた。

 飴の力で人生を遡り見た二回目の時、最後に途切れた猫のシーン。

 あのシーンの記憶が曖昧で気になっている。

 宗馬にとって大きな何かがあった出来事のはず、だがすっぽり抜け落ちているのだ。

 子供の頃とは言え、割と記憶に残る出来事であるはずが、まるで意図的に消してしまったような程に覚えていなかった。

 宗馬は考えていた、あの夢のシーンに既視感はあった。しかし、何かが邪魔をする。思い出してはいけない蓋をされた出来事がチラつくも、辿り着かないもどかしさがある。


 (もう一度飴を使えばわかるかもしれない…が先に今夜会ってからだな)

 なぜなら今日は満月、黒一がくる日なのだから。


 仕事を終え、帰宅した宗馬は窓から満月を眺めていた。

 思い出せない事を無理に思い出す事は無い、そんなさっぱりした性格であったはずなのに、今や思い出に囚われている。

 そんな現状を鼻で笑った。


 ピンポン


 満月の夜、来る訪問者は限られる。

 カチャリと解錠し、もう慣れたかのように招き入れる。

 上品な和装の袖をゆらめかせ、歩き入る女性は笑みを浮かべている。

 そして吸い込まれそうな、とても綺麗な眼を持つ。

 薄く甘い香りを漂わせながらお辞儀をする。

 

「こんばんは、恩返しに参りました」

 

 黒一は変わらない笑みを浮かべ、部屋へと入っていく。

 本人からはもう「人ではない」とはっきり答えられているが、悪意を感じない。

 これまでずっと癒しを与えてくれる。

 だからこそ気になっている、何故そこまでしてくれる出来事があったのかを。

 宗馬と黒一の始まりは何だったのかを。

 宗馬は部屋へ向かう黒一の後ろ姿を見ながら静かに考えていた。


「どうやらお悩みのようですね」

 部屋のソファに座り一番に言われる。

「そうだな」

「ふふ、宗馬様は想像以上に表情に出ますよ」

 上品に笑いながら黒一は見つめてくる。

 (誰のせいだか…)

 目の前の悩ましてくる本人の顔を見つめ返す。

 やはり綺麗に整った人形みたいな顔立ちと、吸い込まれる瞳と艶やかな黒髪。

 それだけで思考するのをやめて、体を委ねそうな魅力がある。

 

「飴を食べたんだ」

 意識が持ってかれそうになるのを堪えて、以前に渡された飴を食べた事を話す。

 黒一は静かに聞いている。

「人生を遡ってみるような不思議な夢を見たよ」

「あれの名前は追憶の飴、宗馬様が体験されたようにその人が忘れていった思い出を見させてくれる物でございます」

「そうか」

「あら?驚かないのですね?」

「ああ、今更驚く事も無いだろう」

 宗馬自身不思議な体験を重ねて、もう慣れたかのように受け入れていた。

「では…一つだけ、宗馬様が全てを知る日は近いですが私の恩返しの想いは感謝からのものだとだけお伝えしておきます」

「全てを知る日…?」

「今はまだ辿り着けませぬ、今は只、癒しを受け入れて下さいませ」

 ふわりと柔らかく黒一に頭を包まれ意識が遠くなる。

 黒一から香る甘い匂いと柔らかな温もりが心地良く眠くなる。


 (また来月参ります、どうかお身体はご自愛くださいませ)

 薄れる意識でそう聞こえた気がした。


「朝か…また抗えなかったな」

 ソファで起きた宗馬は天井を向いていた。

 黒一の柔らかな感触に甘い香りに包まれる。

 それだけで意識が保てない。

 宗馬が覚えてるのはその瞬間までで、実際何があったかはわからない。

 夢見心地で何かを囁くような、愛でられてるような気はするのだが、気が付いた時には朝であり誰もいない。

 

 だけど黒一は確かに存在する。

 人ではない、全てを知る日は近い。

 

 この二つは本人から告げられている事であり、宗馬自身なんとなく感じていた。

「知らない今のままなら幸せなのかも知れないけどな」

 なんとなくだが、忘れている何かに近づけば黒一は遠く離れる気がしている。

 それを今や不安に感じてしまう自分がいた。

 いくら迷いがあっても今日は始まる。

 宗馬はベッドから起き、少し残った香りに気付かないフリをして身支度を始めた。


「おはようございます」

「おはようございますーあれ?桐生さん、なんか調子良い?」

「ん?いつも通りだけど?」

「なんか肌艶が良いような、こう力溢れてるような」

「なんでだろうな」

 同僚と軽い会話をしながら、今日のスケジュールを確認して業務に就いていく。

 さりげなく全体を見渡し、宗馬にしか視えるモヤがないかチェックするのがクセになっていた。

 (自分だけの能力か…)

 この視える能力のおかげで、仕事が上手くいくようにもなり自身の負担がかなり減っている。

 心身をすり減らしながら疲れ果てていた頃の自分は、黒一の癒しと視える能力で、劇的に変わったなと思い返していた。

 宗馬は他に何かが無いか見渡して見る。

 所々にモヤは薄く見えるが、このくらいなら問題無い。

 モヤにも種類があり、色が黒いか白いか。

 黒ければ確実に中を見た方が良い、白ければ注意で軽いミスレベル。

 まとわりつくようなモヤはそこに何かがある事を、吹き出すようなモヤは急ぎ確認するべき。

 今の所、こんな感じに分別していた。

 (紫音さんの父さん悟さんの時は火事みたいな出方だったな、あんなのがあればゾッとする)

 宗馬は二度と出会わない事を願っていた。

 

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