第8話 ~告白~
それから、私達はいろんな所を巡った。
魔女の手がかりについては、あまり進展はなかった。
けれど、星月さんと一緒にいられるだけで嬉しい。楽しかった。ドキドキした。幸せだった。
この気持ちに名前をつけるまで、一年かかったけどようやくわかった。
これは恋なんだって。
最近は星月さんより早く起きれる様になった。彼の寝顔を見て幸せに浸る。今は二十代くらいの見た目。若い頃もかっこいい。どんな年齢でもかっこいいけどね。
星月さんの目が開く。
「ん……おお、季行おはよう」
「おはようございます」
星月さんは少し気まずそうに寝袋から出ない。
「水浴びに行って来なさい」
「行ってきました」
「……」
「……」
星月さんがそう言う理由はわかっている。
「朝勃ちくらい慣れました」
「んん~……たくましくなってからに……」
私は笑った。
いつもの様に歩いて歩いて、私は考えた。いつまでも、この気持ちを隠しておけるほど私は大人じゃない。今夜、星月さんに気持ちを伝えよう。
ドキドキする様な、ワクワクする様な、でも少し不安。
その時の私は知らなかった。恋愛って、楽しいだけじゃないって。
夕飯を食べ終わって静かな時間が流れる。それを破ったのは私。
「ねえ、星月さん」
「なんじゃ?」
ドキドキドキドキ。心臓が高鳴る。
「私、星月さんの事が好きです」
「わしも好きじゃ!」
星月さんは笑って言うけど、たぶん意味が違う。
「恋人、とか、恋愛って意味です」
私の言葉を聞くと星月さんは真剣な顔になって黙った。私は星月さんが口を開くのを待つ。
でも、出てきた言葉は残酷なものだった。
「すまん季行。お前さんの気持ちには応えられん」
全身から血の気が引いていく。私は震える声で二の句を継ぐ。
「わ、私の事……好きじゃな……」
星月さんはいつもの様に私の頭を撫でる。
「お前さんの『好き』は、きっと雛鳥の刷り込みの如く初めて他人から優しくされて生じたものじゃ」
違う、違う。そんなんじゃない。
「お前さんにはこんな老い先短いじじいではなく、立派な奴が現れる」
違う、違う、違う。私は、星月さんだから好きなんだ。
でもその言葉は告げられず、代わりに涙が溢れかえった。そんな私を星月さんは抱き締める。
「たくさん泣いて、かさぶたになれば、いつかは消える」
その言葉を素直に受け取れるほど、私は大人じゃなかった。
寝袋に入っても、失恋の悲しみと痛みは消えなかった。声を殺して泣いていた。
こんなに痛いなら、恋なんて知らなければよかった。星月さんに出会わなければ……。
ううん……よくない。私は星月さんに出会って救われたんだ。星月さんがいたから、ここまで来れた。
だから、だから……例え報われなくてもいい。この気持ちは……ずっと胸に秘めておこう。いつか心臓が止まるその日まで。
だから、いっぱい泣きます。消してなんかはやらないけど。
「おはようございます」
「んお……おはよう……」
起きたら星月さんはおじいさんの姿になっていた。この光景も見慣れたのもだ。
「朝ごはん、作ってありますよ」
いつもの調子の私を見て、星月さんは呟く。
「たくましいの……」
「たくましくなきゃ、旅なんてできませんよ」
「適わんな」
星月さんは苦笑する。
そうしてまた歩いて歩いて、史上最悪のピンチはいきなり訪れた。
魔物に囲まれた。五体ほど? ううん、三十? いやもっと?
「星月さん……」
流石の星月さんも冷や汗をかいている。
「季行、動くでないぞ。大丈夫、わしが命にかえてもお前さんだけは生かす」
「駄目です」
「は?」
「星月さんも生きてください。二人で生きるんです。魔女の呪いを解くんですよね」
星月さんは真剣な顔で、笑った。
「そうじゃな」
私の頭をぽんと撫でると、彼は刀に手をかけた。そして……。
「おおおおお!!!」
魔物を切る、切る、切る。その姿はまるで鬼神の様。
一体、二体、三体四体五体……。私はその姿に見惚れた。だから、気づかなかった。私に襲いかかる魔物の姿に。
「季行!!!」
「え」
星月さんの叫びで気づいた。気づいた時には遅かった。魔物の爪は、私の目の前。
あ、死ぬ。呆気ないな。もっと、星月さんと一緒にいたかった。呪いを解きたかった。その先に二人で歩む道がなくとも。
星月さん。
「ありがとう」
「季行ぃぃぃぃ!!!」
最期に名前を呼んでもらえて、ああ、私は幸せ者だ。




