第9話 ~愛は世界を救う~
魔物の、爪が、消えた。
「え」
正確には塵となって消えていった。
それを見た魔物達は何かを悟った様に散って行った。
私はぺたんとその場に座り込んだ。
「季行!」
星月さんが刀をしまい、私の下へやって来る。
「あ、はは……腰、抜けちゃいました」
へらりと笑う私を星月さんはきつく、きつく抱き締めた。
「せ、星月さん? い、痛いです」
「季行……よかった……」
星月さん……泣いてる……?
「わかったんじゃ……」
「何を……ですか?」
「お前さんが死ぬと思うたら、気づいた。これは曾孫に対する気持ちではないと。お前さんの事が、好きじゃ」
今……なんて……。
「わしはずっと一人じゃった。それでええと思うた。けれど、季行、お前さんと出会って世界が色づいた。雛鳥の刷り込み。そう思おうとした。じゃが……もう無理なんじゃ……」
それって……。
「分別の無い老人じゃと罵れ。卑怯な大人じゃと嘲ろ。それでもわしは……」
「星月さん」
星月さんは私を離して顔を見た。
「大好きです」
私は笑う。
「季行……」
星月さんは顔を近づけ……私達は初めて『人工呼吸』でないキスを交わした。
「おめでとう」
唐突にどこからか声がした。声の方向を向くと……魔女がいた。
黒いとんがり帽子とドレス、ふわふわの金髪。
「魔女……!」
「ん?」
「え?」
星月さんはなんだかピンときていない模様。
「え、星月さんあの人に呪いかけられたんですよね?」
「いんや、わしにかけたのは銀髪のシュッとした髪のおなごじゃが」
「え」
「種明かしをしよう」
魔女がパチンと指を鳴らすと、景色が変わった。絵本で読んだ、洋風の庭の様な……。
魔女は白い丸テーブルと椅子に私達を手招きする。
私達は警戒しながらそこに行き、椅子に座る。
「紅茶はお好きかい?」
「いらん」
魔女の言葉を星月さんは一刀両断。
「残念」
「用件を言え」
魔女は椅子に座ってたおやかに言う。
「まずは自己紹介。私の名前はリーリア=ミラー。『季行』に呪いをかけた魔女だ」
確かにそう。
「じゃあ星月さんにかけたのは?」
「私の昔馴染み、ブランシェ=アルカロイド。彼女は世界を滅ぼしたがっている」
「あの本の……」
「よく覚えているね」
リーリアは私に微笑みかける。それは、とても優しげな微笑み。こんな非道な呪いをかけたとは思えないほどの……。
非道……? いや、呪いがあったおかげで星月さんと旅ができた訳で……。もしかして……。
「あなたは人間の愛が欲しかったの?」
「正解だ。賢いね」
リーリアが人差し指を立てるとポンッと紅茶セットが出てきた。
だから解呪の方法に異性からの口づけなんて……。
「? なんで『異性』からの口づけ?」
だって同性同士でも愛は育める。
リーリアは口に人差し指を当てて呟く。
「『まだ』内緒」
「?」
リーリアは何を隠しているのだろう。
「本を読んだという人間も、呪いについての本も、全てお前さんが仕組んだ事か」
「あなた方は非常に賢い」
ポットが勝手にティーカップに紅茶を注ぐ。
「ブランシェはこの世の全てを憎んでいる。しかし私はそれを止めたかった。だから安全地帯と危険地帯なんていうちぐはぐなものができた」
リーリアはカップを手に取り口をつける。
「なんでこの国に?」
私は疑問をぶつけた。
「ブランシェは本国でいろいろやり過ぎてね。対策チームなんてできたものだから、この極東の島国に目をつけた。最後の抵抗さ。しかし、対策を誤れば一発逆転」
本にも書いてあった。
「なんで星月さんなの? なんで私なの?」
リーリアはふっと笑う。
「ブランシェはあなたなら負のエネルギーを増やせると考えたのだろうが、見る目が無いね。私は違う」
つまり、私達なら愛を手にできると思ったから。
「じゃあ、もうお前さんはブランシェを止められると」
リーリアは首を振る。
「どうして?」
「それは、まだ知らなくていい」
「?」
リーリアの言っている意味がわからない。
「ブランシェはあなた達が倒してくれ」
「倒せとは?」
「そのカタナで殺してやってくれ」
殺す……。私達が……魔女とはいえ、元人間を……。
青ざめる私を星月さんは抱き寄せる。
「わしがやる。お前さんは何も気にせんでいい」
「星月さん……」
リーリアがこほん、と咳払いをする。
「反撃は考えなくて大丈夫だ」
「魔女は人間に直接手出しできない」
本に書いてあったことを私は言う。
「そう」
「魔物が襲って来ないのは、星月さんからエネルギーを貰うから。じゃあさっき魔物が消えたのは……」
「愛の力だよ」
リーリアはにっこり笑う。ふざけている様だがたぶん真面目にその通り。
「さあ、お話はここまでだ。今日はここに泊まっていきなさい。明日、万全の準備でブランシェの下へ送るよ」
リーリアそう言って立ち上がる。紅茶セットはいつの間にか消えていた。
明日、最終決戦が始まる。私達が願った日々を掴み取る為に。




