第7話 ~『魔女の呪いについて』~
「わあ……」
私は見たことのない街並みに心踊らせていた。別に故郷とはなんら変わらない。けど、それでも新鮮だった。
そんな私に星月さんは微笑ましそうに言う。
「観光でもするか?」
「えっ、でも聞き込み……」
「ずっと気を張っていたら疲れる。息抜きじゃ」
なんだかとっても……。
「はい!」
ワクワクする。こんな気持ちあそこに留まっていたらできなかった。
「ここはスーパーがあるの」
故郷とは違う名前のスーパーだ。大きさは一緒くらい?
「スーパーが無い所もあるんですか?」
「ああ、八百屋、果物屋、缶詰屋なんてのもあったな」
缶詰屋……気になる。
「缶詰は旅で重宝するからの」
「確かに」
「ここって……」
「図書館か」
星月さんの言葉に私はやる気が漲る。
「いろいろ調べられますね!」
「後でな」
星月さんは笑った。
私は星月さんといろんな所を回った。まるでデートみたい、なんて考えてドキドキした。やっぱり私は星月さんの事……。
歩き回って疲れたら、カフェで休憩。星月さんはコーヒーとサンドイッチ、私はミックスジュースとクロワッサン。美味しい。
「季行はミックスジュースが好きなんか?」
星月さんはコーヒーをすすりながら聞く。
「はい。そういう星月さんはコーヒーが好きなんですか?」
星月さんは苦笑する。
「好きとか言うより最早癖じゃな。なんでもないのに茶を飲む様に」
「そういうものなんですか?」
「季行も大人になったらわかるかもな」
「子供扱いしないでください」
私がむくれると星月さんは笑う。
「すまんすまん」
「むー」
なんだかモヤモヤ。
休憩を挟んだら調査開始。魔女について道行く人達に聞き込む。大抵は変な顔をして去って行かれる。その度に傷つくが星月さんは優しく私の頭を撫でる。
そしてついに……。
「魔女? なんか図書館にそんな本あった気がするな……。タイトルしか覚えてないけど」
「! 教えてください!!」
「確か……『魔女の呪いについて』だったかな。たぶん創作だと思うけど、何あんたら、そういうの好きなの?」
「まあ、そんなものです」
教えてくれた人にお礼を言って図書館へと向かう。
しかし司書さんにタイトルを告げると、怪訝な顔をされた。
「そんな本あったかしら……?」
? どういう事だろう?
司書さんは探してくれたが、ついぞ見つからなかった。
「なんで……?」
私は星月さんに小声で話す。
「うーむ、わしにもさっぱりわからん」
二人で唸っていると、本棚の間から黒いドレスの裾が見えた。
「!」
あれは……まさか……!
私は早足で近づく。ドレスの主と相対すると、それはやはり……。
「魔女……!」
ふわりと揺れる金の髪。私に呪いをかけた魔女だ……!
私は彼女を逃がすまいと腕を掴もうとすると……。
スカッ。
「!?」
幽霊か何かの様にその腕は掴めなかった。なんで……ここまで来て……!
すると、魔女はゆっくりとどこかを指差す。
「?」
綺麗に整えられた爪先が示す場所には本棚。私はそこに目を向ける。あるタイトルの本が見えた。『魔女の呪いについて』。
「これって……!」
振り向くと魔女は消えていた。
「……何が目的……?」
私は本を手に取り星月さんの下へ戻った。
事のあらましを話すと星月さんはまた唸った。
「まるで自分を見つけろと言っておるみたいじゃな」
確かに……。
「今は考えてもわからん。とりあえず本を読むか」
読書スペースに二人並んで座り、本を開く。
『魔女の呪いは何も闇雲に与えるものではない。呪われた人間の感情を糧に自分の力にするのだ』
感情……?
『世界を滅ぼしたければ無関心、不幸、憎しみ。世界を救いたければ愛、幸せ、喜び。あなた達はどちらだ?』
まるで、私達に呼び掛けている様な書き方。
『魔女は直接人を殺せない。そういう風にできている。特に昨今は力を失くしている。なので呪いをかける。一発逆転のチャンスを虎視眈々と狙っているのだ』
昨今って、いつの昨今なんだろう。
『だから私は呪いをかけた。世界を滅ぼそうとする唯一の友を止める為に。望みを、あなた達に託す』
そこから先は白紙だった。
「この書き方って……まるで……」
星月さんは私の言葉にうなずく。
「魔女が『二人』おる様じゃの」
私に呪いをかけた魔女は……どっちなんだろう……。世界を滅ぼそうとする方なのか、世界を救おうとする方なのか……。けど、私にこの本の場所を教えたって事は……世界を救おうとしている……?
「行くか」
星月さんは立ち上がる。
「はい」
私もいてもたってもいられなかった。本を元あった場所に戻して図書館を出た。
「……」
私達を見ている魔女には気づかず。




