第6話 ~魔女の手がかり~
星月さんが子供の姿になって数日、私達は拠点を変えずしばらくその場で生活していた。
何故かというと、流石に幼稚園児の姿では刀が振るえないので、無闇に歩き回って魔物と遭遇するリスクを減らす為だと言う。あと、リュックが重くて歩けないらしい。
「赤ちゃんとかになったら死んじゃうんじゃ……」
そう聞くと、星月さんは腕を組んで、ふーむと唸った。
「なんでか赤ん坊になった事はないのう」
なんでだろう。呪いはわからない事ばかりだ。
呪いの事も、魔女の事も、私達は何も知らない。自分の身に振りかからなければ存在を信じる事もなかったかもしれない。
そう思えば、所詮私はあの人達と同じだと思い、気が落ちる。
けど星月さんは「季行は優しい子じゃよ」と言う。私、優しくない。お母さんを、故郷を見捨てた非道な子。
でも、星月さんにそう言われるならそれでいい。嬉しいから。
数日の間に私に呪いの発作は何度も起こった。その度に星月さんはキスをしてくれた。幸せだった。呪いを引き合いに出して卑怯だと思う。卑怯でもいい。私は清廉潔白な人間ではないから。
そして幾度目かの朝……。
「季行、おはよう」
「おはようございま……」
目を覚ました私は固まる。星月さんの体がまた変化していた。今度は四十代くらいだろうか。非常にダンディー。
「見慣れんか」
「はい、まあ……」
でも、かっこいいです。
「かっこよかろう?」
「え、え、えええ、ええ、か、かっこいいです……」
心の内を見透かされた様で私は動揺した。
そんな私を見て星月さんはからから笑う。
「すまんすまん。からこうてしもた」
「あ、あはは……」
本当にこの人はいろんな意味で心臓に悪い。
「飯食うたら歩くぞ。疲れたら言うんじゃよ」
「はい」
歩いて歩いて、足が棒になって、泥の様に眠ってを繰り返す。魔物にも幾度も襲われたが、その度に星月さんが倒す。
今日はもうここまで。そうして私達は地に腰を落ち着ける。
「季行、歩ける量が増えたの」
「そうですか?」
「うむ」
星月さんは笑う。足手まといが増えたのではと聞いたが、「馬鹿な事を言うな」と頭をくしゃと撫でられた。私は密かに嬉しかった。
薪を拾ってきて夕飯の準備をする星月さんに聞く。
「魔女の手がかりって今までありました?」
ようやく聞く余裕ができた。
「あるにはあるが、直接の居場所までは……」
「あるんですか!?」
私はびっくりした。だって途方もないおとぎ話の様なものだと思っていたから。
「十年も探すといろいろな」
星月さんは細めの薪を折る。
「魔女って一体……」
「この世界を作ったとされる」
「世界……を……?」
それはとんでもなく壮大な話では……。
「正確には魔物のいる世界にした者」
昔々はこんな世界じゃなかったというのは知っている。
「あるカルト宗教が黒魔術の実験をして魔女を生み出したと」
「じゃあ、そこに行けば……」
星月さんは苦笑する。
「そこ、外国なんじゃよ。海を渡らな。しかもどこの国かわからん」
……とんでもなく壮大な話だ……。
「船作らなきゃ……」
「まあ待て。外国にいる魔女なら何故この国のわしらに呪いをかけた?」
そういえば……。
「この国におる可能性じゃってある」
希望はある。とにかく。
「地道に探すって事ですね」
「ああ」
「ちなみにどうやって探してたんですか?」
「主に聞き込み。そして書物を漁る」
……聞き込みは私には無理だ。なら。
「私、本で調べます! 二手に別れれば……」
「駄目じゃ」
「え」
私は星月さんが何故そう言ったのかわからず、ぽかんとした。
「危険なのはな、魔物だけじゃないんじゃ」
星月さんは燃え上がる焚き火を見つめる。
「六部殺しって知っとるか?」
六……? なんだろう……。私は首を振る。
「旅人を殺して金品を奪う。昔からある事じゃ」
私はぞっとした。人間が、人間を殺す。そこにある悪意に。
青ざめる私の頭を星月さんは優しい顔で撫でる。
「お前さんはわしが守る。じゃから二人で行動しよう」
星月さんの温かさが伝わってきて……私は安心した。
「はい」
私は柔らかな表情で笑う。それを見て、星月さんも笑う。
そして次の日もまた歩く。
今まで自然の中を歩いていて気がつかなかったが、人工的な建物が目につき始めると疑問点が出てきた。
「ここって安全地帯ですか?」
建物が、朽ちていない。何かで聞いた事がある。人間がいなくなった世界はすぐに植物で覆われると。
「いんや、危険地帯じゃ」
「じゃあなんで建物が……」
「わからん。けど、危険地帯は時が止まった様に世界が変わった時のままなんじゃ」
「不思議ですね……」
これも魔女の思惑なのだろうか……。
「さあ、街が見えてきた」
初めての調査。初めての他の街。私は緊張を胸に新たな街へ足を踏み入れた。




