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魔女の呪いの行く末は  作者: 露(つゆ)
天川 星月編
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6/8

第5話 ~人工呼吸~

「んん……」

 ご飯の良い匂いがする……。これってポトフかな……。そういえば寝落ちる前に星月さんが買い物ができたから少しの間はまともな食事ができるって……。

「おお、季行、起きたか。ちょうどできたところじゃ」

 あれぇ……なんだか星月さんの声が高い……。寝ぼけ眼を擦るとなんだか身長が小さ……。

「!?」

 私は眼前の光景に眠気が吹っ飛んだ。何故なら、星月さんが幼稚園児くらいになっていたからだ。

 白髪は濃い水色に。服は折り込んで、よく見ると安全ピンで留めてある。ああ、ズボンはずり落ちるからサスペンダーを着けていたんだななんて考えながら突然の出来事に言葉を紡げずにいた。

「やはり驚くか……」

「あ……」

 これでは星月さんを迫害した人達と同じだ。最低だ。私は助けてもらいながら……。

「ごめんなさい……」

 涙が溢れそうだ。私は下を向く。

 すると、星月さんの明るい声が聞こえる。

「若いわし、どうじゃ?」

「へ?」

 星月さんはいつもの星月さんで。

「いきなり変化すれば誰でも驚くじゃろう。何を自責の念に駆られておる」

「星月さん……」

 泣きそう……。

「おやおや、季行は泣き虫さんじゃの」

 星月さんは手を伸ばして私の頭をぽんぽんと撫でる。その様子が可愛らしくて、私はついくすりと笑ってしまった。

「うむうむ、季行は笑った方が良い」

 なんだか小さな子がおじいちゃんの真似をしているみたい。

「さあ、腹が減ったじゃろう。飯を食おう」

「はい」

 星月さんがよそってくれたポトフを私は受け取る。

「ウインナーたくさん入れといたからの!」

 星月さんは得意気だ。私は、ふふと笑いポトフを口に入れる。が。

「がはっ!!」

「季行!?」

 呪いの発作だ。こんな時に。吐き出したポトフの汁が顎を伝う。せっかくよそってもらったポトフはひっくり返って地に落ちた。

 最低だ。最悪だ。なんで人の好意すら受け取れないんだろう。こんな自分が恨めしい。

 痛みに体を折り曲げようとすると、唇に柔らかい感触が当たった。それが、星月さんの唇だと気づくのに数秒を要した。

 痛みが……引いていく。魔女の言った解呪の方法は嘘ではなかったらしい。

 私は……発作と、星月さんとのキスで心臓がうるさい。

「人工呼吸……じゃから」

 星月さんは私の目を真っ直ぐに見る。私は、この心音が伝わってしまいそうで目を反らした。

 結局、食事の時も、その後も、なんだかギクシャクしてしまった。

 寝袋に入っても、ずっとドキドキしたままだった。


 目を覚ますと、目の前に星月さんの顔があった。

「せせせせ星月さん!?」

 私が跳ね起きたせいで見事に二人のおでこがぶつかる。

「あいた!」

「ごごごごごめんなさい!!」

 星月さんは額を擦りながら笑う。

「元気でよろしい。近くに川がある。飯の前に水浴びでもしてきなさい」

「は、はい……」

 私は着替えを持って星月さんに言われた方向に行った。


 パシャ、パシャ。

 裸になって川に入って考える。

 私は、星月さんの事をどう思っているのだろう……。

 好き、ではある。問題はその種類だ。友愛、師弟愛、家族愛……。でも、友達にも、師匠にも、家族にも、ドキドキなんてしない。キスをされて……嬉しいなんて思わない。やっぱり……。

「恋愛……?」

 曾おじいちゃんほど年の離れた人に? 考えれば考えるほどわからなくなっている。私は川に身を沈めて口からブクブクと泡を吐いた。


「さっぱりしたか?」

「あ、はい……」

 水浴びから戻ってきた私に、星月さんはリュックから惣菜パンの袋を取り出し渡す。

「パンはこれでしばらく食べれんからの。味わって食いなさい」

「あ、はい……」

 袋を開けて、たまごドッグにかじりつく。

 もぐもぐもぐもぐ……。

 無言。気まずい。何か、何か話そう。

「あの」「あのな」

 二人の言葉が被った。

「あっ、どうぞ……」

 星月さんは苦笑する。

「ではお言葉に甘えて」

 星月さんは、んんっと咳払いをする。

「昨日は、悪かった」

 きっとキスの事だろう。

「いくら治療とはいえ、幼子の純潔を奪っていい理由にはやはりならん」

 『幼子』。私はその言葉に何故かカチンとした。

「私は!!」

 突然大声を上げる私に星月さんは目を丸くする。

「そんな子供でも無いですし! 星月さんにならキスされたって構わないんです!!」

「……何故?」

 何故と言われると言えない……。

「とにかく! これからもキスしてください!!」

 なんという宣言だ。これでは痴女か恋人の様ではないか。

「……ええんじゃな?」

 星月さんは顔をずいと近づけて言う。

 私はそんな星月さんにドキドキしながら、目をしっかり見て答えた。

「はい」

 星月さんは、ふっと笑って頭をぽんぽんと撫でる。

「わかった」

 それから、ギクシャクしていた空気は消えて、和やかに談笑しながら私達は朝食を食べた。

 このときめきに名前を付けられずに。でも、今はそれでいい。

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