第4話 ~結婚してたりするんですか……?~
私達は今、早速魔物と相対していた。
相手は一匹だというのに心臓が早鐘を打つ。死ぬかもしれない。死というものに直面して頭が眩む。自殺もできない弱虫には刺激が強すぎる。
星月さんは私を自身の後ろに隠す。
「大丈夫じゃ。動くでないぞ」
その言葉は、力強く、優しかった。恐怖が和らぐ。
星月さんは刀に手をかけ、体を沈ませる。そして……。
「シッ!」
魔物を一閃。刀を抜いたところが見えなかった。魔物は一刀両断され、塵となって消えていった。
私は呆気に取られた。あまりにも、あまりにも呆気無い。これが魔物? 皆を震え上がらせ、安全地帯に閉じ込めた……。いや……。
星月さんは刀を振って鞘へとしまう。
星月さんが強すぎるのだ。
「怪我は無いか?」
「おかげ……さまで……」
「じゃあ行(ゆ)くか」
星月さんは私の手を引く。やっぱり……ドキドキする。
ずっと歩くだけだから、何か話がしたかった。気になっている事でも聞こうか。
「星月さんって……結婚してたりするんですか……?」
さっきとは違う意味でドキドキする。「してる」なんて返ってきた日には絶望だが、その心配は無かった。
「しとったら旅なんぞ出とらんて」
星月さんはからから笑う。
でもまだわからない。
「昔結婚してたり……恋人がいたり……」
「医者って忙しいんじゃ」
「はぁ……?」
忙しいとどうなるのだろう。
「恋人ができてもフラれる。わしは恋愛に向いとらんと悟ってずっーと独り身じゃ」
「そ、そうなんですね」
一安心。……って、さっきから私は何を思っているのだろう。
星月さんがジーッと私を見る。さっきとは違う意味でドキドキする……。星月さんはにっと笑った。
「季行も年頃の女の子じゃのう。恋愛話に興味津々か?」
「ま、まあ……」
とりあえず誤魔化す。
「悪い男には引っかからん様にな」
大きな手で頭をぽんぽんとされる。やっぱり、胸が苦しい……。
なので話題を変える。
「そんなに忙しいお医者さんがいなくなったら大変じゃないですか? 街の人達は止めなかったんですか?」
すると、星月さんは少し顔を陰らせる。そして笑う。
「いやな、呪いにかかってから迫害されてしもうて」
「え……」
だって自分の恋愛を捨ててまでみんなに尽くしてきたんでしょ? なのに……なんで……。
私は怒りがこみ上げて、思わず手を強く握り締めた。
そんな私を星月さんは優しい顔をして頭を撫でる。
「人間はな、弱い。未知のものが、自分と違うものが怖いんじゃ。あやつらは当然の反応をしたまで」
「恨まないんですか?」
私なら……きっと……。
「そんな人間が、愚かでわしは酷く愛おしい。それに……」
「それに?」
「人間は強くもある。きっといつか何かに気づける。その為に生きておる」
……。思い出すのは縋る様なお母さんの顔。
「お母さんも、何かに気づけるのかな……」
「さあの。それは人それぞれじゃ。気づかんまま死んでいく奴もおる」
それならば……。
「私は……気づいてほしくない。一生愚かなままの母親で死んでほしい」
これが本音。私は星月さんほど優しくない。私はお母さんを赦す気は無い。
「それも一興」
星月さんはそれだけ言った。
「今日はここで休むか。疲れたろう。少し横になるといい」
足が棒の様になるとはこの事か……。初めて知った。私は大地に身を預ける。
「わしは夕飯を作るから待っておれ」
その言葉に慌てて飛び起きた。
「私も手伝います!」
「いやいや、お前さんは初旅じゃ。休んでおれ」
「だって……なんでもかんでも星月さんにやってもらって……そんなの……私……役立たずは嫌です……」
守ってもらってばっかりは嫌なのだ。私は役に立ちたい。それで、存在証明をしたい。小さな大きないつも抱えている私の意地。
星月さんはいつもの様に優しく笑い、私の頭を撫でる。
「物事には順序がある」
「?」
星月さんはいつも突然何かを言う。だから私はいつも意図を図りかねる。でもそれは、いつも私を納得させる事をこの短期間で知った。
「少しずつ、できる様になればいい。季行は今日はたくさん歩いた。それで花丸じゃ」
星月さんの言葉は、私の心に深く沈む。
「それに」
「それに?」
「わしは季行とおれるだけで嬉しい。一人ではない、それが一等嬉しい」
「星月さん……」
そうだ、星月さんだって人間だ。一人は……寂しい。
「私は……役に立ってますか?」
「人間は役に立つとか立たんとかではない。じゃが」
星月さんはにっと笑う。
「わしの隣におるのが季行で良かったと思う」
トクン……。
心臓が、気持ちよくてふわふわする……。私は……。
「さ、一眠りしなさい」
星月さんの心地よい言葉と疲れに、私の意識はいつの間にか落ちた。
次の目覚めでとんでもないものを見る事になるとは知らずに……。




