第2話 ~呪われた二人~
おじいさんは指定した森の中へと私を運んだ。
何度も本当にいいのか? と聞かれたが大衆の前でおじいさんを巻き込む事はないといつもの森へと連れていってもらった。
おじいさんは何度も私を診察しようとした。でも、呪いだから、そう言うと彼は諦めたかの様に手を引っ込める。
しばらくして、呪いの症状が治まる。
「ご迷惑……おかけしました……」
脂汗で貼り付いた前髪をかき分けて体を起こす。
「迷惑なものか。病気は本人にはどうしようも……いや……」
おじいさんは真剣な顔で言う。
「呪い、じゃったか?」
「おじいさんは信じてくれるんですか?」
「お前さんがそれほど真剣に言うのじゃから。出会ってそれほど経たんがわかる、お前さんはみだりに嘘なんぞつかん」
また、涙が零れそうだった。自分の事を信じてくれる、想ってくれる人に。
だが、その涙は彼の次の言葉で引っ込んだ。
「わしも、呪われとるからの」
「え」
今この人はなんと言っただろうか。
「魔女に、呪われたんじゃろ?」
魔女。確かにおじいさんは魔女と言った。おじいさんは地面に腰を落とす。
「十年前じゃったかの。目の前に魔女が現れて、それから体がおかしゅうなった」
「おじいさんも……?」
「お前さんとはまた違った呪いじゃがの。わしは年齢操作の呪い。自分では制御できん厄介なやつじゃ。体の記憶を元に……とか言っとったから実年齢より上にはいかん」
呪われた人が自分以外にいるなんて思いもしなかった。でも、よくよく考えれば充分あり得る話で。魔女の目的はなんなのだろう……。
「お前さんは? 発作が出る呪いか?」
この人になら……言っても良い。そう思った。
「全身に激しい痛みが走る呪いです。何もしなければ小一時間」
おじいさんは顔の皺を濃くして悲しそうな顔をした。
「こんな小さな体でな……。酷い事をするもんじゃ……。いつからじゃ?」
「一年ほど前に」
「家族も心配しとるじゃろう」
おじいさんの言葉に私はまた自嘲する。
「私を心配してくれる人なんていません」
すると、おじいさんは私を抱き締めた。
「!?」
突然の事に驚いていると、背中を擦りながら言われる。
「よう……頑張った」
おじいさんの優しい言葉が、私に突き刺さって……。胸を痛めつける言葉じゃない。寄り添って心を解かすその言葉に、私は張り詰めたものがほどけて、おじいさんを抱き締め返し、わんわん泣いた。
一人で生きていこうと、大人になろうと背伸びをしていた私が子供に戻った瞬間だった。
「落ち着いたか?」
「はい……」
おじいさんはリュックの中から水筒に入った水をくれた。私はごくごくとそれを飲む。
「いくつか聞きたい事があるが、ええか?」
「はい……」
おじいさんは私の隣で体育座りをして傾聴の姿勢をとる。
「学校は行っとるか?」
おじいさんは私と街の様子を見て聞いたのだろう。今は昼間で街に子供はあまりいなかった。
「いいえ」
どうせいじめられるだけだし。
「……」
おじいさんは何か考えてる。
「お前さん、わしと旅に出る気はないか?」
いきなりの事で私は驚いた。なんだか驚いてばっかり。
「旅……?」
「ああ、わしは呪いをかけた魔女を探す旅をしとる。呪いを解く為に」
考えなかった事ではない。けど、外には魔物がいて、そうでなくても子供が一人でどう生きていけるのだろうと諦めていた。
でも……おじいさんが今、チャンスをくれた。これを手放せば私はきっとずっとこのままだ。
「出ます!!」
私ははっきりと宣言した。
「後悔せんか?」
おじいさんは真剣な顔で見つめてくる。私はこくりと確かにうなずいた。
「決まりじゃな」
おじいさんは笑って私に拳を突き出す。私は恐る恐るおじいさんの拳に自分の拳を合わせた。
「わしの名前は天川 星月(てんかわ せいげつ)」
「わ、私は佐々木 季行(ささき きゆき)です。よろしくお願いします」
こうして今、二人の同盟が組まれた。
「なあ、お前さん。お前さんの呪いは『何もしなければ小一時間続く』じゃったか。じゃあ何かすれば解けたりするんかの?」
星月さんは鋭い。流石年の功と言ったところか。で、でも……やっぱり何故か言いにくくて……。
「どうした?」
「あ、えーっと、えっと……」
私は人差し指を付け合わせる。うん、もう言ってしまおう。しょうがない。
「…………ます」
「ん?」
「異性と口付けしたら治まります……」
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「季行」
「はい」
「わしは医者じゃ」
「はい」
「人工呼吸って知っとるか?」
「はい?」
私は星月さんが言わんとしている意味を図りかねる。
「医者がな、苦しんどる患者の前でできる事があるのに何もせん訳にはいかん」
つまり……。
「人工呼吸じゃと思って我慢してくれるか?」
「……」
すぐに「はい」なんて言えなかった。だって私のファーストキス……。
「人工呼吸はキスにカウントされん」
星月さんは私の心を読んだ様。
「……は、はい……」
私はそう言うしかなかった。




