第1話 ~白髪の王子様~
この世界は、いつからか魔物が発生した。生き物とは違う、全身を黒に染めた魔物。
食料を必要とせず、なのに生き物を襲う。倒せば塵となって消えるので生態の調査も不能。フィールドワークも危険。なので発生時から何百、いやもしかしたら何千年経った今でも調査は遅々として進まない。
しかし、魔物発生と同時に魔物が入ってこれない場所も現れた。人々はそれを『安全地帯』と呼び、主にそこで生活をしている。
安全地帯は点々と存在しており、大きさや距離も様々。
逆に魔物がいる場所は『危険地帯』と呼ばれた。
安全地帯での生活はだいたいがそこ一つで完結している。他との交流はあまり無い。
だから、人が停滞する。新しい人との出会いなど滅多になかった。
それが、私を絶望たらしめる所以。
周りとは上手くいかなかった。なんでだろうか。
引っ込み思案で、おどおどしていて、いじめるのにちょうど良かったから?
家族は私を疎ましく思っている。可愛げが無いから? 学校に行きたくないなんて人生のレールを外れる事を言うから?
だから、呪いの事も信じてもらえない。ただの仮病だと。必死に訴えるとお母さんは病院代がかさむと言った。
そっか。お母さんは私よりお金の方が大切なんだね。
私は悟った。人生を諦めた。
なのに、死にたいと生きたいが行ったり来たり。まだ希望を持っているのかと自分でも呆れる。いや、ただ単に死ぬ勇気が無いだけかもしれない。笑ってしまう。
私はいつもの一人になれる森へと向かっていた。そこなら呪いの発作が出ても誰にも白い目で見られない。
その時。
「お嬢ちゃん」
「え?」
声のした方を振り返ると、老年の男性が立っていた。白衣を着ており、長い白髪を三つ編みで一纏めにしている。背中には大きなリュック、腰には刀が差されていた。
知らない人だ。私は驚く。
「驚かせてしまってすまないね。ここいらにスーパーはないかい?」
おじいさんは柔らかく尋ねた。
「あっ、えっと……」
スーパーならある。あるにはあるが、道が入り組んでいて説明しづらい。その事をおじいさんに言うと「わかった。時間を取らせてしまったね」と去って行こうとするから、私は思わず言った。
「あ、案内しましょうか!?」
言葉がつかえた上に妙な大声。立派なコミュ障だ。変に思われたかもしれない。けど……。
新しい出会いは、私に何かをもたらすかもしれない。そう思ってしまったから。
おじいさんはしばし考えた後、答えた。
「頼むよ」
「はい!」
これが、私の運命の出会いだった。
スーパーに着いた後、私はおじいさんが買い物をするのを外で待っていた。後でお礼をするからと。
私はなんだかワクワクしていた。けれど、私が囁く。期待しても無駄だと。
その通りだ。でも、チャレンジくらいしたって良いでしょ? どうせ無駄な人生なのだから。
「待たせたの」
「いえ」
おじいさんがスーパーから出てきた。
「お前さんのおすすめのカフェなんかあるかい? お茶をしよう。もちろん、わしの奢りで」
「じゃあ、こっちです」
私は馴染みのカフェにおじいさんを案内した。
今日は良く晴れていたのでテラス席でおじいさんはコーヒー、私はミックスジュースを飲んだ。会計は先払い式で、おじいさんが出した。
「いやー、本当に助かったわい」
おじいさんはからから笑う。
「なら良かったです」
けれど、少し険しい顔をする。
「けど、知らない人にほいほいとついて行ってはいかん。悪い人じゃったらどうする?」
おじいさんのまともな大人の対応に、私は自嘲気味に答える。
「人生が終わったって今更なんですよ」
「どういう……」
おじいさんが聞きかけたその時。
ドクン。
あ……これやば……きた……。
私は椅子から滑り落ち、その場にうずくまった。痛みが、走り出す。
「あ……ぐ……!」
「どうした!?」
おじいさんが駆け寄る。
「わしは医者じゃ! 何か持病か!?」
慌てるおじいさんとは違って周りの人達は冷静だ。冷静というか、冷ややかな目と嘲りの顔。
「まーた出た」
「噂の『オオカミ少女』?」
「そ。気ぃ引こうとしてんの。痛い奴」
いつもの事だ。慣れたいのに、呪いではない胸の痛みは未だ続く。
「何が気を引こうとしておるか!!」
「!」
おじいさんは周りの人達に怒声を浴びせた。
「この苦しさは演技か! 一人で耐えるこの姿の何が気を引くんじゃ!!」
周りの人達は気まずそうに散っていった。
初めて。初めてだった。私の為にこんなに怒ってくれる人。
「苦しいんか!?」
私の目からは涙が流れていた。私は首を振る。
「嬉し……」
「? とにかく、持病か? 急にか?」
おじいさんは何がなんだかわからなかったみたいだけど、私は温かくなった心を抱いて、痛みを堪えて言う。
「呪い……」
それを聞いておじいさんの顔つきが変わった意味を私はまだ知らずにいた。




