第3話 ~同じなのかもしれない~
一荷と恋人とは何をするか話し合った結果、一つずつ試してみる事にした。
その一、手をつなぐ。
手をつないで歩いた。
「どう……?」
「……ドキドキする」
一荷は照れくさそう。
「そっか」
私は笑った。
その二、食事をあーんする。
「はい、一荷、あーん」
「あ、あーん……」
私は一荷の口に味が薄めの混ぜご飯を運んだ。一荷はマスクを外してもぐもぐと咀嚼する。
「どう?」
「なんか……むずむずする……」
一荷は照れくさそう。
「そっか」
私は笑った。
その三、ロマンチックに夜景を見る。
「……」
「……」
「明かり、見えないね」
安全地帯はまだまだ遠い。
「そもそもなんで夜景なんか見るんだ?」
「わかんない」
改めて考えると恋人ってわかんない事だらけだ。いっぱい恋してきたのに。
その四、デートする。
「ねえねえ一荷! あっちにクレープ売ってるって!」
安全地帯に来た私達はいろんなところを回った。
「男がクレープなんて食えるかよ」
「じゃあ、わけっこしよ!」
私がそう言うと一荷はマスクの上から頬を掻く。
「……いいけど」
結局クレープは味が濃くて吐きそうって言われたけど、なんだか一荷は嬉しそうだった。
その五、キスする。
私達は見つめ合う。一荷の瞳はサングラスに隠れてよく見えないけど。
「しないの?」
「いや……やっぱ順序ってもんが……」
「もうしたじゃん」
一荷はもごもごと口ごもる。
「あれは……勢いっていうか……」
私は一荷のマスクをそっと取って、その唇に口づけた。
一荷の頬は真っ赤だ。
「どう?」
「柔らけぇ……」
私は……ドキドキした。
その六、セッ……。
「なしなしなしなし!!!」
「どうして?」
「心の準備が……できてねぇ……」
一荷の言葉は尻すぼみになる。一荷って案外純情?
「恋人ってあと何すればいいんだろう」
私は地面に座って足をパタパタさせる。
「知らん。お前は何してたんだ? ……ナニ以外で」
「んー、一緒にいてた」
「そんだけ?」
私はみんなの事を思い出して笑う。
「それだけで嬉しいんだよ」
「……」
一荷は私を見て何かを考えている。
「……ま、時間はあるか」
「そうだね」
私は座りながら真っ暗な夜景をぼーっと見てた。
「何してんだ?」
「一荷」
後ろから声をかけられて私は振り向く。
「考えてた」
「何を?」
一荷は隣に座る。
「私、一荷に酷い事言った」
「それはもういいっつっただろ?」
私は首を振る。
「私はずっと自分の事、被害者だと思ってた。でも……」
胸が、気持ち悪い。
「加害者には簡単になれる。ううん、もう加害者でもあったのかも」
真央さんの時の様なわかりやすい事ではない。もっと、日常に溶け込んだ誰かの地獄。
「周りの事恨んでた。家族も……」
あの日捨てたお母さんの顔を思い出す。
「けど、きっと私もおんなじなんだね」
それを認めるのは酷く心がぐちゃぐちゃになる。私は膝に顔を埋める。
そしたら一荷は言った。
「同じなもんかよ」
「え」
私は顔を上げた。
「そいつらと同じなら、俺はお前の事……好きになってない。今頃殴り殺してる」
「笑えないよ」
そう言いながら私は笑う。
「悪かったよ……」
一荷も、変わったんだ……。
「俺も……同じだったのかね……周りの奴らと」
私は一荷に同じ事言ってやった。
「そしたら好きになってないよ、私の王子様」
一荷は少しの間の後、がりがりと頭を掻く。
「王子なんて柄じゃねぇ」
「ふふ」
一荷も遠くを見た。
「俺、どうやって旅続けてるかわかるか?」
「……?」
質問の意図がわからなかった。普通に旅をしているんじゃないの?
「他人から物盗んで生活してんだ。時にはこいつで脅して」
一荷は腰から大型ナイフを取り出した。
「そんな真っ当じゃない奴に恋して、お前は後悔しねぇか……?」
なんだ、そんな事かぁ。
「うん」
「即答!?」
「だって私、もっとえげつない事してる人と地獄に堕ちる気だから」
一荷は私を見てちょっと不機嫌そうに言った。
「歴代彼氏?」
「うん」
一荷は自分の膝に顎を置く。
「俺だけのもんになれよ」
「それは無理」
「ちぇっ……」
そう言う一荷を私は抱き締めた。
「でも、今は一人占めできるよ。このチャンス、一荷はどうする?」
一荷は顔を上げ、マスクを取って私に口づけた。
「一生俺のもんになれ」
「いいよ」
私達は、何度も口づけを交わした。
そうして私達は気ままな旅を続けた。
物を盗んで、それで生活して。やっぱり私は地獄に堕ちるべきなのかもしれない。
でも一荷と一緒ならそれで良いよ。
そうして一年が経った。




