第2話 ~和解~
「ひゃはははは! スゲー顔!」
一荷がお腹を抱えて笑っているのは殴られ腫れた私の顔。最低もごめんも口を動かせば痛いので言えなかった。
その日は水だけ飲んだ。お腹が空いた。勝手に料理を作って満足そうに食べている一荷が恨めしかった。
でも……私がきっと悪かったんだ。一晩寝たらそう思った。売り言葉に買い言葉だったとしても。
次の日、頬の腫れが少しひいた私は、座っている一荷の下へ行って謝った。
「ごめん」
「何が?」
「神経質とか言って」
「じゃあさ」
「?」
一荷はダン! と靴を鳴らしてこちらに向ける。
「靴舐めろ」
「……」
「舐めれねーの?」
私は羞恥と悔しさで涙を流した。
「ううううぅ……」
「やっぱ本気で謝ってねーじゃねーか」
一荷はため息をつく。その時。
ドクン。
「なんで……今……」
「?」
ドクンドクン。
心臓が脈打って痛みが全身に走る。
「あ……ぐ、ああ……!」
私は体を折り曲げる。一荷は舌打ちをした。そして地に伏す私を足で遠ざけ一言。
「めんどくせ」
それだけ言った。
次に起きた時、空が見えた。いつの間にか仰向けになってたのか。起き上がると。
「?」
上着が掛けられていた。私のじゃない。
「一荷……?」
「おー」
少し離れた所から一荷の声が聞こえた。
「一荷、なんで……」
「お前が……」
「私が……?」
一荷は何やら言いにくそうに言葉を発する。
「ずっとさ、『ごめん、ごめん』って言いやがるから……」
そうだ。一荷にどうしても謝りたくて……。
「お前の本気、受け取っただけ」
「一荷……」
私の目からぽろぽろと涙が零れた。
「おい! 俺の服汚すなよ!」
「ごっ、ごめっ、ごめっ……」
「もういいって!」
一荷の事も、なんだか好きになれる気がした。
それから、一荷の態度は少し柔らかくなった気がする。
相変わらず口は悪いけど、トゲトゲはしてない。あと殴らなくなった。靴舐めろとかパシリとか言わない。
歩きながら一荷に尋ねる。
「ねぇ一荷」
「なんだ?」
「なんで優しくなったの?」
「……」
一荷は少し遠くを見る様な素振りをしてから話し出す。
「俺、他人に本気で謝られた事ねーから」
一荷はぽつぽつ話し出す。
「お前の環境と似てる。ただ俺の場合は内に籠るんじゃなくて他を加害することで自分を保った」
一荷が……私と同じ……?
「お前に謝られて気づいたよ。俺、あいつらと同じ事、お前にしてたって。だから……」
一荷は私を見る。
「ごめん」
私は、また、涙が零れた。
「あーもー! なんで泣くんだよー!」
一荷は私の肩を抱く。
「私もっ……! ごめっ……!」
「お前はもう充分謝ったろー!」
私は一荷の胸でわんわん泣いた。
「ほい、水」
一荷は水筒を私に差し出す。私はそれを受け取って水を飲む。こういうの、何回目だろう。
「ありがとう」
私がそう言うと一荷は少し照れくさそうにマスクの上から頬を掻く。
「なあ……」
「何?」
「俺とさ、恋、するか……?」
「え」
私は思わず水筒を落とした。
「おっおいっ!」
「あわわっ! ごめん! ごめん!」
幸い水筒から水は漏れてなかった。私は水筒を拾い、一荷に返すともう一度聞く。
「あの、恋って……」
顔は見えないが一荷は恥ずかしそうに言う。
「あ、愛が必要なんだろ? お……お前となら恋してみてもいいっつってんの!」
「……」
一荷と……恋……?
「嫌……か……?」
一荷は自信無さげに呟く。こんな一荷、見た事無い……。そんな一荷に私は少しときめいてしまって……。
「いい……よ……」
「ん……」
私達は静かに手を取り合った。
「っつっても恋人って何すんだ」
何……ナニとは……。
「ナニじゃないですか……?」
思わず敬語になる。
「ナニって……おっお前が何言ってんだよ!!」
一荷は物凄く慌てる。
「えっ、いや、だって今まで……」
私の言葉を聞くと、一荷はなんだか不機嫌そうになる。
「そーいやお前、恋人いっぱいいるもんな」
「うん。みんな大好き」
すると、一荷は何かに気づいた様だった。
「ん……? お前、何歳?」
「十二」
「相手は?」
「八十六、二十六、二十」
「……」
一荷は沈黙する。
「犯罪じゃん……」
「愛の前にはそんなもの無力なのです」
私はえっへんと腰に手を当てる。
「え、ナニした訳?」
「うん」
それを聞いた一荷は顔に手をやる。
「お前の方が進んでる……」
「羨ましい?」
「そーいう問題じゃねぇ……」
一荷はその場に座りこんだ。
「一荷、疲れた?」
「ああ、疲れた……」
「休憩しよっか」
一荷は座りながらずっとぶつぶつ何か言ってた。変な一荷。




