第3話 ~略奪地帯~
頭を整理しよう。
真央さんの行動から推理するのだ。
真央さんは初め、私を襲うつもりだった。何故? それは彼のキスが示す。私の事が好きだから。
いつ好きになった? 好きになる瞬間なんて一瞬しかない。つまり一目惚れだ。
では何故襲うのを止めた? 真央さんの切なげな表情を思い出す。きっと私が怖がったから止めたのだ。
以上が私の仮説だ。
……なら初めから襲わなきゃいいのに。不思議だ。
真央さんと歩き続けて、担がれて、呪いの発作を起こしてその度にキスをされて。
そして……ドキドキなんてしたりして。そんな自分が許せない。だって真央さんは強姦魔で……。
星月さんとちおちゃんはわかりやすく良い人だった。優しくて、温かくて。
真央さんは……冷たくて、怖い。なのに何故こんなにも胸が締め付けられるのだろう。
愛とはなんぞや。そんな哲学が私の頭に浮かぶ。
「街が見えて来たね」
私は真央さんの隣でそう言う。
しかし真央さんは街には向かわず、ほどほど遠くで腰を落ち着ける。
「? 街に行かないの?」
食料にそれほど余裕があるわけでは無い。真央さんは何を考えているんだろう。
結局、そこで野営をして私は寝袋に入って眠った。
「ん……」
私は、目を覚ます。まだ夜だ。変な時間に目を覚ましてしまった。とりあえず起き上がると、真央さんが槍を持ってどこかに行くのが見えた。
「真央さ……」
振り向いた真央さんの目は、今までで一番冷たい目をしていた。私はぞっとして身をすくめる。その間に真央さんはどこかへ行く。
「ま、待って……!」
私は真央さんの後を追いかけた。
真央さんが行き着いた先は街。
こんな夜に何を……? と思っていたら、とある住宅の庭に入り……ガラスを蹴破った。
バリン!
大きな音が鳴る。しかし、その住宅は他から少し離れた場所にあるので、誰も騒ぎを聞きつけなかった。
「真央、さ……!」
私は慌てて中に入る。そこには起きてきた住人に槍の穂先を突きつける真央さんがいた。
「何を……やって……」
「お、お前まさか略奪地帯か!?」
住人が言う。
略奪……地帯……?
「真央さん……どういう……」
真央さんはちらりとこちらを一瞥すると、槍の腹で住人の顎を上げる。まるで「説明してやれ」と言っているみたいで……。住人もその意図を察したのか、私に説明し始めた。
「りゃ、略奪地帯ってのはな、安全地帯に住みながら他の安全地帯から略奪行為をする事で存続してきた奴らなんだよ……。あいつらは人の心を持ってない……。人を殺して生きてるんだ……!」
そこまで言ったところで私の前に赤が舞った。
ぴしゃり。
「え……」
何かが私にかかった。ぬるぬるして、温かくて……。
住人は首を切られて死んでいた。もう、一目で生きていないとわかった。
私の意識はそこで途切れた。
目を覚ますと、夜が明けていて、真央さんに担がれていた。荷物も全部背負って歩いていた。
「下ろして……」
真央さんはゆっくりと私を地面に下ろした。
明るい日の中で自分の体を見る。茶色く変色した血がびっしりとこびりついていた。
「うっ……!」
私はその場で吐いた。昨夜の事を思い出して。今までの事を思い出して吐いた。
「(私が今まで食べてきたのは……人を殺して手に入れた物なんだ……!)」
気持ち悪い。ごめんなさい。
嫌悪と罪悪感とあと何かぐちゃぐちゃになって私の心をない交ぜにする。
「おえぇ……! げぇ……!」
吐いて、吐いて、吐いた。胃液すらも尽きたであろう頃に私はまた気絶した。
目を覚ますと、どこかの森の中にいた。目線だけ動かすと真央さんが食事の支度をしている。その匂いはいつもなら良い匂いだと位置づけるだろう。
だが、今の私には吐き気をもよおす匂いだった。
真央さんは私が起きた事に気がつくと、水筒を持ってきた。私は、いらない、と首を振る。もうあなたの持ってきた物は口に入れられない。
けど、いくら吐いたところで、もう私の体内には人殺しの血肉がつまっているんだ……。
真央さんは私を抱き起こし、水筒のコップを近づける。いらない。いらない。いらない。
何度持って来られたって……。すると、真央さんはコップの水をあおり、そして……。
「んっ……」
私に口移す。何度も、何度も。私は何度も嚥下する。
水を飲んだら、今度は鍋で煮ていた雑炊を持ってきた。充分に冷まして、真央さんはそれを自らの口に入れ、咀嚼する。そして私に口移す。
私は呆けた頭で考える。もう彼からは逃げられない。こうして生かされ続ける。
私は、どうすればいいのだろう。




