第2話 ~あなたの気持ち、私の気持ち~
今までの事を思い返せば、呪いの範囲はわかる。
まずジェスチャーはできないが、ある程度の行動はできるという事。何もできなくなれば生きていけない。対象から負の感情をエネルギーにするのだからそれは魔女も困るだろう。
あと、彼はあまり表情を変えないのでわかりにくいが、たぶん表情も制限されてない。何度も目を丸くしたところを見たから。
まあ……わかったとて……。
「……」
「……」
気まずい。いろんな意味で。
私だってそんなにコミュニケーションが得意な方じゃない。今までは星月さんとちおちゃんが得意だったから喋れただけだ。
それに強姦。
そんな彼と愛を紡げと……? 私はため息をつく。もう夜が更ける。
そう思っていたら彼はリュックを漁り出す。なんだろうと思っていたら何かを渡された。これって……。
「寝袋?」
私が渡された物を理解すると、彼は地べたに転がり目を閉じた。
一個しかないから譲ってくれたの……?
私は彼が怖いのか優しいのかよくわからなくなってきた。
とりあえず、寝袋を広げて今日のところは眠りについた。
目を覚ますと、グツグツという音が聞こえる。彼が焚き火で何かを作っていた。美味しそうな匂い……。
起き上がって覗き込むと、野菜スープのようだ。彼は器にそれをよそい、私に差し出す。
「あ、ありが……」
ドクン。
「あ……」
来た……呪いの発作が……。器を受け取る前で良かったなんて呑気な事を考えていると、全身に鋭い痛みが走る。
「あ……ぐぅ……」
痛みに体を折り曲げる。何度繰り返しただろうか。これから来る地獄を想像して絶望していると……。
唇に、柔らかいものが押し付けられる。それが彼の唇だと認識するのに時間はかからなかった。
これから……私を犯すの……? そう思っていたが、彼はそれ以上何もしなかった。
痛みが引くと、彼は野菜スープの器を再度差し出す。私はただそれを受け取り、器に口をつける。美味しかった。
食事の片付けを終えると、彼は荷物をまとめ始める。出立するのだろうか。私は連れていってもらえるのだろうか。そもそも彼の名前すら知らない。
ふと彼の槍が目に入る。柄に何か彫られていた。よーく見てみると『伊草 真央』と書いてあった。もしかして彼の名前だろうか。読み方は『いぐさ まお』かな?
「あなたの名前、伊草 真央って言うの?」
彼は私を一瞥すると立ち上がってリュックを背負う。
私は置いていかれると思って焦った。
「わ、私、佐々木 季行っていうの!」
真央さんはじーっと私を見る。まるでついてこいと言われているみたいで。
私が彼の隣へ行くと、彼は歩を進めた。
これが、私と真央さんの旅の始まり。
「(つ、疲れ……)」
真央さんはどんどんと歩いていくので、私はついていくのに必死だった。旅の記憶はあれど、体力までは引き継がれないものだから、私はぜーぜーと息を切らす。
「(星月さんとちおちゃんって私のペースに合わせてくれてたんだな……)」
彼らの気遣いが今更ながら身に染みる。
「(もう限界……)」
私はその場にへたりこんだ。そんな私を真央さんは少し先から振り返る。そして私の下にまでやって来ると……。
「わわっ!」
出会った時の様に担ぎ上げられた。
「あのっ! 休憩もらったら歩けるから!」
私はそう言うが、真央さんは構わず歩く。密着する彼の肉体は筋骨隆々でなんだかドキドキしたが、私は首を振り、強姦魔なんて好きになるもんか! と決意を胸にした。
結局夕方まで真央さんは私を担いで歩いた。
「(どれだけの体力お化け……)」
彼は一体今まで何をしてきた人なのだろう。気になるが、聞く術が無い。
もう一つ聞きたい。私を襲おうとして何故途中で止めたか。そもそもなんで私を襲おうとしたのか。
私は料理の準備をしている彼に後者を聞いてみた。どうせ答えなんて返ってこないだろうから、独り言みたいなものだ。
すると、真央さんは料理の手を止めてこちらに近づく。
「え」
まさか反応が返って来るとは思わず私は呆気にとられた。……うちに押し倒された。
まさか……今度こそ……? 私は恐怖に体を強ばらせ、目をぎゅっとつむった。
けれど、それ以上は何もなかった。目を開けると、真央さんは切なげな顔をしていた。
「どうしてそんな顔をするの……?」
真央さんは、ただ私にキスをして、また料理に戻った。
私は、真央さんにキスをされた唇に触れた。心臓がドキドキする。
これは、恐怖なのか。それとも……。
真央さんの作ってくれた料理は相変わらず美味しかった。




