第1話 ~少女とケダモノ~
私は知ってる。王子様っているんだって。
「んん……」
私は森の中で目を覚ました。見覚えのある、故郷の森。
気絶していた……のかな……? 私は辺りを見回す。誰もいない。
「星月さん……ちおちゃん……」
私の中には、確かに二人の、二つの世界の記憶があって。
「寂しいよ……」
私は膝を抱える。
でも、私はある仮説を思いついた。二つの世界で二人に出会ったなら……この世界でも誰かと出会うのではと。
「王子様……」
そう呟くと、茂みがガサリと音を立てた。びっくりしてそちらを向くと、さらにびっくりした。
身長がとても大きくて、大柄な青年がいたからだ。黄色のインナーに上下迷彩服、槍まで持っている。
王子……様……?
彼はギロリと私を睨み付ける。こ、怖い……。
すると……。
「ん? え、え」
彼はいきなり私を担ぎ上げ、歩き出した。
「あ、あの、あの! な、なんでしょう!?」
何度も声をかけたが彼は無反応で、ずんずん歩いていく。
「(ええ~……)」
私はなす術もなく彼に連れ去られた。
なんと彼は街を出て、危険地帯まで私を連れてきた。
そして森に着くと私を乱暴と丁寧の間くらいの扱いで地面に落とした。
「あ、あの~……」
どうしてこんな事をするのかと聞こうと思って口を開くと……塞がれた。彼の……唇で。
「!」
え、え、どういう事!?
私が戸惑っていると彼は私を押し倒す。
「え」
そして服を乱暴にめくった。下着が露になる。
これってもしかして……。
彼は下着も乱暴にずらし、未発達の胸が晒される。
襲われて……! ご、強姦ってやつ!
怖い、怖い、怖い怖い。嫌だ嫌だ嫌だ!
「止めて! お願い! 止め……!」
彼を必死に押し退けようとするがびくともしない。涙が溢れる。体が震える。
「嫌……嫌……嫌……」
もうそれだけしか言えない。
王子様なんて……やっぱり……。
「……」
次に来る衝撃を想像もしたくなくて、ただ縮こまって震えていた。……が、それからなんにも衝撃が無い。
恐る恐る目を開けると、彼は私から離れていた。
そっと起き上がる。彼は私を見るだけ。
結局夜までずーっとその状態だった。
「(お腹空いたな……)」
私は服を整え、体育座りをして少し離れた所で彼を見る。
すると、彼はリュックを漁り、スーパーでよく見るたまごサンドをずい、と私に差し出す。
「?」
私が戸惑っていると彼はさらにずい、とパンを差し出す。
食べろって事なのかな。
私はパンを受け取った。彼はまたリュックを漁り、同じパンを取り出して豪快に食べ出した。
「……」
私も袋を開けてパンを食べた。
「……美味し……」
安心したのかぽろぽろと涙が零れた。
すると彼はそれに気づいたのか、私に近づく。私は体を固くする。
が、彼が私にした事は乱雑に服の袖で私の涙を拭う事だった。
「?」
呆気にとられて涙が引っ込む。そうしたら彼はまた離れる。
慰めてくれたのかな……?
強姦しようとしてた人が……? いきなりなんで……。
とりあえずパンを食べた。
頭を整理しよう。いや、あまり整理しなくてもわかる。
たぶんこの人は魔女の呪いを受けた人で。それで、私がやる事はこの人と愛を育む事。
……強姦しようとしてた人と? そうでなくても愛って「愛しなさ~い!」って誰かに言われて愛する事じゃないでしょ? ……星月さんとちおちゃんの事は大好きだけど……。
リーリアが私に呪いをかけた事と何か関係あるのだろうか。
うーん、怖い、けど、とりあえず彼に聞いてみよう。
私は緊張しながら立ち上がって彼に近づく。
「あの……」
彼は目を丸くしたが、それ以上何もしてこなかった。
私は彼の隣に座り、彼を見る。
「あなた、魔女の呪いを受けてたりします?」
そう言うと彼は驚いた様な顔をして私の肩を掴んだ。
私がびくりと体を跳ねさせ思わず目をつむると、彼の手の感触が無くなった。目を開けると、先ほどの様にただ座っていた。
えっと……もしかして気遣ってくれてる……? 強姦しようとしてた人が……? いや、もしかして、しようとしてたからこそ反省してたり……?
今は考えてもわからないけど……。
とりあえず彼に私の知っている事を全て話した。けど……。
「……」
彼は時折目を丸くするくらいで無反応。
言葉が通じないのかと思ったけど、表情から察するにそれはなさそう。
喋れないのかな? 私は木の枝を拾って「文字を書いてみて」と渡すが無反応。
文字を書けないのかなと思って手話で唯一知っている「おはよう」をやってみたけど無反応。
手話を知らない可能性もある。私だって「おはよう」以外知らないし。そこで、ジェスチャーで身振り手振りをしてみるが無反応。
推理するしかない。考えろ。
彼は魔女の呪いを受けている。それはたぶん間違いない。
こちらの言葉はわかる。けど自分からは無反応。私は一つの仮説を打ち立てた。
「あなたの呪いは『自分の意思を伝える手段を無くさせる』呪い?」
彼は目を見開いた。当たりだ。




