第4話 ~思い出した~
「その人って、どんな人だったの?」
道中、ちおちゃんは聞く。
「どんな……うーん……どんな……」
あまり思い出せない。
「年齢とか」
それがまた……。
「おじいさんだった気もするし、ちっちゃな子供だった気もする……」
「なんだか不思議ねえ」
私が一番不思議だと思ってる。
「ま、でもアタシも王子様になるから!」
王子様……か……。自分で言っておいてなんだけど……。
「ちおちゃん、シンデレラって知ってる?」
「ええ。それが?」
「私、シンデレラって嫌いだった」
「どうして?」
理由は明白。
「頑張ってたら王子様が来るなんて都合の良い展開が憎かった」
つまるとこと、ただのやっかみ、嫉妬だ。
「私は絶望の中で生きてきた。だから……シンデレラが嫌いだった。王子様なんて来なかったから。でも、いざ自分がそうなると、それを喜んで……私、最低……」
「シンデレラってね~、案外強かよ」
「?」
ちおちゃんは何を言っているのだろう。
「だって自分が舞踏会行って王子様射止められるって可能性思ってたんだから」
よくよく考えればそう。
「ドレス作って破かれても縫って、豆ぶちまけられても拾って。そこまでしても舞踏会で一発逆転狙ってたのよ」
確かに。
「きっとその強かさを見て魔法使いは手助けをした。チャンスを与えた。後の行動はシンデレラ次第。そしてシンデレラは見事にそのチャンスをものにした」
ああ、そうか。シンデレラは与えられるだけの物語じゃない。
「だからアタシ、シンデレラって図々しくて好き」
「図々しいんだ……」
「そうでしょ? きゆちゃんも図々しくなりなさい。このアタシを射止めたんだから」
顔に熱が上る。
「さあ、街が見えてきたわ。ミックスジュース、作れるかしら」
街は、故郷と同じくらいの生活水準。ちおちゃんはスーパーでジュースを何種類か買って、バーの店員を脅し……説得して道具を借りた。
「ではでは、ちおちゃんのショーの始まりよ」
ちおちゃんはシェイカー? っていうのかな、なんかそれにジュースを注ぎ込む。そして蓋を閉じたらシャカシャカと見惚れる動きでそれを振る。
「はい、できました~。カクテルだともうちょっと行程があるんだけど、ミックスジュースだから」
ちおちゃんはグラスにシェイカーの中身を入れて私に差し出す。
「どうぞ」
私はグラスに口をつけた。
「!」
私の舌に衝撃が走る。
「美味しい! こんなミックスジュース飲んだ事ない!」
「ふふふ、ちおちゃんスペシャルだから。世界に一つ、きゆちゃんの為だけに作られたミックスジュースよ」
ちおちゃんは得意気だ。
「私の……為だけ……」
それはきっと……いや、絶対に特別なもので。
「そ。ねえ、きゆちゃん」
「なあに?」
「ずっと、きゆちゃんの為にミックスジュース作りたいわ」
「……」
うん、って言いたかった。だってちおちゃんの事好きだから。でも……。
「ダメかあ」
ちおちゃんは笑いながら天をあおぐ。
「ダメじゃないよ……でも……」
ちおちゃんの気持ちを考えると、胸がきゅっとなる。私も、同じ様な経験したから。
「いいのよ。でもアタシってね、簡単に諦められない性格だから」
ちおちゃんは人差し指で私の鼻をちょん、とつつきウインクする。
私はとても、嬉しかった。
「さてさて、魔女の情報収集しましょうかね~」
バーから出た私達はぐるりと周囲を見渡す。
「そういえばちおちゃんって何年くらい旅してるの?」
「えっとお~……三年くらい?」
「寂しくなかった?」
ちおちゃんは少し悲しげな顔で笑う。
「元々、アタシ一人だったし。でも……」
ちおちゃんは私の両頬を手でつつむ。
「今はきゆちゃんがいるから」
ちおちゃんは嬉しそうな顔で笑う。……私は、ちおちゃんの気持ちに応えたい。けれど……でも……。
……私はあの人を理由にしてちおちゃんの気持ちから、自分の気持ちから逃げていないか?
あの人だって大好きだ。とっても。何者にも代えがたい。でもそれはちおちゃんだって同じな訳で。
「ちおちゃん、私……」
その時、視界の端で黒いドレスの裾を目にした。私はちおちゃんの手をほどいて駆け出した。
「リーリア!!」
何故、その名前が出たのかわからない。でも、彼女の名前は知っている。
リーリアはただ進む。走っているはずなのに追い付けない。
そして立ち止まったかと思うと、図書館を指差す。この図書館は、知っている。
リーリアはいつの間にか消えていた。
「きゆちゃん! いきなりどうしたの?」
ちおちゃんは私の後を追いかけて来た。
「ちおちゃん……私、知ってる。魔女の呪いについても、この世界の成り立ちも、なんで魔物に襲われないかも」
だって、経験したから。いっぱい旅をしたから。
星月さんと。




